第十一話
昼休みになるのと同時に、私は教室から出る。
私がいると、クラスの雰囲気がピリつくから、授業中以外はいたくない。
そして、特にあてもなく校舎内を彷徨う。
「……曇ってたら、迷わずに済むのにな」
そう呟いて、私は指に巻かれた絆創膏に視線を落とす。
淡いピンク色の背景に、可愛らしくウィンクをする子猫のキャラクター。
「ふふ……」
同時に私は一条君を思い出して、思わず微笑んじゃう。
一条君の手、暖かかったな……。
カッターの刃で怪我をした時、クラスの空気が凍った。
みんな、青ざめた顔で私を見てた。
そんな中で、真っ先に駆け寄ってくれて助けてくれた一条君。
私の手を握って、力強く引っ張る手はとても頼もしかった。
思わず『絆創膏をつけて』なんて、柄にもなく甘えちゃった。
「発表してる一条君も、可愛かったな」
緊張して、少し声が上擦りながらも一生懸命な姿に、ついつい表情が緩んじゃう。
「はぁ〜……曇ってくれないかな」
一条君と二人だけで過ごす屋上の時間が、今はとても待ち遠しい。
というか、晴れてる日は一条君どうしてるのかな?
教室にいるのかな?
だとしたら一緒にはいられないか……。
「屋上以外でも、普通の女子高生になれる場所が欲しいな……」
一条君だけは、私と普通に接してくれる。
彼の前では、極道の娘から解放される。
「一条君、一人になれる場所が好きそうだから、体育館裏とかどうかな? 今度誘ってみようかな……」
そうしたら、曇りの日以外でも会えるし。
ちょっと下見してみよう。
善は急げ。私は早速体育館裏に向かってみた。
そして、後悔した。
「あ? なになに? 一年の女子?」
体育館裏にたむろしてる上級生達。
制服を着崩して、ダルそうにしてる。
「へぇ〜、可愛いじゃん。こんなとこまで来てどしたん? 俺らと遊びたいの?」
「ハァ〜、最悪」
体育館裏にたむろとか、なんてテンプレな奴らなの?
「あん? 今なんつった? 最悪? 最高の間違いだろ。つか、もっとこっちこいよ」
「ウザいので戻ります」
「は? ウザいだと? ったくよ。こっち来いつってんだよっ!」
急に大きな声を出してくる上級生。
正直言って、チワワが吠えてる方がまだ迫力がある。
放っておいて別の場所に行こう。旧校舎の方なら一条君の好きそうな場所があるかも。
「テメッ! 無視すんじゃねぇぞゴラァ!」
「…………うざっ」
「んだとゴラァ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」
最初に声を掛けてきた上級生が、激昂して私の胸ぐらを掴んできた。
これってセクハラじゃない?
「ゴラァ! テメェ! 詫びろやっ! アァ!」
頭に血が上って知能下がってるのね。かわいそうに。
少し落ち着かせてあげた方がいいかな?
「なんか言えやゴラァ! 謝れつってんだ――ぐはっ?」
私は先輩の鳩尾に軽く拳を当てる。
かなり加減はしたけど、少し効かせたからちょっとは痛いと思う。
「ぐぅ、は、腹がぁ、腹ぁ〜……うぅ……」
「先輩! 大丈夫っすか!?」
「い、痛えぇ……痛ぇょ……」
大袈裟じゃない?
