第19章
オフィスにいるときに、デイル夫人から電報が届いたのは三日後のことだった。それには「紳士と見込んでお願いしますが、娘からどのような連絡があろうとも、私がお会いするまでは相手にしないでください」とあった。
ユージンは困惑したが、どこにいるにせよスザンヌと母親の間に絶望的な喧嘩があったに違いない、今にもスザンヌから連絡があるかもしれない、と思った。これは彼女の居場所を知る最初の手がかりだった。電報はカナダのスリーリバースから発信されたので、二人はその近くのどこかにいるに違いないと思った。発信元がわかったところで実質的には彼の何の役にも立たなかった。これだけではスザンヌに手紙を書くことも追いかけることもできなかったからだ。どこでスザンヌが見つかるかがわからなかった。スザンヌがおそらく自分と同じか、もしかしたらそれ以上の厳しい闘いを続けていることを意識しながら、待つしかなかった。ユージンはこの電報をポケットに入れて、いつ連絡が来るか、一日で何ができるか、を考えながら歩き回った。彼に出くわした人たちはみんな、何か悪いことがあったのだと気がついた。
コルファックスは彼を見て尋ねた。「どうしたんだ、大将? 見るからに元気がないな」彼はこれが〈ブルーシー社〉に何か関係があるのかもしれないと想像した。コルファックスはユージンがこれに関与していることを知った後で、これを当初の計画どおりに本当に成功した海洋リゾートにするには、これまでに投資された額よりもはるかに多くの資金が必要だし、これが十分な利益を出せるようになるには何年もかかるだろうと聞いていた。もしユージンがそこに大金をつぎ込んでいたとすれば、おそらくそれを失ったか、あるいは最も不満な形で動かせなくなったのだ。まあ、何も知らないことに手を出せばそうなるのは当然だった。
「別に何でもありません」ユージンは上の空で答えた。「私なら大丈夫です。少し体が疲れているだけですから。じきに治ります」
「もし体調が悪いのなら、ひと月くらい休んで調子を整えた方がいい」
「ああ、そんなのではありません! とにかく、今のところは」
ユージンは少ししてからこの時間は有効に使えるかもしれない、休みをとろう、と思いついた。
二人は仕事に戻ったが、コルファックスはユージンの目がやけにくぼんで疲れていることや、やたらと落ち着きがないことに気がついた。体を壊しかけているのかもしれない、と思った。
このときスザンヌは自分と母親の間の感情の性質を考えながら、十分平和に過ごしていた。しかし、もはやすっかりおなじみの流れになる、とりとめのない議論をするだけの数日が過ぎると、彼女は母親には約束の期間で滞在を終えるつもりがないことがわかり始めた。特にみんながニューヨークに戻るということは、スザンヌが即座にウィトラのところへ行ってしまうことを意味したからだ。デイル夫人は最初、日延べを頼んでいたが、やがてスザンヌはニューヨークではなく、一シーズンの間レノックスに行くことに同意すべきだと頼み始めた。日中は十時から四時、時には夕方まで、明るく温かい夏か秋のような陽気が続いたが、このあたりはもうすでに寒かった。夜はいつも寒かった。デイル夫人は妥協案があったら喜んで歓迎しただろう。何しろ、ここはひどく寂しかった。彼女とスザンヌしかいなかった……ニューヨークのお祭り騒ぎを後にするとなおさらだった。出発予定日の四日前になっても、デイル夫人は一向に譲らず、駆け引きをしながら交渉を続けた。業を煮やしたスザンヌが脅しをかけたところ、デイル夫人は取り乱してユージンに電報を打つことになった。その後、彼女は次のような手紙を書いてガブリエルに渡した。
「親愛なるユージン、
もし私を愛しているのなら、迎えに来てください。十五日までに私と一緒にニューヨークに戻る約束を守らなかったら、あなたに手紙を書くと母に言ったのですが、母は相変わらず頑固です。私はカナダのスリーリバースの北十八マイルのところにあるカスカート家の「悠々荘」というロッジにいます。誰に聞いてもわかります。あなたが来るまで私はここにいます。私の手に届かない恐れがあるので返事は書かないようにしてください。でも私はロッジにいます。
愛を込めて
スザンヌ」
ユージンはこれまで一度も愛を訴えられたことも女性からのこういう訴えを受けとったこともなかった。
この手紙は電報が届いてから三十六時間後にユージンに届いて、直ちに彼を計画の立案にかからせた。その時が来たのだ。彼は行動しなければならなかった。ひょっとしたら、この古い世界とはもう永久にお別れかもしれない。カナダに探しに行けば、彼は本当にスザンヌを手に入れることができるのだろうか? スザンヌを取り巻く環境はどうなっているのだろう? ユージンは、自分を呼んでいるのがスザンヌであり、自分がスザンヌを探しに行こうとしていることに気づいたとき、うれしくてわくわくした。「もし私を愛しているのなら迎えに来てください」
ユージンは行くのだろうか?
