レヴィン、懐かしのハンター支部へ ③
アイリは笑いを必死に堪えながら、上層部の話し合いにそっと割って入り、
「ちょい来て。」
っとチェイズの服を、ちょいちょいっと引っ張る。
チェイズ「どうしたんだよん♡♡ アイリちゃん。」
デレっとだらしない顔をするチェイズ。
アディオ「……なんか楽しそうだな?」
不思議そうな顔を見合わせたアディオたちは、アイリに手招きされるまま廊下を進む。
チェイズ「あっ、わかった!! アイリちゃん、なんかすげえ新人来たんだって!? それだろー!!」
アディオ「少しは使えるのか……?」
「んっふっふ!! 会ってくれば!!」
にっと笑うアイリ。
「ほら、早く早く!!」
2人の背中をドンッ!! と押し出した。
チェイズ「なんだぁ……?」
アディオ「……? 経験者か有名人か……?」
アイリ「まあ……そんなところよ♪」
渋々中庭に到着する2人。
何やら人だかりができている。
アイリ「呼んで来てやったわよー。」
レヴィン「え?」
ひょこっと人混みから顔を出したのはレヴィン。
チェイズ「…………。」
チェイズ「新人にレン混ざってるううううー!!!!」
レヴィン「え!?」
まだ朗らかな顔のまま、疑問を返すレヴィン。
チェイズ「こっちが『え!?』だわ!!」
アディオ「レ、レレレレン!? ひとりで来たのか!? ……大丈夫か?」
最後にここへ来た時。
竹刀を握った瞬間、具合が悪くなり、レヴィンは倒れてしまった。
その光景が、アディオの脳裏によぎる。
レヴィン「おー!!」
いつものように朗らかな笑顔を見せるレヴィン。
チェイズ「くんなら一言言ってくれよんー。」
そう言いながら、レヴィンを抱えたまま、こめかみに拳を当ててグリグリする。
レヴィン「いてて……。」
「びっくりさせようかと思ってさあ。」
アイリ「改めて紹介するわね!!」
「私が!!!! 教育係!!!!! をして、アグニ討伐で英雄称号を貰って、今は聖騎士をやってるレヴィンよ!!」
「知ってる人もちらほらいるわよね!?」
なぜか「教育係」という部分だけ、やたらと強調するアイリ。
おおおっ……!!
新人たちからどよめきが起こる。
アイリ「せっかく聖騎士が来たんだから、なんか一発すごいの見せてやんなさいよ!!」
そう言って、バシバシとレヴィンの背中を叩く。
レヴィン「えー!? なにを見せるんすかあー!?」
「バク転でもしますかあ!?」
ダン「すごいっす!! できるんですか!?」
チェイズ「うわははは!! 剣士関係ねぇー!!」
支部に笑い声が響く。
レヴィンが、この支部で笑っている。
アディオは、その姿を見て胸が熱くなった。
彼の表情には、久しぶりに見る“自由でのびのびしたハンターとしての自分”が映っていた。
レヴィン「あ!そうだ...俺の新しい剣見る??」
アディオは思わず背筋がゾッとする、
なんだか嫌な予感がする...
レヴィン「じゃーん!!月霞っていうんだー」
月霞を見せるとおおおおっと声が上がる。
アイリ「へえ...すっごい貴重な刀じゃない...どうやって手に入れたのよ...」
レヴィン「廃墟で抜いた!!」
アイリ「は...?」
レヴィン「ああ...でもそれ呪われてるんで気をつけてくださいね!!」
すでに群衆の手の上に乗ってしまっている。
うねうねと怒ったような月霞の影が縦に伸びる。
「うわあああああーー!?」
アディオ「ぐあああああ!?」
アディオに襲いかかる月霞。
レヴィン「あーあーアディオに女の怨念でもついてんじゃねのかあ...?」
めっとしてアディオに絡んでいた影をしまわせる。
アディオ「その剣、ものすごく嫌な感じがするぞ…レン」
冷や汗が止まらないアディオ。
レヴィン「大丈夫だよー、俺とは相性いいし、なー!!」
するとカスミがぴょんっと跳ねる。
アイリ「可愛いじゃない」
レヴィン「でしょ!?」
チェイズ「んな、ペットみてえに…」
レヴィンは久々の5支部を大いに楽しんだ。
大浴場にも入り料理長のご飯も頬張った!!!
裏庭…昔は夜中にここで一人、素振りしてたっけ。
リュウさんとアグニを倒すんだって意気込んで、その怖さをごまかすために、人のいないこの場所で…剣を振ってた。
裏庭に腰を下ろす。
当時、デート帰りのチェイズに偶然会って、練習に付き合ってくれたり。
皆がここに来て、俺を探してくれたり。
あの頃、俺は気づかなかったけど――こんなにも大事にされていたんだ。
そう思うと、ふっと肩の力が抜け、ベンチに深く腰掛けた。
夜風が花壇の花を揺らし、色とりどりの花々が小さく笑っているように見えた。
リュウ「一緒に英雄になるぞ……レン。死ぬつもりで強くなれ」
その言葉だけを、俺は見ていた。
死ぬことを恐れるな。
英雄に、俺がしてやる。
リュウさんの声が、今でも脳裏にちらつく。
剣を振るたび、息が切れるたび、
「生き延びろ」じゃない――
「死ぬ覚悟を持て」と、背中を押してくる声。
熱が出ても気付かないくらい、俺は夢中だった。
張り裂けるような気持ちを、見ないふりをしながら。
剣だけが、俺の現実で、俺を支えてくれた。
誰も見ていないこの裏庭で、ただ振り続けた。
怖くて、泣きたくて、でも誰にも言えなくて。
あの日、アグニを倒す覚悟を固めた17歳の俺は、
まだ“生きること”の重さに気づいていなかった。
リュウさんがいつか語ってくれた...兵士たちが、戦場から帰ってくる。
……いや、帰ってきたのは“死体”だった。
リュウさんは言った。
「誇りだ」と。
「名誉ある死だ」と。
俺は、それを見上げながら思っていた。
――俺も、いつかああなるんだ。
そう思うたび、胸の奥が冷たくなった。
逃げ場のない恐怖が、静かに積もっていく。
それでも剣を振った。
怖いと認めた瞬間、折れてしまいそうだったから。
レヴィンは、収容所に足を運んだ。
最下層。
そこにいたのがハリスだった。
当時のハリスからは想像もつかないくらい生きる希望もなく、
抵抗する気力すら削ぎ落とされ、
ただ虚ろな目で拘束されているだけの男。
……なのに。
俺の心の内に、最初に踏み込んできたのは、
そのハリスだった。
「なんでそんなにつらそうなの……」
ドキッとした。
そんなふうに言われたことは、一度もなかった。
俺は上手く隠せている。
ずっと、そう思っていた。
猛勉強して早く単位を取る。
優秀な者だけが利用できる、月1だけの登校で済む制度を活用し、勉強を必死でこなした。
学校では優等生として、馴染みやすい友達でいる。
ハンター内ではいつも笑い、強気で物怖じせず。
その「自分だけ」を人に見せてきた。
でも、それは体に鞭を打ち、無理を重ね、ようやく得た結果だった。
――そんな俺に、ハリスは能力を封じられている状態でも、まっすぐ語りかけてくる。
本当は…焦っていた。
足りないんじゃないか…止まることも、休むことも許されないんじゃないか…
それでも、俺の意思に反して、ハンターでの仲間たちや先輩たちとの時間は、その不安を打ち消すくらい楽しかった。




