2章26話 死神の鎖
暗闇、そう聞くだけでも良い気はしない。
でも、今は俺が自由に動けるという事実だけで十分だ。この森の中で暗闇となれば大体の存在から隠れる事が出来る。ましてや、俺には幸運の高さがあるからな。それがある時点で目的自体は上手くいく前提で考えた方が楽だろう。
まぁ、懸念点はある。ただ、その時は……。
出来るのか出来ないのか、そんな考え方をしてしまうと確実に恐れを抱く。そんな事でどうして守りたい者を守れると言うんだ。だって、この手の中には城に残した皆と共に……スミレまで抱え込んでしまった。もう、逃げ道なんてありはしない。
「どうせ……変わらず、殺すだけだ」
そう、何もかもを解決するための策だ。
敵を殺して、その体の全てを俺のものとする。邪魔であろうと何であろうと、今の俺には必要な体を手に入れるための所業だ。それがどれだけ非人道的だろうと似たような事をしている存在に優しさを見せる理由なんて無いだろう。
残念ながらウルの調査で動向は理解している。
そろそろ、時間になる事……そして、ここを通りかかる者達は幸福な生き方を出来ないということだ。少しだけ震えてはいるが大切なものを頭に浮かべれば容易に収まる程度だ。仮に何をしようとも誰かに否定される筋合いは無い。
「ここら辺が───」
森から来た先頭の男の首を一気に刈り取る。
そのまま、二つの短剣を回して構え直す。残りは十人弱、想定よりは多いが雑魚相手なら困る事なんて無い。少なくとも目の前にいる者達は勇者とは比べ物にならない程に弱いんだ。最悪は逃げる手だってある。だから、今は目の前の敵を殺す事だけを念頭に置け。
さすがに人を殺して生きてきた者達だ。
何も言わずに攻めてきた。ただ、攻めてきたのは五人だけか。恐らくは残りの面々で隙を突くといった戦い方なのだろうが……生憎と先に潰すのは攻めてきた者達ではない。既にウルは俺を生かすために力の全てを貸してくれているからな。
「誰だ!」
「シー……ガキが起きちゃうだろ」
影魔法を使っての背後取り、悪くないな。
とはいえ、これは相手が弱いから出来る事でしかない。ましてや、対複数となると一人しか殺せない時点で強みは薄そうだ。ただ、弱い攻撃でも無いのが本当に憎いよ。全ては扱い方次第、ただ、こういった状況ならば……。
「影縫」
殺した男の影を使って全員を縛り付けておいた。
声を出す可能性もあったから影を噛ませてある。そのまま首元を斬ってやれば後は勝手に死ぬだけだ。脈は……止まったか。流れ出た血に関しては既に俺の影を混ぜ込んでいたから自由に操作が出来る。後は極少量の影を含んだ血を戻してやれば生きた屍の完成だ。
「さて、お前達に聞きたい事がある」
「は……」
へぇ、皆まで言っていないのに話し始めたな。
全てが求めていた情報だ。その点からして俺の意識とコイツらの意識は繋がっているらしい。話し方も素振りも弄っていない分だけ、素がこれなのだろう。熱も何もかもを黒魔法で整えてあるから問題は無い。まぁ、ぶっつけ本番だったから失敗する前提だったが……成功して本当によかったよ。
まず、得られた情報としてスミレの両親は生きている。そこは情報の精査のために行った事ではあったが……やはり、状態はよろしくない。何時死んでもおかしくない状況である事には変わりないし、それに母親の方は……。
さすがにスミレには教えられないか。
それに問題はまだまだ多くある。例えば村が冒険者を呼んだという事だ。村長の息子のジール、調べて分かった事ではあるけど相当なクズ野郎だった。それこそ、分かりやすいところで言えば目の前の盗賊達と繋がっていて、自分の手を汚さずに金を得る代わりに物資の提供をしているとか、な。
冒険者を呼んだのも、俺に罪を擦り付けるためみたいだ。盗賊達に村を襲撃させ、俺を殺してスミレを攫う。殺せなかったとしても首謀者であるとして冒険者に引き渡すみたいだ。盗賊からすれば悪事の殆どを俺に擦り付けられるから場所さえ移せば追っ手も来にくい。