見守るとしよう!
ユージンは車を呼び、まずは自分で出発時刻を確かめながら、側近に電話して鞄の荷造りとグランドセントラル駅への運搬とアンジェラへの連絡を頼んだ。アンジェラはついにユージンの姉に自分の悩みを打ち明けようと覚悟を決めて、アッパー七番街のマートルのアパートへ出かけてしまった。こうなってしまうと、アンジェラの状態はユージンへの訴えにはならなかった。彼がたびたび考えた避けられない結果は、まだずっと先のことだった。二、三日休みを取るとコルファックスに伝えて、四千ドル以上預けてあった銀行に行って全額を引き出した。それから切符売場へ行き、スザンヌに会ったら自分がどんな行動をとるのか定かではなかったから片道分の切符を買った。スザンヌを探しに行くつもりでいることを思い切ってアンジェラに告げ、心配しなくていい、連絡はする、と伝えるつもりで、もう一度アンジェラに会おうとしたが、彼女は戻ってこなかった。不思議なことに、ユージンはこの間ずっとアンジェラにすまない気持ちでいっぱいだった。もし自分が戻らなかったらアンジェラはそれをどう受けとめるだろうと考えた。子供はどうなるのだろう? それでも自分は行かなくてはならないとユージンは感じた。アンジェラが心を痛めて怯えていることは知っていたが、それでもユージンはこの呼びかけに逆らうことができなかった。この恋が関係することには何も逆らえなかった。悪魔に取り憑かれたか、夢の中をさまよっている人のようだった。彼は自分のすべてのキャリアがかかっていることを承知していたが、そんなことはどうでもよかった。彼は彼女を手に入れなくてはならなかった。もし彼女を……彼女を、彼女の美しさを、その完璧さを……手に入れることさえできたら、全世界がどうなろうと構わなかった!
五時半に列車は出発した。それからユージンは、現地に着いたら何をすべきかを考えながら、北上する間座っていた。スリーリバースが大きな町だったら、おそらく自動車を借りることができる。ロッジから少し離れたところに自動車を止めて、知られないように近づいて、スザンヌに合図を送れないかを確かめればいいのだ。もしスザンヌが近くにいれば、間違いなく目を光らせているはずだ。合図を送れば、彼女の方から駆け寄ってくるだろう。二人で急いで自動車のところに行く。すぐに追手がかかるかもしれないが、鉄道のどの駅に行くのか追手にわからないようにするつもりだった。地図を調べてケベックが最寄りの大都市であることがわかった。モントリオールかニューヨーク、あるいはバッファローに戻るかもしれないが、もし西に行く選択をしても、列車の運行状況はわかるだろう。
このような状況下で、人間の心がどんなとっぴな考えに左右されるのかは気になるものである。スリーリバースに到着するまでの間もその後も、スザンヌを手に入れること以外の活動やその後の行動について、彼は何も計画を持っていなかった。彼は自分がニューヨークに戻るつもりなのかわからなかった……戻るつもりがないのかもわからなかった。もしもスザンヌが望み、それが最善で、実行可能であれば、二人はモントリオールからイギリスかフランスに行くつもりだった。必要なら、ポートランドに行くことも船に乗ることもできた。ユージンがスザンヌを手に入れた証拠、それが彼女の自由意志と決断である証拠があれば、デイル夫人は譲歩して何も言わないかもしれない。その場合、彼はニューヨークに戻って自分の地位に復帰できた。もし彼がこの勇気ある態度を貫いてさえいたら、すべての問題はすぐに解決していたかもしれない。それがゴルディオスの結び目を断ち切る剣だったかもしれないのだ。列車にすごい黒髭の男が乗っていた。黒髭の男はいつもユージンに幸運を運んでくれた。スリーリバースで列車を降りたときに蹄鉄を見つけた。これもまた幸運の印だった。本当に職を失い、手持ちのお金だけで生活しなければならなくなったらどうしよう、と彼は立ち止まって考えなかった。実は論理的に考えていなかった。彼は夢を見ていた。スザンヌを手に入れて、給料をもらって、どういうわけか物事が今までと同じにいくと思った。こういうのは夢の理屈である。
