第20章
この状況がまずかったのは、再びスザンヌを手中に収めた後、特に提示する解決策をユージンが持っていないことだった。ここで彼は、公然もしくは秘密の脱出計画をすぐに説明するわけでなく、彼がそうするものと彼女が半分以上期待していたように力ずくで彼女を手に入れて一緒に歩いて立ち去るわけでもなく、母親が彼に話したことを彼女に繰り返していた。そして「来い!」と言う代わりに彼女の意見を求めていた。
「これはついさっき、きみのお母さんが僕に提案したことなんだけどね、スザンヌ」ユージンは話を始めて、全部の説明に入った。これは彼にとって帝国の幻影だった。
ユージンは近くにいる彼女の母親のことを話しながら言った。「僕は何も決めませんってお母さんに言ったんだ。お母さんは僕に、僕がこのとおりにするって言わせたかったんだけど、これはきみに決めさせなければならないって僕が押し通したんだ。もしきみがニューヨークに戻りたいのなら戻ろう、今夜か明日にでも。きみがお母さんのこの計画を受け入れたいのなら、僕はそれでも構わない。僕としては今すぐきみが欲しいけど、きみに会えるのなら、僕は待ったっていいんだからね」
ユージンは今、冷静で、論理的で、愚かにもあれこれ考えていた。スザンヌはこれに驚いた。彼女には言うほどの意見が何もなかった。何かドラマチックな盛り上がりを期待していたのに、それが起こらなかったので、彼女は満足しなければならなかった。真実はこうだった。彼女はユージンと一緒にいたいという自分の欲望に流されていたのだ。最初はユージンが離婚できないようにスザンヌには思えた。読書と未熟な考え方のせいで、それだって本当は必要ではないようにも思えた。彼女はアンジェラを苦しめたくはなかった。公然と妻を捨ててアンジェラに恥をかかせるようなまねを、ユージンにしてほしくはなかった。アンジェラが彼とって満足できる相手ではなくて、二人の間には本当の愛情はない、とユージンが言っていたので、スザンヌはアンジェラが本当に気にしないと思っていた。アンジェラは手紙の中でこれを事実上認めていた。もし自分がアンジェラと彼を共有しても、大して違わないだろうと思っていた。ユージンは今、何を説明しているのだろう……二人がどうするべきかについての新しい理論だろうか? 彼女は、ユージンが神のように自分を連れ去りに来ているのだと考えた。なのに、彼はここで神らしからぬ態度で、新しい理論を彼女に述べていた。これは混乱を招いた。どういうわけでユージンがすぐに出発したがらないのか、スザンヌにはわからなかった。
「ねえ、あなたが何を考えているのか私にはわからないわ」スザンヌは言った。「もし私にもうひと月ここにいてほしいのなら……」
「いや、そうじゃない!」ユージンは、話がうまく伝わっていないことに気がついて、すかさず叫んだ。そして、それが正しいと思えるようにしたかった。「僕はそういうことを言ってるんじゃない。違うんだ。できれば、僕は今すぐ今夜にでも、きみを僕と一緒に連れて帰りたいよ。ただ僕はこれをきみに伝えたかったんだ。きみのお母さんは本当のことを言っているみたいなんだ。もし僕たちがお母さんと円満な関係を続けていけて、それでもなお自分たちの思うとおりにやれるのなら、そうしないのはもったいない気がしてね。きみが完全にその気になってるわけでもないのに、自分の手に負えないような大きな災いを僕は引き起こしたくはないからね……」
このとき、スザンヌは自分が感じたことをほとんど話すことができなかった。問題の要点がスザンヌの決断に委ねられようとしていたが、それは委ねられるべきではなかった。スザンヌには十分な力がなく、経験も十分ではなかった。ユージンが決めるべきだった。彼が決めれば何でも通っただろう。
本当のところ、再び彼女を抱きしめた後なのに、しかも母親の前だったのに、ユージンは想像していたほど自分が勝者になったとも、人生のすべての問題が解決したとも、感じなかった。彼は、もしデイル夫人がこれを真剣に提案しているのであれば、彼女が提案しなければならなかったほどのものを簡単に無視することはできないと考えた。デイル夫人はユージンがスザンヌと会う直前に、ユージンがこの条件を受け入れなければ彼女は闘い続ける……コルファックスに電報を打ってここまで来てもらう……と言ったのだ。ユージンはお金を引き出し、できるのであれば逃避行をする準備までしていたが、それでもコルファックスのことを考え、現在の社会的に安定した状態を維持してデイル夫人が提案したすべてを手に入れたい欲が出て、踏み切れなかった。ためらってしまった。何かすべてを丸く収める方法はないだろうか?
