表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
雷霆のアイリス
50/50

雷霆のアイリス

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 俺は国会議事堂の中央玄関前に息を切らしながら横たわっていた。


 どうやら、移動には成功したようだ。


 ゆっくりと立ち上がりながら、装備が何一つ欠けていないことを確認する。


 俺の得た新たな力とは、体を電気に変えることだった。

 俺の母と妹を殺した植物と動物を扱う能力者が行っていたことだ。


 あの時奴は、俺の虚を突くために腹の一部を木の根に変えて操っていた。

 それと同じように、俺は体と装備の全てを電気に変えて、100キロ以上は離れた場所から飛んで来たという訳だ。


 数日前、川凪ヒカリの事件が終わった頃にこの力に目覚めていた。


 代償は、自分の存在を認知しづらくなることだ。


「スゥ、ハァ……よし」


 息を整えて中央玄関の門を開けると、目の前にある階段に左手に剃刀、右手にレーザー銃を持ったカリムが座っていた。


「ハハ!マジか。その未来かよ」


 彼は笑いながら俺がこの場に来たことに驚いていた。

 俺は無言で中央広間まで歩みを進めて立ち止まった。


「今茨木が走ってきてるってことか?それまでの足止めがお前の役割って訳だな。少し失望したな。僕たち二人を君が止め…」


 衆議院の議会場の方向から何かが壊れる音がした。


「ん?まさか…」


 恐らく、リラシオのボスと茨木さんの戦いが始まったのだろう。


「リツト、お前どうやってここに来たんだ?」


 奴は目を見開きながら赤いカーペットの上で俺を観察している。


「く、ククク、本当か、お前、それ出来たのか。しかも、成功させたのか」


 どうやら、俺の今の状態が看破されたらしい。


「ああ、成功したよ」


 俺が答えると、奴はゆっくりと階段を降り始めた。


「リツト、君はこの世界をどう見る?私は積み木のように見ている。簡単に崩れて簡単に積み上がる」


「…社会は一人で壊せないほどには重「いや軽い!俺のこの、未来視さえあればな」


 奴は被せるように大声を上げて、俺の発言を潰した。


「信じるかは君次第だが、僕の望みはこの世を全て破壊しきることなんだ」


 階段から完全に降りると両手を広げて、奴は高らかに宣言した。


「僕は人類を信じている!」













 茨木は転送されてからすぐにリラシオのボスの元へ走った。


 国会内にある監視カメラで奴の場所は把握していた。奴は今、衆議院議場にいる。


「ここが、国の方針を決める場の…片割れか」


 一方、サザンカを名乗る、リラシオのボスはまるで階段を登るかのように、何もない場所を登っている。


「それでここが」


「象徴の座る椅子」


 御傍聴席と呼ばれる椅子。

 その椅子に向かって歩みを進めていると、傍聴席の豪快にドアが開いた。

 そして、男がその方向へ向いた途端、顔面を蹴られた。


 茨木は傍聴席から飛び出して、サザンカにドロップキックを浴びせていた。

 そのまま反対側の傍聴席まで吹き飛ばすと、土煙の中から、吹き飛ばされた茨木が議員席に激突した。


「なるほど…」



 茨木はその一度の攻撃と、リツトの情報から能力を推定した。


「バリア使いか。しかも高度な」


 その時、彼の真上に光の揺らぎを目視で確認した後、それをバリアと看破しすぐに避けた。

 土煙が収まった場所から、サザンカが目にも留まらぬ速度で茨木に襲い掛かった。

 バリアを剣に変えてそれを振りかざしているようだった。

 それに対し茨木は剣を真剣白刃取りの要領で防ぎ、剣を追って腹に回し蹴りをした。


「やるな。流石茨木だ…」


 しかし、彼の攻撃自体はバリアで防いだのでダメージはない。


「防いだのに、バリアとの衝撃波で吹き飛ばされてしまったな」


 彼は最強に称賛を送っていた。


(今の所、大丈夫だな。カリムに乱入されたら流石にきついがアイツは来ていない。何かあったんだろうな)