ただ、そういった事はバレないから強いんだ。
悪巧みはバレた瞬間に稚拙な策へと変わる。現に夜はまだ深い、幸運値を悪用すれば会いたい時に会えるだろう。それも俺に好条件な状況下で会わせてくれるから気にしなくていい。盗賊の数は百と少しいたはずだからな。……後五つくらいは偵察部隊を潰しておきたい。
「お前達は戻って次の偵察隊と変われ」
偵察ルートは全て把握しているから大丈夫。
問題があるとすれば……偵察部隊が戻ったとして怪しまれないかどうか。怪しまれたなら怪しまれたでメリットはあるから問題は無い。ただ、バレるにしても多少の時間が欲しいところだ。余裕が無いままで進む方が問題ばかりで困った結果になる。
勝てない、上手くいかない……それは無いな。
だけど、それが最善の結果とはならない事くらい容易に予測出来る。やるからには完全勝利、全てが無かった事に出来るくらいの結果を得なければ間違いなく禍根を残す。特にスミレはまだ幼い子供でしかない。菜奈ですらも受け止められるか分からない事実をスミレに話すなんて……無理だ。
だから、居なくなっても困らないようにする。
親に甘えて、新しく来た兄に甘えて……歳を考えれば当然の事だ。俺だって皆がいないのならば一緒に暮らし続けている。でも、出来ない事を出来ると言うなんて無責任にも程がある。居なくなる時は隠れて消えるだけ、全てを終えた時にでも戻ってきて謝ればいい。
そのためにも……許せる訳がないんだ。
俺の大切な妹を、その家族を痛め付けている輩を許せる訳がない。ただ只管に苦しませて、その生き方を後悔させながら終わらない死を味わって貰うだけだ。別に誰かに捧げる鎮魂歌ではない。俺の苛立ちを収めるための八つ当たりだからな。
「夜明けまで……五時間はあるか」
事前の調査が正しければ出る部隊は四つ。
今回と同じ編成ならば偵察に長けた者達が六人で来るだろうな。ステータスで言えば俺に似た速さに寄った者達だ。本物の盗賊達と言えば聞こえは良いだろうが……そういった戦い方なら俺の方が秀でているな。偵察部隊が来るまでの時間があるなら用意は幾らでも出来るだろ。
例えば───
「はろーあーッ!」
持っている道具や必要な物の準備だとか、ね。
こんなにも追い込まれている状況だ。使える物は全て使う気でいる。でも、今回は本当に運が良かった。まるで、こうなる事が分かっていたかのような道具が出ていたんだからな。五つの短剣、その名は『転移の短剣』だ。所有者を定めてしまう代わりに刺した場所へと自由に移動が可能となる得物だな。
裏を返せば、五箇所までなら転移が可能となる。
場所さえバレなければ自由に移動が可能な場所を作れるとなれば……どれ程のチート性能なのかが分かるだろうか。この短剣の本当の恐ろしさは魔力消費は少なく、それでいてほぼ距離を無制限に飛べる事だ。
だから、こうして……敵の一人を殺せた。
残りは五人、だが、目に見えた傷を付ければ俺の傀儡と察してしまうだろう。やるのならば首元を貫いた上での修復が楽だ。……その点からしてヒュドラの毒は扱えないか。本当に面倒臭い女みたいな敵だよ。
「そのために……もう一人、良い女がいるんだ」
ウル、本当に俺には勿体の無い大切な子だ。
その子は俺が成し遂げたい目的のために力を捧げてくれている。ならば、俺は何物でもない俺として結果を出さなければいけない。この両手は俺の前に立つ壁を壊すためにあり、この両足は俺の背後を追ってくる敵を越すためにある。この頭は何者にも負けない知力を維持するためにあり、俺は大切な者達を生きているんだ。
「さようなら。名も知らないゴミ野郎共」
そして、新しき生の中で苦しみ続けろ。
それが───犯した罪への些細な懺悔だ。
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