半年後のコミット(Final Commit)
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あの熊野神社古墳での決戦から、半年が過ぎた。
府中の街は何事もなかったかのように元の喧騒を取り戻し、世界を書き換えようとした正成の計画は、完全にオフラインとなって歴史の闇に葬られた。
そして今日、約束の期日が訪れる。
栞と拓海は、三枝堂の引き出しに遺されていたあの「宿泊券」を使い、静かなホテルの客室にいた。
窓の外には、半年前のあの日とは違う、穏やかな冬の府中の夜景が広がっている。
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部屋の明かりを落とすと、夜景の光だけが二人を照らした。
いつもなら「知らんけど」と冗談めかす栞も、今日ばかりは静かにグラスを見つめている。
「……なぁ、拓海。今のあんたの目には、何が見えてる?」
拓海は栞の隣に腰掛け、その横顔をじっと見つめた。
「何も見えないよ。バグも、黒いノイズも、ルートを示す花びらも……今は、何一つ見えない」
拓海は優しく笑って、栞の小さな手を包み込んだ。
「でも、それでいいんだ。世界が普通に戻って、俺の目からあの『正解』が消えた時、やっと分かった気がする。俺が本当に見たかったのは、どこに進めばいいかっていうルートなんかじゃない。そこに、お前がいてくれることだったんだって」
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栞の肩が、微かに震えた。彼女の耳にも、今は世界を拒絶するような不協和音はどこからも聴こえない。ただ、隣にいる拓海の、少し早くなった心臓の音だけが真っ直ぐに伝わってくる。
「……ずるいわ、あんた。そんなん、もうデバッグのしようがないやんか」
栞が顔を上げると、その瞳には涙が滲んでいた。
「うちな、世界が壊れかけた時、アバター越しに『アイツを守らなあかん』って言うたやろ。あの時から、ずっと……ううん、きっともっと前から、うちの世界の中心には、あんたがおったんよ」
「知らんけど、は?」
拓海が茶化すように微笑むと、栞は彼の胸にぽんと額を預けた。
「……そこは『知らんけど』やない。本気や。拓海、うち、あんたのことが好き。仕事の相棒としてやなくて、一人の男として、誰よりも愛してる」
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拓海は、愛おしさを堪えきれないように栞の細い肩を引き寄せ、その身体を強く抱きしめた。
「俺もだ、栞。お前を愛してる。これからどんなバグが起きても、俺がお前の手を絶対に離さない」
二人はゆっくりと顔を上げ、互いの距離を確かめるように見つめ合った。
そこにはシステム的な計算も、仕様書も、他人の介入する余地もない。ただ、お互いを求め合う純粋な意志だけがあった。
二人の唇が、自然と重なり合う。
深く、確かめ合うようなキス。窓の外で瞬く府中の街の灯りが、二人を祝福するように黄金色の光となって部屋に差し込んでいた。
すべてのプログラムが完了し、世界にこれ以上ない「正しい解」がインストールされた瞬間だった。