「なぁ、君はこんなに力があるのに、どうしてこんなことをしているんだ?」


「…約束をした。この国を守ると」


 メンバーたちで『国を守る』それが、異能局が結成された一番の理由だ。


「人との約束か。下らないな。


 人ってクソだろう。裏切るし、騙すし、あくどい。そもそも、感情というものが気持ち悪い。好意も悪意も全部気持ち悪い。それで、どうして約束という、チンケでキショイものに固執するんだ?」


 茨木は挑発されていることを考慮して、拳を握りしめて必死に怒りを抑え込んでいた。


「クソなものはいらない。そもそも、都合の悪いものっていうのは、この世の中からいらないものだ。ほらこの腕も昨日、勝手にコップを離して壊してしまったからね。そんなものは必要がないから、壊した」


 その男は、子供の我儘のようなことを告げ始めた。


「この世界も、都合が悪い。醜悪で溢れている。だから私の好きなように作り変えるんだ」


「そうか」


 茨木はそれだけ告げて、神速で近づきボスを殴った。

 しかし拳は奴の眼前で止まってしまう。


「怖いな。バリアを出し続けなければ、私の顔面は無くなってたよ」


「安心しろ。顔面は残る。死なない程度に壊されてしまうがな」


 そこから、超人同士の戦いが始まった。

 あらゆるものを破壊する男と、あらゆるものを防ぐ男の戦いの余波は、一撃一撃が議事堂全体を揺らすほどに激しかった。

 サザンカはバリアの形を変え武器として扱ったり、天井からバリアの雨を降らすようにして戦っている。

 茨木は全ての攻撃を拳や足で破壊しながら拮抗している。


「いいなぁ、まさかこれ程だとは!ギアを上げていこう!」


 まだ余裕のある奴は、さらに出現させるバリアの数を増やし、その頑強さも増やしていく。


 しかし、茨木は限界が来ていた。

 一度攻撃を食らった彼はバリアで地下まで押しつぶされてしまった。


「なんだ。燃料切れか?恥を知れ。その程度で私を倒そうとしたのかな?」


 サザンカは穴の近くに降り立ち、何ともつまらなそうな顔で底を覗いた。


 茨木の目には未だに生気が宿っている。


 限界というのも、彼の今の上体での限界である。

 付けている枷の一つ、首に付けている枷だけが古いタイプ、つまり壊して(・・・)力を解放するタイプを改良したものだった。

 機能は能力を少し弱め使いやすく調整すること。つまり拘束具の役割をしていた。


 茨木は寝そべった状態から立ち上がり、その枷を引きちぎり、その10メートルはある穴を、弾けた球のような速度で壁を数度蹴ってサザンカの場所へ戻って来た。


 その勢いのまま殴りつけると、明確に顔面に拳が当たった。


 その拳には相手の血がポタリ、ポタリと滴っている。


「こちらもギアを上げよう」


「ヒッ」


 彼の、正義を守る側とは思えない。地獄のような憎悪と怨嗟の目を見たサザンカは小さく悲鳴を漏らした。その隙を見逃さない茨木はすぐに追撃を始めた・


 鳴り響く轟音、既存の物理法則の限界に一歩抜け出したような戦いだった。


 戦況は茨木が有利な状態だ。


 サザンカの作り出すあらゆる障壁は、今の茨木の前では紙も同然だった。


 次第にリラシオのボスの敗色は濃厚に移り変わってきた。


「うっ、嘘だろ。嘘だろ!」


 自分が負けると確信し始めると、先程の傲慢な態度とは打って変わって怯えるようになった。


「本当だ」


 仰向けに倒れ、悔しさからか床に拳を叩きつけることしかできない。


「クソが!やっぱりクソなんだよ!ああーーー!」


 茨木は身を守るためのバリアをこじ開けてから、サザンカの頭を何度も地面に叩きつけさせて、気絶させてから拘束した。


「さて、あとはカリムか」










「僕は人類を信じている!」


 奴は俺の前で堂々と、それが真理であるかのように言い放った。


「君は未来を見たことがないから分からないだろう。ただ、私には分かる。私が壊した世界でも、人間は生き残り、一からのスクラップ・アンド・ビルドで立ち直るんだ」


「そうか。それで?」


「だからさ。壊させてくれよ。世界を。一度だけでいいからさ。国会を壊し、立法体系を崩壊させてから他の二権も破壊する。経済が大混乱になった後、世界中で勝手に戦争が起きて地球は焦土になっても、人間は立ち上がる。だから、壊させろ」


