魔界を統一した男
彩雲が漂うベルフェアルの魔王城上空に現れた羽根鯨。
その雄大な姿を、レヴェリーは羨ましそうに見上げると剣を取り出した黒い穴を手元に作り出し、ゴミを捨てるように剣を穴に放り込む。
そしてレヴェリーは、先程までアンジェリカが座っていた玉座まで歩き、腰を下ろすと足を組み、頬杖をついた。
上空の羽根鯨はそんなレヴェリーを悲しそうに見下ろし、蜃気楼が消えるように、ユラユラ揺れながらその巨体を消していく。
「陛下、アンジェリカ女王は」
羽根鯨の消失直後、辺りを警戒しながら玉座の間に現れたのは赤い髪の青年、レヴェリーの側近である。
その青年、側近のクリーガーはレヴェリーの座る玉座の前に立つと、主であるレヴェリーの横まで歩き、片膝を付いて敬意を示した。
「計画通り"殺した"。軍の状況はどうだ」
「はい"予定通り"双方壊滅的な被害が出ています。街の復興、軍の再編には最短で2年は掛かるかと」
「そうか。ご苦労だったクリーガー。今日は休め」
「陛下、いや。レヴェリー、君はどうするんだ」
「私も今日は休むよ。少々、疲れた」
心配そうにレヴェリーを見上げるクリーガーに、レヴェリーは苦笑する。
そんなレヴェリーに、クリーガーは何かを思い出したように口元を抑えると、視線をレヴェリーから背けて俯いた。
「どうした、何か問題でもあったか?」
「ごめん。いや、申し訳ありません陛下。決戦前でしたので留意していた案件の報告が遅れてました」
「なんだ」
「北西大陸のグランベルク王国、エドラの冒険者ギルドに潜ませていた諜報員が先走りまして、勇者に攻撃を。結果、勇者の覚醒を促してしまったようです」
「映像はあるか?」
「こちらを」
レヴェリーに言われ、クリーガーは手の平を翳し、黒い眼球を差し出す。
その黒い眼球をレヴェリーは受け取ると、人差し指と親指で摘んで潰し、中から溢れた液体を自分の眼球に塗り込み目を閉じた。
そこに見たのはグランベルク王国にて誕生した今代の勇者。
白髪に近い青い髪の少女が魔力を纏わせた聖剣にて映像を映した諜報員を斬る映像だった。
暗転し、続いて風景が変わる。
倒れた少女を見ていた視界が歪み、回転する映像。恐らく何者かに吹き飛ばされたのだろう。
屈強そうな中年男性が少女に駆け寄る様子をレヴェリーの視界に映しだしている。
そしてもう一度暗転すると、黒いローブに身を包んだ青年の出現と、黒い球体に吸い込まれていく映像を最後に視界は黒く染まり、レヴェリーの視界は元に戻った。
「全く、余計な事をしてくれた物だ。だがまあ、まだまだ未熟、直ぐに攻めては来んだろう。諜報員はどうした?」
「一切の反応が無い事から死亡したかと」
「処分する手間は省けたか。分かった、各国の諜報員に勇者にはまだ手を出すなと改めて通達しておけ」
「了解致しました」
この日、魔界で勃発した大陸統一戦争が終わり、魔界は魔王レヴェリーの手に堕ちた。
この情報と人類共存派の魔王、アンジェリカ女王の訃報は魔界全土だけでなく、世界中に噂話や吟遊詩人の詩を経由して伝わる事になっていく。
しかし、魔王軍は再編成、戦後処理の為に人類への侵攻は直ぐには行える状況に無く、その間に人類側の各国は戦いの準備を進めていく事になるのだった。




