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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
10/50

偽りのピースキーパー 破

「いいのか?」


「後悔はないです」


 俺は枷と呼ばれる立方体を持ち上げた。こちらを向く面から輪っかを取り出す。


「それを手首に掛けてくれ」


 ゆっくりと輪を手首に掛けると、電子音声が頭の中に流れ始めた。


『杜若リツト、登録、完了しました』

『対超能力者拘束鎮圧兵装 拘電。登録が完了されました。機能を公開します』


 枷の重りが変わった形の銃に変形した。変形で残ったパーツは小手のように俺の手を防護している。俺の銃は様々な形へ変わり中遠距離で多様な攻撃をすることができるらしい。


 今の形は基本の拳銃型。他にもマシンガン、小型バズーカ、アサルトライフル、グレネード銃、マスケット銃、スナイパーライフル等。本来の武器とは違う使い方だが、それぞれに役割がある。


 超能力者との戦闘を前提としているため、あらゆる状況でも異常なく起動でき、さらに無線機能、ナイフや小手の形態もあるらしい。


「これが…」


 内側から力が湧いてくる。今までと見える世界がまるで違う。あまりの光景の違いに言葉を失っていた。


全能感が迸り、体が軽い錯覚もしている。


「それが我々の提供するものだ。対超能力者用の兵装、それらを総称して『カルマポリス』という、少々、物騒な名前だな。…それと」


 内田さんは懐から銀のブレスレットのようなものを取り出した。


「これは携帯用の枷だ。それを使うことで能力の強化のみは出来る。潜入捜査や調査の時に、街中で枷をぶら下げながら歩くわけにはいかないだろう」


「そうですね。ありがとうございます」


 差し出されたものもすぐに受け取った。


「さらに、これも渡しておこう。ハスター」


 彼はハスターに箱を持ってこさせて、俺の前で中身を見せた。


 それは親父が使っていた蜻蛉型のドローンだった。


「これは君の父親の遺品のドローンだ。確か君が提供した情報の中にもあったな。勝手に調べさせてもらったが、中々いい兵器だった。能力そのものを強化するというコンセプトは、私達にはなかったからな。そしてこの兵器、どうやら今は君にしか使えないらしい。ここで使ってみてくれないか?」


 俺は頷いてその蜻蛉に触れた。


 するとそのドローンは飛び上がって、すぐに俺の肩に取り付いた。


「うおっ」


 慌てていると、背後まで移動して親父が装着したのと同じように変形した。

 この装置が腕に着くとかなり目がさえた気がする。平時よりも冷静に能力を扱えそうだ。


「どうだ?ハスター、何か見えるか?」


「強制的に精神状態を変えているようです。能力を十二分まで引き出す装置ではないかと推測します。…まだ、一部機能がアンロックできていませんが。リツト様、それを解除してみてください」


 彼女は俺の体の状態をすぐに言い当てた。目に特殊なカメラでも埋め込んでいるのだろうか。


「あ、はい」


 そして装置の解除に了承したものの、これを解除する方法が分からない。


 困ったその時、その頭の冴えが急になくなった。


「見たところ脳波でコントロールするもののようですね。起動前後で外見に変化はなし。敵に気づかれないように能力をブーストしたりできますね」


 手を開いたり閉じたりして強化された力を実感する。


「リツト君、体に異常はないか?」


「特に無いですよ?」


「そうか。なら良かった。それは君のものだ。自由に使ってくれ」


「ありがとうございます!」


「これで話は終わりだ。ロビーまで送ろう」


 俺はドローンと拘電を大きい袋に詰めて、内田さんに連れられて地下から出た。

 ロビーで彼と別れる際、俺は内田さんにお願いしたいことがあった。


「あの、内田さん」


「ん?どうした?」


「出来るだけ偉い人と話を出来ませんか?直に話して、自分で確かめたいんです」


 これ以上、味方を疑いたくない。

 自分の陣営を信頼するために、異能局に指示を出す人間と直接話をしておきたかった。


「ああ、それも掛け合ってみる」


「すいません。色々わがままを聞いてもらって」


「信頼は重要だからな」


「はは、そうですね」


「あー…」


 内田さんは俺の返事の後、すぐに何かを言おうとしていた。


「どうしたんですか?」


「今日にも、リラシオが動き出す頃だという情報が入った。その…、どんな作戦でも君は納得してくれるか?君がどうなろうとも」


 どうやら、異能局はかなり考えられた作戦を計画しているらしい。

 しかも俺が不利益を被りそうだ。


「はい、妹を守れるなら構いません」


 妹が関わってくるなら話は別だが、内田さんの口ぶりからして、彼女に危険がある作戦ではなさそうだ。


「ああ、そうか」


「それでは」


「…ああ、また」


 そうして俺は、一人で歩き出した。

 俺は今、霞が関にいて、国家の臓器のような場所が俺を囲っている。国土交通省、警視庁、道路の向こうには法務省、裁判所などの司法関係の施設。俺は遠くの建物を見ながら岐路に立とうとする。