スリーリバースに到着したものの、当然、状況は彼が予想したものとは違っていた。確かに、乾燥した天候が長く続けば、少なくともロッジまで自動車が道路を通れることも時にはあったが、最近は天候が完全に乾燥していたわけではなかった。冷たい雨が少し続いたので、道路は馬か一頭立て軽馬車以外はほとんど通行できなかった。ロッジから四マイル離れたセント・ジェイクスまで行く軽馬車があった。馬が欲しければそこで手に入ると御者は言った。この貸馬車屋の主はそこに厩舎を持っていた。
これは耳寄りな話だった。ユージンはセント・ジェイクスで馬を二頭調達する手筈を整え、ロッジから適度に離れた圏内まで運んで、人目につかない場所に繋いでおくつもりだった。それから状況を考えて合図を送ればよかった。もしスザンヌがそこにいて目を光らせていたら、この結末はどれほどドラマチックになるだろう! 二人はどれほど幸せに一緒に飛び立つことになるだろう! セント・ジェイクスに着いたときに、デイル夫人が自分を待ち構えていたのを知ったユージンの驚きはどれほどだっただろう。ユージンの特徴を持つ男が到着して「悠々荘」へ向かったという情報が、夫人の忠実な代理人の駅長から電話で知らされていた。この前にも、ユージンがどこかに出かけたという電報がニューヨークのキンロイから届いていた。デイル夫人が姿を消してから、ユージンの日常は監視されていた。キンロイは帰って来ると、〈ユナイテッド・マガジンズ社〉に立ち寄って、ユージンが市内にいるかどうかを問い合わせた。これまでは市内にいると報告されていた。この日、彼が出かけたことが報告されると、キンロイはアンジェラに連絡して問い合わせた。アンジェラもユージンが市内を離れたと言った。キンロイはそれから母親に電報を打った。母親はユージンの到着時間を計算し、彼が軽馬車を調達したと駅長から報告を聞いて、彼に会いに出向いた。デイル夫人は自ら指揮をとり、あらゆる戦略を駆使して、徹底抗戦することに決めていた。彼を殺したくはなかった……本当はそこまでする勇気がなかった……しかし依然として彼を思いとどまらせたかった。まだ警備員や警察に訴えるところまでは行けなかった。彼は見た目や行動ほど冷酷ではないかもしれない。スザンヌは励ましたり連絡をとったりして彼を惑わしていた。彼女はここでも管理しきれていなかったことがわかった。彼女の唯一の希望は、ユージンを説得してあきらめさせるか、さらなる日延べに持ち込むかだった。必要なら、みんなでニューヨークに戻って、コルファックスとウィンフィールドに訴えるつもりだった。二人がユージンを諭してくれることを期待した。とにかく、デイル夫人はこれが吉と出るか凶と出るかが判明するまで、片時もスザンヌから離れるつもりはなかった。
ユージンが現れると、彼女は今までどおりの社交的な笑顔で挨拶して、愛想よく声をかけた。「さあ、乗って」
ユージンは険しい表情で夫人を見て従ったが、相手の口調が本当に温厚なのを見ると態度を変えて愛想よく挨拶した。
「その後いかがお過ごしですか?」ユージンは尋ねた。
「まあ、上々よ、お気遣いありがとう!」
「それでスザンヌはどうしてますか?」
「順調だと思うわ。ここにはいませんけど」
「彼女はどこにいるんですか?」ユージンは挫折の見本のような顔で尋ねた。
