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ブレイブ・セージ  作者: 真中太陽/原作:風陽しんわ
1/16

=序章=


 少年が違和感を覚えたのは、夜もどっぷりとふけて、日課の魔法修行も終わり、眠りに入ろうと布団に入った直後だった。


(……なんだ?)


 不安。

 何か良くないことが起きる予兆。

 それを知らせるかのように、胸が、心臓が強くはねあがり警笛のようにドッドッドッと早鐘を鳴らす。


(……じいちゃん?)


 感じたのは、この部屋の隣、彼を養っている祖父の寝室からだった。


 少年に両親はいない。祖父の話によると、彼の父と母は立派な戦士で、彼が赤ん坊の時にある戦いで戦死したそうだ。

 そのことを話してくれた時、一言「すまなかった……」とつぶやいたのは、まだ記憶に新しい。

 孤児となってしまった彼は今の祖父に引き取られ、育てられている。最も、祖父と言っても血がつながってはいないが、記憶にない両親よりも、育ての親となってくれた祖父に彼はとても懐いていた。


 そんな慕っている祖父に対して、急激に膨れ上がる不安。


 心臓の鼓動が落ち着いてきたところで立ち上がり、木製の扉をそっと開けて廊下に出る。

 家は小さな木造の平屋。廊下に出ると、すぐに月の光に照らされて白っぽく光る森の木々が目に飛び込んでくる。

 人はいない。この緑が多い小さな島には、人は自分と祖父だけである。


 今日は満月だった。

 雲一つない夜空に真円の月が太陽の代わりに光をもたらしている。

 いつにもまして見やすい廊下を少し歩き、祖父の部屋の前で立ち止まる。

 ドアに近づき、耳を立てて中の様子をうかがう。


「……ぐっ、ううっ」


「じいちゃん?」


 中から祖父のうめき声らしきものが聞こえる。

 意を決して扉のドアノブに手をかけ、開ける。


「じいちゃん!」


 そこには、胸を押さえ、かがんでうめき苦しんでいる祖父の姿が、開け放ったドアからの月の光によって映し出されていた。


「じいちゃん! しっかりして! どうしたんだよ、じいちゃん!」


 慌てて駆け寄り、祖父の体を抱き起す。


「ぐっ……ヴァース、か」


 ヴァースと呼ばれた青い髪の少年が、祖父をベッドまでゆっくりと誘導し、寝かせる。

 自分に預けられるはずの体重の、あまりの軽さに彼は軽いショックを受けていた。


「……ありがとうよ、もう大丈夫だ」


「……じいちゃん」


 にっと笑って言う祖父だが、あきらかに無理しているのは明白であった。


「やれやれ、さすがのわしも年かの。すぐに変調は隠したつもりだが、お前さんに感ずかれるとは。……成長したのう、孫よ」


「じいちゃん……」


 不安はぬぐいきれないでいた。


「なんだよ、なんで今そんなこと言うんだよ……。ほら、もっといつもみたいにさ、怒れよ。なんで、そんな……」


 褒めることなんて滅多とない祖父。ましてや、こんな辛そうな時に言われても、素直に喜べるはずなどなかった。


「……いつから、なんだ?」


 祖父の苦しみようは、急になったとは思えなかった。


「……この一月ほどじゃ。頻繁にでもないし、さほど辛くもなかったからの。……問題なく隠せていたのじゃが……」


 つまり今日の痛みは特別辛かった、と暗に伝えていた。


「……寿命、じゃろうの」


「!」


 祖父の言葉に、考えないようにしていた最悪の答えが浮かぶ。


「……じい、ちゃん……」


 よく笑い、よく怒り、元気だった祖父。

 今は、その真逆にとれる、弱々しく語る祖父。


「……ふふ、そんな泣きそうな顔をするでない。寿命は、誰しも来るものじゃ。生を受けて三百年、よう生きたわい。エルフでも、こんな長生きはなかなかおらんぞ」


 しわが刻まれた、人よりもはるかに長い耳をぴくぴく動かしながら、冗談めかして言う。


「おお、そうじゃった。お前に渡すものがあったんじゃ」


 祖父は痛みを我慢しながら無理やり体を起こして、机の引き出しに向かい手をかざす。

 呪文をつぶやくと、パキィンという甲高い音とともに、見えないバリアが壊れる。


「その引き出しの中身が、お前へのプレゼントじゃ」


 ヴァースは導かれるようにその引き出しに吸い寄せられ、手をかける。

 子供のころ、いたずら心に忍び込んだ祖父の部屋で、ここだけは絶対に開けることができなかった場所。


 その場所が、今、開く。


 中に入っていたのは――。


「……なんだこれ?」


 中身は、一冊の本だった。

 持ち上げてみる。


「……軽い」


 辞書のように本の背は分厚いのに、見た目に反して、予想以上に重さがない。

 パラパラとめくってみると、ところどころページが破りとられているような跡があるだけではなく、中身も真っ白だった。


「……これが……?」


 半ばあきれつつ、振り返って祖父に尋ねる。


「そう、それが、お前への誕生日プレゼントじゃ」


 にっこり笑って、答える。


「はは……一応、ありがとう」


「うむ。本当は明日渡そうと思っていたんじゃがの。……もう、体がもちそうにないんでな」


「え!?」


 あまりにも急な展開だった。

 明日ももたない命。


「いや、ちょ、じょ、冗談だろ、じいちゃん?」


 祖父は静かに首をふる。


「じいちゃん!」


 さっきまで、ほんの一時間前には一緒にご飯食べて、元気に笑っていたのに。

 明日には、その笑顔も消え去ってしまう。

 その事実は、受け止めるにはあまりにも重すぎた。

 祖父はまた静かに横になる。

