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砂漠(フィールド)探索、始めました!8

 □


 ………やってしまいました。


 サキュバスは目の前で崩れ落ちたクーファに駆け寄ると、その場にしゃがみこんだ。


「だ、だいじょうぶですか!?」


 魔力の塊を、無警戒な後頭部に、全力で叩きつけておきながら……聞くことでは無いと自分でも思う。


 幸い、昏倒スタンしているだけで大した怪我ダメージにはなっていないようだ。


 ほっと胸を撫で下ろす。


 あんまりにも短期間に、『周囲のMOBの敵視タゲを集めるスキル』を連発するものだから、我慢できずに、ついやってしまった。


(こんなに堪え性がなかったなんて……何だかショックです)


 肩を落としているサキュバスの周囲で、砂蜥蜴達が雄叫びをあげる。


 ふたりを取り囲むように、じりじりと迫って来た。


「あ、あの~、クーファさんこんな感じですし……今日はこの辺でお開きに…………」


『シャアアアアアアアア!!』


「だめですよね、やっぱりぃいい!?」


 背後から飛びかかってきた砂蜥蜴を、クーファを抱えたまま回避する。



 サキュバスには、動物型のMOBと意志疎通を図る能力スキルがない。


 本能で動く動物型は、それこそ戦闘で実力差を分からせるしかないのだが……


 着地を狙って、残りの砂蜥蜴達も一斉に飛びかかってきた。


 サキュバスは高く跳躍ジャンプすると、砂蜥蜴達の包囲を一足で脱出する。


「今回は、これでお仕舞いにしてください!」


 攻撃目標を見失い、一ヶ所に固まった砂蜥蜴達に左手を伸ばした。


恐怖フィアー!!』


『ギュ』

『シュ』

『シャッ』


 サキュバスの手から放たれた不可視の力を浴び、砂蜥蜴達は一目散に逃げて行く。

 動物型には、これが一番効果的だ


 やがて、砂煙も見えなくなった。

 戻ってくることもないだろう。


「……ふぃ~。 疲れました」


 戦闘による消耗はないが、精神的に疲れた。


 サキュバスはキョロキョロと、周辺に目を配ると、他の冒険者がいない事を確認する。


 クーファを連れて街に戻ろうか。

 いや、騒ぎになりそうな気がする。


「う~~ん、困りました。 どこかに休める場所は……」


 目覚める気配の無いクーファを抱え小高い砂丘の上に登る。


 砂漠の真ん中に大きな木が1本だけ立っていた。


 羽のような葉が四方に茂り、砂地に影を落としている。


 サキュバスは、クーファを抱えたまま、ザクザクと砂地を歩く。


(足を取られて歩きにくい……飛べば楽ですけど……目立つわけにはいきませんし)


 ややあって、目的の木にたどり着いたサキュバスは、木陰に腰を下ろした。


 起きる気配の無いクーファを、砂地に横たえる。


(う~ん。 手加減無しで撃ち込んじゃいましたからね……。 見事なくらい痛恨の一撃(クリティカルヒット)しましたし)


 回復魔法の使えないサキュバスは、ただただ見ていることしか出来ない。


「…………………………」


 じりじりとした熱波が、砂地を焼いている。

 この木陰は涼しいが、狭いのが難点だ。


(やっぱり街の中に連れて帰った方がいいでしょうか? う~ん……)


 サキュバスが自由に行動できる時間も無限ではない。

 明日の夜までには、仕事のため塔に帰らなくてはならない。

 無駄にしている暇はない。


(クーファさ~ん。 起きてください~)


 軽く揺すってみる。

 しかし、クーファは、「うぅ……」と、小さな呻な呻き声をあげるのみだ。


「……………」


 サキュバスは、クーファの身体を引き寄せると、その頭を自分の腿の上に乗せた。

 青い髪を掻き分け、その額にそっと手を添える。


(頭を打ったら冷やすと良い……でしたっけ?)


 人間族ヒューマンに比べ、サキュバスは体温が低い。


 誰から聞いたかすら思い出せない怪しい知識だが、クーファの顔から少しだけ険が取れた気がする。


(…………)


 上空は抜けるほどの青空、眼前は見渡すかぎり砂の広野だ。


 街の姿も、先ほど登ってきた砂丘の影に隠れて何も見えない。


(……まるで、私たちしか居ないみたいですね)


 MOBの姿も、冒険者の姿もない。

 風に飛ばされる砂の音が響くのみだ。


(わたしには時間がない……デュラハンさんも助けなくちゃいけない……けど)


 クーファを膝に乗せたまま、サキュバスは背後の木に寄りかかる。


(少しだけ……休ませて……)


 サキュバスは目を閉じた。


 昨晩のレイド戦以降、休まず飛んできたせいか。

 慣れない環境で気を張り続けていたせいか。

 それとも別の要因の『何か』のせいか。


 微睡む暇もなく、サキュバスの意識は、夢の中に落ちていったのだった。

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