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「な! ま、まて! 私は騎士団に戻るといったが、団長になるとは一言も――」
「いいじゃねえか! 一日団長――じゃねえな、一度団長でどうだ?」
「お断りします!」
半分本気、半分はからかいの意味がこもっているのも気づいて、テーラは照れ隠しに怒鳴る。が、周りもそのことを知っており、嫌な空気にはならない。
「いいじゃない。実力的に騎士団長クラスなんだし。ていうか、ロベルフより強いでしょ?」
「あ、やっぱりそうなの?」
サバウドーラの言葉に、それまで傍観していたヴァースが思わず口をはさむ。
「おいこら、そこの大賢者バカ! ”やっぱり”ってどういう意味だ!?」
ロベルフに睨まれて、ヴァースはさっと顔をそらす。
「……しかし、私はまだ上位クラスではないし……」
「いや、テーラもそこは否定してくれよ? 俺一応上位だからな?」
「はいはい、テーラから逃げ回っていた人が何を言っても無駄よ」
「ぷっ……」
「てめえ、今笑いやがったな! 今度こそたたき斬ってやる!」
「だっはっは! 賑やかだな! 数年前を思い出すじゃねえか!」
王も一緒になって笑っていたが、すぐにきりっと顔を戻す。
「まあ、とにかくだ。テーラ、せっかく認めてくれたんだ。そのまま団長になっとけ」
「いや、ですが……」
「なに、快く思わないやつもいるだろうが、お前に実力的に並ぶ者がいない以上、ロベルフのサポートができるのはほかにいないしな。口出しはさせないさ」
「あ、王様、なんならホントに俺の補佐として側につけてくれて――」
「却下だ」
「却下ね」
ロベルフが言い終わる前に、王とサバウドーラに拒否された。そのことにテーラは心から安堵する。
「ぷっ……」
「てめえ! あとで覚えておけよ!」
ヴァースがこらえきれず漏れ出た笑いに怒りで震えるロベルフ。
「そして……ヴァース」
「! は、はい」
それまで蚊帳の外のような感じだったが、自分も確かに名前を呼ばれていたことを思い出す。
「一応確認するが、攻撃魔法は全然ダメか?」
「……はい」
「ふむ……支援と回復は安定しないができる、んだな?」
「はい、一応……」
「ふむ……」
そこでファロルド王は思い立ったように立ち上がった。たったそれだけのことに、皆が注目を集める。
そして、彼はゆっくりとヴァースに近づいていく。
「……ふむ」
王は、ヴァースの目の前で止まった。
「……え、あ、あの」
戸惑うヴァースに、ファロルド王はいきなり手を振り上げて、肩を叩いた。
「なっ!」
バンッと良い音がした。かなり強めに叩かれた。
「いっ!」
当然、痛がるヴァース。だが、彼はさらに腹を殴り、ふとももを叩いた。
「ぐっ! だっ! ちょ、な、なにするんですか!」
思わず飛び退く。しかし、王はそのあと、ニッと笑って衝撃の発言をする。
「……なるほどなるほど。ちゃ~んと、さぼらずにやってたようだな。俺様の与えた修行を」
「え!?」
ヴァースだけではない。その場にいた誰もが驚愕の表情を浮かべた。
「え、え、あなたの、修行?」
「おうよ。なんだ、気づかなかったのか?」
「わ、わかるわけないじゃないですか! そもそもじいちゃんに言われただけで、そんなこと一言も……それにあなたに会ったこと…も……な、い?」
ヴァースはじっとファロルド王を見る。
「……ま、最初にあったのはまだまだ小せえガキの頃だったからな。覚えていねえのも無理はねえ。つーか、疑問に思わなかったのか? 賢者っていやあ、魔法のエキスパートだろ。体鍛える意味なんて普通ねえだろ」
「うっ! ……確かに、じいちゃんも……サバウドーラさんもそんなに体鍛えてはいないし……確かにちょっとは、これ本当に必要なのかな、とは思ったけど、じいちゃんの言うことだったし、それっぽいこと言っていたし……」
「ははっ。まあ、素直なのはいいことだ。つっても、基礎しか教えてなかったけどな」
「あ、あれで基礎ですか? じいちゃんから教えてもらったのって、無茶苦茶しんどかったんですけど……ていうか、あなた――ファロルド王とじいちゃんってどういう関係なんですか?」
「ん? ああ……ま、それはそのうち教えてやるよ。とにかく頑張ってたようだな。それだけは褒めてやる」