 そのベッドの脇まで近づき、膝をつくヴァース。


「ふふ。よく、ここまで元気に、まっすぐに育ってくれたのう。……ありがとうよ」


「じい、ちゃん……」


 布団から出した祖父の手を、ヴァースは両手で握りしめる。

 目頭が、熱くなってくる。


「十八歳の誕生日、おめでとう」


「じいちゃん……!」


 あふれ出る涙をとめることはできなかった。

 最初に思い出されたのは、怒っている祖父の顔だった。特に魔法についての修行は褒められたことなんてかけらもなかった。

 それでも腐らず、一生懸命やってきたのは、祖父の確かな愛情を感じていたからだった。

 幼いころに一度だけ話してくれた、昔の祖父の、大賢者としての勇姿に憧れたからだった。

 その話が嘘か本当かわからない。

 それでも彼は、その話を信じ、自分も大賢者になりたいと強く願った。

 修行は辛く、怒られてばっかりで、たまに嫌になることもあったが、それでも頑張ってついていった。

 修行が終わったあとは、いつも優しく微笑んでくれていたことも、ありありと思い出す。


「ふふ、怠けずにちゃんとやっておったようじゃのう。強く――優しい力を感じる。お前のその力で、困ってる人を助けておやり」


「でも、俺、全然まだ……」


 涙をこぼしつつ、その先を言おうとして、祖父ぽつりとつぶやいた。


「すまんな」


「え、なん、で?」


 急に謝りだす祖父。


「おまえのソレを解くことができなかったのは、わしの人生の中で最大の心残りじゃ」


「じいちゃん……?」


 祖父は本当に申し訳なさそうにヴァースをみる。


「じゃが、心配するな。きっといつか解ける日がくる。そうなったら、お前は……」


 握られていた手を抜けて、ヴァースの頬を撫でる。


「ふふ。本当に、よく似ておる」


 優しく、愛おしそうにつぶやく。


「え?」


 骨と皮だけのかさついた指。それでもヴァースにとっては、今まで自分を育ててくれた大切な祖父の感触。

 それがなくなってしまうのかと思うと、得も言われぬ寂しさと悲しみがこみ上げてくる。


「じいちゃん……」


 祖父の体が淡く光りだす。


「っ! じいちゃん!」


 不安が一気に膨れ上がる。


「……心配するな。エルフは、死ぬと森に帰ると言われておる。すべてがなくなるわけではない」


「……じいちゃん!」


 目の前がにじんでまともに見ることができない。

 涙は数多の滴となって、床に落ちてゆく。

 祖父の体がさらに輝きを増してゆく。

 迫りくる、別れの刻。

 彼は涙をぬぐい、最後に、精いっぱいの笑顔を作って言った。


「……今まで、ありがとう!」


「! ……ああ、ああ!」


 祖父は、本当に嬉しそうに笑い、最後に一筋の涙を流して、優しく消えていった。


『……西へ行け』


「え?」


 姿が消えた祖父の、声だけが聞こえてくる。


『お前にはやらねばならないことがある。行って、己を知り、そして、人々を、世界を……』


「じいちゃんっ!」


 声は消え、家主を失った部屋で、彼は叫ぶ。


「じいちゃん、俺、頑張るから! 絶対、じいちゃんみたいな大賢者になって、人々を救ってみせるから! ……見ててくれよな」


 彼の決意を、ドアから見える満月が優しく聞いていた。








 改めてましてこんにちは、真中太陽と申します。

 今回の作品、はっきり言ってべたべたの王道ファンタジー系です。

 これを書こうと思ったのは、私の尊敬する方の小説を読ませていただいた時でした。

 とあるゲームを参考として、その方がもっとずっと若い時に書かれた小説。小説といえるのか、言えないのか、当の本人様も悩むような代物。今の時代では一笑に付されるかもしれないほど、典型的王道ファンタジー。読みあきた、聞き飽きた、斬新さがない……。

 そんな声が聞こえそうな中、ルーズリーフ100ページを超えるこの作品を読み終えたとき、私が思った感想はただ一言

「……おもしろかった」

 べたべたのファンタジーです。王道すぎるストーリーです。皆様からはさぞ言うことは多々あるでしょうが、でも、私は素直に”面白い”と感じました。

 ただ、本人様も、”今の時代にこのままでは出せない。かと言って、直すのは私には難しい。でも出したい”という思いをおっしゃっていました。

 そこで私はあろうことにもポツリと、偉そうに言ってしまったのです。

「……私なら、この一章で一巻分のストーリーが書けますよ(笑)」

 今思うと、冗談めかして言ったとはいえ、お前何様と思われる暴言ですね。そんな対して実力もないのに……。

ですが、その方が言った一言は

「……じゃあ、書いて。いつでもいいから。よろしく(笑)」

 なんと心が広いのか! 伸びに伸びて、結局こんな時期まで放置してしまっておりましたが、ようやく書かせていただく決心を固め、執筆していこうと思います。

 もちろん、原作という形でその方の名を綴らせていただき、私なりのアレンジを加えますが、話の大筋はなるべく変えずに書いていこうと思います。

 暇つぶしでも構いません。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 ちなみに、もし”つまらない”という感想がございましたら、それはすべて私の力量不足であることを明記しておきます。その時は申し訳ございません。

 楽しんでいただけるように、精一杯頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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