 荒れていた息は整った。今の自分に何ができるのかもこいつが喋っている間に整理できた。



「俺は、人類を信じていない…。『人類』なんて、集合無意識、総体、そんなものは微塵も信じない。個人は別だが、総体は愚かだ。だから、俺が守る」



「傲慢極まったな。それが正義側のセリフか?」



「テロリスト如きが正義を語るな」



 その言葉を最後に、沈黙が生まれる。

 まずはあのレーザー銃だ。

 あの攻撃力は非常に厄介だ。まずはアレを破壊しなければならない。

 その狙いが未来視にバレてようが、バレてなかろうがどうでもいい。

 俺は俺の狙いを貫けばいい。


 ふとしたタイミングで互いが発射した弾、電気弾とレーザーは、干渉せずにすれ違い互いの銃に着弾し、爆発する。


 奴は俺の銃を、俺は奴のレーザー銃を貫き破壊した。

 それを見た俺はすぐに腰の2本のナイフを取り出して走り出した。

 カリムも同様に剃刀を構えて走り出す。


 広間の中央で刃物が恐ろしい勢いでぶつかった。

 鍔迫り合いをすることなく滑り、すぐに激しい肉弾戦が始める。


 今の俺は俺の周りの電子の全てを掌握している。


 自分が電気と一体化しつつあるのだ。自分のことは大体分かるなら、電子のことも大体分かる。


 電気信号の速度を速めて、反射神経の限界である0.1秒の壁を超えることだって出来る。

 その卓越した反射神経で、攻撃と回避をして先程まで実力が開いていた相手と互角に渡り合う。

人間の出来る最高レベルの高速戦闘で、互いの掠り傷を確実に増やしていった。


 格闘戦の中で、左手のナイフは弾き飛ばされたが、すぐに一瞬距離を取り、踏み切って目にも留まらぬ速度で、右手のナイフで奴を突いた。

 奴は腕を弾こうとする。

 しかし、腕は弾けない。奴の左腕が俺の右腕をすり抜けた。

 ナイフは深々とカリムの右の肺に突き刺さる。


 全身の電気化が出来るなら、体の一部分だけ電気化させることもできる。奴の腕と触れる部分だけ電気化して防御を無効化した。


 これを奴は対応できないだろう。


 何故ならこれで、俺は右手を犠牲にしたからだ。


 奴は自分を省みない攻撃の未来を見た時に、驚いて反応が遅れる。それを利用した。


 しかし、ナイフが突き刺さった次の瞬間には、俺は蹴飛ばされていた。

 その拍子にナイフを離してしまった。


 壁に背を打ち付けたがすぐに顔を上げる。

 まだこの力に慣れていないので、電子化は連発できない。


 カリムは苦しそうにナイフを抜いていた。


 そして、顔に何か違和感があることに気づいた。

 恐らく、ヒビが入っている。身体と電気が一体化し始めている。

 互いに激しく息切れしており、最早、体力はほとんど残っていなかった。


 時間は残されていない。身体の感覚は薄くなっている。


 ここで勝負を決める。



 その決意を固めた俺は、全ての気力と体力を込めて、天井に雷霆の竜5匹を顕現させた。



 やはり、俺にとっての最強のイメージは竜だった。


 奴は今、広間の中央にいる。出口は電気の檻で囲ったから、逃げられない。


「これなら、潰せる」


 呟きと同時にすぐにそれらを振り下ろし、雷鳴を響かせながら命中させた。

 もろに食らったカリムの皮は焼けただれ、体の各所から出血している。


 もう、ほとんど意識は保てない筈だ。


 その場には、バチり、バチりとだけ、電気が走っている。


 そして、俺の腹には奴の剃刀が刺さっていた。

 攻撃が避けられないと判断して、すぐに投擲したのだろう。


 それを引き抜いて地面に投げ捨てる。


「まだ…まだだ」


 ボロボロのカリムは意識を朦朧とさせ、血のカーペットを作りながら、ほふく前進で投げ捨てられた剃刀に進んでいる。


「世界を、壊してやる。俺には……壊せるんだ」


 俺の頭もボロボロだ。左手は完全に感覚がない。

 もしかしたら、右手は消えているのかもしれない。もうそろそろ俺の体は消滅する。


 それでもただ一つ。懸念すべきことがある。


 杜若カリムは、まだ諦めていない。奴は世界を破壊するつもりだ。


(どうする?殺すか?)


