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王立魔法研究所 ~魂の在処~  作者:


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決戦のカンタータ③

******


 フリューゲルがデューを抱え、ウイングが座り込んで彼女の手を握っている。


 皆が必死に話しかけているけど、デューは目を閉じたまま、ぐったりと動かない。


 唯一、その胸が規則正しく上下しているのを確認して、ちゃんと生きている……デューがそこにいるんだって、俺は手を握り締めた。


「ルークス。黒い靄がどんどんデューに入っていきますわ」

 顔を上げたウイングが、悲痛な顔で俺を見る。


 ……黒い靄は魔力の塊なのだろうから、抑えていても溶け出したものがデューに集まっていくのは当然とも思えた。


 大臣はいまも結界を張っていてくれるけど、たぶん、結界ではどうにもならない類のものだろう。


 いつのまにか、それだけの量の魔力が溢れていたのだ。


「フリューゲル」

「ああ」


 俺はフリューゲルから再びデューの体を引き受け、そっと抱き寄せた。


「――デュー」

 呼び掛けると、彼女の瞼が震える。


 俺ははっとして、もう一度、その名前を口にした。


「デュー?」


「……ルークス?」


「!」


 皆が、息を呑む。


 ゆっくり持ち上がった彼女の瞼の下……『紅く光る双眸』に、俺は固まった。


 デューの目は、エメラルド色をしていたはずだ。

 紅い目をしていたのは、むしろ――。


「……デュー……なの、か?」


 質問を投げる俺の声は、震えていた。


「デュー? ……デューって、誰のこと?」


 彼女の声は、デューのものだ。

 それなのに疑問系で返され、思わず首を振る。


「まさか……そんな」

「――ティルファなのかい?」


 呼び掛けたのはフリューゲル。

 俺の腕のなか、彼女は身動ぐと、首を傾げた。


「ティルファ……そうね。ティルファは、私よ」

「……え、それは、どういう……」


 微妙な返答に、フリューゲルも困惑の表情を浮かべる。

 俺の腕からそっと体を起こして、彼女はにこりと微笑んだ。


「私はティルファだけど、そうじゃないのよフリュー。ティルファの記憶はあるけど、私は私よ」


 フリュー。それは、ティルファがフリューゲルを呼ぶときの愛称だった。

 間違いなく彼女にはティルファの記憶があるんだと、俺は戦慄してしまう。


 それなら、デューは……どこに?


「変よね、でも私は私。やっと体を見つけたわ! ……あっ、あなた、ウイングね? あら、おかしいわ。私が知っているあなたより、ずっと大人っぽいわ?」


 どうしてかしらと再び首を傾げた彼女は、納得したようにぽんと手を打つ。


「そっか、私のティルファの記憶、とても古いものなのね?」


「……ティルファ、君は……」


「そんな顔しないでいいわ。フリュー。ルークスもよ。私とひとつになればいいんだもの」


「ひとつ? なに言って……」

「……まずは私の回収ね」


 俺が聞き返そうとすると、彼女は颯爽と立ち上がり、手を上げた。

 その先に、大臣の背中があって――。


「……! 大臣!」


 俺は咄嗟に声を上げた。

 その瞬間、彼女の手から雷が弾けて、真っ直ぐに大臣へと迸る。 


「……ぐっ!」


 反応した大臣が横っ跳びに転がるのを、雷が幾重にも折れ曲がって追撃した。


 直撃こそ免れたものの、大臣は雷に打たれて呻き声をこぼす。


 その瞬間に結界が弾け飛び、そこにいた残りの靄が揺らめいて……俺は振り返った。


「っ、親父!」

「ルークス!」


 俺が親父を呼ぶのと、親父が俺を呼ぶのと……どっちが先だったか。


 彼の手から俺に向かって投げられたのは、両手で包み込めるくらいの結晶。

 これは――器だ。


「デュー! やめて! 聞こえるんでしょう!? そこにいるんだよね、デュー!」


 メッシュが彼女に飛び付いて、首を振る。


「あなたは……誰? 知らないわ。デューって誰のことなの?」


「おい、ふざけてんじゃねぇよ! お前はお前だろデュー! 起きろ、こっちにこい!」


 応えた彼女に、今度はランスが掴みかかる。


「やめて、離しなさいよ! 私は私。ティルファであっても、私。デューなんて知らないわ?」


 言いながら、彼女が手を上げた。

 そこに、黒い靄が集まるのを見て――俺は。


「させるか!」


 器にほんの少しの魔力を注ぎ、発動させる。


「――! ルークス!?」


 彼女が驚愕の表情を浮かべ、紅い目を見開いた。


 黒い靄が、こっちの器へと渦を巻いて集まってくる。


「なにしているの、ルークス! それは私よ。返して――」


「なら、お前が返すのはデューだ」

「な……」


 悲鳴を上げる彼女の前に、立ちはだかったのは、アストだった。

 赤いマントを翻し、彼は冷たい目で彼女を見下ろす。


 俺はそのあいだに、黒い靄を一気に器へと収めることに成功した。


 あとはデューの体のなかにいる分を、なんとか取り出せれば――!


「もう! 信じられない。あなたアストね!? ティルファが悲しんでいるわ!」


「知ったことか。あいつがそこまで馬鹿な奴なら、なおのこと見限るまでだ」


「……なんだって?」

 フリューゲルが、驚いた顔をする。


 俺も、ティルファとアストが知り合いだとは思っていなかったから、思わず眉をひそめた。


 確かにふたりは騎士団所属。歳も近いはず。


 知り合っていた可能性が十分あったことに、俺は初めて思い至った。


「ティルファの記憶に問うといい。こうすることを、あいつが望んでいたか?」

 アストはさらに言葉を重ね、ずいっと彼女に体を寄せる。


「……う」


 気圧された彼女は、右足を一歩だけ引いた。



このあと激甘回いきます。


朝に投稿するには甘すぎる気がしたので、二時に予約しておこうかと……


よろしくお願いします!

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