第3話:問題発生
それは、ライヴを1ヵ月前に控えた、とても気持ちがいい小春日和の日の事であった。
私はライヴまであと1ヵ月しか時間がないという事で、焦りの色が見え始めてきた。
そのため、私は皆との合同練習以外でも毎日練習をしていた。
周りからは『たまには休憩しな』などと言われていたが、私は自分の体調管理よりもライヴでのミスが最も怖かったためか、
普段ではありえないぐらいまじめに練習に取り組んでいた。
自室で音が漏れないようにドアや窓をしっかり閉めているが、家の中にいると音が聞こえるらしく。
藍香も私の心配をしていたようだった。
だけど、私はライヴ10日前までは納得がいくまで練習をやり続けるつもりでいるので、その日までは頑張るつもりだ。
「皆準備出来てるか?次いくぞ」
ギターを構えている上条は、6弦から1弦にかけて手慣れた手つきでギターのチューニングをしていた。
「大丈夫だよ〜」
咲が自分の喋りを演奏を乗っけるかのようにドラムをリズミカルに叩いた。
皆がそんな風に準備をしている最中、一人だけが普段とは異質な空気を纏っていた。
「ん?野宮どうした。調子でも悪いのか?」
咳き込んでいる和枝を見て、ギターのチューニングを終えた上条は和枝のもとへ歩み寄った。
「ゴホッ・・うん、まぁちょっと喉がね。微妙に掠れるんだよね」
それと何故『野宮』と呼んで、藍香ではなく和枝だけが振り向いたのかというと、
上条が前から二人の事を野宮と呼んでいるせいか二人ともそう呼ばれると感覚的にどちらが呼ばれたのか分かるようになっているからだ。
長い付き合いのせいか二人はその呼び方をあまり気にしていなかった。
そして、苗字で呼ぶのは高校生というだけあってなんらかの事情があるからかもしれない。
「そうか・・・あんま無理すんなよ」
彼は、外見や口調に似合わず意外と仲間思いのいい面があったりもする。
しかしライヴの際、客席から批判の声が上がるとすぐにカッとなるのがたまに傷だ。
「あ〜健ちゃんまたなんかやってる」
瞬間、藍香の言葉により顔が赤くなった。
「なんもしてねぇよ!・・・つーか何ニヤニヤしてんだよ」
藍香はスタンドに置かれているマイクを指でなぞりながらニヤついていた。
「え〜、だって健ちゃん和枝の事・・・ねぇ?」
「ねぇ、じゃねぇよ!それよか天野に同意を求めんな、それと健ちゃんはやめろっていってんだろ」
上条が大きく動揺した。
「そういえば天野は平気・・・だよな」
ものすごいスピードでスネアとハイハットをリズムよくを叩いてる咲の姿を見ていると心配する気になれなかったらしい。
技術的に一番長けている咲はもはや、いかに客に魅せるかというレベルにまで達していた。
「もち平気だよ〜」
外見に似合わず軽々とスティックを振り回す姿を見ると、ギャップからか余計にうまく見えた。
「じゃあ、そろそろ合わせる〜?」
手でシンバルを押さえながら咲が皆に言った。
皆がうんと頷く中、ぎこちなく和枝も頷いた。
そして、咲のドラムから演奏が始まった。
その後、キーボード・ギター・ベースが加わり、音に厚みが増した。そして和枝が一番気にしている歌に突入した。
所々、藍香のコーラスが入ったりしながら曲はサビに突入した。しかしその時和枝が急に大きく咳き込み、
キーボードが不協和音を奏で、数秒の後キーボードと歌が停止した。
「どうしたの和枝、調子悪いの?」
藍香が心配そうに隣にいる和枝に言った。
「・ゴホッ・・・喉がね・・」
そう言った和枝の喉はだれもがわかるぐらいにひどく枯れていた。
「今日は家に帰ったら?」
「そうだね、今日は帰った方がいいかもね。無理しない方がいいよ」
藍香に続いて藤田も家に帰るように促した。
「分かったそうするよ、帰ってやす・・・」