「友だちと出かけて十日ほどケベックを観光してるわ。その後はそこからニューヨークに行きます。もうここで姿を見ることはないと思うわ」
ユージンはデイル夫人の見え透いた嘘にむっとして言葉を詰まらせた。彼は夫人の言うことを信じなかった……すぐに彼女が自分を受け流していることを見抜いた。
「そんなのは嘘だ!」と乱暴に言った。「どうせ作り話だ! 彼女はここにいる。しかもあなたはそれを知っている。とにかく私は自分で確かめます」
「まあ、お行儀がいいこと!」デイル夫人はしたたかに笑った。「いつもの話し方とは大違いね。いずれにしても、娘はここにいません。強情を張ってれば、今にわかるわ。あなたが来ると聞いてから弁護士に使いを出しましたから。警備員だけでなく警察が待ち受けているのをあなたは知ることになるわ。それでも、娘はここにいませんからね。あなたは引き返した方がいいわ。お望みなら、私がスリーリバースまで送ってさしあげましょう。そろそろ聞き分けて、修羅場を避けたらいかがかしら? 娘はここにいないんです。いたとしてもあなたのものにはできませんよ。私が雇った人たちがそれを防ぎますから。問題を起こせば、あなたは簡単に逮捕されて、それを新聞が取り上げるわ。そろそろ聞き分けてくれてもいいんじゃないかしら、ウィトラさん、お戻りになったら? あなたはすべてを失うことになるわよ。今夜十一時にケベック発スリーリバース経由ニューヨーク行きの列車があるわ。それで終わりにしましょう。そうしたくはないですか? もしあなたが今すぐ正気に戻って、ここで私に迷惑をかけなければ、一か月以内にスザンヌをニューヨークに連れて帰ることに同意するわ。あなたが離婚して奥さんとの関係にけじめをつけるまで、私はあなたに娘を渡しません。でももしあなたが半年か一年以内にけじめをつけて、娘がまだあなたを望むなら、あなたのものにすればいいわ。私は書面ですべての異議申し立てを撤回して、娘の財産の全取り分が争われることなく娘のものになることを約束するわ。私はできる限り社交の場であなたと娘を応援するわ。私に影響力がないわけじゃないことをご存じよね」
「まずは彼女に会いたい」ユージンは険しい表情で不信をあらわにして答えた。
「すべてを忘れると言うつもりはないわ」デイル夫人はユージンが口を挟んだのを無視して続けた。「忘れることはできないわ……でも忘れたふりはします。あなたはレノックスにあるうちの別荘を使えばいいわ。私がモリスタウンかニューヨークの家の賃貸権を買い取るから、あなたはどっちに住んでもいいのよ。あなたさえよければ、奥さんに渡すまとまったお金は私が用意します。そうすればあなたが自由の身になるのに役立つかもしれないわ。少し待てばあなたはこのすばらしい方法で娘を手に入れられるというのに、自分が目論む法外な条件で娘を手に入れたくはないでしょう。娘は結婚したくないって言うけど、そんなのはとっぴな本を読んだ以外に何の根拠もない愚かな話よ。結婚するわよ、真剣に考えるようになればするでしょう。娘を助けてくれてもいいんじゃない? 今はお帰りいただいて、少ししてから私が娘をニューヨークに連れ戻す、そしてそのときにこれをとことん話し合いませんか。あなたをうちの家族にむかえることができてとてもうれしいわ。あなたはすばらしい方ですもの。私はずっとあなたのことが好きだったんです。聞き入れてくれませんか? さあ、スリーリバースまで車で送りましょう。ニューヨークへは列車でお戻りかしら?」
デイル夫人が話を続ける間、ユージンは冷静に相手を観察していた。何て口のうまい女だろう! よくもでまかせを言えるものだ! ユージンは彼女を信じなかった。彼女の言ったことを一言も信じなかった。彼女はスザンヌから彼を引き離そうと闘っていた。ユージンはその理由をすぐ理解できた。最近のアルバニー行きの場合と同じように、連れ去られてしまったかもしれないが、彼はスザンヌがここのどこかにいると思った。
