カウントダウン・ゼロの軌道
「坊主、気を抜くな。カウント始めるぞ」
車掌の檄が飛ぶ。向かいの列車の唸りが聞こえるほど近づいた。
乗客の中には十字を切る人や席で縮こまっている人もいる。
ガルド運転士の列車は右方向に進む。
ワイヤーが手の中を滑る。
焼けるように痛い。
「20!」
引く。
「19!」
レールが軋む。
「18!」
「17!」
その時。
「お兄ちゃん、頑張って」
振り向く。
あの女の子が、デッキに立っていた。
涙をこらえながら、それでも――こっちを見ている。
今はその時じゃない。
集中力を途切れさせるな。
……やるしかない。
ワイヤーを握り直す。
雨が目に入る。
瞬きできない。
「16!」
右へ流れる。
――いける。
対向列車の光を見る。
まだ間に合う。
ワイヤーが途中で引き止められる。
――重い。
見ると、信号ケーブルに絡んでいる。
このままじゃ力が届かない。
「15!」
絡まってる。
「14!」
ほどけない。
「13!」
――焼くしかない。脳の奥を、磁力で沸騰させる。
「12!」
磁力を集中させる。
「11!」
火花が散る。
だが――切れない。
車掌の声が響く。
「10!」
ワイヤーを引く。
――動かない。鉄の塊を引いているようだ。
「9!」
「くそ……!」
「8!」
やばい、時間がない。
――出力を上げるしかない。
ポルックスは歯を食いしばった。
「7!」
電流を流す。
バチッ、と火花が散る。
だが――切れない。
「6!」
「まだかよ……!」対向列車の巨体が、もう視界を埋め尽くしている。
雨粒が電流を散らす。
流れが逃げる。
「5!」
出力を上げる。
手が焼ける。その刹那、デッキに立つあの子の顔が浮かんだ。あの子の笑顔を守る。
「4!」
神経が痺れる。だが、構ってられない。
「3!」
焦げる匂い。
煙が立ち上る。
「2!」
――通れ。
「今だ……ッ!!」
ワイヤーの水滴が一瞬、跳ねた。
バチンッ!!
稲光が弾け、視界は白く塗りつぶされた。