周りのみんながその声に驚いた、いやむしろ本人が一番驚いたであろう。
なぜならば和枝が発したその声は、しわがれた声で普段の和枝の声とは全く違った声であったからだ。
「あれ・・・声おかしいな・・・・」
おかしいなといった表情を浮かべながらアーと軽い発声練習を行ったが、結果はあまり変わらなかった。
「おい野宮、大丈夫か?病院とか行った方がいいんじゃねぇか?」
一番の心配症である上条が和枝の体調を気にした。首から下げられていたギターはいち早く曲を切り上げ既にスタンドに置かれていた。
「どうだろ・・とりあえず家帰るわ」
「和枝・・・」
自分の声を気にしてか、和枝は短い言葉で皆に今日は帰ると伝えた。
全員が体調に気をつけろとかちゃんと休んでなどを言っているなか皆に笑顔を見せ、和枝はスタジオの重い扉を閉めた。
入口に行くとカウンターで店長が頬杖をついてた。
「おや、和枝ちゃん。もう帰るのかい」
何も事情を知らない店長を不思議そうに和枝を見つめた。
「ちょっと喉が・・・」
それで納得したようか、店長はその後何も聞かずにとぼとぼと帰っていく和枝を手を振りながら送った。
入口を出ると、和枝を嘲笑うかのように暖かみを持った風が長く伸びた髪をなびかせた。
和枝は家に着くと、喉の事などを親に報告し近くの病院に行くことになった。
車に乗って行くと10分もたたないうちに病院に着いた。
そして、今日は風邪の人が多いのか病院内にたくさんい人があふれかえっていた。
暇な時間があったため彼女は乱雑した雑誌コーナーから漫画の週刊誌をとりそれで時間を潰した。
20分近くすると『次の方、野宮和枝さん』というアナウンスが病院内にかかった。
彼女は乱雑した雑誌コーナーに先ほどと同じような状態でそれを置いた。そのまま医師がいる部屋を目指した。
彼女が「お願いします」と言うと、医師は彼女に口を開けるように促し、テーブルに何本も置かれていた銀色の薄い板を口に入れ、
舌をずらして問題の喉を覗き込んだ。
その後、医師は『最近無理に声を出したりしませんでしたか』など質問があり、診察は終わった。
そしてどうやら私に下された病状は【声帯ポリープ】といったものらしい。
さすがの私でもポリープという病状は聞いたことがあり、それが何を指すのかも分かっていた。
医者が言うには、早期に発見ができたため副腎皮質ステロイドの吸入療法というもので自然に治るらしい。
そのため私は少しの間病院に通うようになった。そして問題は、声を出すという事を禁止されたことだ。
今の私にはこれは苦痛の時間だった。しかし、ライブにはギリギリ治るというのがせめてもの救いだった。
だが、ライブで私の出番は来ないだろう。親が歌う事を止めると思うからである。
・・・私は、みんなの足を引っ張らないようにあれだけ歌の練習を頑張ったのに、なんでこんな事になっちゃたんだろう。
これじゃあ本当にみんなの足を引っ張ることになってしまう。
一体みんなにどんな顔をして会えばいいだろう・・・。
とりあえず、藍香に相談しよう。
罪悪感が彼女の中に渦巻いているなかで和枝は藍香に自分の喉についての事を相談した。
『ねぇ、ライヴどうすればいいかな』
喋ることを禁止されている和枝は紙に文字を書いて藍香と話した。
「そうだねぇ、もうライヴは諦めるしかないかな」
『そんなのやだよ、やりたいよ』
よほど強い気持ちなのか、文字を書く手がものすごいスピードで動いていた。
「そんなこと言ってもね・・・とりあえずは自分の喉を治す事を考えなよ」
『そんな事言っても』
文字と表情以外に気持ちを伝える手段を持たない和枝は、文字を書く手を止め俯いた。
『私だって頑張ったんだよ?どうして分からないの?』