「馬鹿馬鹿しい!」ユージンはあっさりと、反抗的に、冷淡に言った。「そういうことをするつもりはありませんね。第一、私はあなたを信じてない。あなたがそんなに私に親切にしたいのなら、彼女に会わせてください。そのとき彼女の前でこのすべてを言えますよね。私は彼女に会うためにここまで来たんです。会うつもりですよ。彼女はここにいる。いるのはわかってます。嘘をつく必要はありません。言わなくてもいいです。彼女がここにいることはわかってますから。ここにひと月滞在して探さなければならなくても、私は彼女に会うつもりです」
デイル夫人はそわそわと身じろぎした。彼女はユージンが必死なのを知っていた。スザンヌが彼に手紙を書いたことを知っていた。話しても無駄かもしれない。策略は効かないかもしれないが、策を弄せずにはいられなかった。
「私の話を聞いてください」デイル夫人は興奮して言った。「スザンヌはここにいないって言ってるでしょ。出かけたのよ。向こうには警備員がいるわ……それも大勢ね。みんなあなたがどういう人なのかを知ってるわ。あなたの特徴だって知ってるわ。もしあなたが押し入ろうとすれば、殺せって命じられてるの。キンロイもそこにいるわ。あの子も必死なんです。あの子があなたを殺すのを防ぐだけですでにひと苦労したわ。この場所だって見張られてるわよ。今この瞬間も、私たちは見張られてるの。聞き分けてくれないかしら? あなたは娘には会えません。いないんですから。何でこんな騒ぎを起こすのかしら? どうしてあなたは自分の人生を危険にさらすようなまねをするの?」
「話すのをやめてください」ユージンは言った。「あなたは嘘をついている。顔を見ればわかる。それに、私の人生なんて何もありませんよ。私は怖くないですね。どうして話なんかするんです? 彼女はここにいますね。私は彼女に会いますよ」
ユージンは自分の前方をじっと見つめた。デイル夫人はどうすればいいか考え込んだ。彼女が言うような警備員や警察関係者はいなかった。キンロイもいなかった。スザンヌは出かけていなかった。ユージンが思ったとおり、これはすべて出まかせだった。デイル夫人は世間に知られることをどうしても避けたかったから、完全に追い込まれるまでは一歩も譲れなかった。
厳しい寒さが数日続いた後のかなり穏やかな夕方のことだった。明るい月が東からのぼっていて、すでに薄明かりの中に見えたが、やがて皓皓と輝くことだろう。寒くはなく、実に心地いい暖かさで、二人の乗る車両が走るひどい道は豊かな香りが漂っていた。ユージンはその美しさに気づかないわけではなかったが、スザンヌがいないかもしれないと思うと落ち込まずにはいられなかった。
「ああ、お手柔らかに願いますよ」デイル夫人は、二人が顔を見合わせた瞬間に、理性が消えてなくなるのを心配して懇願した。これまでずっと要求し続けてきたように、スザンヌはニューヨークに連れて帰るよう要求するだろう。スザンヌの同意や訴えがあろうがなかろうが、ユージンは夫人の和解の提案を無視して、さっさと行ってしまうか、ここで結束して抵抗するだろう。必要なら二人を殺そうと考えたが、一方でユージン、もう一方でスザンヌの反抗的な粘り強さを前にして、デイル夫人の勇気は挫けかけていた。彼女はこの男の大胆さに恐れをなした。「私は約束を守るわ」夫人は取り乱して言った。「本当に娘はここにいないんです。ケベックにいるって言ってるでしょ。ひと月待ってください。そうすれば連れて帰ります。一緒にどうするかを決めましょう。どうして寛大になれないのかしら?」
