解放とクビ
俺はゆっくりと目を開けた。すると目の前には少し暗い顔をする女神がいた。そして嬉しいことに俺の股間には聖剣が戻っていた。
女神「またですか…誠さん…。」
誠「す、すみません…。」
女神「いくら女体化を解くためとはいえ自殺なんて…よくないですよ…?」
誠「でも他に方法が浮かばなかったから…さ?」
女神「さ?…じゃないですよもう…。」
女神はそう言ったあと暗い顔のまま下を向き、大きくため息をついた。そしてゆっくりと顔を上げて、俺を見つめてきた。
女神「誠さん…実はですね…もう生き返らせることはできないんですよ…。」
誠「ふーん……えっ!?」
女神「すみません…勝手に生き返らせたら駄目だって上から怒られてしまって…。」
誠「そ、そんな…そこをなんとか…!」
女神「無理ですよ…!次また勝手に生き返らせたりなんかしたら女神クビになっちゃいます…。」
誠「女神にクビとかあるの!?…って突っ込んでる場合じゃなかった!どうにかならないのか!?」
女神「そんなこと言われても…お願いですから困らせないでくださいよ…。」
誠「俺も困ってるんだよ!このままじゃ人生終わっちゃうよ!」
女神「でも…ほら、一回現実世界で人生終わってますし…?」
誠「そういうこと言っちゃう!?」
俺は動揺を隠せなかったのか、気づかぬ内に椅子から立ち上がっていた。それに気づいた俺は、一息ついてゆっくりと椅子に座った。
誠「…それで、どうすれば俺は生き返れるんだ?」
女神「無理って言ってるじゃないですか…。」
誠「頼む!俺にできることなら何でもするから!」
女神「私をクビにしたいんですか…?」
誠「そういうわけじゃないけど…!」
女神「はあ…。」
女神は諦めない俺に嫌気がさしたのか、下を向き小さくため息をついた。そして顔を上げると、俺の目の前に映像を流した。
誠「なんだよ…これ?」
女神「私がクビになったら次からその子がここで働くことになるんですよ。」
誠「働くって…。」
俺は女神の発言に突っ込みをいれたあと、目の前の映像を見つめた。そこには小学生のような眩しい笑顔を浮かべる、ショートカットの小さな女の子が映っていた。
女神「どうです…?嫌でしょう…?」
誠「いや…別に。」
女神「なっ…このロリコンどもめ…。」
誠「悪かったなロリコンで。」
女神「うぅ…もういいです!さよなら!」
誠「え?あっ、おい!?」
女神は呆れと怒りに身を任せたように、俺に手を向けて生き返らせた。涙目で頬を膨らませそっぽを向く女神を最後に、俺は意識を失った。
誠「…はっ!?」
グロウル「あっ、誠さん!よかった…全然起きあがらないからもう生き返ってこないのかと…。」
誠「あ、ああ…ごめん…。」
俺は物凄い罪悪感を背負っていた。まさか異常性癖がこんな形で仇となるとは…。女神には悪いことをしたな…。
グロウル「誠さん…?どうしたんですか?」
誠「え?い、いやなんでもない…。」
グロウル「そうですか…?」
誠「ああ…じゃ、じゃあ俺そろそろ帰るから…。」
グロウル「あ、はい…。」
俺は転移魔法を使ってグロウルさん家から自分の家に帰った。家は異常なまでに静かだった。不思議に思っていると、リビングの机の上に書き置きを見つけた。
誠「ギルドに行ってます…か。」
時計は昼過ぎを指していた。俺は少し悩んだが気晴らしにもなると思い、ギルドに向かうことにした。ギルドに着くといつも以上に騒がしい声が響き渡っていた。
千夏「あ、誠さん!」
誠「よ。」
セナ「女体化解けてる…。」
ベル「あっ!そういえば!」
アルス「もったいない…。」
誠「とか言って…元のかっこいい俺に戻って嬉しいんじゃないのか?」
アイラ「本気で言ってるのか…お前…?」
誠「ガチで引くのやめてくれる…?」
千夏「私は嬉しいですよ!誠さん!」
千夏は目にハートを浮かべて、満面の笑みを見せつけるように顔を近づけてくる。本来なら嬉しいはずだが、千夏の性格を知る俺は顔を退けた。
誠「あ、ありがとう…。」
千夏「えへへ…。」
誠「…ところで何で今日こんなに騒がしいんだ?」
剣聖「ああ…それがさ、また凄い新人が現れたんだってさ。」
誠「へー…どんな人?女?」
ベル「なんでまず性別聞くんですか…。」
誠「いや、普通じゃない?」
アルス「普通じゃないですよ…。」
剣聖「…ていうか私達まだその新人見てないんだ。」
誠「え?なんで?」
剣聖「周りの奴らが邪魔でさ。」
誠「ああ…なるほどな…。」
俺はそう言いながら騒がしい方向を見つめた。ガチムチの男共に囲まれていてよく見えなかったが、一瞬だけ例の新人が見えた。と言うより目があった。
誠「…マジかよ…。」
セナ「どうしたの…?」
誠「いや…あの新人…。」
驚愕の表情のまま新人がいた方を見ていると、ガチムチの男を掻き分けて見覚えのある女が近づいてきた。
剣聖「あれ?あの人…。」
千夏「わ、私も見覚えあります…。」
その女は俺達の座っていた席に近づくと、俺の方に顔を近づけてきた。その顔は笑っていたが、怒りに満ち溢れていた。
女神「こんにちは、誠さん。」
誠「な、なんで…なんで女神が…?」
女神「それが何処かの誰かさんのせいで女神クビになっちゃったんですよ~。」
誠「そ、そうなんだ…。」
女神「誠さん…突然で申し訳ないんですが私をパーティに入れてくれませんか?」
誠「え…?い、いや俺のパーティはもう人いっぱいだし…」
俺が言い訳をしていると女神は、笑顔という名の怒りの表情を俺に近づけてきた。ここまでくるともはや脅迫だ。
女神「入れてくれませんか?」
誠「ぜ、是非…。」




