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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
雷霆のアイリス
47/50

逃走経路確保and逃走不可能


 午前9時、地下にある佐々里の拠点の中は大忙しであった。


 あと8時間後にリラシオの全勢力が集結し、その1時間後には進行を始める。


 戦いのために必要な武器や食料の最終確認などで人が右往左往している。


「ご飯食べたかな?」


 井原原はガスマスクをしたまま、食事を食べた翡翠に話しかけていた。

 ガラスの先にも誰もいない。


 記憶をいじくり価値観を変えさせた翡翠リカの世話はチーフである彼一人に一任されていた。

 つまり、ここには彼ら二人しかいない。


「はい。美味しかったです」


 彼女は既に食事を終えてベッドに座って休んでいた。

 井原原はテーブルの近くにあった椅子を彼女の前に置き、それにゆっくりと腰かけた。


「君のやるべきことって、なんだっけ」


「…はい?」


「いや、確認したくて」


 彼は一つ一つの言葉を慎重に選びながら彼女に問いかけた。

 彼女は今、無垢で真っさらな状態だ。

 それに新たな色を付け加え、この戦いから逃がすこと。それが彼に新たに下された任務だ。


「この社会を変えることです」


 彼女は脳にプログラムされた解答を答える。


「それで君は、この社会についてどれくらい知っているのかな?」


「…?」


 その問いに、彼女は目を丸くして答えている。

 この施設の外、つまり外の世界について、皆目見当が付いていないようだった。


「そうだよね。君はまだ、壊す対象を知らない。もう一つ質問しよう。どうして君は社会を変えるんだい?」


「……?」


 その質問に彼女は答えられなかった。

 まるでエラーを吐き出した機械のように、ポカンとしている。

 井原原はそうなることを予見していた。何故なら、そう答えるようにプログラムされていたたから。


「知りたいと思わないか、君が壊そうとしている社会について」


「貴方は知っているんですか?」


 当然の質問だ。

 疑問はすぐ言葉にする。そういう風にプログラムされたから。


「ああ、勿論知っている」


 井原原は唾を飲みながら、彼女が興味を引くように祈りながら話し始める。


「そうだな。社会ってのは、その人によって変わる場所だ。少なくとも私は壊すべきではないと思っている。確かに理不尽も不幸も屈辱もある、だけとその分幸せと可能性と希望に満ちている。一度その目で見てみると良い。壊す壊さないはその時に決めたらどうかな?」











午後4時、それまでに町を徘徊した後に、とある二人と面会をして、クイナと待ち合わせの場所に戻って来た。


「どうだった。友達は?」


「元気だったよ。相変わらず」


 とある二人とは、押上タケルと鴨川マイである。これも、桜島と同じように事前に許可を取っていた。


「応援してくれるみたいだ」


「そう、良かったじゃん」


 俺がリラシオから離れた一連の事件の後、俺は初めて彼らと面会した。


「ああ、タケルは願い果たさなかったら呪ってやるって、冗談っぽいけど。マイも同じ、だった。上手くいかなきゃ殺すって」


「期待されてるってこと?」


「そうだな。そんなところだと思う」


 仲直り、なんてつもりはない。彼らに会ったのは恨まれていることを知るためだ。

 それがハッキリしたからこそ、心置きなく戦える。


「あ、そういえば、言いたいことがあるって言ってたよね」


「ああ、あった。まぁ、俺の能力についてだ」


 俺は俺自身に起こった能力の異変を彼女に話した。


「ああ、それじゃあ、この戦いが終わったら付き合おう」


 思考停止仕掛けたが何とか平静を保つ。


「なに言ってんだ?」

 