「僕はきみに最終的な決断をしてほしいわけじゃないけど」ユージンは言った。「きみはどう思う?」
スザンヌは今にも爆発しそうなはっきりしない状態が続いて、考えることができなかった。ユージンはここにいた。ここは理想郷だった。月が高かった。
再びユージンが彼女と一緒にいるのは美しい光景で、彼の愛撫を感じることはすばらしかった。しかし、彼は彼女と一緒に飛び立っていなかった。彼らは世界に立ち向かっていなかった。彼らは、自分たちがやるだろうとスザンヌが想像したことをやっていなかったし、勝利に突き進んでいなかった。これこそ、スザンヌがユージンを呼び寄せた目的だったのに。デイル夫人は、ユージンが離婚するのを手伝うつもりだと言った。もし必要なら、彼女はアンジェラへの援助も手伝うつもりだった。スザンヌは結婚して、少ししてから本当に落ち着くことになっていた。何と奇妙な考えだろう。これは彼女がやりたかったことではなかった。彼女は何らかの方法で慣習を無視したかった。自分が計画した通りに、夢見ていた通りに、独創的なことをやりたかった。これは悲惨なことになりかねなかったが、スザンヌはそう考えなかった。母親は屈したのだろう。どうしてユージンは妥協しているのだろう? これは奇妙だった。このときにスザンヌの頭の中でまとまったこういう考えは、二人のロマンスに起こりうる最も破滅的なものだった。ユージンがいれば結婚は二の次でいいものだった。逃避行はその一部であるべきだった。こうして彼女はユージンの腕の中にいた。しかし、漠然としたはっきりしない考えをあれこれ巡らせていた。何かが……輝く月にかかる淡い霧が、波のしぶきが、何かの予兆かもしれないしそうではないかもしれない人の手ほどもない小さな雲が……この状況を支配していた。ユージンはいままでと同じように魅力的だったが、彼は彼女と一緒に飛び立ってはいなかった。二人はその後ニューヨークに帰る話し合いを続けた。しかし、すぐに一緒に発つことはなかった。これはどういうことだろう?
「あなたは母が本当にコルファックスさんと一緒になって、あなたにダメージを与えられると思うの?」ユージンが母親の脅しに言及した後、スザンヌはある点が気になって尋ねた。
「わからないけど」ユージンは真面目に答えた。「うん、お母さんならできると思うよ。でもコルファックスがどうするかはわからないな。どっちにしても、そんなことは重要じゃない」ユージンは付け加えた。スザンヌは困惑した。
「まあ、あなたが待ちたいのなら、それでいいけど」と言った。「私は、あなたが一番いいと思うことをやりたいわ。あなたに地位を失ってほしくはないもの。もし私たちが待つべきだとあなたが思うのなら、そうしましょう」
「もし僕が定期的にきみに会えないのなら、待たないけどね」ユージンは迷っていたが答えた。ユージンは真の勝利の王者……相手を管理するリーダーではなった。愚かにも、彼はできもしないことを詳しく説明していた……スザンヌに会い、一緒にドライブやダンスを楽しみ、秘密であれ公然とであれ実際の結婚が成立するまで、ニューヨークで彼女と同棲同然の暮らしをするというものだった。デイル夫人はユージンを息子として受け入れることを約束をしていたが、彼女はただ時間を稼いでいただけだった……考え、それらしく振る舞い、説き伏せてスザンヌを正気に戻らせるための時間稼ぎだった。デイル夫人は時間がすべてを解決するだろうと考えた。そして今夜は付きまとってうろうろする間、そばを離れないでユージンの発言のいくつかを立ち聞きしながら、ほっと胸をなでおろした。彼は正気を取り戻して自分の愚かさを後悔し始めていたか、あるいは彼女の嘘にだまされていたかのどちらかだった。デイル夫人はもしあと一週間ユージンとスザンヌを離れ離れにできて、自分がニューヨークに行くことができたら、今度はコルファックスとウィンフィールドのところに行って、彼らに仲介してもらえないかを確かめるつもりだった。ユージンは倒されねばならなかった。彼は常軌を逸し、正常ではなかった。デイル夫人の嘘はもっともらしく聞こえたので、この日延べを勝ち取ることができた。彼女が欲しかったのはそれだけだった。
「さあ、私にはわからないわ。あなたの考えなら何だっていいわ」抱擁とキスの時間の後でスザンヌはもう一度言った。「あなたは私に明日一緒に帰ってほしいの、それとも……」
「もちろん、そうしてほしいさ」ユージンはすかさず、力強く答えた。「明日は僕たちできみのお母さんを説得してちゃんとわかってもらわないとならない。僕たちが一緒にいるから、お母さんは今、負けたと感じている。僕たちはお母さんをそういう気持ちのままにしておかないといけない。お母さんは妥協案を話す。それこそ僕たちが求めるものだよ。もしお母さんが僕たちに何かを決めさせてくれるのなら、乗らない手はないだろ? お母さんが望むなら、一週間活動を停止させて、お母さんに時間をあげてもいいと思う。お母さんが変わらなければ、僕たちはそのとき実行すればいい。きみは一週間レノックスまで行って、それから来ればいいさ」
ユージンは大勝利した人のように話したが、本当は大敗北していた。彼はスザンヌを手に入れかけているのではなかった。
スザンヌは考え込んだ。これは彼女が期待したものではなかった……しかし……
「そうね」しばらくしてスザンヌは言った。
「明日あなたは私と一緒に戻るのよね?」
「そうだ」
「レノックス、それともニューヨーク?」
「お母さんが何と言うか確認しよう。もしきみがお母さんの言うことに合意できれば……きみのやりたいようにだけど……僕はそれでいいから」
夜になったので、しばらくしてユージンとスザンヌは別れた。翌朝会って一緒にレノックスまで戻ることで話がまとまった。デイル夫人はユージンの離婚を手伝うことになった。これはすばらしく愛情のこもった満足な状態だったが、どういうわけか、ユージンは自分が事態を正しく扱っていないと感じた。ユージンは邸内の一室で寝た……スザンヌは別の部屋だった……デイル夫人は不安でたまらず、警戒をゆるめず、そばにつきっきりだったが、その必要はまったくなかった。彼は自棄を起こしてはいなかった。近い将来、すべてが自分のいいように調整されて、自分とスザンヌは最終的に結婚するだろう、と考えながら彼は眠りについた。




