煙と風の舞うこの場所で、地に伏せるまで戦おう
俺はとある座標にこの新しい体を使い、電気の光で煌びやかに輝く東京上空を飛んで向かっていた。カモフラージュをしているので気づかれることはないらしい。
倒すべき目標は、幹部候補の風使いの男。
準幹部級の実力者で、俺が倒すべき強敵だ。
彼のいるビルの屋上を覗くと、彼が彼の部下に何か指示を出しているようだった。
「君が、風野だね」
空中に浮遊しながら、目標である紺の袴と道着を来た青年に話しかける。
「だからどうした?」
「君を捕まえる」
辺りの風のせいか、この場に来てから飛行機能に異常が出てきた。
「…重いな。人間ではない。アンドロイドか。可能性があるとすれば…ウィローか。報告にあった」
どうやら彼らの間でもしっかりと情報共有を行っているらしい。
だが、この姿を晒したのは初めての筈だから、俺の実力の底は見えていないだろう。
何も言わずに、威力が抑えられた右腕のミサイルを彼に向けて発射した。
驚きながら、風で軌道を逸らそうとしたが、逸らされる前に起爆、轟音と爆風が彼らを覆う。
視覚支援機能を解放し、煙の中での彼らの位置を把握して、制圧しようとした瞬間、気流に異常な変化が現れた。
(これが彼の力か)
その風たちは、目標の左腰辺りに集まって刀のように集まっている。
抜刀の予備動作を見た瞬間にブースターを噴射して彼の斬撃を回避した。
さらに複数の風の斬撃が来たので、それらを避けて内蔵されているレーザー銃を打ち込む。
「くっ」
相手は対空性能に優れている。さらにこちらは火力過剰で地上に被害が出てしまうかもしれない。上手く立ち回れば、何とかなるかもしれないが、初戦闘でそんな自信はない。
ビルの屋上に着陸し、両腕から刃を出す。
それに対して彼は抜刀術のような構えを取って、俺を待ち構えている。
カメラを切り替えて、風が集まっているという事実を観測しながら次の手を考える。
そして、異能局にある能力者のデータから風使いの強さを推し量る。
「一つ、聞いても良いか?」
風使いがこちらに聞こえるように声を張り上げながら聞いてきた。
「なんだ?」
「何故ここに来た。異能局に頼っても良いだろう」
彼に聞こえるように正々堂々と答えた。
「当り前のことなんだ。俺は彼女が安心して暮らせる手伝いのためにいる。好きな人のために命を賭けて協力する。そのために来た」
「そうか…私はボスと共に歩むためにここにいる」
感心して彼のことを答えた後、ゆっくりと腰を深く落とし、手ぶらの状態で刀を構える仕草をする。
「参る」
その瞬間、彼の手元に凝縮された風が放出され、全てを断ち切る刃として振るわれた。
回避に成功したものの。俺の後ろにあったフェンスは一刀両断され、二十メートル離れた向こうのビルを傷つけた。
(お構いなしか)
ブースターを起動して、一直線に突っ込んで刃を彼に振るう。
しかし、彼は糸が切れた人形のように、崩れるように倒れてそれを避け、超低姿勢のまま抜刀する体勢に入った。
どうやらその体勢で俺の振りかざした右腕を切断するつもりらしい。
俺は切られる個所をロケットパンチの要領で外し、風が通り過ぎた後にそれを掴んで殴りつけた。
想定外の動きをされた彼はもろに攻撃を食らって吹き飛ばされる。
右腕を取り付けて、その右腕からミサイルを発射する。
彼は風を操ってミサイルを止め、爆風さえも手中の集め、こちらに返してきた。
走り出してスライディングでそれを避けながら懐に入って、体の各所のジェットを使って卍蹴りの要領で蹴りを浴びせさせる。彼はそれを食らいながらも俺の腹に風を当てて吹き飛ばす。
(相当使い方に慣れている。俺が機械でできていなければどうなっていたことやら)
そう思いながら損傷具合を確認する。
目立った損傷といえば、先程食らった風の一撃だろう。苦し紛れの一撃だとしても、装甲に決して無視はできない程のダメージがあった。先ほどの風の抜刀術の威力は絶大。俺の体でも一撃で切断される。ただ、連発してこないということは温存しているか、そもそもできないかの二択だろう。
そろそろ、相手も余裕がなくなってくる頃合いだろう。そこで彼の底を観測して対処する。
彼はまた、腰を深く落とし、攻撃する姿勢を見せた。
時が止まったように、互いに動かずに様子を伺う。
あの風の攻撃は脅威だ。できれば狙いたいのは攻撃後の瞬間。
対して相手は俺の狙いくらいは分かっているだろうから、最初の一撃を確実に当てたいはずだ。ただ、俺の推力があれば、斬撃を回避することは出来る。
そして俺の勝利条件は『殺し以外の手段を用いて彼を無力化する』ことである。右腕には能力者の動きを止められる新作のアンプルがある。これが一番手っ取り早く確実だ。
個人的には、この均衡が長引いてもさほど問題にならない。こちらには自己修復機能がある。腹部の傷も修復し始めている。
