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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
30/94

30、王罰とカトウ鉄道の乱


「これだけあれば大丈夫かな」

「ニャッ」

 買い付けた物を確認してからマリオは外ポケットにいるタマごとリュックを背負い直した。

移動の前に食料調達と言う訳でリョクは肉系、マリオはパンを中心に買い出しをし、今は町外れでイツキと話しながらリョクを待っているところだ。


「でもさすがは良質の小麦が自慢のヤーマルだな。どの店のパンもモチモチの食感でしっかり小麦の風味が生きてたし」

 それまで石のように固いパンや薄いクレープのような形状をしているものが主流だったが、聖女が伝えた製法によって柔らかくて美味しいパンが生まれ、今では全世界で流通している。

「特に試しに食べた野菜とチーズとベーコンのサンドウィッチは絶品だったな。

クルミとイチジクのパンと鴨のフォカッチャも後で食べるのが楽しみだし」

「みゃぅ」 

「うん、一緒に食べようね」

 背中からの声に笑顔で答えてからマリオはさっき見掛けた料理のことを思い返す。

「パンだけじゃなく麺系も充実してたな。いろんな具を使ったパスタやうどんもあったし。でも汁物の持ち帰りが出来ないのは残念だな。どこかに密閉容器があったらいいんだけど」

 そんなことを呟くマリオの横にイツキが姿を現し、眷属から仕入れた情報を伝える。


「先ほどの者はこの国の王姉の孫にあたる公爵家の姫です。

幼き頃より魔法に長け、風と水の2属性を使えることもあり王宮でも魔導士として重用されております。姫の密かな楽しみが他の者のステータスを覗き見ることのようで。女神様より与えられた称号は、名誉なものだけでなく不名誉なものもあり、その者の為人(ひととなり)を現しますので付き合い方を決める目安にしておるようです」

 イツキの説明に、なるほどねとマリオが頷く。


「だったら理由も聞かずに咎めたのは悪かったな。

身分が高いと面倒くさいことが多いから、近付いてくる者を警戒するのは仕方ないことだし」

「ですが先程の鑑定は間違いなく無礼でした。我が王と風の王は近くを通りかかっただけなのですから」

 イツキの言葉に、確かにねと同意してからマリオは気になったことを聞いてみる。


「鑑定のスキルを持った人って多いの?」

「いえ、そう多くはありません。ですがレベルの高い鑑定持ちは先程のようにすべてを見通してしまうのでなかなかに厄介です」

「人族の彼女ですら僕らが王だって判ったのなら魔法に長けたエルフ族だったら…」

「はい、すぐに見破られてしまうかと」

「それはちょっと困るな」

 考え込むマリオに、でしたらとイツキが提案する。


「水の王に御相談なさってはいかがでしょう。

二千年の長きに渡り王位にあるゆえ、彼の王が持つ知識は膨大です」

「そうだね。何か良い手を知っているかもしれないね」

 大きく頷いてから、それとさとマリオは次に気になったことを口にする。


「さっきの僕とリョクさんが王だって判った時、彼女だけじゃなく御付きの人達も随分と怯えていたみたいだけど。それってやっぱり…」

「はい、機嫌を損ね王罰が下ることが余程怖いのでしょう」

「王罰?」

 初めて聞く単語にマリオは大きく首を傾げた。


「七王君が道に外れた傲慢な者達に下す罰のことです。

特に此処は先々代の緑の王の不興を買い、一度滅びた土地に新たに建った国なので王罰のことは今も人々の心に色濃く残っているかと」

「滅びた…」

 自分と同じ緑の王の行いにマリオは少しばかり眉を寄せた。

 

「はい、王の命により国中の草木はすべて枯れ。

他所から持ち込んだ食物も国境を越えた時点で腐り果てました。

それはこの土地で生を受けた者が逃げた先の国で死に絶えるまで続き。この地は80年の間、不毛の荒野となっておりました。それを見かねた水の王がこの地に赴き復興に手を貸されたと。故に水の郷は聖地とされ、許しを得た者以外は立ち入れぬことになっております」

「確かにそれなら怖がられるのも無理はないかな」

 はあっと深いため息を吐くマリオに、ですがとイツキが慰めるように言葉を継ぐ。


「緑の王の罰などまだ可愛いものです。

四代前の風の王は生み出した巨大な竜巻によって2つの国を壊滅させ、七代前の火の王が起こした火山の噴火により、周辺の街や村は押し寄せた溶岩と降り注ぐ火山灰に呑まれ消え去りました」

 まさに天災クラスの被害にマリオからさらに深いため息が零れた。

「王様ってやっぱりいろんな意味で責任重大だね」

 安易な気持ちで緑の力を使うまいと改めて思うマリオだった。



「ところで我が王が気に掛けられておられた鉄道襲撃の件ですが」

 変わった話題に顔を上げたマリオの背後で、俺にも聞かせろやと大荷物を背負ったリョクが声を掛けて来た。

「お帰り、リョクさん」

「おう、美味そうな肉料理をタップリ買い込んで来たぜ」

 言いながらリョクは下ろした荷物をマリオに渡す。

時間停止機能が付いているリュックに入れておけば、いつでも出来立てが食べられるからだ。


立ち話も何だからと2人が近くの木陰にある切り株に腰を下ろしたのを機にイツキは眷属たちが見聞きした事柄を口にする。

「今回の事件は社長派と副社長派の確執により起こったことです。

社長は15年前に亡くなったカトウの直属の部下だった男で、その教えを守ることを信条としており。対する副社長は直接カトウを知らない若い世代の代表で、古い体制の批判と改革を唱えておりました。襲撃事件を起こしたのは副社長派の中でも特に過激な者達で、事件の責任を取り退陣した社長に代わり会社の改革をと考えたようです」

