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twin love  作者: 夢遥
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1/3

2人の恋

 ひらひら……。


 桜の花びらが、蝶のように舞い降りてくる。

 そんな中、第一高校の入学式が始まった。



「新入生代表挨拶。香川琉聖(りゅうせい)」


 先生の言葉に、あたし、宮崎桃香(ももか)は、一気に男の子に目を向けた。


 男の子の名前が、元カレと同じだったからだ。



 整った顔立ちに眼鏡をかけた男の子が、淡々と新入生挨拶をする。


 琉聖は、小5の時、始めて付き合った男の子だ。でも、琉聖君は引っ越してしまって、自然消滅になってしまった。


 昔は眼鏡なんてかけていなかったのに、何か変な感じだ。





 そして、入学式が終わると、みんな、それぞれ自分のクラスに戻って行った。


「はあー。校長の話、長かったねー」


 自分の教室に入ると、隣にいた由羽(ゆう)が、机の上で頬杖をついた。


 高瀬由羽。中学からの友達で親友でもある。


「琉聖君、新入生挨拶。格好良かったよー」


 女子達が、男の子を囲みながら、教室に入ってきた。


「香川君って、中学の時もモテたみたいー」


 由羽は、独り言のように呟いた。


「……」


 同じクラスだったんだー。

それにしても、昔も今もモテてるのは変わりない。


 琉聖君は、あたしの横を通り過ぎると後ろの席に座った。


 しかも、後ろの席なんて、どうしたらいいんだろう……。


「どうしたの、桃香?」 あたしが、気まずい顔をしていたら、由羽が心配そうにあたしを見た。


「じ、実は……」


 あたしは、由羽の耳元で訳を話した。


「えっ、元カレ!」


「しっ!声が大きい」


 あたしは、慌てて人差し指を唇にあてた。


「思いきって話しかけてみたら?」


「う、うん……」


 由羽に言われて、あたしは後ろを振り向いた。


「りゅー、琉聖君。久し振り!あたしのこと覚えてる?」


「……誰?」


「小学校が一緒だった宮崎桃香だよ」


 名前を言ってみたけど、琉聖君は、


「俺は知らないけど。人違いじゃないのか?」


 と、きっぱりと言ってのけた。


「ちょっと!琉聖君の気を引こうとしているわけ?」


 琉聖君の周りにいた女子達が、一斉にあたしの方へ視線がとんだ。


「えっ、そんなんじゃー」


 あたしは、慌てて前を向いて座り直した。


 忘れられていたなんて、ショックもいいとこ!!


 琉聖君が、引っ越ししてから、2、3ヵ月くらいは手紙のやり取りはしていたけど、その後、向こうからの連絡は途絶えてしまったし、仕方がないのかな……?


「大丈夫?桃香ー」


 由羽が、また、心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。


「うん……」


「あたしで良かったら、香川君が思い出せるように協力するよ」


「ありがとう。由羽」


 もし、思い出してくれるなら、どうして急に手紙が来なくなったのか訳を聞きたいー。




「宮崎、日直だよな?先生が英語のプリントを配るようにだって」


 翌日の昼休み。


 お弁当を食べ終わって、教室で由羽とくつろいでいると、琉聖君がプリントを持ってきた。


 担任の先生がくじ引きが、好きみたいで、何でも、くじで決めようとして、日直もくじ引きをした結果。初日から、日直をやるはめになってしまった。


 あたしは、プリントを受け取った。


「俺、学級委員だから、半分配るから」


「うんー」


 あたしが頷くと、横にいた由羽が、


「ねえ、香川君。本当に、桃香のこと知らないの?」


 と、言った。


「いくら聞かれても、知らないけど」


「知らないってー。そんなはずないでしょ?香川君。桃香の元カレだったんでしょ?」


「ちょ、ちょっと!由羽」


 あたしは、慌てて止めようとした。


「俺が、宮崎の元カレだって?冗談だろ?」


 琉聖君は、唖然としている。


 ガーン!!