「なれるかもしれませんが」ユージンは夫人の提案にあったすべての明るい未来図を考えて、それに感動しながら言った。「私はあなたを信じられないんです。あなたは私に真実を語っていませんから。ニューヨークからスザンヌを連れ出したときだって彼女に真実を告げなかった。うまくだましましたね。そしてまただますんですね。彼女が出かけていないことはわかってるんです。その場所がどこであれ、彼女はちゃんとこのロッジにいる。私を彼女のいるところへ連れて行き、それから一緒にこの問題を話し合いましょう。ところで、どこに向かっているんですか?」
デイル夫人は、脇道というか、小さな木々がびっしり立ち並ぶ、まるで木こりの通り道のような半端な道に入った。
「ロッジよ」
「そんなこと信じませんよ」ユージンは強い疑念を抱いて言った。「これはそういう場所に続く主要な道路じゃないでしょ」
「だからロッジって言ってるでしょ」
デイル夫人はロッジ付近にさしかかっていた。もっと話したり頼んだりする時間が欲しかった。
「まあ」ユージンは言った。「あなたが行きたければ、あなたはこの道を進めばいい。私は降りて歩きます。ありきたりのやり方で連れ回したって私を追い払えませんよ。必要なら、一週間でも、ひと月でも、ふた月でも、ここに滞在するつもりです。私はスザンヌに会わずには帰りませんよ。彼女はここにいるし、私はそれを知っている。ひとりで行って彼女を見つけますよ。私はあなたの警備員なんか怖くありませんね」
ユージンは飛び降りた。デイル夫人は仕方なくあきらめた。「待ってください」夫人は懇願した。「まだ二マイル以上あるのよ。私がそこまで案内するわ。どっちみち、今夜娘は家にはいません。管理人の家に行ってるのよ。ああ、わかってもらえないかしら? 私が娘をニューヨークへ連れて行くって言ってるでしょ。あなたはすべてのすてきな未来図を投げ捨てて、自分や娘や私の人生をめちゃめちゃにするつもりなの? ああ、主人さえ生きていたら! 頼れる男性がいてくれたらよかったんだけど! さあ、乗って、私がそこまで送るわ。でも今夜は娘に会いたがらないって約束してね。とにかく、そこにはいないんですから。管理人のところに行ってるんです。ああ、何かが起こってこれを解決してくれないかしら!」
「確か彼女はケベックにいると言いましたよね?」
「時間を稼ぐためにそう言っただけです。私はかなり混乱しているのよ。それは事実ではありませんでした。でも、娘は本当にロッジにはいないんです。今夜は出かけています。あなたをそこに泊めることはできませんから、セント・ジェイクスまで引き返します。あなたはピエール・ゲインさんのところに泊まって、朝になってからいらっしゃればいいでしょ。そうしないと使用人たちがとても変だと思うもの。あなたがスザンヌに会うことは私が約束します。私が保証します」
「保証します、か。デイルさん、あなたは堂々巡りをしているんですよ! あなたの言うことは何も信じられません」ユージンは冷静に言った。スザンヌがここにいることがわかったので、彼は今、かなり落ち着いて意気が揚がっていた。彼はスザンヌに会いに行くところだった……ユージンはこれを実感した。デイル夫人をこっぴどくやっつけて、スザンヌの前で自分と愛する人が条件を突きつけるまで彼女を追い詰めるつもりだった。
「私は今夜そこに行きます。あなたは彼女を私のところに連れて来てください。彼女がそこにいなくても、あなたは彼女の居所を知ってるわけですから。彼女はここにいる。私は今夜彼女に会いに行く。あなたが提案しているこのすべてのことを、彼女の前で話し合いましょう。こんな回りくどいことをするのは馬鹿げてますよ。彼女は私と同じ意見だ。そしてあなたはそれを知っている。彼女は私のものだ。あなたは彼女を自由にできませんよ。今度は私たち二人が一緒になってあなたに話をします」
