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揺れる影

石畳に差す月光が、スラムの建物の影を長く伸ばしている。

通りは昼間の喧騒を忘れたかのように静まり返っていた。


「ふむ…暗くなったな」

アーサーは腰を上げながら呟いた。


レヴィンは黒いフードを後ろに下げて言う。

「夜は、ちょっと……警戒した方がいいかもしれませんね」


夜になれば顔があまり目立たないので、仮面だけしていれば大丈夫だろう。


アーサーは背筋を伸ばし、両手を軽く握った。

「ワシの拳に任せろ!!! 何が来ても吹っ飛ばしてやる!!」


その瞬間、通りの奥から低く唸るような音が響いた。

影がひとつ、壁沿いに滑るように動く。


影はゆらりと揺れ、手足の輪郭がぼやけている。

月明かりに照らされ、目だけが光っているように見えた。


「影…?」

レヴィンは目を凝らして姿を追う。

「不気味じゃのう…幽霊でも出たのか…?」とアーサー。


影が二人に迫る。


レヴィンは真剣を握り直し、目を鋭く光らせた。


「いくぞい!」

アーサーの太い声に「はい!」と返事をすると、

二人は同時に地面を蹴り上げた。


スッ――!ヒュンッ!

剣が空気を切る音が連続で響く。


(速い……!でも、攻撃は通る!)


一瞬で踏み込み、

レヴィンの斬撃が影の輪郭を削る。


ジリッ――


影の表面が、焼けたように歪んだ。


「効いてるな!」


その声に応えるように、

アーサーが一歩、踏み込む。


一方、アーサーは腰を落とし、大剣を握りしめた。

「ワシに任せろ!!」


ドンッ!ゴオオッ!ガッ!


大剣が叩き込まれた瞬間、

地面が揺れ、空気が震える。


影が大きく仰け反った。


――今だ。


ザシュッ!ヒュッ!ヒュンッ!

レヴィンが間合いを縫うように駆け抜け、

影の中心を一閃する。


「うおおおおおお!」


アーサーの渾身の一撃が追い討ちとなり、

影は断末魔のように歪み、崩れ落ちた。


そして――影は、動きを止めた。


「……暗黒騎士」


低く、しかし確かな声が、闇の奥から響く。


レヴィンは、息を呑んだ。


――影が、俺を“知っている”。


「……半分しか、救えなかった男」


その言葉に、胸が強く打たれる。


レヴィンは咄嗟にフードを深く被った。

心臓が、早鐘のように脈打つ。


アーサーは、細かいことなど気にも留めず、

力強く拳を握りしめた。


「やかましい!!

 生き残った者を守ったなら、それで十分じゃ!!!」


その声は、迷いがなかった。


レヴィンは、深く息を吸い込み、

フードの奥から、影を睨みつける。


――過去を知っていようが、関係ない。


心の奥で、父から教わった“感覚”を呼び起こす。


剣を振るわず、

言葉も紡がず、

ただ――息を整える。


次の瞬間。


体の芯から、何かが解き放たれた。


ドン……ッ


音にならない衝撃が、空気を踏み潰す。

波のように広がった圧が、通り一帯を包み込み、

石畳が低く、うなり声を上げた。


それは斬撃でも魔法でもない。

純粋な“衝撃”――存在そのものが放つ力。


影は、思わず後ずさる。


「……っ」


言葉を失ったまま、影はその場に縫い止められた。


影が一瞬、ぎくりと動きを止める。

その輪郭はなおも揺らめくが、まるで押し戻されるように後ずさる。


「……くっ……!?」

影の異能者も本能的に、レヴィンの力を感じ取った。


アーサーは横で腕を組み、にやりと笑う。

「ほほう……お前の父ウォーもソレを使っておったな……衝撃派っというやつなのかのう?」


――ドンッ。


衝撃波が、影を上空から叩き付けるように襲った。

見えない波動が押し潰すように降り注ぎ、影の動きを地に縫い止める。


石畳が軋み、壁がメリメリと嫌な音を立てて歪む。


「く……騎士の癖に、卑怯な……」


その瞬間。


「今じゃッ!!」


アーサーの声が夜を裂いた。


巨体が地面を踏み抜く。

大剣が振り上げられ、唸りを上げた。


ブォォン――ッ!!


