暗黒騎士指名の不吉な依頼⑥
異能者は体の自由を奪われ、ぐちゃぐちゃに縄で締め上げられていた…
レヴィン「……なんか、習った時と違うな…」
腕を組んで首をかしげる暗黒騎士。
「王様に何回も教わったんだけどな…」
ハリス「これじゃあ、城に着く前に死んじゃうよ!!」
慌てた様子で、器用に縄をほどき始める。
レヴィンの不器用な力仕事を見て、思わず手を出す羽目になったのだ。
異能者「ぐ、ぐえっ…!?」
まだ締め上げられた縄の中で身悶えるも、ハリスの手際の前に抵抗する余地はなかった。
山賊やフェルナンドと付き人も、ぐちゃぐちゃに絡まった縄を解くのを手伝う。
付き人「よくもまあ、こうぐちゃぐちゃになれますね…」
フェルナンド「もう不器用を通り越してますね…」
ハリス「ただ乱暴なだけです」
レヴィン「ひでえ!?」
手を出すなっとハリスに怒られ、渋々座ってドラゴンを撫でるレヴィン。
レヴィン「ちぇ…ハリスのやつ、あんな怒んなくても…」
「あの……」
そこに、山賊たちが列をなして現れた。
山賊「あの…サイン、ください」
レヴィン「……」
腰をかがめ、背中にペンを走らせると――
“暗黒騎士”
豪快な筆致で、文字は力強く跳ね、まるで剣のように自己主張している。
山賊たちはお互いの背中を見つめ、目を輝かせて大騒ぎ。
山賊たち「うおおっ、暗黒騎士だー!! 豪快すぎる!!!」
「すごい、背中に直筆だ!」
レヴィン「……なんか、変な方向に人気があるな…暗黒騎士…」
ドラゴンはきゅうきゅうと甘え鳴き、レヴィンに構ってもらえて満足げだ。
レヴィン「じゃ...戻るか..」
綺麗に縄で縛られた異能者を引っ張る。
そこでフェルナンドの付き人が怖々と尋ねる。
「...わ....私も捕まりますか...」
レヴィン「そんなん知らねえよ...金受け取ったみたいだけど...俺取られてないけど...」
フェルナンド「....金なんか...どうにでもなるだろう...馬鹿者め!!」
付き人「申し訳ございません...!!」
付き人は土下座をして申し訳ありませんっと涙を流した..。
レヴィンは首の後ろに手を回し、はあっと息を吐いた。
レヴィン「……とにかく、帰るか。山賊たちも巻き込まれたみたいで大変だったな」
山賊たちは笑顔で手を振り、嬉しそうに見送ってくれた。
ー来た道を戻る一行。
レヴィンはドラゴンを肩に乗せ、ご機嫌そうに空を仰ぐ。
ハリスはふっと笑い声を漏らした。
ハリス「異能者を前にした時のレン…父親のウォーそっくりだったよ」
レヴィン「え…嘘だろ!?」
あのおっかない父と似てきたのか…!?
ショックを受けるレンに、ハリスは優しく続ける。
ハリス「ま…それでもいいんじゃない?怖がられても、信頼してくれる人はいるんだから。ウォーだってそうでしょ」
レンは少し頷き、口元にわずかな笑みを浮かべた。
レン「……そうかもな。まあ、俺にはお前がいるしな」
ハリスも微笑む。
ハリス「うん。僕もレンがいるから安心できるよ…少し危なっかしいけどね」
その含みのある言い方に、レンは少しバツの悪そうな顔を見せるが、すぐに二人の間に自然な笑いが零れた。
言葉にならない信頼と絆が、静かに二人を包む。
その後ろを、フェルナンドと付き人が熱心に語りながら歩いていった。
二人とドラゴン、そして異能者を連れ、アルデラ王国への帰路は穏やかに進む。
森の出入口でドラゴンを降ろしそこで一旦惜しみつつ別れる...
切ない声で鳴くが次第に自分から森の奥にかけて行った。
アルデラ王国の城門前。
兵士たちが整列し、厳しい視線を異能者に向けていた。
レヴィンは縄で縛られた異能者を前に立たせる。
異能者は眉間にしわを寄せ、唇を噛みしめて黙っていた。
ハリスが横で小さく息をつく。
「これで、あとは王国の方で対応してくれるね」
兵士がコソッとハリスに耳打ちする。
「金銭の横領に、裏切り、他にもいくつか余罪があるようだ…」
異能者の過去が整理されていく。
レヴィンは肩で軽く息を整え、視線を異能者に向けた。
「…あとは王国の人たちに任せるだけだ」
付き人の処分もすべて王国に任せることに。
任務として暗黒騎士として連れてきた以上、自分の判断で裁くことはできない。
責任を果たすのは果たした――それだけを胸に、静かに立っていた。
異能者は城内へと連れられ、その姿が門の奥へ消える。
付き人も同じく王国側に引き渡され、処分が決まることとなった。
フェルナンドは心配そうにその背中を見送る。
3人の間に沈黙が流れる...
レヴィンは肩の荷を下ろすように深く息をついた。
戦闘の緊張、連行の責任感、そして少しの安堵――すべてが、王国の厳格な空気の中で混ざり合っていた。
一行は再び門を背に、アルデラ王国の城下町へと歩みを進める。
そこには戦いの疲れを癒す、ほんの少しの平穏が待っていた。
数日後、レヴィンの元に一通の手紙が届いた。封は丁寧に施されており、差出人はフェルナンドだった。
レヴィンが手紙を開くと、中からは整った文字でこう書かれていた。
⸻
「レヴィン様、ハリス様
先日の件では、大変お世話になりました。
おかげさまで、付き人と共に高級宝石店を開業する運びとなりました。
まだ小さな店ではございますが、宝石の選定や品質には自信があります。
もしお暇があれば、ぜひ足を運んでいただければ幸いです。
フェルナンド」
⸻
レヴィンは封を閉じながら、ふっと笑みを浮かべた。
「罪に問われずに済んだみたいだな...だけどフェルナンドさん...タダじゃ起きないって感じだな」
ハリスも手紙を覗き込み、肩をすくめて微笑む。
「はは...意外としっかりしてるんだ...良かった」
レヴィンは、あの混乱の中でも前に進もうとするフェルナンドの姿に、少しだけ安心感を覚えた。
「宝石店か……王様に紹介しとくか」
「いいねそれ」
二人の間に、静かな感慨と、過ぎ去った戦いの余韻が漂う。




