レヴィンのデートミッション④
公園のざわめきがまだ耳に残る中、レヴィンはゆっくりと視線を巡らせた。
そこにあったのは、子供たちの驚きと、母親たちの困惑の顔。
そして――迷宮で命を落とした被害者の家族の、深い憎しみ。
視線は交錯する。
恐怖と怒りに震える男の目と、レヴィンの目が、一瞬、火花のようにぶつかり合った。
セレナは父の脇で微かに眉を寄せ、状況を見極めようとしている。
時間がゆっくり流れるかのように、その場の空気が張り詰める。
交錯する視線の奥で、過去の迷宮事件の影が、静かに蠢いていた……。
「俺だって……助けたかった……!!」
胸の奥から絞り出すように叫びたい衝動を、レヴィンは必死に押し殺す。
「俺以外の聖騎士は、アーサーさんしか生き残れなかった……」
その言葉も、口にすることはできない。
ぐっと呑み込み、胸に重くのしかかる痛みを、ただ抱え込むしかなかった。
レヴィンは、男を真っ直ぐに見つめながら、低く震える声で告げた。
「申し訳ありません……奥さんを助けられなくて……でも……本当に、出来なかったんです……」
言葉の端々に、胸の奥から絞り出すような痛みが滲む。
レヴィンはその場で、ただ真摯に謝ることしかできなかった。
あの時、命を振るいにかけた迷宮の主の顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
怒りが、胸の奥から湧き上がった……!
しかし、どんな言葉を口にしたところで、この人の苦しみは消えない。
「俺を殺しても……奥さんは、帰ってこない……」
その言葉も、ぐっと押し殺し、レヴィンはただ頭を下げ続けた。
男は涙を流し、叫んだ。
「どうしてだよおおおっ……!」
そのとき、遠慮がちに子供たちの母親が声をあげた。
「あの……その聖騎士さんが、迷宮の方……なんですか?」
レヴィンを見つめ、何か言いたげに問いかける。
男は怒りをあらわにする。
「そうだ!!! こいつだ!!! 忘れやしねえ!」
母親は少し息を整え、子供を守ってくれたことに礼を言った。
「あの……子供たちを助けてくれて、本当にありがとうございました……」
レヴィンは少し顔を赤らめ、頭をかく。
「え……いや……俺がこんな素顔をさらして呑気に遊んでたから……お子さんたちを巻き込んじゃって、本当にすいませんでした……」
母親たちは困惑の表情を浮かべる。
そして、ひとりが小さな声で質問した。
「あなた、何歳なの……?」
レヴィンは思わず目を丸くする。
「え……?」
予想外の質問に、戸惑いが全身に広がった。
レヴィン「ええっと……18です……」
子供たちの驚きの声が飛ぶ。
「えー!! もっとガキかと思った!!」
レヴィン「んな……なんだよー! 確かに年より下に見られるけど……」
母親の一人がふと呟く。
「18……この子、兄ちゃん、私の長男と同じだわ……」
子供たちも興奮気味に続ける。
「兄ちゃん、16歳くらいに見える!!」
レヴィン「聖騎士は18からしかなれねーの!!」
だんだん空気は柔らかくなり、公園のざわめきも穏やかさを取り戻していった。
男は低く唸るように口を開いた。
「お前……まだ聖騎士になったばっかか……」
レヴィンは小さく頷く。
「は……はい……」
男は俯き、呻くように心の中で呟く。
(それで、あの迷宮を踏破して、アグニもその歳より前に倒してんのかよ……)
再び顔を上げ、目を細める。
「大人が何人も挑んで、踏破できなかった迷宮を……ガキが踏破しちまったってわけか……」
レヴィン「……あの、本当に俺……」
男はため息をつき、後ろを向いた。
「もういい……」
セレナの父が声を荒げる。
「年齢など関係ない!!! 聖騎士として責任ある年齢だ!!!」
セレナは慌てて、父に声をかける。
「お父様……」
レヴィンも力強く頷く。
「その通りです……年齢は関係ありません……」
セレナの父は力強く声を張り上げた。
「だが、それを裁くのはお前ではない!! 国が決めるものだ!!」
セレナは慌てて父に声をかける。
「お父様……!」
母親の声が震える。
「そうよ……子供たちが遊んでる場に、いきなり……!!」
男は黙り込み、唇をかすかに震わせる。
「……」
男は罰が悪そうに、公園を後にした。
そして、ようやく平穏が再び公園に訪れた。
セレナの父が、厳しい表情で告げる。
「だが、暗黒騎士と世間で騒がれている男を、娘に近づかせるわけにはいかん……もう、会わんでくれ……!」
レヴィンは俯き、少し沈んだ声で答えた。
「は……はい……」
セレナは父に向かって、強い目で告げた。
「お父様!! 今日のお話は、私からお誘いしたんです!!」
父は驚きの声をあげる。
「なんだと!?」
しかし、セレナは動じず、続けた。
「私は……この方を見た時、真剣な顔で訓練に勤しんでいる姿を見ました。
暗黒騎士と言われている人が、笑って周りの方にも好かれていて……
どんな方なんだろう……って、知りたくなったんです」
「そうだよー! この兄ちゃん、俺ら子供より一番はしゃいでたぞー!」
その声に、レヴィンは何も言えず、顔を赤くした。
「なんか……うちの子たちと変わらないって、思ったわ」
母親たちの同意の声に、レヴィンはますます顔を赤くして恥ずかしさを隠せなかった。
セレナはにっこりと笑いながら、レヴィンに向かって言った。
「だから、私は今度は自分から会いに行きますね……レン様」
レヴィンは少し戸惑いながらも、静かに答える。
「セレナ……」
その様子を見て、セレナはさらに微笑む。
しかし、セレナの父は顔をこわばらせ、声を荒げる。
「ゆ……許さんぞ!? こんな男……!!」
セレナは揺るがず、毅然と告げた。
「私は……お父様の言うことを聞いてきました……
だけど、もっと知りたいんです。この方が」
その言葉に、子供たちは楽しげに冷やかす。
「ヒュウーヒュウーーッ!」
セレナは微笑みながら、レヴィンに告げた。
「今日は、私のわがままに付き合ってくれてありがとうございました……
デートしてくださって、とても楽しかったです。
次も、またデートしてくださいね……」
レヴィンは元気よく手を振りながら答えた。
「おう!! またどっか行こうな!!」
しかし、すぐに少ししょんぼりして呟く。
「次は食い過ぎないようにする……」
セレナは微笑みながら言う。
「ふふ……シェアも新鮮で、楽しかったですよ」
レヴィンは首をかしげながら、少し照れたように答える。
「そう……?」
その楽しげな二人の様子を見て、セレナの父は娘の手を引っ張りながら、怒気を含んで告げた。
「帰るぞ!!」
レヴィンは呑気に手を振る。
「またなーーー」
父の怒気を含んだ視線は、ますます鋭さを増していた……!!
レヴィンはそっと呟いた。
「とりあえず、デートミッションは成功かな……」
胸の奥で、小さな達成感と、ほのかな幸福感が混ざり合う。




