鬼猿襲来 3
遅くなってすいません。
週1更新を目指します。
「グガァァァァーーーーー!!!!」
それが来たのは、ドロップアイテムの分配を決め、回収しようという時。咆哮が、空気を震撼させた。
すわっ何事か!と僕達は身構え、広間の中央に集まる。僕はミールィさんを背負い、縛る。何とも微妙そうな目で見られるが、気にしない。周囲を見張ってよ君ら。
パキパキリと木の枝を折って僕達の前に現れたのは、さっきのと似た1体のサルのモンスター、けれど明らかに上位と見られるモンスターだった。
ぱっと見でも、ビーストエイプと違う。
まず体格。ビーストエイプはミールィさんとほぼ同じ身長なのに対し、このサルは150センチ以上はある。HPは勿論のこと、筋力値、耐久値、敏捷値が上なのは確実だろう。
次に容姿。ビーストエイプは日本サルとゴリラの顔をフュージョンさせたような顔だが、このサルはゴリラの代わりにゴブリンとフュージョンしたらしい。顔がより邪悪というか鬼っぽくなっている。なんか眉が凄い寄ってるし、もしかして怒ってるのか?何故?
最後にこのモンスターの名前。鑑定で見てみよう。
────────────────────
魔物 オーガエイプ 危険度:3 アクティブ
属性 ? 状態:怒
ビーストエイプの進化形態。オーガに似ているが、あくまで猿の魔物。ビーストエイプの群れを率いることがあり、その身体能力はより高くなっている。
────────────────────
「うはっ」
ぎょっとフェルトたちに変なものを見付けた目で見られる。おっと謎の声が。けっふんけっふんと咳払いを一つ。
「鑑定結果はオーガエイプ。ビーストエイプの上位種で単純に強くなってるっぽい」
鑑定で見た情報を端的に伝える。ピリッとした、緊張があたりに広がりだす。フェルト、千代丸と目配せをして、動きを確かめる。即席の、パーティとも呼べない行きずりのものだけど、ゲームをそれなりにやっているなら動きは大体掴める。
まず駆け出したのは、千代丸だった。両手槍を構え、突進。僕とフェルトは、左右から挟撃の二段構えだ。
「グオオァァッ!!」
オーガエイプは、自身へと向かってくる槍の先をじっと見詰め右に、千代丸にとっては左に避ける。
「うぇぇるかぁ~む!」
いらっしゃーい死ね!
鎖を放り【拘縛】を発動、オーガエイプは縛られる。ハンマーで殴打てえ?
「グルオオォォ!」
バキン!
オーガエイプの怒声とともに、オーガエイプに巻き付いている鎖と僕の持つ鎖の中間、張り詰められていた部分の一つの金属輪に罅に入り、千切れる。嘘ぉ!?
鎖が体にまとわりつくというプロレスラーっぽい見た目の拘束を意に介せず、僕の攻撃に迎え撃たんとハンマーと拳をぶつける。STRは当然ながらあちらが上。ゲームシステムにより僕のHPが削れ、手に痺れが走る。更にそれだけではなく、ハンマーが弾かれ、体勢が崩れる。
そこに、オーガエイプは追い打ちをかけてくる。が、僕は一人では無い。
「【追刃】!」
横から強襲をかけるフェルトの剣が、オーガエイプの脇を切り裂く。そして、その直後に見えない刃が同じ箇所をもう一度切る。
「オォッ!?」
『剣術』の武技かな?名前からしても確定二撃って感じだ。ダメージよりも予想外の攻撃に戸惑いの声を上げ、動きが鈍る。そこを突かないわけも無い。
オーガエイプの筋肉質な肌に、槍が埋まる。千代丸だ。
肩、腕、足、腹に次々と突き立つ。フェルトも背中に回り、一閃。オーガエイプは煩わしいとばかりに咆哮を上げ、腕を振る。
二人は避け、受け止める。僕よりもレベルが高く、器用値に振っているSPも少ないからか、動きが止まっても体勢は崩さない。
そしてその頃には、僕も完全に体勢を整え、背中の幼女の詠唱も終わる。
「【アイスボール】!」
直近からの超高威力魔法。フェルトと千代丸の連携を受けても2割ほどしか削れていない、明らかに強モンスターとか言われるタイプの奴じゃねえか運営この野郎だけど目に見えるぐらいにはダメージがあるだろう。て言うかビーストエイプの上位種って話だけど、VITが高め?オーガって名前が付くぐらいだからだろうか。
背中から伸びてくる幼女の持つ杖の先に氷球が形成。そして、射出される。INTが上がったからか、もしくは『氷魔法』のレベルが上がったからか、以前よりも気持ち大きめな氷球はミールィさんの声に弾かれるように横跳びしてぜってー当たらねえと射線のはるか遠くに逃げたフェルトと千代丸を尻目に、オーガエイプと衝突する。
衝突だ。
オーガエイプは拳をつくり、氷球にその拳撃を放つ!
