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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
雷霆のアイリス
49/50

即決、即断、速攻

「私は君の味方だ。安心してくれ」


「あ、ありがとうございます」


「ああ、話があるがそれは後だ。そこで待機してくれ」


 茨木は手袋を嵌め直し、一歩一歩、佐々里に向かって歩みを進めていく。


 彼女の放つ冷気は辺りのモノを凍らせる。普通の人間が近づけば血液から凍って動きが止まりもう二度と動くことはないだろう。


 そんな彼女の絶対不可侵の領域に、茨木は易々と入り込んだ。

 体に異変はない。

 超能力者は、能力が成長するにつれて、身体能力も強くなる。

 能力を極限にまで高めた彼の身体能力は人間の域を超えていた。それこそ絶対零度であっても、少しの間は活動が出来るほどに。


 彼女は領域に入った茨木に、無言で巨大な氷塊を飛ばす。


 それを殴って破壊した彼は、大きく一歩踏み出して跳躍した。

 放物線を描いて、彼女にとっての絶望が飛んで来る。


 連射した氷の槍も剣も彼に通用しない。

 彼を止めるために氷河を顕現させても、止まることはなかった。


 そのまま茨木はふわりと頭を掴み、佐々里を死なない強さで調整して、地面に叩きつけた。


 叩きつけられた気絶した彼女はそのまま腕を後ろに組まされて拘束された。


「どこかに異常は?」


「ないです」


「なら…?待て、確かスパイと一緒にいる筈だったよな」


 安心しかけた彼は彼女を連れ出したスパイがいることを思い出した。


「あの人は、私を逃がすために」


「…そうか」


(また、守れなかったか)