 動揺することなく毅然とした態度で答えた。


「付き合う?答えは『はい』か『Yes』で」


「ok」


「「…」」


 そこから、二人共、黙った。

 二人、喋らない。

 変な形で答えたのは流石に不味かった。


 また、あっさり答えられたクイナが動揺しているようにも見えた。


「どうして?」


 沈黙を紛らわすために訳を聞く。


「いや、その能力さ、余りにも、俗に言う死亡フラグ?っぽいじゃん。だから私が君を繋ぎ留めたいから、映画みたいな話にするんでしょ。ただただ死ぬってのは死んでもヤダ」


「だから付き合いたいって…フラグさらに立ててどうするの?」


「じゃあ結婚にする?」


 何故か、段階を三つぐらい飛び越えた問いが返って来た。

 しかし、動揺はしない。

 予想外のことであり、とても嬉しいことではあるが、動揺してしまっては、カリムとは戦えない。


「フラグでっかくなってる。もうあからさますぎるくらいに」


「それで、答えは?」


 彼女は攻めの姿勢を崩さない。


「もし俺が鼻くそほじるタイプだったらどうすんだ?」


「それだったら別れる。でも、ほじるタイプじゃないでしょ」


 そもそも、断る必要なんて微塵もない。

 だが、いきなり結婚ってどうなのだろう、という感覚があった。


「そうです…ね。付き合おう」


 そんなことを思って、俺は彼女の提案を受け入れた。


「そうしようか。…なんで敬語になの?」


「わからん」









 午後4時、俺たちは攻める目標である佐々里の拠点の近くで待機し、作戦の最終確認を行っていた。とあるビルの一室を借り、内田隊長が机に地図を広げて説明し始め、俺たちはそれを椅子に座りながら聞いている。


 その地図は佐々里の拠点について鮮明に記されたものだ。どうやら、こちら側のスパイが上手く情報を集められたらしい。


「作戦は第一、第二と合同で行う。第三は要人の警護だ。今は霞が関にいる。さて、既に言った通り指定したルートへ侵攻、各自好きに暴れて迅速に行動不能にしてくれ。行動不能になった構成員はバックアップ班が拘束する」


 この場には第二部隊の全員がいて、並々ならない緊張感が流れていた。


「ただもう一つ、今回は翡翠リカさんを保護する。という任務もある。情報によれば、彼女は既に記憶を改変されている。多少パニックになるかもしれないが、連れ戻してくれ。記憶に関してはこちらで戻す手段は用意した。とのことだ」


「少し、いいか?」


 全ての確認が終わったところで、茨木さんが全員の注目を集めた。


「作戦開始まで時間がある。私の話を聞いてくれないか」


「どうぞ」


 内田隊長が許可すると彼は2秒程度の間を置いてから話し始めた。


「ああ、杜若カリムについてだ。奴は私と同じ、特別対策課の前身、異能局鎮圧課の初期からいたメンバーだ」


 俺は言葉には出さずに驚いた。杜若派に現れる以前のカリムの過去を知らなかったからだ。


「初期は私、そして十五代ほど前の警察庁長官、杜若カリムの3人だった。役割は先代の警察庁長官が指揮、私が戦闘、カリムがスパイ兼情報収集だ」

15代も前となると、俺が生まれる前の出来事なのだろう。


「それがある時、壊れた。表には出ていないが、指揮を執るべき彼が殉職し、それと同時に奴が異能局を抜け、そして私だけが残った」


 当時のことを思い出したのか、彼の声は寂しさを孕んでいる。


「理由は、私にも分からない。一人欠けたところで、散開するようなものではなかった筈だと、そう思っていた。今でもそう思っている。だが、いや、だから」


 寂しさは次第に抜けていき、決意が前面に現れてくる。


「旧友を止めて、裁きを受けさせる。どうか、力を貸してくれ」







 午後5時、リラシオの全勢力が佐々里の拠点に集合した。


「どうも、こう、直接顔を合わせるのは初めてだね」


 リラシオの長が、空中で座っている姿勢を取りながら話を進行しようとしている。

 その場には、佐々里、高宮の長が集まっている。

 杜若カリムは少々遅れており、まだこの場にはいない。


「「…」」


 彼らは初めてこの組織のボスに出会った。


 前々からその存在は知っていたが、存在以上の情報を持ち合わせていなかった。


「畏まらなくていいよ。ああ、自己紹介がまだだった。…私の名前は…そうだ。サザンカとでも呼んでくれ。呼び捨てでも良いよ。よろしく!」


 幹部二人は、やけに親しげに話しかけてくるサザンカと名乗る男を疑っていた。


 そもそも、彼らにはこの男が自分たちの長だと思えなかった。


 彼らがこの男に従えるか考えていたその時、バン、と大きな音を立てて扉が開く。


「佐々里!」


 息を切らしたカリムがサザリの名前を呼びながら部屋に入った。


「クソがァ!そっちの未来か!」


 彼女の姿を確認するとすぐに外に出る。


 バタン、と乱暴に扉が閉じる音がした数秒後、訳が分からない佐々里は何が起きているのかを知るために無言で彼の後へついて行った。


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