空気そのものが引きずられ、剣風が通りを貫く。

逃げ場を失った影は、衝撃派に押さえ込まれたまま、正面からその一撃を受ける。


ゴガァンッッ!!!


凄まじい轟音と共に、衝撃が爆ぜた。

石畳が砕け、粉塵が夜空へ舞い上がる。


影は大きく歪み、悲鳴とも呻きともつかぬ音を漏らした。


レヴィンはその様子を見据え、静かに息を吐く。


――剣を振らずとも、

――言葉を交わさずとも。


二人の攻撃は、確かに噛み合っていた。


アーサーは剣を肩に担ぎ、口角を上げる。


「ほほ……やはりな。

 お前の“衝撃派”、ワシの一撃と相性が良すぎるわ」


レヴィンは笑顔で頷き、再び影へ視線を戻した。


影はゆっくりと姿を現し、月明かりの下でその正体がぼんやりと見え始めた。


レヴィンは低い声で告げた。

「……来い。そこだ……姿を出せ」


空気が震え、影の輪郭がさらに揺らめく。


次の瞬間――

アーサーが大きく踏み込み、腕を振り抜いた。


「ほれっ!! 捕まえたぞ、ワハハハ!!」


影を鷲掴みにする。

その腕力に、影の輪郭はぐにゃりと歪み、抵抗するように蠢くが、空中に吊り上げられたまま身動きが取れない。


「なっ……!?」


レヴィンは素早くポケットに手を伸ばし、小型の魔法灯を取り出すと、影に向けて光を照射した。


ぎゃっ――!!


影らしきものが、甲高い悲鳴を上げる。


「照らすなあーっ!?」


低く、どこか人間離れした声が通りに響く。

光を浴びた影は輪郭を保てず、ぶよぶよと揺れ、薄れていく。


レヴィンは眉をひそめ、影をつまむように引っ張っては離し、首を傾げた。

「……なにこれ?」

「やめろおおーー」


影は光を嫌がるようにうねり、まるで怒っているかのように暴れ回る。


アーサーは腕組みのまま、少し距離を取って観察していた。

「ふむ……光に弱い、か。よし、ワシが掴んでおくぞ!」


「貴様らああぁ……許さんぞぉ……暗黒騎士めぇ!!

ゴリラも覚えていろおおぉ!!」


その叫びと同時に――

影は、ぱっと霧散するように消え失せた。


「うえええ!? いなくなっちまった!!!」

レヴィンが慌てて辺りを見回す。


「ゴリラ呼ばわりとは失敬な奴じゃ」

アーサーは顎に手を当てる。


「…………」

レヴィンも似た様な事を思っていた事に少し罪悪感を感じた。


「異能者が、どこかで操っておったのかもしれんな……」


通りには、再び静寂が戻る。


結局、二人は警戒を保ったまま、スラム街を後にした。


レヴィンとアーサーは城に戻ると、息を整えながら報告した。


「……逃がしちゃいました。はは」

レヴィンは愛嬌たっぷりにそう言った。


アーサーは豪快に笑う。

「するりと消えおったな、ワハハ!!」


次の瞬間。


王の目が見開かれ、雷鳴のような声が玉座の間に轟いた。


「バカモーーーーン!!!」


城の壁が、びりりと震える。


レヴィンとアーサーは顔を見合わせ、思わず苦笑した。

王の怒声は、まるで城全体に響き渡っているかのようだ。


「……スラムの修繕費だけが、高くついただけではないかあああ!!」


レヴィンは肩をすくめ、愛嬌たっぷりに笑った。

「まあ……仕方ないですよね。次は捕まえますから」


アーサーも大きく腕を振り上げ、胸を張る。

「うむ! ワシらなら必ず捕まえてみせる! ワハハ!」


王は深いため息を吐き、頭を抱えながら二人の後ろ姿を見送った。


――その夜、城下町には再び静けさが戻った。

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