帰った後で
「じゃあ僕はこの子達を送ったら今日は適当な宿で寝るから」
「しばらくエドラに居るんだろ? 今度うちに来いよ。アイリスも喜ぶ」
「分かった。近いうちにまた遊びに行くよ」
ギルドの前でアルギスとリチャードはコツンと拳と拳を合わせ、別れの挨拶を済ませると、リグスとナースリーをアルギスに任せ、リチャードとシエラ、そしてマリネスの3人は帰宅する事になった。
ふらふら歩くシエラと手を繋ぎ、リチャードは魔石で光る街灯に仄かに照らされた石畳みの道を歩いていく。
今日遂に、娘であるシエラが一人前の冒険者になった。
一昨年までは考えもしなかった事だ。
娘が冒険者になるとかそういう事ではない。
冒険者を辞める事を考え始めた頃から、自分は冒険者を辞めた後は何をするのかと漠然と考えていた。
そして結局は何も考えつかないままリチャードは冒険者を引退。
備蓄も貯金もあるし、力仕事でもしながらのんびり暮らすか、そんな事を考えながら引退した夜、今歩いている道を歩いていた。
そしてフラリと寄った路地裏で娘になる少女、シエラと出会った。
その時は自分が親になるなど、考えていなかった。
シエラがきっかけになって想い人と結ばれるなど考えられなかった。
「アレから色々あったなあ」
「どうしたの?」
「ああいや、シエラと出会った日の事を思い出していたんだ」
呟いたリチャードの言葉に、シエラはリチャードの顔を見上げては首を傾げて疑問を漏らす。
そんなシエラにリチャードはニコッと微笑み、笑窪に皺を寄せた。
「今日は疲れたろ? 家に帰ったらゆっくり休むと良い。家族でのお祝いは明日にしよう」
「ん。分かった」
疲労も手伝ってか、シエラは歩きながら欠伸をし、目を擦った。
その後3人は街外れの住宅地にある自宅に帰り着くと玄関を開ける。
すると、寝室の方からガチャリと扉のドアノブが回る音が聞こえ、アイリスが姿を現した。
「お帰りなさいシエラちゃん、マリネスちゃん。どうだった?」
「ん。合格」
「ああ、良かったあ」
随分と心配していたようだ。
深く息を吸い込み、吐き出すとアイリスは並んで立っているシエラとマリネスを抱き寄せ、シエラの額にキスをすると頭を撫でた。
「おめでとう2人共、さあお風呂に入って今日はゆっくり休みなさい」
「ん。そうする」
アイリスに言われるまま、シエラとマリネスは風呂場に向かっていった。
それを見送ったリチャードは自分の装備を外し、武器庫にソレを放り込むとシエラ達が風呂に入ったタイミングを見計らい、シエラとマリネスの装備を洗濯場に放り込み、寝巻きを籠に入れて壁際に置いた。
そして静かにその場を後にして今日あった出来事を話しにリチャードはアイリスのいる寝室へ向かった。
リチャードがアイリスに今日の話をしている頃。
風呂に入っているシエラとマリネスは背中合わせで浴槽に浸かって疲れを癒していた。
「今日は疲れたね」
「そうだね。シエラちゃん、もうどこも痛くない?」
「ん。もう大丈夫。パパとマリィの回復魔法のおかげでね」
マリネスの背中に伝わるシエラの背中の感触が変わった。
下を向いたのか、シエラの背中が丸くなったとマリネスは感じ心配になって「シエラちゃん?」と声を掛けて振り返る。
「私はパパとママの邪魔になってるのかな」
「そ、そんな訳ないよ! ルグナーさん、あ、いや。敵の魔族の言葉なんて真に受けちゃダメだよ」
「ん。そうだね。ごめん。変な事言っちゃった」
励ましの言葉をくれたマリネスに俯くシエラ。
マリネスはルグナーの言葉を否定してくれたが、シエラはあの男の怨嗟の声を『何が本当の親だ! どうせ直ぐに邪魔になって、また貴様は捨てられるぞ』という言葉を繰り返し思い出してしまっていた。
(セレネが生まれた今、血の繋がりがないのは私だけ。私は本当にパパとママの子供でいても良いのかな。パパとママとセレネの邪魔にはなれない。なりたくない。あいつの言ってた通り、パパとママの邪魔になるくらいなら、私は)
「ごめんマリィ。先に上がるね」
「う、うん。シエラちゃん、本当に大丈夫?」
「ん。平気。大丈夫だよ」
湯船から出ていくシエラがマリネスに微笑む。
しかし、その笑みが泣いているように見えたマリネスは、引き止めようとして「待って!」と、シエラに向かって咄嗟に手を伸ばす。
その手をシエラは掴み、指を絡ませると「大丈夫だよマリィ。本当に、大丈夫だから」と、言うとマリネスにもう一度微笑みを向けて手を離し、シエラはマリネスを残して風呂場を後にする。
その後、大丈夫と言われたマリネスだったが、やはり思い詰めたような、泣き出しそうだったシエラが心配になりマリネスも早々に風呂から上がると身体を拭いているシエラに後ろから抱き付いた。
「ど、どうしたの?」
「なんだかシエラちゃんがどこかに行っちゃいそうな気がして」
「マリィは優しいね。心配させてごめんね。でも本当に大丈夫だから。ほら。早く体拭かないと風邪ひくよ? 今日はもう寝よ? ね?」
自分よりも泣き出しそうになってしまったマリネスを慰めるように、シエラは振り向いてマリネスの頭からバスタオルを掛け、頭にポンと手を置く。
そして2人は寝巻きに着替え、寝室にいる父と母に「お休み」と声を掛けた後、2階の自室に向かうのだった。




