表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王立魔法研究所 ~魂の在処~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/67

戦いの輪舞曲⑦

「雷を使った理由……だったよね?」

 正直、まだアストと敬語なしで話すのはそわそわするんだけど。

 私が言うと、彼はこっちを見ずに「そうだ」と言った。


 うーん、返事もそっけないように聞こえるけど、周りを警戒しているからなんだろうな。アストなら話しながら注意を怠らないなんてこと、簡単にやってのけそうだもん。


「勿論、ルークスが止まっちゃって……なんとかしなきゃって思ったから……だけど」

「そうか。……考えなかったのか?」

「えっ?」

「雷の魔法で助けられて、あいつがどう思うかを」

「……どうって……あ」


 私は、アストが言いたいことがなんなのか、やっと気が付いた。


 ルークスは過去、雷の魔法を使う女騎士のティルファさんに守られたのだ。だから、私がしたことは……ルークスにそれを思い出させる行為だってことで……。


「お前が動かなければ、ウイングも、メッシュも動いたはずだ」

「……それは、でも……」

 アストに反論しようとしたのに、言葉が出てこない。

 確かに、私じゃなくてもよかったんだ。誰が倒したって、よかった。


 でも……だからって……。


 言いかけては、口を噤む。それを何回か繰り返しながら、自分の行動を何度も思い返す。

 けど、たどり着く気持ちはひとつだけだったんだ。


――私は自分の胸元で、掌を向かい合わせた。


 バチバチッ……!


 その手の間で、蒼い光が捻れ、弾ける。


「誰でもよかったかもしれない! でも、私がなんとかしたかった! この雷は、皆を……ルークスを守る光なんだから! 助けたいって思うのが仲間でしょ? 私は自分のしたことが間違いだなんて、思わない!」


 思いのほか、大声が出てしまったようで。

 気が付けば、皆の足が止まっていて……。


 先頭のルークスでさえ、目を丸くして、こっちを見ているのがわかった。


「……あ……え、ええっと」


「……」

 私が伝えたかったはずのアストは、無言のまま、私にほとんど背中を向けている。

 代わりに刺さる皆の視線ときたら……い、いたたまれない気持ちになるんだけど。


「あ、アストっ! ちょ、ちょっと! 私、ちゃんと答えただけで……!」

 たまらなくなってアストの紅いマントをぎゅっと掴む。


 ……しかし。その肩が、小さく震えているのに、私は気が付いてしまった。


「……」

「えっ!? な、嘘でしょ!? わ、笑ってるのアスト!」


「なにやってんだお前ら……」

 ルークスの呆れ声に、私は頬が火照るのを感じながら振り返った。


「だ、だって! アストが当たり前なこと聞くから……!」

「あはは、アストがデューに笑ってるのは初めて見た~!」


 被せてくるメッシュに、再びアストに視線を戻す。


「や、やっぱり笑ってるの!? アスト、こっち、こっち見てよ!?」


 笑っているところなんて、見たことがない。

 しかも、笑われているってことは、さっきの質問は……!


 アストはごほん、と咳払いをすると、徐にスッ……と振り返った。


「お前がちゃんと仲間のために動いたのか、知る必要があった」

「や、やっぱり……! って、もう笑ってない!」

 アストは、私がどんな気持ちで雷の魔法を使ったのか、それを知ろうとしただけ。


「ルークスの気持ちは複雑かもしれないが、そこに躊躇ったことで致命的な結果となる場合もある。お前が助けようとして使ったその魔法は、正しい魔法だと判断する」


 そう、私は試されただけなのだ!


「…………!」

 絶句する私の横で、アストはマントを翻し、前へと歩き出した。


「ルークス。あとはお前に任せる」


 すたすたと歩いて行く、騎士様。

 これ、私が恥ずかしいだけだよね……?


 呆然としていると、一瞬の後、ルークスがぼやいた。

「ええと……なんか俺のせいか……な?」


「ルークス、貴方、反省なさるといいですわ?」

「えぇ……」

「そうだね~。僕だってデューがちょっとかわいそうだと思ったもん。アストはそこを指摘したんだと思うけどな~?」

「か、かわいそう?」

「まぁな。……お前を助けたのに、お前、デューを労ってねぇもん。ちったぁしっかりしろよ、『王立魔法研究所、所長』さんよ?」

「……っ!」


「え……?」

 皆がルークスに投げかける言葉に、私は改めて皆を見回した。

 反省……かわいそう……労う?


 ウイングも、メッシュも、ランスも……私と目が合うと笑ってくれて、最後に目が合ったルークスは、なんともばつの悪そうな顔をする。


「あの……デュー」

「あ、うん……」

「ごめん。俺、その――」


 皆がにこにこ見守るなか、ルークスはなにか言いかけてから、大袈裟に咳払いをした。


「ゴホンっ。ほら、皆、さっさと歩く! 拠点に戻る前に日が昇っちゃうだろ!」


「あら。そのまま言えばいいのに……ですわ?」

「ねー。僕、所長がどんな言い訳するのか聞いてあげてもいいよー?」

「おーおー、真っ青だったくせに強がって、なぁ?」


 ルークスはそれを聞くと、すーっと『笑顔』になった。


「そうか。それがお前たちのやり方か。……上等だ」


「……あら、私はなにも。では、あとはお願いしますわ、ランス」

「ふふ~。冗談だってば所長~! じゃあ先に行ってるね、ランス、デュー!」

「お、おい待て。なんで俺を生贄みたいに……」

「ランス。研究報告書、明後日に仕上げてくれればいいからな?」

「……ッ! ば、馬鹿言うなよ! な、なんで俺ばっかり!」

「あはは」

「あはは、じゃねぇよデュー! それ何度目だお前っ!」


 ランスは捨て台詞のようにそう言って、逃げるように前方へと駆けていく。

 それを見送りながら、ルークスは心なしか気持ちがほぐれたような、柔らかい笑みを浮かべていた。


 そして、眺めていた私に気が付くと、翠の目を細めて、小さい声で言った。


「俺を守る光――ちゃんと見たよ。俺は大丈夫。ありがとな、デュー」


本日の投稿です。

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