 霞が関駅の改札を通ろうとしたその時、肩を後ろから軽く叩かれた。

 振り向くと、タケルとマイがいた。


「話は、できるよな。そこの喫茶店でどうだ?」


 脳の処理が追いつかない。

 目の前の光景が、にわかに信じられなかった。


「あ、ああ、できる」


 朧気に彼らに返事した。俺たちはまた、喫茶店に集まることとなった。


「訳を聞いても良いよな」


 タケルはこちらに顔を見せない。俺自身も目が合わないことを確認してから顔を俯かせたままだった。もう何が何だかという状態だった。


「その鞄、なに?」


 マイが俺の持っていた大きめの鞄を見ている。お前らを倒すための武器だ。なんて言えるはずがない。


「…メシ」


 整理できない頭の中で、ふと出た言葉をそのまま発した。


「そ…」


 彼女は興味なさそうに、目を逸らしながらつっけんどんな態度で答えた。

 俺の顔は決して見ようとしない。


「…本当に裏切ったのか?」


「ああ、裏切った…」


 そうだ。一切、言い逃れできない。


「カリムにハメられたわね。私達、明らかに」


 彼女の口ぶりからして、ヒロカネによる杜若家分家の取り潰しについては、事前に知らされなかったようだ。


「ああ、そうだ。でも、それは…」


「それは?」


 彼女が淡々と聞き返す。


「言い訳にはできない。俺はお前たちを裏切った」


「ああ、裏切ったな。俺たちの信頼を消し去った。もう戻らない。すまない」


「はっきりしてよ。こっちだって…こっちだって」


 マイはそっぽ向いたまま呟いた。

 他にも道が、もっと良い方法があったかもしれない。その思いが消え去ることはない。


「でも、それで何か変わるわけじゃない。お前はいつも目の前のことで手一杯だろ。それでいいんだよ」


 タケルは純粋な敵意を向けた目で俺を見ている。彼は完全に切り替えられたらしい。


 そして俺は、まだ覚悟ができていない。現場で会えば、まだ踏ん切りがついたのに。どうしてここで会ってしまったんだ、と悔いているばかりだった。


「元気かい⁉少年少女たち!あ、違うか!酒飲める年だったね!」


 その時、俺たちをあざ笑うかのような調子で、突然、カリムが現れた。


「黙ってくれ…」


 驚きもしたがそれよりも怒りが前に出る。

 目の前の男の軽さに、心の底から怒りが煮えたぎるように湧いてくる。


「ひどいなぁ。一泊泊めてあげただろう?それにしても、僕の計画をよく見抜いたね」


「褒めるな。気持ち悪い。それに、それとこれとは話は別だ。でもって、お前のその喋り方、わざとだろ。やめてくれ」


「断る。僕の仕事は口を動かすことだ。ああ、そうだ。タケル君とマイ君もそこに座っていてくれ。楽しくなるから」


「これ以上、杜若派の印象を悪くしたくないなら、口を慎んでください。それにあの時、『口は挟まない』って言いましたよね?」


 タケルも彼の行為に怒りを覚えたのか、敬語ではあるが語気を強くして忠告した。


「黙ってくれます?」


 それにマイも続く。彼女は明らかにカリムを睨みつけていた。


「コワッ、最近の子は怖いな~」


 ここまでこいつのシナリオだとしたら、奴はなにを思ってここに立っているのだろうか。


「なに考えているんだ?答えろ」


 机の下でブレスレットを着ける。


「脅迫するね~」


「だろ?喋れよ。お前の仕事なんだろ」


 どうやら、異能局の武器を手に入れたことは把握しているらしい。


「それじゃ、うん。喋ろうか」


 彼は空いている俺の隣の椅子に座って、両肘を机に着ける。


「僕が目指すのは最高の未来ってやつだ」


 彼は軽々と訳の分からない、魔法のような言葉を放った。


「誰も傷つかない未来ってやつか?」


 そんなもの。あるはずがない。


「ああ、うん。嘘だ。本当はこの世界をぶっ壊そうと思ってる」


 彼はいつもの笑顔を崩さないまま、支離滅裂なことを言った。前者と後者、どちらもデタラメを言っているように見える。


「てめぇイかれてるぞ。何があった」


 俺はカリムへの怒りが止められなかった。恐らく、この場も奴が仕組んだものだ。


「いや、僕は正気だ。何も異常はない」


「それで、この場にいることは何かいい未来でも見えるんですか?」


「ああ、その通りだ。視界良好。一切順調だね」


 奴はタケルの言葉にも軽薄に言い切った。


「調子に乗るな。なんだ?訳わかんねぇよ?」


「きっとそれは、君たちの視点と理想が、僕のものと大きく差があるからだね」


 俺の言葉に対し、悠然と語る奴の目は明らかに狂っている。


「舐めるな。この三人を一方的になぶれるんだけど」


 マイも参戦しカリムに攻撃的な態度をとる。


「はは、確かに今の君たちなら出来るかもしれないね。ただ冷静に考えて欲しい。今僕をリンチしても、君たちの立場はどうなる?警察やリラシオにも敵に回すことになるぞ」


 彼は彼女の前でろくろをこね回す動作をしたりと明らかに煽っている。


「こっちだって分かってる」


「そうなら、そもそも言うなよ~、リツト」


 ここにいるカリム以外の三人、全員の怒りが爆発しそうだった。


「俺、帰るよ」


 俺は席を立つ。そろそろ我慢ならなくらなそうだった。今すぐにここから離れたい。


「俺も」

「私も」


 俺に続いてタケルとマイも席を立つ。ずかずかと外に出て、三人は向かい合う。

 奴のせいで雰囲気を完全に壊された俺たちは、強引に確固たる覚悟を決めてここで分かれるしかなくなった。きっと、場所を移しても、アレはついて来る。


「じゃあな」

「じゃあな、タケル」


 タケルは俺に別れを告げる。二度と振り返らないために。


「リツト」


「なんだ?マイ」


 彼女は俺の名前を告げてから少しの間、口を開かなくなる。

 彼女なりに言葉を探しているのだろう。


「潰れ…ないで…」


 彼女は俺に願いを託した。

 もう二度と、普通には会えないかもしれないから。


「ああ、何があっても」


 例え、お前らと殺し合いになろうとも。俺は潰れずにその希望を果たす。







「そうなったかー。何か違うなー」


 一人店に残されたカリムは分かれる三人を眺めていた。


「まぁ、いっか」

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