戦うのは楽しい、でも戦闘狂ではありません
「ふひゅもふん、あふぁりふぁんとひゃはふぁいなはい!」
「飲み込んでから喋って、飲み込んでから」
こくこくと頷くミールィさんは、くわえているハンバーガーの残りをもっもっと飲み込む。くすくすと、隣でスプーン片手にコーンスープを楽しむシオリさんがその様子を見て笑った。僕はそれに苦笑いで応えながら、手元のピザをかじる。
僕とミールィさんは、唯今アイドルグループ《フォーチュンテイルズ》の打ち上げのご相伴に預かっている。一応遠慮はしたのだけど、他でもない《フォーチュンテイルズ》の彼女達からの誘いなので、悪い気はしなかった。何より、タダで飯が食べられる。これは強い。ミールィさんは最初から遠慮なんて無かったけどね!
そして、打ち上げと言っても別に特別なことをするわけではないらしく、美味しい物を食べて飲むだけの会に過ぎなかった。豪勢にも、1つの店を貸し切ったらしいけど。だから、『CLOSE』の札が下げられていたのか。
《フォーチュンテイルズ》のメンバーとの自己紹介もした。とは言っても、僕はさっきのステージで顔と名前をある程度覚えていたから、主に僕についての話だ。正直、たじたじでなんと答えたのかも微妙に忘れている。
そう言えば、自己紹介が終わった後、ミールィさんがジト目で見てきた。あれはなんだったんだ?
シオリさんは、メンバーの一人であり、芸名は『梶川汐里』と言う。ゲームをする際のプレイヤーネームは『シオリ』だ。アイドルとしてプレイする以上、同じ名前にするのは当然ということかな。種族はエルフで、肩程までのブロンドヘアーに、優しげな垂れ目が特徴的だ。なんとなくの印象としてお姉さん、とか保母さん、とかが出てくる言葉で言えない安心感のある人だ。
今も、隣に座るミールィさんの、パン屑で汚れた口元をナプキンで拭っている。見た目も言動も大人と子どもだ。
僕はその姿に和んで呆れるという高等技術(?)をしながら、ミールィさんに言葉をかける。
「はい、これで綺麗になったわよ」
「ありがとう!」
「で?何を言おうとしてたの?」
きょろりと目を向ける彼女は僕をじっと見た後、ああそう言えばと息を漏らす。
……忘れてたの?
「いやね、九十九クンアカリちゃんと闘ってみたらって言ったんだよ」
「はぁ?」
意味が分からないぞ?
「どういうことよ、ミールィちゃん?」
僕と同じことを思ったのかさっきまで話していた、これまたメンバーの一人である猫系獣人のケイさんが疑問を投げ掛ける。
ミールィさんは、チュルルーとストローでリンゴジュースを飲みながら、なんて事ないに話す。
「九十九クンは簡単に言えば、《フォーチュンテイルズ》がどれぐらい戦えるのか知りたいんでしょう?」
「うん?……まぁ、そうかな?」
「だからさ、一番強いアカリちゃんと戦えば《フォーチュンテイルズ》の大体の強さは分かるんじゃないのって」
「いや、なんでそうなる?」
「え?」
「え?」
二人で目を合わせて首を傾げる。つられてシオリさんとケイさんも首を傾げる。皆で首を傾げる。
うん。なんだこれ。
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どうやら、僕とケイさんが話していたことについての言葉だったらしい。それでも言葉の意味がよく分からないけど。
僕とケイさんが話していたこととは、《フォーチュンテイルズ》の方向性というかどんなプレイをしていくのかについてだ。AWOは、様々なジョブと種族、スキルがあり、その組み合わせは公式自らが『アホみたいにあるよ』と言った程である。うん。言ったんだ、朝の生放送番組で。すぐにプロデューサーっぽい人に引っ張り出されてたけど。なんであんな人が広報担当なんだったのか。
話がずれた。
AWOは、そういうわけで多種多様なプレイスタイルがある。例えば、戦闘スタイルとして速さで敵を翻弄し要所要所で短剣で急所にダメージを与えていくタイプ、この場合は《軽戦士》と《短剣使い》もしくは《双剣士》のジョブが最適だろう。《軽戦士》は戦士系のジョブでも速さに補正のかかるジョブで、《短剣使い》や《双剣士》は一撃の威力は低いものの手数でDPSを出すジョブだ。つまり、当たらなければどうということはないスタイル。ちなみに、僕は速攻縛って袋叩きスタイルだ。そのためDEXが高くなって、戦士職と打ち合いになるとSTR、VIT、AGIがどれも中途半端だから不利というステータス構成になる。誰だよこんなバランス悪いキャラ作ったの。……僕です。