ユージンはその軽車両に戻って座り、鼻歌を歌い始めた。月はどんどん明るくなっていた。
「一つだけ約束してください」デイル夫人は必死に食い下がった。「私の提案を受け入れるよう、あなたがスザンヌに勧めることを約束してください。二、三か月くらいどうってことないでしょ。あなたはいつものようにニューヨークで娘に会えるんです。離婚の準備をしてください。娘に影響力を持っているのはあなただけなんです。それは認めます。娘は私のいうことを信じないし、私の言うことを聞かないでしょう。あなたが娘に話をしてください。あなたの将来だってこれにかかっているのよ。待つように娘を説得してください。しばらくここかレノックスに滞在して、それから来るように娘を説得してください。娘はあなたの言うことなら聞くわ。あなたの言うことなら何でも信じるわ。私は嘘をついたから。私はこの件でずっと嘘ばかりついてきたから。でも、あなたは私を責められませんよ。私の立場になってください。私の立場を考えてください。お願いだから、あなたの影響力を使ってください。私は自分が言うことをすべて実行するわ、それ以上のこともね」
「今夜スザンヌを私のところに連れてきてくれますか?」
「ええ、あなたが約束してくれればね」
「今夜連れてきてくれるんですか、約束するんですか、しないんですか? 私は自分が彼女の前で言えないことを、あなたに言いたくはありません」
「私の提案を受け入れて、娘にそうするように勧めると約束してくれませんか?」
「そうしようとは思いますが、私から言うつもりはありません。私としてはあなたが言わなくてはならないことを彼女に聞いてほしいですから。そうしようとは思いますがね」
デイル夫人は悄然と首を振った。
「あなたは受け入れた方がいいですよ」ユージンは続けた。「あなたが受け入れようが受け入れまいが、とにかく私は彼女に会いに行きます。彼女はそこにいるんだから、家捜しして部屋を一つ一つ捜せば見つかるでしょう。彼女に私の声が聞こえるでしょうから」
ユージンは高圧的に物事を推し進めていた。
「もう」デイル夫人は答えた。「そうするしかないようね。使用人には秘密にしてください。私の客のふりをしてください。娘に会ったら、今夜はあなたをセント・ジェイクスまで連れて帰りますよ。娘とは三十分以上一緒にいないでくださいね」
デイル夫人はこの恐ろしい結末に取り乱して怖くて仕方がなかった。
ユージンは月明かりの中、馬車に揺られる間、自分を祝福しながら、険しい表情で座っていた。実際、明るくデイル夫人の腕をつかんで、そう絶望しないで、すべてはうまくいきますから、と話しかけた。二人でスザンヌに話をするつもりだった。ユージンはデイル夫人が言わなくてはならないことを確認するつもりだった。
「あなたはここにいてください」道が曲がったところにある木に覆われた小高い丘にたどり着くと、デイル夫人は言った……広大な土地を見渡す高台で、このときは輝き続ける北の月に照らし出されていた。「私が行って娘を連れてきます。いるかどうかわからないけど。でも、いなければ管理人のところにいるから、そっちに行きましょう。あなたが娘に会うところを使用人に見られたくないのよ。くれぐれも人目につかないようにしてください。気をつけてくださいよ!」
