寝室での食事、その後は
リチャードの自宅の寝室には現在クイーンサイズのベッドが設置されている。
このベッドはアイリスとの婚約の際に新規に購入した物で寝室の大半を占めるが、そこに更にベビーベッドを置いたものだから寝室は本当の意味で寝る為だけの部屋になっており、衣装棚すら置けない状況になっている。
そんな部屋の状況ではあるが、全くスペースが無いわけでも無いのは、この家自体が何かと荷物の多い冒険者パーティが共同生活出来るように一般家屋より広い間取りで建築されているからだ。
「セレネはぐっすり寝ているな。食事を用意したよアイリス、食べるだろ?」
「ええリック。ありがたく頂くわ」
「シスターによると、バランスよく食べるのが良いらしいが。まあ今日くらいは構わないだろう。好きな物を食べてくれ。盛大にとはいかないが、今日は本当にアイリスは良く頑張ってくれたからね」
アイリスとシエラが座っているベッドの横に料理を乗せた台車を寄せて、リチャードはアイリスに手を伸ばすとセレネをそっと抱き、まだすわってない首に気を付けながらベビーベッドに寝かせると、ベビーベッドの脚に設置された魔石に魔力を流して結界と癒しの魔法を発動した。
「セレネは今日が誕生日になるの?」
「ああそうだね。今日がセレネの誕生日だ」
シエラの言葉に微笑み、リチャードはシエラを手招きで呼ぶと愛娘の頭を撫でる。
そして台車の料理を渡すと「今日はここで食べよう」とリチャードはシエラとアイリスに食べる料理を選んでもらい、皆で寝室にて夕食をとるのだった。
アイリスが食事をこぼしても大丈夫なようにと、ベッドに敷いた厚手のシーツを夕食後に取り払い、台車に空いた食器を乗せていくリチャード。
それを手伝うシエラとマリネスを見て、アイリスがリチャードを呼び寄せた。
「セルグのお嬢さん今日はどうしたの?」
「ああ〜。セルグ家のしきたりで家を追い出されたらしくてね」
「追い出された?」
「何か裏はありそうだが。まああの子は悪い子では無いし、かつての生徒を一人で放り出すのも気が引ける。しばらく面倒をみようと思うんだが。どうだろう?」
「あなたらしいわね。そういう優しくて甘味みたいに甘い考え方をするリチャードが私は好きよ」
「褒めてくれたんだよな?」
「ええもちろん。それにシエラちゃんのパーティの、ああいや。シエラちゃんの友達であなたの元教え子なら確かに放り出すわけにもいかないわ」
「ごめんなさい。シエラちゃんのお母様。急に転がり込んでしまって」
リチャードとアイリスの会話を聞いていたマリネスが俯きながら言うが、そんなマリネスの手を握り、シエラが首を振る。
「マリィを連れて来たのは私。マリィと一緒にいたいっていうのは私の我儘だから気にしないで」
「そうよセルグさん。あなたが謝る事では無いわ。まあしばらくは自分の家だと思ってくれたら良いから。って言っても無理な話か。セルグ家のお屋敷は立派だもんね」
「えっとあの、あ、ありが」
「おお、そうだシエラ。せっかくだから2人でお風呂に入ってきてらどうかな? 私は食器をキッチンに運んだらマリネス君の寝床を用意するよ。お客さんを床やソファで眠らせるわけにはいかないからね」
アイリスにも居候の許可を貰い、お礼を言おうとしたマリネスの言葉をリチャードは遮ってしまうが、リチャードはその事に気が付かずシエラに提案を持ち掛けた。
その提案に、シエラは目を輝かせる。
父や母とは共に風呂に入る事はあるが、友達との風呂は初めてだったからだ。
「分かった。お風呂入ってくる」
「ええ⁉︎ シエラちゃん、そんなの悪いよ」
「マリィは私とのお風呂嫌?」
「そ、そんな事無い。そんな事無いけど」
「じゃあ行こう。大丈夫、うちのお風呂は2人で入れるくらいには広いから」
顔を赤くするマリネスの手を掴み、半ば引きずるようにシエラはアイリスとリチャードに「じゃあお風呂入ってくるね」と言って寝室を後にしようとする。
そんなシエラとマリネスの後ろ姿を見てリチャードとアイリスは「姉妹みたいだ」と笑うのだった。