「その人達の下に人形師から手紙が届いた訳だね」

 マリオの言葉にイツキが大きく頷く。


「しかも送られてきた手紙には社長を失脚させるまでしかなく。

後の事は副社長に任せれば良いと何も考えていなかったようで、事が露見した折には互いに責任を擦り付け合うばかりで周囲も呆れておりました」

「はぁ?」

「馬鹿なのか?そいつら」

 イツキの話に呆れ返るリョクの隣でマリオがため息混じりに口を開く。


「侯爵さま達と同じだね。やりたいことはあるけど実現させる方法が分からず悶々としているところに救いの手のように成功間違いなしと思えるやり方を与えられる。そうなったら余程、冷静に物事を見ることが出来る人じゃなければすぐに目の前にぶら下がった美味しい餌に食いついてしまうだろうし」

「まあ、はっきり言って引っ掛かった奴らは物事を舐めてんのさ。欲しい獲物がそう簡単に手に入ること事態がおかしい。美味けりゃ美味いもん程、手に入れるのが難しいのは当たり前のことじゃねぇか」

 狩猟民族である虫人ならではのリョクの言葉に、そうだねとマリオも全面的に賛成する。

「そう言えば取引先の親方も言ってたな。

『挑戦ってのは新しいこと始めて、はい終了じゃないぞ。

そんなのは挑戦でもなんでもない。ただの気まぐれだ。

挑戦ってのは新しいこと始めて、失敗して、それでもくじけず立ち上がり強い意志を持って何度でも挑み続けることだ。本当の挑戦ってのはうまくいかなくなってから始まるんだぜ。それを心に刻んでおけ』って。その人達も安易な道に逃げずに挑戦する覚悟があれば結末は変わっていたかも」

 マリオの言葉に頷きつつ、イツキは話を続けてゆく。


「昨日開かれた株主総会で計画の全貌を暴かれ、カッセル夫人により『何よりも大切にしなければならないお客様を危険に晒したことは絶対に許せません。そのような者はカトウ鉄道には必要ありません』と実行犯達は解雇を言い渡されました。

その後で全員が騎士団に捕縛され、知っていながら止めなかった者は更迭。夫人の命により社内の人事は一新されました。最後に二度とこのようなことを起こさぬよう新社長以下、襟を正して業務に邁進するようにと厳命しておりました」


「さすがに『鉄路の魔女』なんて二つ名を持つだけはあるな。

『人から好感、畏怖、尊敬の念を持たれることがリーダーたる者の条件だ』ってルィージ祖父ちゃんも言ってたし」

「ああ、それなら確かにあの婆さんは全部を持っているな。俺が軽く威圧してもビクともしなかった根性の持ち主だしよ」

 軽く肩を竦めて見せるリョクに苦笑いを返していたマリオだったが、次のイツキの言葉に困り顔を浮かべた。


「その夫人ですが、どうやら野盗たちを捕えたのが我が王であることに気付いたようです」

「まあ、緑魔法を使って捕まえたしね」

「社内のゴタゴタが片付いたこともあり、本格的に我が王を取り込む気のようです。カトウ鉄道のすべての駅の駅長に我が王を丁重に扱うことと、その行動を逐一報告するよう通達を出しましたゆえ」

「完全にロックオンされちゃったか。ま、そうなったらその時に考えるよ。今は水の王さまに会わないとね」

「おう、水の郷はこの山並みを越えた先にある池だ。俺とタマ公なら半日もあれば着くだろう。ってことで…変身っ!」

 声と共に飛蝗族の姿に戻るとリョクは一気に地を蹴った。


「僕らも行こうか、タマ」

「みゃぅっ!」

 任せろとばかりに鳴くとたちまちタマが元の大きさに戻る。

常人離れした身体能力を持つマリオだが、さすがに最強種族である虫人で、そのうえ風魔法を得意とする風の王たるリョクについてゆくのは不可能だ。

そこでタマの出番となった。

「よろしくね」

 笑顔のマリオが背に乗ったことを確認してからタマも地を蹴って大きくジャンプする。

高速で移動を開始した2つの影は、聳え立つ山の向こうに消えていった。

 

 

一方、その頃。

「どうしょう。どうしたらいいのぉっ!」

 周囲に広がる惨状に彼女は悲鳴を上げた。

「おじいちゃんっ。ねぇ、しっかりしてっ。私のことが判らないのっ!?」

 必死になって呼びかけるが、相手はまったく反応しない。

それどころかさらにその行動は酷くなってゆく。

「誰かっ、誰でもいいからっ。おじいちゃんを助けてっ!お願いっ」

 悲痛な叫びを上げ、彼女はその場に泣き伏した。

そんな彼女の願いが叶うのは…もう間もなく。





お読みいただきありがとうございます。

「31話 水の王と土の王」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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