閑話休題。
戦士職だけでなく生産職も同じようなものだし、運営が何を考えてか《遊び人》や《芸術家》なんてジョブもある。やり込もうと思えば、かなり自由度の高いゲームだと思う。だから、彼女達がどんな風にプレイしていくのか、そして生産職はともかく戦闘となると戦えるのかが気になったわけだ。
「というのに、何故戦う羽目に?」
「まーまー、細かいことは気にしないの。禿げるよ?」
「禿げません。うち、先祖代々ふさふさですので」
「マジ?」
「マジマジ」
すごーいと適当に驚くアカリさんを観察する。
僕達が話していた内容を、実はちゃっかり聞いていた明莉さんもといアカリさん。じゃあバトルしようぜとノリノリで提案してきた。さっきまで何をどうやって混ぜたのか、虹色に光る摩訶不思議な液体を
「「「「「イッキ!イッキ!イッキ!フェニックス!」」」」」
「ぷは~~、不味いっ!!もう一杯!」
「「「「「フーーーッ!」」」」」
とか、どこのパーティ会場かってぐらいにはしゃぎながら飲んでたに。不思議だ。
他にも不思議なのが、僕の視線の先のダークロリエルフのミールィさん。何故アカリさんと戦わせようというのか。リンゴジュースを飲み、余裕綽々の笑顔にジト目を送る。……ニッコリとミールィさんが笑う。まるで、どうだい私のプレゼントは?といわんばかりだ。
「……アカリさん、ミールィさんに何か言いました?」
「んー?ミールィちゃんからは言われたけど、私は別にって感じね。あぁ、君のこともちょっと聞いてるよ?若干戦闘狂気質があるけど、普段はそれなりに良い子だって。……戦闘狂なの?」
ミールィさん!?何言ってくれちゃってんの?
「違いますよ!……多分」
「何その聞いてるこっちが不安になる言い方?」
「いや、前から違う違うと言ってるのに、否定する僕の方がおかしいみたいな目で見られることがあったから……」
「ふーん?ミールィちゃんの話だと戦うのが好きらしいけど、そうでもなさそうだね?」
「あ、アカリさんと戦うこと自体は楽しみですよ?ただ、リアルでの有名人となると気後れがしまして……」
「あ、そういうこと」
戦闘狂だと言われるのは前からだったけど、僕からすると本物の戦闘狂は僕よりももっと……いや、大分酷い。
僕が以前していたゲームの1つ、『ニューサーガ・クロニクル』にて、当時のトップクランに喧嘩を売り、50人以上を単身で惨殺した伝説的なPKプレイヤー。身体中に傷を受けて尚、最後まで笑って殺していた彼、『暗黒騎士』ラズルこそ戦闘狂と言って相応しい存在だ。
僕はただ他の人よりちょっとだけ戦うのが好きなだけの、小市民だ。相手がアイドルというだけで、尻込みしそうになる男なのである。あ、もしかして、ミールィさんは僕が嬉しがると思ってアカリさんとのバトルをセッティングしたのか?アカリさんに戦闘狂だと紹介するぐらいだし、確かにあり得る。
いや、確かに嬉しいんだよ?嬉しいんだけど、相手がリアルで知名度が高いとなると、戦い方を選ばないといけなくなる。女性となると、更に行動に制限がかかる。……例え、ゲームの中とは言え、アイドルを縛ったり足蹴にするのはまずいよなぁ。
「…………」
うんうんと悩みながら、アイテムボックスに仕舞っていた新武器のスコップを取り出す。皮鎧は着けっぱだったからそのままだ。
ちらりと、アカリさんの装備を確認する。
アカリさんはオーソドックスな剣士と言った風貌だ。恐らく店売りの最高級品だと思われる皮鎧と腰に差した細剣。その立ち姿は、中々に堂が入っている。VRゲームが長らくやっているのか、リアルで剣道でも習っているのか。その姿だけで、油断ならない相手だと分かる。
僕の視線に気付いたのか、装備を整えていたアカリさんが僕の方を見て、ぶふっと吹き出す。え?
「え、ちょ?何その武器?スプーン?でっかいスプーン?食器じゃん!武器じゃないじゃん!」
傑作!と笑い出すアカリさん。え、そんなに?確かに僕も最初にこれを見た時は笑ったけど……もしかして、アカリさんって笑いの沸点がかなり低いんじゃなかろうか。笑い過ぎて涙まで流し始めたアカリさんを見て、そう思う。
結局、アカリさんが笑い止むまで5分近くかかった。笑い過ぎじゃない?