「あ、ありがとうございます……」
彼らの会話を聞いていた騎士団長の三人は納得がいった顔をしていた。
彼らも過去において、ファロルド王の修行を体験したことがある。
それは騎士団で訓練を積んだ彼らでも根を上げるほどのものだった。サバウドーラはむろんついてゆけず、テーラやロベルフまで最後までは到底不可能だった。
ヴァースがしたのは基礎だけというが、それでもその過酷さは容易に想像できる。鍛え上げられた体、テーラに走りで追いつき、ロベルフをぶっ飛ばしたのも腑に落ちた。
しかし――。
「……どうして、彼を鍛えたんですか?」
テーラが尋ねる。
話から推察するに、彼のおじいさんも魔法使い、ひょっとすると賢者のクラスかもしれない。それはヴァースの言葉の節々からも容易に想像できる。しかし、賢者になるなら――いや、”賢者”を目指せばこそ、体を鍛えている暇などないほど魔法の勉強をしなければならないのではないかと思う。ましてや目指しているのは魔法の最高峰”大賢者”である。
「どうしてって、そりゃあ……」
皆が王の発言に注目する。
天井を見つめて、たっぷり間を貯めて、王は言った。
「……俺の”カン”だよ」
そう言って王はニッと笑った。
その言葉に、ある意味予想できた回答に、皆ががっくりと肩を落として盛大にため息をついた。
「だっはっは! ま、俺が必要だからと思ってやっただけだ」
「……ですから、なぜ必要と思ったのかを聞きたかったんですが……」
テーラは頭を押さえて、そういえば、こういう人だったとどこか懐かしく思った。
「とにかく! ヴァース、きちんと鍛えていたなら大丈夫だな。今から剣を少し教えてやるから着替えてこい」
「は、ええ!?」
突然の発言に皆がまたまた驚く。
「何してんだ、時間がねえから早くしろ。服はこの前サバウドーラに教えてもらったところから取ってこい。ほかの者は解散だ! テーラ、お前の団はサバウドーラのとこから半分持って行け! ロベルフ、団員には無理をさせるな。今日はゆっくり休んで、明日【赤鬼】の討伐に出る! 以上だ」
「ちょ、お、王様!」
「なんだテーラ?」
あまりの一方的すぎる展開にテーラがくってかかる。
「いきなり過ぎですって! それになぜヴァースに剣を教えるのですか? 本当に彼を連れていくつもりなんですか? 彼は騎士団でも、ましてや魔法も使えないのに……」
そこでテーラは王がニヤニヤしていることに気づく。
「なんだテーラ、こいつのことがそんなに心配か?」
「なっ! ち、違います! 私はただ――」
そんな彼女に王は正面を向いて答える。
「いいかテーラ。こいつは攻撃魔法を使えない。だったら攻撃の手段を与えておかないとこいつ自信が死ぬ危険性がある。俺の修行の基礎をやり抜いたんだ。きっと大丈夫だ。それに魔法が使えないわけじゃない。援護も安定しないんじゃ厳しいが、回復薬がいるだけで、お前たちのリスクはかなり減るだろう」
「そ、それはそうですが……だったら、せめて冒険者を雇われては?」
いい加減だが、たまにこうして正論をぶつけてくるので、かなり困る。それでもテーラはなんとか言い返す。
「ああ、冒険者共も雇うつもりだ。そして、それらを除いても、こいつは連れていく。行ってもらいたい。いや、行った方がいい」
「……それも、あなたの”カン”ってやつですか?」
テーラのその問いに王はニッと笑って答える。
「……はあ、わかりました。ですが、私の隊のさらに最後尾につけさせますからね。……一朝一夕で剣が使えるとも思えませんし、あくまで回復専門でということで」
「ああ、それでいい。ま、使えるかどうかはこいつ次第だけどな!」
「あいて!」
そう言ってファロルド王はヴァースの頭を叩いた。
「他に言いてえことがあるやつはいるか? なければさっさと解散だ!」
ロベルフもサバウドーラも言いたかったことはテーラが代弁してくれたが、王の決定は覆りそうもないので、彼らは不本意ながらもそれぞれの役割のために動き出した。
ロベルフは完治したであろう自分の団の元へ、テーラとサバウドーラは団の組み分けの打ち合わせへ、ヴァースは王に連れられて訓練場にて見ていた兵たち曰く、「あれは地獄だ」という教えを受けにいった。
皆深夜近くまで作戦を練り、そこにけっこうな頻度でヴァースの叫びが聞こえていたという。




