リュウの残影①
聖騎士達は綺麗に横一列に並び、玉座に座る王の言葉を待っていた。
王「最近、リュウを名乗る剣士が出現したとの報告が入っておる……」
その一言で、場は一気にざわめいた。
アーサー「リュウですと……!?」
隣に立つ暗黒騎士姿のレヴィンも、思わず目を見開いた。
王「目撃情報によると、装備はリュウのものと完全に一致。ドラゴンの大剣、兜、赤い鎧……すべて同じだそうじゃ」
レヴィン「リュウさんと……同じ……」
顔までは確認されていない。
だが、それだけに不気味さが際立つ。
王「さらに、その剣士は各地で善行を重ねているらしい」
「善行……?ふざけるな……!」
アーサーは苛立ちを隠さず吐き捨てた。
アーサ「リュウは――“厄災アグニを討つ器”とされた男だぞ!?その名を騙るなど、許されるわけがない!!!」
場の空気が、一瞬で張り詰める。
レヴィン
(善行……?リュウさんは困っている人を見捨てる人じゃなかった。けど、自分から名乗り出て英雄気取りするような人でもない……)
(いったい、誰が。
何のために――)
王「ひとまず、放置する。
だが、万一正体を掴んだ場合は、速やかに報告せよ」
聖騎士達「了解です!!!」
ざわめきの中、レヴィンは胸の奥に広がる不安を抑えきれずにいた。
(リュウさんの名を使う意味……
嫌な予感しかしない……)
王様「街の者の話では、盗賊を追い払い、子供を助け、食糧を分け与えているそうじゃ」
聖騎士たちがどよめく。
「聖騎士みたいじゃん」
「それもう正義の味方じゃね?」
アーサー「だがなぁ!!リュウの名を使っとる時点で許せん!!本人でもないのに、あの装備を着とるなど不届き千万!!」
王様「まあ、今すぐ害があるわけではなさそうじゃ」
レヴィン「……はい。でも、確認はしておいた方がいいと思います」
アーサー「おお!行く気じゃな!」
レヴィン「ええ。リュウさんの名を名乗るなら……
せめて、その剣の腕と覚悟くらいは、俺が確かめたい」
レヴィン「どの辺に出現したんですか..?」
王様「うむ...スラム街の辺りじゃ...今日も来てるかもしれん」
アーサー「スラム街か!!行ってみるか!?」
レヴィン「はい!!俺に行かせてください!!」
王様「うむ...よかろう!!」
こうして偽リュウの真相を確認しに行く許可が降りたレヴィンとアーサーだった。
レヴィンはいつもの馬の毛並みを整えてから馬車に乗り、スラム街へと向かう。
街並みは、さっきまでの王都の整った道とはまるで違い、細い路地や壊れかけの建物、所々にゴミが散乱している。
馬車はスラム街の外に着き、レヴィンは馬を馬留めに繋いで軽く撫でる。
「よし、ちょっとここで休んでてくれなー」と声をかけると、白い馬はひひんと鼻を鳴らし、嬉しそうに顔を擦り付けてくる。
アーサー「随分その馬、レヴィンに懐いとるのう…」
レヴィン「へへ…この前カルデラ王国に行った時に気に入っちゃって、専用にさせてもらったんです!!」
「なー」
レヴィンの声に馬はさらにひひんっと鳴き、ご機嫌な様子だ。昨日はちゃんと体も洗ってやったので毛並みもつやつやで綺麗だ。
レヴィン「白い毛並みで綺麗じゃないですかー、この馬」
アーサー「うむ!!いい馬じゃのう!!白馬だから品があって良いのう!!」
レヴィン「ですよねー!!」
離れがたいが、少しの間ここで休ませておくことにする。レヴィンは馬を撫でながら、ふとスラム街の様子を見渡した。
スラム街の空気は、相変わらず重く澱んでいた。
アーサー「聖騎士だ! 最近、赤い鎧の剣士が現れてはおらんか?」
アーサーは、畑仕事をしていた年配の男に声をかける。
おじさん「ああ……あの赤い鎧の人か。最近よく来るよ。食料を分けてくれるんで、助かっとる」
アーサーはレヴィンと視線を交わした。
その後も数人に聞き込みを行ったが、返ってくる答えはどれも似たようなものだった。
盗賊を追い払い、子供を助け、食糧を分け与える――。
レヴィン「……なんか、本当に単なる善人なんですかね……」
アーサー「うむ……だがリュウを名乗る必要は、どこにもないじゃろう」
腕を組み、眉をひそめる。
アーサー「装備まで同じとなると……意図があるとしか思えん」
レヴィン「……ですよね」
(リュウさんは、名を広めるような人じゃなかった)
スラムの奥へ進むにつれ、じっとりとした視線を感じる。
高い屋根の上、崩れかけた塔の影——
誰かが、こちらを“見ている”。
アーサー「……おい、レヴィン」
低く、鋭い声。
レヴィン「はい」
アーサー「いるな」
レヴィンも、はっきりと気配を捉える。
鋭い視線。だが、殺気はない。
むしろ——こちらの力量を測るような、冷静な観察。
レヴィン(……この感じ……)
ふと、記憶がよぎる。
強者を前にした時、距離を保ち、静かに様子を窺っていた——
リュウさんの、あの空気。
レヴィン「……上です」
アーサー「上だな」
ほぼ同時に声が重なった。
その瞬間——
瓦礫の上の赤い影が、ふっと掻き消えた。
アーサー「逃げおったか!!」
レヴィン「……追います」
剣に手をかけたレヴィンの胸に、妙なざわめきが広がる。
(敵意がない……なのに、強い)
(それに……)
レヴィン(……女……?)
ほんの一瞬、しなやかな身のこなし。
鎧越しでも分かる、“軽さ”がそこにあった。
アーサーは左、レヴィンは右へ。
阿吽の呼吸で別れ、赤い鎧の人物を追った。
レヴィン「いた……!!」
屋根から屋根へ——
だが、直線じゃない。
レヴィン(なんだ、あの動き……ジグザグ……?)
一歩ごとに角度を変え、あえて追跡の軌道を乱してくる。
無駄がないのに、読みづらい。
追いにくい……!!
レヴィンはさらに速度を上げる。
だが距離は、詰まらない。
その鎧の動きは、一般人の逃げ方じゃない。
訓練された兵士とも違う。
レヴィン(……戦う前提の動きだ)
突然、赤い鎧が足を止めた。
レヴィン「——っ!?」
次の瞬間、視界が反転する。
瓦礫が蹴り上げられ、弾丸のように飛んできた。
レヴィン「ちっ……!」
腕で弾く。
だが、その一瞬で——
消えた。
レヴィン「……」
気配は、まだある。
近い。……後ろ!?
振り向いた瞬間——
剣が、振り下ろされてきた。
レヴィン「!!」
反射的に体を捻り、間一髪でかわす。
剣先が地面を削り、火花が散った。
レヴィン(重い……大剣……!?)
だが、重さのわりに——速い。
赤い鎧は言葉を発さない。
呼吸音すら抑え、淡々と次の一撃を繰り出してくる。
レヴィン(……殺気がない)
それなのに、圧は強烈だ。
一合、二合——
剣がぶつかるたび、腕が痺れる。
レヴィン(この剣筋……)
脳裏に浮かぶのは、否定したい名前。
レヴィン「……リュウさん……?」
その瞬間——
赤い鎧の動きが、ほんの一瞬だけ乱れた。