 何かで頭を殴られたみたいに、ショックをうけたみたいな気分だ。



「由羽……。もう、いいよー」


 あたしは、由羽の袖をくいくいと引っ張った。


「え?だって……」


 由羽は、チラッとあたしを見る。


「ほら、もう授業が始まるし、席に座ろう!」


 その場から逃げるように、あたしは、自分の席に戻った。


 何か、話せば思い出してくれるのかなと思ったけど、やっぱり、琉聖君が、思い出してくれるまで待とうー。




「日直ー。使った教材を準備室に運んどいてくれ」


 英語の授業が終わると、谷口先生が、あたしに向かって言った。


 見ると結構、量が多い。


「これ、全部、運ぶんですかー?」


 思わず、もう一度、聞き返してしまった。


「宮崎、独りでは無理かー」


 あたしに言われて、先生はやっと気づいたらしく、


「じゃあ、学級委員!運ぶの手伝ってやってくれないか?」


 と、琉聖君に声をかけた。


「はい」


 琉聖君は、返事をすると、先生が教室から出て行った後、教材を持って、あたし達は、英語準備室に運んだ。


「あ、あのー。ごめんね、あたしが頼まれたのに、運ぶの手伝うはめになってー」



 あたしは、気まずそうに、琉聖君の後からついて行く。


「別にー。学級委員だし、仕方がないよ」


 琉聖君は、前を向いたまま言った。


「……」


 何だか、話が続かないなー。


 これじゃ、あたしのこと、思い出してくれそうな雰囲気じゃない。


 とにかく、琉聖君と何か接点があればいいんだけど……。




 そう思っていたら、その日の6時間目の学活の時間のことだった。


「来月に体育祭があるので、実行委員を決めたいと思います。男女1名ずつ、誰か立候補してくれる人はいないかー?」

 担任の白石先生が、みんなに呼びかけた。


 でも、誰も手を上げる人はいなく、教室中、静まり返っていた。


「何だ。誰もいないのかー?」


 先生が、もう一度、聞いてみた。

 


 やっぱり、みんな手を上げる気配はない。


「じゃあー。先生が決めるぞー。そうだな……委員長にやってもらうけど、香川、どうだ?やってくれるか?」


「はい」


 琉聖君が返事をすると、クラスの女子が次々と手を上げた。


「琉聖君がやるなら、あたしもやります!」


「あたしも!」


「こんなにいてもなー。よし、誰か推薦してくれないかー?」


 先生は、1つ提案を出す。


 すると、由羽が手を上げた。


「お、高瀬。誰かいるかー?」


「桃ー、宮崎さんがいいと思います!」


 由羽が、あたしをチラッと見た。


「宮崎、やってくれるか?」


 先生は、あたしに目を向けた。


「はいー」


 あたしが返事をすると、さっき手を上げた子達が、


「いいなー」


 と、羨ましそうに声を上げた。


「みんな、静かに!実行委員は、今日の放課後に集まりがあるから宜しくなー」


 え!さっそく、集まりがあるのかー。


 あたしは、小さな溜め息をついた。



「ごめんね。桃香!香川君と一緒にやれば、きっかけが作れると思って」


 帰りのホームルームも終わり、委員会に行く準備をしていると、由羽が慌てて来て、両手を合わせて謝った。


「ありがとう、由羽。何かきっかけがあればって、思っていたんだ……。とりあえず、行ってくるね」


 あたしは、筆記用具とメモ帳を持って教室を出た。


 いつの間にか、琉聖君、教室にいなかったけど、もう、先に行ったのかなー?


 集合場所の第2会議室へ向かった。


「失礼します」


 会議室へ行ってみると、やっぱり、琉聖君が先に来て椅子に座っていた。


 琉聖君の隣の席が空いていたので、あたしは、そっと座った。


「琉聖君、先に来てたんだ……」


 あたしは、メモ帳を開きながら口を開いた。


「職員室に用事があったから、直行で来たんだ」


 第2会議室は、職員室の通りにある。



 3年生の実行委員の人が来ると、委員会が始まった。


「まず、始めに審判員を決めたいと思います」


 3年生の実行委員の委員長が、淡々と話し合いで決めていく。


「残った、1年生の、香川君と宮崎さんは救護の方をお願いします」


 ほとんど、役割を決めると、最後の救護は、あたしと琉聖君に決まった。


 救護は、まんがいち、足に怪我をする人がいると、おんぶすることもあるので、男子の手も借りることがあるから、男女1名ずつらしい。


 あとは、学活がある日に、各クラスの実行委員が、種目別の競技に出る希望者を決めることが決定した。


「良かったー。仕事の分担がすんなり、決まって」


 委員会が終わり、あたし達は、途中まで一緒に帰ることになった。


 琉聖君も、家がこっちの方だったなんて知らなかったー。


「琉聖君は、何の競技をやるの?」


 あたしは、何か話そうと、琉聖君に話しかける。


「俺?俺は、リレーかな」


「そうなんだー」


 確か、琉聖君は走るのが速かった。


「宮崎はー?」


「あたしは、足が速くないから、借り物競争くらいかなー」


 リレーと違って、出された出題を早く見つければ何とかなりそうだしー。



「じゃあ、俺、こっちだから。また、明日ー」


 途中で、琉聖君はあたしにそう言うと、別の方向へ歩いて行った。


「また、明日ね!」


 あたしは、琉聖君に向かって手を振った。




「その後、香川君とはどう?」


 2、3日が経ったある日。


 由羽が、興味津々にあたしに聞いてきた。


「どうって、委員会がある日は、途中まで一緒に帰る日もあるけど何も……」


「何だー。さっき、競技を決める時、桃香に対する香川君の態度が、柔らかくなったような感じがしたから、少し、思い出したのかと思ったー」


 由羽は、つまんなさそうな顔をさせた。


 確かに、最初に逢った時より、優しく接してくれるようにはなった。


「そんなに急に、思い出さないよ……」


「でもさぁー。どうしてそんなに、香川君に思い出してもらいたいの?」


「……」


 最初は、どうして手紙が来なくなったのか知りたくて、思い出してもらおうとした……。でも、今はー?


