パート40
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両手が動かないから、それほど遠くまで走れなかったけれど誰にも使われていない建物を見つけた。たぶん、ここなら見つからないだろう。
でも、もしかすると幸一さんたちは幸のことを探しているかもしれない。
あの人たちは優しいから。
だから、絶対に見つかってはいけない。またあの人たちに会ったら、今度こそ抜け出せなくなる。戻れなくなる。
あそこにいてはいけない。
幸は……不幸を呼んでしまうのだから。
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あの男に電話をしたあともあらゆる所を探してみたけれど、一向に見つからなかった。
これはたぶん、俺でも知らない所まで行ってしまったのかもしれない。
「くそ……絶対に、見つけて……」
見つけて……俺は幸になんて言ってやればいいんだ?
だって幸が俺達の元から離れたのは、なんか理由があるからだ。
その理由が分からない限り……はたして、俺達は幸を探していいのだろうか。
けれど、幸がアパートの前に倒れていた時、幸は『家出』したと言っていた。それがあの怪しい男と関連しているのは間違いない。あの時の幸は、明らかに怯えていた。
それを見たとき、俺は幸を守ってやらないといけないと思った。
どうしてそう思ったかは分からない。たぶん、幸が昔の俺に似ていたから、かもしれない。
だからこの一週間、俺は幸に悲しい思いをさせないために、精一杯幸せにしようとしてきたつもりだ。
それが幸にとって、逆だったら……?
「……もし、そうだとしたら、余計なお節介だったのかな……」
幸を探すために走らせていたその足は、いつの間にか速さをゆるめて止めていた。
今頃、ほかのみんなは幸を探すためにあちこち動いているだろう。こんな所で止まってる場合じゃない。けれど一度思ってしまった事はなかなか消えず、心の中でぐるぐると回り続けた。それが俺の体を止めてしまう。
いったい、どうするのが正解なのか。
すると――。
「今のあなたに、迷っている暇なんてないわ」
いきなり、声が聞こえた。けれどどこを見渡しても、人は見当たらない。
いったいどこから……。
「今のあの子にはあなたが必要なの。そんな事もう分かってるはずでしょ?」
しかもこの声。どこかで聞いたことがある。でも確か最後にこの声を聞いたのはかなり昔だった気がする。確かこの声は……。
「迷うなら動きなさい。あなたは昔から、そういう人なんだから」
そう告げると同時に、バサッと何かが飛ぶ音が聞こえた。
空を見上げてみると一羽のカラスが飛んでいるのが見えた。そしてその飛んで行った方向を見てみると、たくさんのカラスがとある建物に向かって集まっていた。
「……まさか」
まさか、さっきの声はあいつなのか?
『――カラスは、私の友達だから』
俺はその言葉を思い出しながら、あいつの友達がいる方向へと走り出した。




