表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王立魔法研究所 ~魂の在処~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/67

戦いの輪舞曲⑤

「まず、ひとつ」

「任せろ!」


 ルークスの掌から炎の塊が……そうだな、彼の頭よりいくぶん大きめのものが、ゆるりと放たれる。

 それを、ランスの魔法が瞬時に押し出した!


 炎の塊はすごい速さで魔物に当たって、熱と光りを散らす。


 ……炎を噴出させて攻撃するんじゃなく、風の魔法で塊を飛ばすこともできるんだ……!


 思わず、目を瞠る。


「――あんな使い方もできるんだね」


 私の隣に戻ってきて警戒しているウイングに言うと、彼女は油断なくあたりを窺いながら頷いた。


「ええ。塊を浮かせたり、投げることも可能ですけれど、風の魔法を利用すれば、それだけ速度が出せますの。けれど、加減を間違うと炎を蹴散らしてしまったりしますわ。あれは、ルークスとランスの魔法制御がうまくできている証拠ですわね」


 ……魔法制御がうまくできている証拠……。


 私はウイングの言葉を心のなかで反芻しながら、まさに二発目を撃とうとしているルークスとランスをまじまじと眺める。


 次はもっと大きな炎の塊で、その光がルークスやランスを紅く照らしていた。

 伝わる熱も感じられるから、ランスの位置はそれなりに熱いのかもしれない。


「ふたつめ、いくぞ!」

「はいよっ!」


 ふたりの声に呼応するように、激しく燃える塊が一直線に放たれる。


 ゴ――ズドォンッ!


――今度も、炎は風を受け、散ることなく魔物へとぶつかった!


 そのあいだ、勿論魔物だってじっとしてるわけじゃない。


 触手を使って、ゆら、ゆら、とこっちへ向かってきていたんだけど、あまり速くはないし、距離があると攻撃もできないみたい。

 きっと知能も高くないんだろう。回避する素振りさえなかった。


「三個目いくぞ」

「了解!」

 ルークスの掌から、炎が噴き上がり渦を巻く。それはぐるぐると球みたいになって、膨れあがっていった。

 ランスは、炎の塊を見ながら風を調整しているようだ。


 けれど、予期せずして――ルークスの動きが止まった。


 ビリッ……バチッ!


 黒い体の表面がちかりと瞬いて、魔物から放出たれたのは……雷……だったのだ。


「…………!」


 ルークスの瞳が、困惑に揺れたように見えた。

 なにを言いかけたのか、小さく開けられた口から声は漏れなかったけど……見開かれた双眸は魔物に釘付けされている。


 彼の手の上に浮かんでいた炎の塊が、その気持ちを現すようにゆらりと揺らめいて、萎み……溶けていく。


 私は、ぎゅっと手を握り締めた。


 魔物が珍しいという雷の魔法を使ったから、きっと、ルークスは思い出しているんだよね。


 ……私だってそうだもの。

 ルークスの過去、それを聞いたあとだし、考えないほうがおかしい。 


『この魔物が、過去、王立魔法研究所が襲撃された事件と、関係しているんじゃないか』って。


――だからかもしれない。


 私は、いろんな気持ちを呑み込んで、ぎゅっと唇を引き結んだ。


――動かなきゃ駄目なんだって、思った。


 完全に動きを止めてしまったルークスの代わりに、私は、魔物へと手を向ける。


 大丈夫、たくさん練習したじゃない! 一緒に戦うって、決めてたんだから――!


 集中すれば、翳した掌に、蒼い光が集まり出す。


「! デュー、お前、なにして……ッ」

 最初に気付いたのはランス。


 私は、彼を無視して、そのまま『形』にした魔法を放った。


「いけ――!」


 バッ……バチバチバチィッ!


 弾けた雷が、黒い魔物へと屈折を繰り返しながら突き進んでいく。

 それは、夜の闇を斬り裂く蒼い槍。


 魔物まで到達した私の雷は、その体に巻き付く蛇の如く広がり、弾けていく。

 それでも、私は魔法を放ち続けた。


 ……やがて。


 ぐらり、と傾いだ黒い魔物は……触手で体を支える素振りもなく、雷に吹き飛ばされて地面を転がり――弱々しく明滅したあとで、動かなくなった。


 慎重に、いつまた動いても魔法を撃ちこめるよう、息を殺して様子を窺う。


 しばらくそうしていると、ウイングが私の左肩に手を置いたので、私はようやく腕を下ろし、彼女に頷いてみせた。


「デュー! すごい、やったね!」

「あ、ありがとうっ」

 転げるように駆けてくる、子犬みたいなメッシュにも、笑顔を向けて応える。


「…………」

 ちらと窺うと、ルークスの顔色は、暗くてもわかるほどに蒼白く……私は、その目線の先に転がる黒い魔物へと、再び視線を戻した。


――その瞬間。


「……ッ!」


 ひゅ、と、自分の喉が鳴る。


 倒れた魔物の横に……『それ』が立っていたからだ。

 いつ、来たのか。どこから、来たのか。全くわからなかったのである。


 夜の闇よりもなお暗い、靄がかかったような影。

 人だってことは、わかる。それなのに、顔も、性別も……背丈さえも曖昧で……。


 なんだか、すごく『嫌な感じ』なのに、眼を逸らすことができなくて。


「……ちっ、この野郎!」


 ランスがいち早く風を巻き起こし、影の周りに土埃が噴き上がる。


「しっかりなさいルークス!」


 ランスのお陰で我に返ったのか、ウイングが叱責すると、ルークスは肩を跳ねさせて、弾かれたように腕を上げた。


「……っこの!」


 グゴオオゥッ!


 ルークスの手から噴き出す炎がほとばしり、巻き起こる風に乗って、土埃とともに渦を巻く。




――そのとき、いろんなことが、一度に起こった。



今日は夜に予定があるため、本日分としてこちらを投稿しちゃいます。

やっぱりお休み中にあまり更新できなかったです、申し訳ない。


いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