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王立魔法研究所 ~魂の在処~  作者:


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戦いの輪舞曲⑥


「……っ!? ランスッ、風止めろ!」

 まず、ルークスが炎を放つのを止め、ランスに大声で指示を出した。


「お、おうっ……」

 ランスがひゅんと腕を振り抜くと、風が止んで……舞い上がる土埃だけが、白っぽく煙る。


 その土埃のなかから、ふわり、ふわりと……あれはなんだろう……? 綿毛のようにも見える、ぼんやりとした黄みがかった白い光が、たくさん浮かび上がってきたのだ。

 

 ひとつひとつは掌に収まりそうなほどに小さく、しばらく舞い上がったあとで、すうっと消えていった。


 そして、私の耳には、はっきりと……。


『……アッタ』


 誰かの、男なのか女なのか、どっちとも取れるような声が、ふうっと触れて。


「ッ!?」


 ぞわりとうぶ毛が逆立った。

 全身が、その声の主を拒んだ。


 私は声の主を探し、あたりを見回したけど……誰も、いない。

 近くにいるのはウイングと、メッシュ……だけ。


 でも、絶対にふたりの声じゃなかった……!


 どく、どく、どく。


 大きく鼓動する心臓は、いつもよりもずっと速く動いていて、呼吸まで乱れてきて。


「おい、これが……溶けるってことなのか……?」

 ランスの声に、我に返る。


「ああ。……あの靄は逃げたみたいだな」


 ルークスが苦い顔をして答え、いつの間にか近くまで戻ってきていたアストが、フン、と鼻を鳴らした。


「警戒は続けておく。早く調べろ、ルークス」

「……助かる」


 白っぽい土埃も薄れて、横たわる黒い魔物の体が少しずつ『溶けて』いくのが見える。

 ほろほろと崩れるように、光の球が舞い上がっていくのだ。


 ルークスは溶けゆく魔物の近くまで行くと、その傍らで左膝を突き、じっと観察を始めた。


 皆がいつも通りにしているから、私はひとり、胸に左手を当てて深呼吸をする。


 狂ったように鼓動していた心臓は、なにもなかったかのように落ち着いた音を刻んでいるし――さっきの声……もしかして気のせいだったんじゃないかな。


 ――ううん、きっと気のせいだ。


 私はもう一度だけ深呼吸をして、気持ちを切り替える。


「この光が魔力なのですわね」

「そうだな。体から空気に還る――やっぱり、こいつは『魔力の器』なんだ。間違いない」


 ウイングに言い切ったルークスの唇が、きつく閉じられた。


 ……彼がどんなことを考えているのかは……私にはわからない。だけど、この魔物がほかの街道にも現れているのだから、ジェスタニア王国からすれば大問題だよね。


 実際、騎士に被害も出てしまったわけだし。


「じゃあ、その魔物のなかには『魂』も入っていたってことなの? 所長」

 メッシュが、眉をひそめて問いかける。

 ルークスはなにも言わずに首を振ってから、項垂れた。


「――いまは、まだなにもわからない。こいつを造ったのがどこのどいつで、なにが目的なのかも……この『器』に、『魂』とやらが入っていたのかも」


 沈黙が下りて、なんだか沈んだ空気が満ちる。

 ルークスはじっと項垂れたままで、なんだかいたたまれない。


「ふう……とりあえず拠点に戻りませんこと? 私、さすがに休みたいのですわ」


 ウイングが、消えていく魔力の光を見つめながらこぼす。

 ルークスを気遣っての発言だと思う。


「そうだね……いつもなら寝てる時間かも」

 私は頷いて、魔力の光……その最後のひとつが空気に溶けていくのを、見守った。


******


 拠点に戻る道すがら、ルークスは無言で先頭を歩いていて……彼の白い外套が、動きに合わせて踊っていた。


 夜の闇は、いまが一番濃くて静かだ。それでも、月と星の明かりがあるおかげで、平原を歩くのに問題はない。


 ウイングとメッシュがなにかを話しながら続き、ランス、それから私、私のすぐ後ろにアストという順番だ。


 ランスは頭の後ろで両手を組んでいて、いかにも適当な鼻歌が聞こえてくる。


 私はといえば、思いのほか疲れていたようで、歩くのも喋るのも億劫だったり。

 ……皆、元気だなぁ……。


「……お前は、なぜ雷を使った」


 ……体力も必要だっていうのは、盲点だったかも……。

 

「……聞いているのか」


 ……走り込み……は、ちょっと苦手だし、どうしよう。


「おい」

「わ!」


 いきなり右肩を掴まれ、反転。

 私は、私を覗き込む明るい琥珀色の眼に、自分が映るのを見た。


「……意識はあるな?」

「は、はい……?」


 勿論、それはアスト。

 驚いて固まっていると、前――つまり私の後ろのほうから、ウイングの鈴の音のような声が聞こえた。


「どうかしましたの、デュー?」

「こいつがぼーっと歩いていただけだ。問題ない」

「……貴方には聞いていませんことよ?」


「あっ、ええと。大丈夫だよウイング。ありがと!」

 慌てて返事をすると、無理はせず、疲れたら言いますのよ? と、慈愛に満ちた優しい言葉が返ってくる。


 このふたり、戦いになると息ピッタリなのに、なんだか普段はお互いつんつんしてるんだよね。

 

「アストも、ぼーっとしててごめんなさい」

「質問にも返せないほどなら、倒れる前に言え。対処が遅れる」

「……質問? ……あっ」


 私は、考えごとの最中に、なにやら聞こえてきた言葉があったのを、急に認識した。


「やはり、聞こえていたようだな」

「あー、うん。考えごとしてたから……」

 返した私に、アストの眉がぴくりと跳ねる。


「考えごとで警戒を怠るのは命取りだ。わかっているな?」

「うう……わかってます……重ねてお詫び申し上げます……」

「……ならいい。では答えてもらおう――歩きながらな」

「ええ……」

「なんだ?」


 私は、皆から離れすぎないように歩き出したアストに歩調を合わせるようにして、首を振った。


「ううん……アストって、なんか変わってるよね……」


 訝しげな顔が、ちょっとだけおかしい。

 私は笑いそうになるのを堪えて、彼と少し話をすることにした。



本日分ですー!

よろしくお願いします!


いつもいらしてくれる皆様に感謝を。

ありがとうございます。

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