ユージンは微笑んだ。あの女の興奮ぶりときたら! あれだけ脅しておきながら、無駄だったとは! これは勝利だ。よく戦ったものだ! 彼はこの美しいロッジの外にいた。銀色の影を通して黄金のように輝いている明かりが見えた。空気は野原の香りに満ちていた。露にぬれた大地の匂いがした。大地はすぐに硬くなって、雪に深く覆われるはずだった。まだあちこちで鳥の声がした。葉の間を吹き抜ける風がかすかにざわついた。「こんな夜に」とシェイクスピアの台詞がよみがえった。こういう状況はスザンヌが彼のところに来るのに、どれほどぴったりだっただろう! ああ、このロマンスのすばらしさ……この美しさ! このロマンスは最初から背景と舞台装置が完璧な状態で始まっていた。明らかに、自然はこれを彼の人生の最高の出来事にしようとしていた。世間は彼を天才と認めた……運命は彼の膝に花束を山のように積み重ね、彼の頭上には勝利の冠を載せるところだった。
デイル夫人がロッジに行っている間、ユージンは待っていた。しばらくすると、確かに、スザンヌの揺れ動く、弾む、少女らしい姿が遠くに現れた。ふくよかで、健康的で、溌剌としていた。彼女の少し後ろの木陰にデイル夫人を見つけることができた。スザンヌはどんどん近づいてきた……若くて、弾むようで、踊っているようで、決意を秘め、美しかった。彼女が闊歩するたびに、スカートがさざ波のように体のまわりで揺れ動いた。彼女はユージンがこれまで思っていたとおりに見えた。青春の女神ヘーベー……若いダイアナ、十九歳のビーナス。近づくにつれてスザンヌの唇が歓迎の笑みを浮かべて開いた。彼女の目は鈍いオパールのように落ち着いていたが、黄金や炎の隠れた輝きを放って静かに燃えた。
スザンヌは最後の数歩を走るときに、ユージンに向かって両腕を広げた。
「スザンヌ!」母親が声を発した。「はしたないわよ!」
「お母さんは黙ってて!」スザンヌは果敢に言い返した。「私は気にしません。気にするもんですか。お母さんが悪いのよ。お母さんは私に嘘をつくべきじゃなかったのよ。もし私が呼ばなかったら、彼が来ることはなかったでしょうね。私はニューヨークに帰るつもりよ。そのつもりだって言ったでしょ」
スザンヌは近づくときに「ああ、ユージン!」とは言わずに、彼の顔を両手で包み込んで、彼の目をじっと見つめた。ユージンの目がスザンヌの目に焼き付いた。スザンヌは後ろに下がって両腕を大きく広げ、ぎゅっと彼を抱きしめた。
「やっと! やっと会えた!」ユージンは熱烈に彼女にキスをしながら言った。「ああ、スザンヌ! ああ、フラワーフェイス!」
「あなたが来てくれることはわかっていたわ」スザンヌは言った。「あなたが来ることは母にも言ったのよ。私はあなたと一緒に帰ります」
「そうしよう」ユージンは言った。「ああ、このすばらしい夜! この最高の盛り上がり! ああ、またきみをこの腕に抱けるなんて!」
デイル夫人は真っ青になって、激昂し、傍らに立っていた。自分の娘がこのような振る舞いをするのかと考えると、困惑し、娘の不行状を為す術もなく傍観するしかなかった。何と驚くべき、恐ろしい、あってはならないことだろう!
「スザンヌ!」デイル夫人は叫んだ。「ああ、私はこんな日を迎えるために生きてきたのかしら!」
「だから言ったでしょ、お母さん、ここに私を連れてきたことを後悔するって」スザンヌは言い放った。「私は彼に手紙を書くってお母さんに話したわ。あなたなら来てくれるとわかっていたわ」スザンヌはユージンに言った。そして愛情を込めて彼の手を握った。
ユージンは深く息を吸い込んで、彼女を見つめた。その夜、星々は美しい軌道を描いてユージンの周りを回った。こうして勝利することになった。これはあまりにも美しく、あまりにもすばらしかった! まさかこのような形で勝利を収めるとは! ひとつの勝利をこれほど喜んだことのある人が、これまで、どこかに、他にいただろうか?
「ああ、スザンヌ」ユージンは熱心に言った。「これは夢のようだ。天国のようだ! 自分が生きていることが到底信じられないよ」
「ええ、そうね」スザンヌは答えた。「すてきよね、完璧だわ!」そして二人は手をつないで母親から遠ざかった。