痛さ耐性なさすぎ……。
「テメッ! 先輩になにすんだ!」
「いや別に、正当防衛」
「ふざけんなっ! このっ!」
「お前! やめろ! こいつ、いやこの人は御堂さんだ!」
激怒した不良の一人が私に飛びかかってきそうだったけど、もう一人がそれを引き止める。
「あぁ? だからなんだよ! 御堂だかなんだか知らないけど……え? 御堂? あの?」
「そうだよ! あの御堂だ!」
「……すみませんでした!」
たむろしてた人たち全員が一斉に頭を下げる。
そして、青ざめた顔で立ち去っていった。
「……ほんと、最悪」
私は誰もいなくなった体育館裏で一人でお弁当を広げて食べ始めた。
どこにいても『御堂』の名前が付いてくる。
誰も私を『朱莉』として見てくれない。
「なによ、あの御堂って」
私は沢庵をかじりながらぼやく。
「どの御堂よ」
愚痴を溢しながら一人でお弁当を食べてると、あっという間に食べ終わる。
「時間潰しながら教室に戻ろ……」
私は人気のない場所を選びながら、遠回りで戻る。
誰かとすれ違うと、必ずギョッとした反応をされるか、必要以上に礼儀正しくされる。もしくは透明人間のように無の存在として扱われるか。
どれも、私にとっては息が詰まりそうになる。
校舎の端っこの窓下をゆっくりと歩きながら、私は指の絆創膏を撫でる。
一条君だけが、私に『普通』をくれる。
彼の側は心地が良い。
そんなことを考えながら、窓下と花壇の間を歩いていると、不意に誰かの声が聞こえてきた。
『ヤクザだよ! ヤクザ! しかも、御堂さんの家は、正道会とかいうめちゃくちゃデカい組織のトップなんだよ!』
はぁ……また噂話をされてる。
もう、うんざり……。
声は窓の向こう側、校舎の中から聞こえてきた。
私は何気なく外から窓をチラッと覗き込む。
「っ!?」
そして慌てて窓から身を隠した。
一条君がいた! 誰かと話してる。
私はもう一度、慎重に窓を覗き込んだ。
あれは……私がカッターで怪我した時に、すごく怯えてた子だ。
『嘘じゃねぇって。色々噂があるんだよ。例えば、御堂さんの機嫌を損ねた奴が、数週間後に転校になったとか。粗相した奴が、その日の下校中に不良に絡まれたとか』
どうやら、その子が私の噂を一条君に教えてるみたい。
一条君の声は、小さくて聞き取れない。
でも、窓越しに小さく見える彼の顔を見て、私の胸はギュッと締め付けられたみたいに苦しくなった。
噂を聞かされている一条君は、とても嫌そうな顔をしていた。
あんな表情、初めて見た。
彼はいつも、優しいのに……。
もしかしたら、怒ってるのかも。
それ以上、私は一条君を見ていられなくて、窓から視線を逸らす。そして、校舎の壁に背中を預けてその場に座り込んだ。
「ほんと、最悪……」
でも一条君を責める事はできない。
私だって、仲良くしようとしてた子が極道の子だっていうのを隠してたら、きっと怒ると思う。
だから、彼は悪くない。
それに、こういうのは今回が初めてじゃない。
私の家のことを知って離れて行った人たちはたくさんいる。一条君もその一人になるだけ。
「……もう、挨拶してくれないんだろうな」
今日の朝、突然一条君が挨拶をしてくれた。
すごく嬉しかった。ただの挨拶、でも私にとっては救いだったのに……。
「屋上も……もう無理かな」
なんか、身体が重たい……。
メンタルが強いって自負してたけど、今回はちょっと……かなり、しんどいな。
「あ〜あ、もう全部、どうでもいい……」
このまま学校、サボっちゃおうかな……。
極道の娘だもん。真面目に学校に行ってる方がおかしいよね。
私は、しゃがみ込んだまま、気持ち悪いくらいに清々しい青空を見上げる。そして、その空に片手をかざす。
「でも、絆創膏のお礼はしたいな……」
そう呟いた瞬間、突然頭の上の窓が勢いよく開いた。
そして、そこから一条君が顔を出した。
「っ!?」
突然のことに、思わず私は声を上げそうになる。
でも、それよりも先に一条君が叫び出した。
「御堂さんはな! 誰よりも優しくて! 可愛くて! 最高に魅力的な女の子だ! 極道の娘がなんだコンチクショー! 関係ないわボケェ!」
――ふぇ!?
な、ななな、なに今の!?
えっ!? 一条君が叫んだの??
突然の彼の叫びに、私も叫び声を上げそうになるけど、両手で口を押さえてなんとか堪える。
いまのって告白!? 一条君、私がここにいるの知ってたの?
いやいやいや、そんなわけないよね?
だって一条君、叫んだ後すぐに行っちゃったし……。
ど、どういう事なの?
一条君は男子と話してたんじゃないの? なんで急に叫び出したの? それも窓を開けて外に向かって。
い、意味がわからない! 全然わからない!
でも、なんだか一条君、怒ってた。
普段からはイメージができないような、荒い口調だったし……。
「コンチクショーとかボケェとか……極道が関係ないって」
え? 私の噂を聞いたんだよね? なのに?
それに、私は誰よりも優しくて、か、可愛くて……。
「最高に魅力的な……女の子? 私が?」
む、胸が痛い。
心臓がバンバン叩いてくる。
魅力的な女の子……初めて言われた。
一条君って、私に魅力を感じてくれてるの?
ど、どうしよう……。
なんか、ビックリしすぎて身体が動かない。
なのに、心はふわふわと浮いて、綺麗な青空に吸い込まれて行っちゃいそう。
「うぅ……一条君」
彼の衝撃の告白で茫然としてしまって、気が付けば私は、五時限目の授業をサボってしまっていた。
続きの展開はどうしますか?
アナタの望む展開をワタシが生成いたします。
チガウオレガカイタ
生成AIに『面白いラブコメ書いてみて』とお願いしてみた 完