今まで溜めこんでいた感情が溢れ出した、それはもはや相談と呼べるような代物ではなかった。
「そんな事私に言わないでよ」
『なんでいつも藍香ばっかがうまくいって私はダメなの?』
「だから分からないって!」
和枝の理不尽な質問に藍香は声を荒げた。
『私、みんなに嫌われちゃうかな・・・』
「みんなじゃなくて、愛しの藤田君じゃないの?和枝が言いたいのは」
『ひっどい、何が言いたいの!!」
和枝は紙に文字を書く殴っていた、そこには怒りの何かがぶつけられていた。
「だから和枝は大好きな藤田君に振り向いてほしいんでしょ?だから嫌われたくないんだよね」
さっきの仕返しか、藍香は皮肉たっぷりに和枝にそう言った。
『そうだよ、だからどうしたの?それが悪いの』
「悪いに決まってるでしょ、だってそのせいで和枝はよく音はずすじゃん」
いつもは絶対にこんな事を言わないのに今日の藍香は少しおかしかった。
それ以前に、和枝も和枝で声が出せなくなったことから自我を統制するなにかが外れたのかもしれない。
『そこまで言う!?・・・私知ってるんだよ!!」
「え・・・何を?」
急に話を変えた和枝に藍香は不思議そうな顔を浮かべた。
『あんたも藤田君の事好きだっていうの』
先程までものすごいスピードで書きなぐっていた文字が、急に弱々しくなり遅くなった。
「え、何の事?私別に藤田君の事は好きじゃないよ。別に何とも思ってないよ」
少し間を置き、藍香はさっきまでの態度とはうって変わって急に動揺した態度をとった。
『いつも遠くから見てるのとかはなんなの?』
和枝の文字を書く手は先ほどまでの感情的な書き方と正反対に、機械的にただ動いていた。
「知らないよ、ただメンバーを見てるだけだよ」
『だってさ・・・分かるよ、一応姉妹じゃん私たち』
「だから違うって、違うっていってるじゃん」
はたから見れば藍香だけが喋っている場であったが、藍香にはゆっくりと冷たい声で喋る和枝の声がしっかりと聞こえていた。
「違うんだって、ほんとに藤田君の事はどうとも思ってないんだって」
和枝の目は何かを語るかのように静かに藍香を見つめていた。
「違うんだって・・・」
動揺を隠せない藍香の声は次第に小さくなっていき、とうとう消えた。
空間を静けさが支配する中、和枝の持っていたペンが紙の上にすぅっと移動した。
『いいんだよ、隠さなくても。私たちは姉妹でしょ・・・けど』
そこでペンを止めて、次の言葉を丁寧な字でゆっくり書き藍香に突き出した。
『藤田君は渡さないから』
真剣な顔をした和枝はしっかりと藍香の顔を見て目でも語りかけているようであった。
「・・・分かったよ・・だけど和枝が言うんなら、私も言うからね」
『分かった』
その後、再びこの空間を静けさが支配したが、藍香が部屋を出たことによってか静けさが部屋の主である和枝
を慰めるように包み込んでいった。
そして私は、1ヶ月後のライヴの日に声が出るようにと、しっかりと病院に通い喉のケアに専念した。
『声ってなんなんだろうね?』
どうだろうか、声というのは私が思うに気持ちを伝える一つの手段でしかない。
意外にも文字と表情だけで気持ちなんてものは伝わるものである。
そして彼女には、一歩足を引いて周りを出来ていたのだろうか。
周りが見えるという事は、見えないものもまでもが見えてくることになる。
それは良いことでもあり悪いことでもある。しかし、それを見極めるという事も大事なのだろう。
果たして彼女は正しい選択肢を選んでいるのであろうか?それとも正解の道というものは存在するのであろうか?
一応、こんな感じですけどどうですかね・・・
文章力が無くてスイマセン、あんまり人の感情分かんないんですよね。
とりあえずここまで読んでくれてありがとうございます。
では、次回も頑張ります。