その時、彼が一言呟いた。
「奥義」
辺りの風が彼に向かって集まっていく。
ここに来る時、彼はどこかへ向かおうとしていた。つまり、『どこかへ急いでいる』。
その焦りからか、奥義という技まで披露し始めた。
脚部の動きが鈍くなっていることが分かる。どうやら俺への妨害をしているらしい。普通の人間なら動けなくなるほどにはきつい拘束だが、ブースターを使えば無理矢理抜け出すことは可能だ。
行動不能になるほど妨害された訳ではないが、この状態なら確実にあの斬撃は避けられない。
ならば、切断覚悟で飛び込んで倒すしかない。
「山破斬」
呟きと風の収束の確認と共に、俺はブースターを起動。さらに姿勢による斬撃範囲を予想し、そこにできるだけ被らないように飛び出す。
斬撃の速度は先程の抜刀術よりも素早く、容易く俺の右足部分を断ち切った。
そんなことに構わず、損傷も織り込み済みの飛行システムを起動。隙を狙うために全速力で斬りかかる。
対して、彼はすぐに二撃目への予備動作に入る。
計算の結果、間に合わないことが分かった。
もう一発避けるしかない。
俺は彼の周辺にミサイルを撃った。
爆発による音と爆風で少しだけでも風を揺らがせる。
そこでできた少しの空白を詰めて腕を振り上げる。
しかし、その右腕は振り下ろされる前に切り落とされる。
(読み違えた!)
彼は、予備動作なしで俺の腕を切断するほどの力を溜め込んでいた。
首が切断されていないということは、連発はないはずだ。
だが、二撃目を防ぐ術が無くなってしまった。
(まずい!)
急造で作り変えられたこの体は、脳のパーツでしか指示を出せない。
つまり、首を斬られたら体を動かせなくなる。そうなれば頭を潰されて終わりだ。
体の機能を上手く使うには、何らかの形で頭と体を繋げなければならない。
(どうしようも!)
そのまま、俺は何の抵抗もできないまま、風の刃がするりと俺の首を刎ねることを許してしまった。
首は転がり、俺の体は倒れて動かなくなる。
「やっと、終わったか。元は民間のアンドロイド、首を切れば動かなくなる…か。あとは下の彼らに任せるか」
風使いは深呼吸をして、心の底からの安堵を噛みしめていた。
彼の高まっていた心拍数はゆっくりと下がっていいる。
「これで、加勢に行ける」
彼はすぐにどこかへ飛んで行こうと膝を折り曲げる。
そして背中をミサイルで撃たれた。
「⁉」
威力が抑えられたものだから、体が頑丈になっている能力者なら死にはしない。
彼は何が起きたか分からないまま、床に叩きつけられる。
俺は薄く伸ばしていたナノマシンのコードで首と体を繋げていて、体をいつでも動かせるようにしていた。
すぐに頭を巻き取って胴体と接続する。右腕と右足を回収している暇はない。残っているナノマシンを仮右腕の生成だけに使って、ブースターで奴の懐へ接近する。
風を使って強引に体勢を立て直した彼は、驚きの表情を隠せていなかったが、それでも彼の片手には風の刀が形成されようとしている。
しかし、中途半端に形成された刀は振られることはなく、彼の首と四肢を地面に拘束された。
貼り付けとなった彼に、左腕に内蔵していた対能力者用の麻酔銃を向けた。
彼の顔は悲しさに満ちていた。
引き金を引いて彼を気絶させる。
彼のバイタル状態を観察して、完全に動けなくなったことを確認してから、第一部隊へと連絡した。
『目標、沈黙』
「そうか。ご苦労」
桜島さんが現れた。
「相当、傷ついたね」
俺はブースターをゆっくりと切って、緩やかに着陸した。
「はい。かなり…やられました」
「まぁ、今回は大忙しで作った急造品だ。気に病むことはない。次の改造では、色々工夫しよう。パーツの接着は出来るかな?」
「出来ると…思います」
俺は拘束に使っていたナノマシンを回収して、切られた部位を接着する。
「便利ですね。ナノマシンは」
「値は張るがな。それにしても、随分と使いこなせるみたいだな。緊張でガチガチになってしまったらたまらないからな」
「そう…ですか」
俺は接続した部位の調子を、動かして確認する。
「それでは、ひとまず帰ろうか」
「はい」
彼に応えて数歩歩いたその時、躓いてしまった。
ナノマシンで接合した部位による歩行のための姿勢制御プログラムがなく、その場に転んでしまった。
その拍子で首と胴体を繋げていたナノマシンが崩れてしまい、固定できなくなった頭が桜島さんの前にコロコロと転がった。
「絵面がホラーだな」
「…拾ってください。お願いします」
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、戦闘のデータをインストールしたウィロー君、人格が戦闘用になって、ついでに一人称が変わっています。