「んなぁっ!?」
「うっそォお!?」
空中で一瞬拮抗するも、氷球の勢いは止まらない。だが、軸をぶらされ氷球はオーガエイプの拳の肉と骨を削って明後日の方向に飛んでいった。HPバーは減るも、クリーンヒット時とは比べ物にならないだろう。
ていうか魔法に物理で対抗って凄いね!いやまあ、固体の魔法だけで雷とか火は無理だろうけどさ。……僕も今後出来たりするのか?
ミールィさんの魔法を受け流したと言っても、オーガエイプにダメージは確かに出ている。右手だ。オーガエイプは右の拳で氷球と迎え撃った。ビーストエイプの体を抉り、風穴を開けるミールィさんの魔法は、オーガエイプの右手を使い物にならなくしている。
でも、突っ込まないよ?そんな危ないことはしない。ただでさえ今の攻撃でヘイトが僕達、正確にはミールィさんに集中している。
「グルアァッ!」
飛びかかってくるオーガエイプからバックステップで遠ざかる。勢いよく着地するオーガエイプの背後から、小さな影が襲いかかる。
「くらえっ!【切椿】!」
気配を消して潜んでいたジュリが、オーガエイプの首筋に武技込みの不意打ちを入れる。オーガエイプがこちらに倒れてきて、血の代わりの赤い粒子がうなじから溢れている。クリティカルヒットだろう。
ジュリは、気付けばすでに10メートル以上離れていた。
……敏捷値にかなり振っているっぽいな。HPの減り具合からして《暗殺者》や『暗殺術』なんかだろうか。6割ほどにまで減ったHPバーを見ながら、距離を詰める。
「【ファイアボール】」
横を火の玉が通り、オーガエイプの胸に当たるのとほぼ同時にアイテムボックスから『呪われし一角兎の捻角』を取りだし、武技で投擲する。更に、オーガエイプの両脇から、フェルトと千代丸がそれぞれ武技を叩き込む。
「【大斬】!」
「【回突】!」
次々と自身を襲う攻撃に何も出来ずにいるオーガエイプのの目の前まで接近すると顎にハンマー、腹に蹴りをいれ、離脱。地面を這うように近付いたジュリの斬撃が腱を切り裂く。
どうにかこの現状から逃げ出そうとするオーガエイプを、僕とジュリで止める。ダメージソースはフェルト千代丸、ティニャだ。ベルムシュラスさんはヒーラーなので出番は無い。ミールィさんは……うん。オーガエイプが学習しているのか、死に物狂いで避けているから、ろくにダメージは与えられていない。まあ、牽制には十分だ。
だから、頭叩くの止めなさい。当たらないからって拗ねないの!
僕とミールィさん、ジュリが牽制、フェルトと千代丸、ティニャが攻撃のパターンは、ぎこちなかったものの次第に調子も上がってきて、中々良い感じになっていった。
そして、そのままオーガエイプは何も出来ずに、最後はあっけなくHPバーを0にして、死んだ。