 彼自身、そのスパイの命を守ることが我儘だと分かっていたが、それでも切り替えきれない。


『こちら茨木、第一目標の保護完了。氷を使う幹部級の女も捕まえた。そちらに送る』


『了解、頼んだ』


 彼は内田に連絡してから、間違っても壊さないために彼女には触れず、出口までの護衛を始めた。







 俺とクイナは第一目標確保の報告を聞くとゆっくりと走るスピードを下げて立ち止まった。


「次どうする?俺としては幹部行きたいところだけど」


「ああ、情報にあった幹部を案内する部屋か…それも良いけど、もう少し構成員を倒していった方がいいかも」


「…そうかもな。それじゃあ、少し遠回りしながら行こう」


 ルートを上に報告してから走り出した。

 この施設には最小限の照明しかなく、どこに移動しても薄暗い場所だった。

 出てくる構成員たちをクイナの一太刀もしくは俺の一撃で倒していく。


 そしてとある角を曲がったその時、奴と出くわした。


 何も言わず銃の引き金を引き、電気弾を発射する。


 それは避けられたが、角の部分を蹴って破片を飛ばして牽制して距離を取った。


「おいおい。物騒だな。挨拶くらいしてくれよ。唯一残った親族だろ」


 角から数メートル退いた俺たちの目の前には杜若カリムがいた。


「クイナ、ここでやるぞ」


「勿論、ここで四肢をへし折ろう」


 クイナは星砕きの刀を構え、俺は電撃を放つ銃を構えながら、ナノマシンの次の形を空想する。


「君は勝てないよ。そういう未来だ」


「今更、お前の言ってることなんて信じられるか!」


 俺は左手から網のように電気を発生させて、そのまま振り下ろした。


 その網はカリムの回避まで予想した広さにしてある。


 まずは一度、電撃を浴びさせよう。


 しかし、その考えの裏を読まれた。

 奴の拳が俺の目の前にまで迫っていた。 


 対してクイナが背後から、俺の右脇の下を通して刀を奴に刺そうとしていた。


 それを見た奴は急停止しながら刀を避け、さらに電気を振り下ろす腕を掴んで、網を下ろすのを遅れさせる。


 すぐにナノマシンを走らせて俺の腕を掴む手を拘束し、銃の形態を小手に変えて殴り飛ばした。


 壁に叩きつけられたカリムを追撃しようと一歩踏み込んだところで、数歩先、俺とカリムの間に爆弾があることに気がついた。


『そいつ逃げる気!』


 無線からクイナの声が聞こえる。

 恐らく奴は、俺たちを爆発で足止めして逃げるつもりだろうが、そうはさせない。


 俺は先程までカリムを拘束していたナノマシンでヘルメットを作り、もう一歩踏み込んで奴の方へ突進した。


 爆風を突き破り、小手から変形させた銃の引き金を、何度も引いて電気弾を発射する。

 一発一発の弾の軌道を散らし、必ず何発かは当たるように調整した。


 電気弾の半分程度を受けた奴は、やや驚いた表情を見せながらも、俺の蹴りを防いで足を掴み壁に叩きつけた。


 俺はそのまま壁を突き破って隣の部屋に転がり込んだ。


 すぐに体勢を立て直して、銃をレールガン形態に変え、奴の逃げようとした先へ水蒸気爆発弾を放った。


 爆発と同時にその穴に移動してカリムの前に立ちふさがる。


「復帰早くない?」


 奴の背後には既に爆発を飛び越えたクイナが控えている。

 これで、俺と彼女で奴を挟み撃ちにする形になった。


『クイナ、訓練通りに』


『勿論。…本部に入電。こちら杜若、椿班。カリムと戦闘を始めます』


『了解』


 内田隊長の了承を聞いた俺は引き金を引きながら、彼女は星砕きの腕部分に内蔵されている小さな銃を発射しながら奴へと向かって行った。


 俺はクイナの弾丸は避け、彼女は電気弾を刀に当ててそれを刀身に纏わせた。


 この電気を吸収し利用する機能は俺との連携を見越して、彼女の星砕き限定で追加した機能だ。

 俺は銃を小手に変えて殴りかかる。


 攻撃を予知した奴はその回避行動の移ろうとしたが、回避する先にはクイナの刀がある。


 つまり両方の攻撃を防御するしかない。


 俺は異能局に入ってから、杜若カリムを倒す方法をずっと考えてきた。


 その方法は言うだけなら簡単な『速度と手数で圧倒する作戦』。


 奴は人間だ。身体能力には限界がある。

 先程の、爆発を乗り越えた先での電気弾を全て避けられていなかった。


 つまり、奴を水に沈めれば死ぬし、溶岩に放り込んでも死ぬ。絶対的に死ぬ状況に追い込めば死ぬのだ。


 奴は特別な装置でも着けない限り、空は飛べないし、炎も水も風も操ることは出来ない。


 だから、避けられない神速の連携で、カリムに迫っていく。


 0.1秒でもズレれてしまえば逃してしまう状況で、彼らは上手く立ち回ってカリムと互角の戦いを行っていた。


「マズいねこれは」


 必ず防御せざるを得ない状況に追い込んで防御させ、少しずつダメージを与えていくという作戦は、功を奏していた。


 カリムにも焦りが見え始めている。


 このままいけば勝てるという確信があった。




 その瞬間、俺とクイナの攻撃が止まる。




(何が起きた⁉)


「遅いぞ」


「すいません。ボス」


 カリムにボスと呼ばれた男は、薄ら笑いを浮かべながら俺たちの隣にまでのうのうと歩いて来た。


「苦戦しているようだが…殺すかい?」


 俺とクイナの顔を交互に見ながら、やけに興味なさそうに言った。


「いや、今はダメです。後で殺しましょう」


 カリムは少し考えた後に彼の提案を否定した。


「そうか…分かった。それでは早く行こう」


 それをすんなり聞いた彼らは、すぐにどこかへ走り出した。


『カリムと、リラシオのボスらしき奴らに逃げられました!』


 急いで内田隊長に今起きていることを連絡した。


『そのまま一定の距離を保って追え!戦闘はするな!その二人は第二全員で叩く!』


『『了解』』


 今のあの二人では勝てないそれは俺も思っていたことだった。

 ただ、タダであいつらを逃がすわけにはいかない。


 俺たちは隊長の指示通りに奴らを追跡し始めた。


 そして奴らがとある部屋に入ったことを確認したその時、この部屋に通じる別のドアに沢潟さんと茨木さんが到着したようだった。


 合図をかけて同時に入ったが、どこにも奴らの姿はない。


『逃げた先を探す。待機していてくれ』


 隊長はすぐに俺たちに待機を命令した。

 落胆している場合ではない。

 もし、奴らの居場所が分かったら今すぐに向かう。

 容赦はしない。必ず潰す。


 俺はヘルメットに使っていたナノマシンを元の場所に戻しながらも、依然とモチベーションを維持したままその場に立っていた。


 待機を命じられた間に、互いで情報を共有したり休んだりした。


『見つけました!国会議事堂です!』


 そして数分後、ハスターさんの報告が入る。


(なるほど、意地でも国会を開かせない気か!)


 奴らの目的は、都合の悪い法案を通させないことだ。

 ならば単純に国会を占領すればその望みは解決できる。


 その時、第一のワープ使いが通信に割り込んだ。


『茨木さんこちらの座標まで来てください!』


『分かった!』


 彼はすぐにその場を離れて、指定された場所に向かって行った。

 これは正しい判断だ。

 恐らく、人を一人飛ばす程度の余力しかないのだろう。

 もしあの場所に一人だけを飛ばすなら、彼を飛ばすのが一番正しい。

 しかし、俺にはそれがカリムの手のひらの上であるかのように感じた。


『内田さん、ここから国会議事堂まで、最短何分ですか?』


『ヘリコプターを手配しているが、一時間弱はかかる』


『それじゃあ、俺も行きます。あの力で』


 俺には、茨木さんが向かうとはいえ、カリムが一時間何もしないで待っているとは思えなかった。


『ここで躊躇したら負ける気がするんです』


 この際、俺がどうなってもいい。

 すぐにでも奴を潰したかった。


『あまり推奨できない。君は大事な戦力だ。それが『移動に失敗して消えた』などというリスクだけは避けなければならない』


『あいつはそのリスクを回避することを予知しているんじゃないんでしょうか?実力未知数なボスのこともあります。俺に行かせてください』


 隊長は数秒間考えて結論を出した。


『分かった。行ってこい』


『了解』


 俺はすぐに壁の近くまで行って、右手の銃を小手の形態にして壁に手を当てた。


「クイナ」


 振り返って、彼女の名を呼ぶ。


「ん?」


 俺を見る彼女は微かに笑っていた。


「俺を、頼んだ」


 そう言い残して、俺は目を閉じて、その場から消えた。

次、最終回です。

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