 散っていく意識をかき集めながら思考しようと試みる。


 このままこいつを…、殺すべき(・・・・)か。


 両膝を着いき俯いた俺の頭上に電気の剣が作り出される。

 奴の脳と神経を焼き尽くすならこれくらいで十分だ。

 


 どうする。どうする。どうする。



 この男には、その先が見えているのだろうか。俺が消えた先の未来が見えているのだろうか。



 その未来で、俺のいない未来で世界を崩壊させられるのなら、その責任の一端はここで奴を殺さなかった俺にある。




───その最悪のケースを俺は許容できるのか?




 奴には未来視がある。この先に奴の目的が可能な未来があれば、奴は迷わずそれに突き進む。




───そんなの、許容できるのか?



───そんなの、許容できない。



 息ができない。

 早くしなければ、こちらが消える。


 

 背負う覚悟は、決めた。










 皮膚が熱い。

 息ができない。

 それでも、望みは叶えたい。

 未来なんかに縛られて、動きたくない。

 国を、社会を守ることに、縛られたくない。

 僕は、自由に生きっていいんだろう?

 だから────


 そして、脳が焼かれた。








「おい…!」


 中央広間に来た茨木は一つの焼けただれた死体を目にして、その場に駆け寄った。

 その手には剃刀が握られている。


「カリム、だな。まだ、そんなものを持っていたのか」


 顔の一部からその死体が誰のものかを判断し、深くため息をついた。


「…。リツトは、どこだ?」


 その場に、来ていると連絡のあった杜若リツトの姿はなかった。

 残されていたのは、彼の血痕と、2本のナイフだけだった。

 












「五年、待った」


 国会議事堂が襲撃されてから5年が経ち、桜が咲き始めた頃、一人の女が刀のような武器を持って墓地内を歩いていた。

 その5年の内に前代未聞の事件の首謀組織の構成員は全て検挙され、誘拐された少女もスパイが彼女に持たせていた記憶のバックアップで、見事元の生活に戻ることが出来た。


 ところで、彼女の歩く墓地には、最近とある都市伝説が流れている。

 それはとある幽霊の噂。


 夜のとある時間に謎の幽霊が、電気の音を立てながら現れるというもの。


 様々なSNSで画像と共に話題になり始めている。

 その画像は5年前、突如行方不明になった男の風貌と酷似していた。


「久しぶり」


 杜若家の墓の前に立つその男を、椿クイナはその手に持つ星砕きの刀で肩からすっぱりと切った。

 すると、その幽霊とよばれた男は実体を取り戻し、墓石に思い切り倒れこんだ。

 杜若リツトの顔、体をした人間が彼女の目の前にいる。

 彼は墓石を背もたれにして、ゆっくり座り込んだ。


「なんだ…。これ」


「この刀の効果。その、能力についてのデータが残っていたから、切るとリツトの体に戻せるように改造したの」


 彼女は爆発する喜びの感情を抑えながら説明している。


「そうか、頼んだもんな。俺のこと…ありがとう」


「どういたしまして。…うん、これからも、頑張らないとでしょ。さぁ、行こう!」


 杜若リツトは彼女の差し出す手を握りしめて、彼女に引っ張られながら立ち上がった。

 霊園の外にある満開の桜が、夜の街灯に照らされていた。


この作品を読んで頂き、ありがとうございました!


彼はこれからも色々ありますが頑張っていくでしょう。



最後に元々カリムが考えていた作戦について。

彼の作戦はサザンカと手を組み2対1かつ、異能局の援護を受けられない場所で茨城を倒すことでした。

リツトが無理をしなければ、そのまま立法、司法、行政を崩せました。

崩したら各国にいる仲間と共にその混乱を大きくするつもりだったようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