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プロローグ

 青陵学園校内は、もはや人でごった返していた。

 今年の学園祭は、今までにないくらい、学校外からの入場者も多いのではないだろうか?

 俺は実行委員の一人として駆けずり回っていた。

 まっすぐ歩くのも困難な人込み。

 廊下は、教室……もとい店先の看板に目をやる人、すれ違う人、立ち話する人で埋め尽くされている。


「へい、らっしゃいー!」

「お兄さん、うちのカフェ寄ってってよ~」

「うちならもっとかわいい子いますよ!」

「お化け屋敷、いまならすぐ入れまーす!」

 客引きも熱が入る。


 人が多いと、トラブルも多い。

 人が多いのとは関係のないトラブルも多い。どうなってんだ!

 そんな校内だが、昼どきになって人口密度がやや空いてきた。

 火を使う飲食店は、校舎の外に立ち並ぶ露店に限られている。がっつり食べたい派が、そちらに流れた結果だろう。

 俺は、多少歩きやすくなった廊下を早足で歩き、異臭を発する教室があると通報のあった教室に査察に入って現認。是正を生徒会の名のもとに命じた。


「せんぱあい、そんなこと言ったって、うちの店、これがメインなんですよう!」

 下級生の泣き言を、だが俺は封殺する。

「ホルモンをレンジで煮込むにしても、臭いが出過ぎだ!」

 俺自身は料理には詳しくないが、詳しい役員の話だと、下処理が甘いと臭いが酷くなる、ということらしい。そもそも、もっと完成状態で持って来て、温めるだけにしろよ……。


「クラスの中に、親の勤め先が肉の卸会社だっていうやつがいたらしい」

「それが不幸の始まりか」

 裏事情を周囲の会話で仕入れながら、俺は巡回に戻った。

「先輩?」

 廊下に出されたベンチから、俺のことを()すらしき呼び声に足をとめた。この廊下に『先輩』に該当するのが何人いるかは知らないが。


「理々香じゃないか」

 彼女は腰を下ろしていて、俺の目線の高さから外れていたので気づかなかった。

「どうせ私はモブですよ」

 いやいや、理々香も美人だし可愛いところがあると思うが、それを言うべきは俺じゃないと思うので口にしない。

「休憩か?」

「ええ」

 理々香は俺の覗き込む視線に気づいて説明を加えた。


「フルーツジュースです」

 彼女の手には蓋のされた紙コップ。蓋には太めのストローが刺さっている。

 理々香の唇に果肉の小さな粒が残っていて、ぺろりと理々香は舐め取った。

「去年の自分たちの店と比べてたってわけか」

「そういうわけじゃないですけど、思い出したので」

「お味のほどは?」

「わたし達の方が、おいしいですよ。去年のうちらの店は、結局採算度外視になっちゃいましたから。そういう意味では、このクラスは優秀みたいです」

 理々香はストローを吸って、ジュースの残りを飲み干した。


「そういえば先輩、こんな噂、知ってますか?」

「噂?」

「いま校内で……」

 理々香の言葉に校内放送のジングルがかぶった。学園祭名物、校内ラジオだ。コーナーの切り替わりで、ちょっと音が大きい。


 ――次のコーナー! 謎の美少女現る? このコーナーでは校内の様々な情報をお寄せいただき、それに関するトークを放送部部長のニックネーム・ぶちょーさんとお話しするというコーナーです、が! どうなんですかこの情報! ねえ、ぶちょー。

 俺は理々香の方を向き直って話題の続きを促したが、理々香は頭上を指さして口をつぐんだ。

 えっと、つまり?


 ――謎の美少女が校内をうろついてるって、夢があるじゃない。え? この情報一件だけじゃないの?

 ――そうなんですよ、あの美少女は誰? 探してほしい! 名前を知りたい! 続々と調査依頼のリクエストが来てまして。

 ――このコーナー、調査はしてないんだけどなあ……。でも情報提供したくなる、もしくは情報が欲しくなるほどの美少女って、気になるねえ。だって、まだオープニングから数時間しかたってないのよ。その短時間でこの情報でしょ? そりゃ期待しちゃうね。


 ――あー、これって、真実は知らないまま、イメージで美しく終わったほうがいいかもしれませんよ?

 ――いや、俺は真実知りたい派。

 と、雑談が続く……。


「ということなんですよ」

 理々香は言いたいことをすべて校内ラジオに語らせた。

「と、言われても……」

『葉月先輩、いまどちらですか?』

 耳に付けたインカムが俺を呼んだ。

 ああ、忙しい。


「理々香も休憩終わったら仕事に戻ってくれよ」

「はいはい、がんばってください先輩」

 学園祭は、まだ初日の序盤を乗り切ったばかりだ。


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