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穏やかな朝に舞い込む不吉な依頼

夜も更け、アルデラ城下町の食堂は相変わらず賑わっていた。

あちこちの卓から笑い声が上がり、空になった皿が重ねられていく。

煮込みの匂いと酒の香りが混じった温かな空気が、店内に満ちていた。


そんな喧騒の中、すでに腰を落ち着けていたアディオは、ふと声を潜めてレヴィンに言った。


アディオ「チェイズも来たがってたんだがな…副隊長になったあいつも今は忙しくてな…」

レヴィン「おおおーチェイズついに副隊長かあ…!すっげえなあ」

アディオ「今度美味いもの作ってやるって言ってたぞ」

レヴィン「会いたいなー…チェイズの料理食べたいなあ…」


アディオはレヴィンの僅かな揺れを感じ取り、口元を緩ませた。

アディオ「いつでも会えるさ…ゆっくりでいい…だが忘れるな…?俺もチェイズもお前の味方だ」


レヴィンはその言葉を胸に軽く頷き、再び箸を手に取る。

口元に笑みを浮かべながらも、どこかじんわり温かい気持ちが込み上げてくる――


レヴィン「…うん。サンキュー!」

自分でも上手く笑えているのか分からなかった。チェイズがいるハンター協会の支部には、アグニを思い出す出来事が多すぎる…。

アディオ「あそこはお前の居場所だ…いつでも来ていいぞ…それだけは忘れるな…?」

レヴィン「ん…」


こくっと頷くと、アディオはカードをスッと差し出した。

アディオ「支部のカードキーだ…これをお前に渡しとく…これで出入口入れるだろう…まあ上層部はお前が来るのを待ち望んでるから許可が降りてな…失くすなよ?」

レヴィン「う…気をつける」

レヴィンは大事そうにそのカードキーを両手でそっと受け取り、財布にしまった。


そこからも思い出話や趣味の話、武器の話…会話は尽きることなく続き、二人は笑いあった。

正反対なのにやけに話の合うアディオ。

打てば響く…そんな二人の時間が、食堂の喧騒の中に静かに漂った。


食堂を出て、アルデラの夜風を少し浴びながらレヴィンの部屋に戻った二人。

部屋の中は、街のざわめきが遠くに消え、静かで落ち着いた空気に包まれていた。

窓から差し込む月明かりが、二人の影を床に淡く伸ばす。食堂の煮込みの香りも、まだかすかに残っている。


夜も更けた頃、アディオがそっと口を開いた。


アディオ「ルナは待ってるぞ…」


レヴィンの動きがピタッと止まる。しばし、二人の間に静寂が流れた。


レヴィン「俺には会う資格…ないって」

アディオ「ルナはそんな風に思わんさ…」

レヴィン「うん…俺が勝手にそう思ってるだけだから…」


アディオはひとつため息をついた。

レンの悪い癖だ…また責任を抱え込む。


アディオ「そうか…」

その声は落ち着いていて、何も責めるでも、励ますでもなく、ただそこにあるだけの安心感を帯びていた。

アディオは肩の力を抜き、柔らかく視線をレンに向ける。

レンの苦悩や自責を、否定せず押し付けず、静かに受け止める――その余裕が、言葉の端々に滲んでいた。


二人はそのまま雑談に戻ると、いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。

部屋には静かな夜の余韻が残り、月明かりが床に淡く揺れていた。


朝、目を覚ますとアディオの姿はもうなく、机の上には朝食らしいサンドイッチが置かれていた。

窓から差し込む柔らかな光と、遠くで始まった街のざわめきが、部屋を穏やかに包む。


レヴィン「ふあああ…」

あいつ、絶対に今日仕事だな…。

ったく、無理してんのはどっちだっつーの!!


小さくため息をつき、サンドイッチを口に運ぶと、昨夜の会話の余韻がふわっと胸に広がる。

隣にもう一人いれば…と思わずにはいられないけれど、代わりに置かれたサンドイッチから、無言の優しさと気遣いが伝わってくる。


朝の穏やかな空気に包まれ、レヴィンは少しだけ、安心した気持ちになった。

アディオの不在を惜しむ気持ちも、ほんの少し胸に残りながら――それでも、この朝は優しく始まったのだった。


アルデラ王の書斎ーー

王の書斎には、朝の柔らかい光が差し込んでいた。

だが、机に広げられた依頼書の文字を追う王の表情は、柔らかさとは程遠い。


「ふむ……暗黒騎士を、だと…」


王は顎に手を当て、眉をひそめる。

内容は暗黒騎士を指名した護衛の依頼だった――単なる護衛では済まされぬ危険を伴う可能性がある。


「なぜフェルナンド卿が、この男を必要とするのか……」


机の上の文書を指でなぞりながら、王は深いため息をついた。

「いや、理由は問うまい。暗黒騎士の力は…確かに必要なのだからな」


手元で依頼書を整え、王は重い決断を下す。

「よし…これで命を託すことになる……」


レヴィンは王の書斎の扉をノックする。

「入るが良い…」と王の声が室内から響いた。


「……失礼します」

レヴィンはペコッと礼をして、そっと室内に足を踏み入れた。


王「何ニヤニヤしとる…」

だが、レヴィンの表情は王の気を抜かせるには十分すぎた。


レヴィン「ああ!? すいません!? 顔に力入れてたんですけど…アーサーさんがさっき下でものすごい屁をして、皆吹っ飛んでてさっきまで腹が捩れてて…」


王「屁…」

仮にも王に向かってそんな下品な話をする奴がおるとは…。


そんな視線を感じ取ったレヴィンは「ああ!?」と慌て、声を張って言い直した。

「放屁です!!」


王は長いため息をつく。

どうしてこいつはいっつも緊張感が無いんじゃ…。



王「ほれ…ご指名じゃ…レヴィン」

レヴィン「へ…?」


そっと封筒を受け取ると、表向きは護衛の依頼と書かれていたが、裏には“暗黒騎士をご指名”の文字が大きく踊っていた。


レヴィン「俺、指名ですかあ!?」

王「もっとシリアスになれんのか…?」


レヴィンは封筒を雑に開き、書面を広げる。文字は簡潔だが、依頼の重みをひしひしと感じた。

「護衛対象:フェルナンド卿。暗黒騎士のご指名――か…」


レヴィン「なんで俺なんですかね…?」

王「わしが知るかっ!ちゃんとやるんじゃぞ」


王は豪華そうな杖で軽くレヴィンを追い出す。

レヴィンは首を傾げつつも、封筒を手に書斎を後にした。


王は書類の山に顔を埋め、眉を寄せながら渋い表情で紅茶を口に運び、依頼書とにらめっこしている。


その直後、レヴィンの元気な声が城内に響き渡った。

レヴィン「よーーーし!!! 絶対に任務を成功させるぞおおお!!」


王は思わず飲んでいた紅茶を吹き出す。

レヴィンは依頼書を胸に抱え、城内の廊下をドタバタと駆け抜けていった。


そのとき、背後から声が響いた。

王「レヴィン!廊下を走るな!!」

書斎から顔を覗かせた王の視線が、ビシッと全身に突き刺さる。


レヴィンは慌てて急ブレーキをかけ、足を止めた。

「うわあ!? す…すいませんー!!」


城内に響き渡ったドタバタと怒号のあと、しばしの静寂。


レヴィンは肩を落とし、そろりそろりと静かに城内を歩き始めたのであった…。



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