「わかった!思い出したら、香川君と、また、寄りを戻したいとか?」


「えっ!」


「違うの?」


 由羽は、キョトンとした顔をさせた。


「自分でも、よくわからない……」


「そうなんだー。でも、思い出してくれなくても、桃香がまだ、好きなら応援するよ」


「ありがとう……」


 ぎこちなく言ったものの、応援すると言われても、琉聖君を好きだったのは昔の話だー。



 実行委員の集まりがあるたびに、昔みたいに、琉聖君との会話が増えていった。


 でも、いっこうに思い出してくれそうにないまま、体育祭の日。


 何個かの種目が終わって、男子の騎馬戦が始まってすぐのことだった。



「宮崎ー!こっちの奴を先に、保健室に連れて行って」


「わかった!」


 琉聖君に言われて、あたしは大きく頷いた。


 上に乗っていた子が、争っているうちに、二組くらい上から崩れ落ちて怪我をした。


 幸い、どの子も足の膝や肘を擦りむいて、血が出た程度だった。


 あれこれと委員の仕事をしているうちに、借り物競争の番になってしまって、あたしは慌てて校庭へ向かった。


「桃香!頑張れー!」


 由羽が、近くで手を振りながら、応援してくれていた。


「いちについてー。よーい」


 パーン!!


 ピストルの音が空に響き渡った。


 あたしは、課題が書いてある紙に向かって、一目散に走った。


 目的地に着くと、紙を広げてみた。


 紙には、『眼鏡をかけている人』と書いてあった。


 眼鏡をかけている人かー。結構、眼鏡をかけている人がいるけど、誰を連れて行こう?


 一番近くにいる人で眼鏡をかけた人ー。


 あたしは、辺りを見渡した。

「……」


 琉聖君が一番、近くにいたからか、あたしの目に映る。


「琉聖君!お願い。一緒に来て」


 あたしは、琉聖君の所へ行くと、手を掴んだ。


 急に、あたしに連れて行かれそうになって、始め、琉聖君は、びっくりしていたけど、無言で一緒にゴールまで走ってくれた。


「やったー!1番だよ」


 すぐに、琉聖君が一緒に走ってお陰で、みんなが、あれこれと探しているうちに先にゴールできた。


「良かったな。それで、何て書いてあったの?」


 琉聖君が、あたしが持っていた紙を覗き込んだ。


「ふーん。眼鏡をかけている人ねー」


「あ、あの。たまたま、近くに琉聖君がいたから、つい……。ごめんなさい」


 あたしが謝ると、琉聖君は苦笑いをする。


「いいって、謝らなくても。宮崎の役に立てたんだし」


「うんー」


 そういえば、小学生の頃も、似たようなことがあった。


 体育の時間、、運動会の練習で走っている時、ゴール目前だったというのに転んでしまった。


 でも、そこへ琉聖君来て一緒にゴールまで走ってくれた。


 今日の借り物競争で、一緒に走って、あたしのこと思い出してくれたりしてー?


 チラッと琉聖君を見たけど、そんな様子はなく、さっさと仕事に戻って行った。


 やっぱり、思い出してくれないかー。


「桃香!良かったね。香川君と一緒に走れて。それも、1位なんて」


 由羽が、ニヤニヤしながら、あたしの肩をポンと叩いた。


「由羽ー」


「香川君も、桃香に連れて行かれるの、まんざらでもない顔してたし、このまま、もっと親しくなれば、もうすぐ、思い出すんじゃないの?」


「そうかなー?」


「でも、香川君と親しくするのも、敵が多くて大変かね。さっき、一緒に走ったことで、さらにに敵を増やしたみたいよ」


 由羽は、チラッと、周りを見る。


「……」


 確かに、こっちを睨んでいる子達がいる。


「まもなく、男女混合リレーを始めます。出場する選手はー」


 あたしが、溜め息をついた時、校庭にアナウンスが流れた。


「リレー、香川君も出るんじゃないの?見に行こう」


 由羽が、あたしを促すと、見える場所へ移動した。


 見える場所へ行くと、赤い鉢巻きをした琉聖君が、準備しているのが見えた。


 赤い鉢巻きってことは、アンカーかー。


「きゃー。琉聖君!頑張ってー」


 女子達は、芸能人の追っかけのように、周りに集まって声援をあげている。


 そして、競技が始まると、一斉に走り始めた。


「あたし達のクラスは、3位かー」


 由羽は、残念そうに呟いた。


 でも、最後の琉聖君に渡と、一気に前の1人を抜かしたと思ったら、1位の人を抜かして、琉聖君がトップになった。


 それには、クラスのみんなが大喜び。


「琉聖君。おめでとう!」


 女子達が、軽くボディータッチした。


「おめでとう!」


 あたしも、みんなに混じって、琉聖君にタッチした。


 すると、周りの子がジロッと一斉にあたしを睨みつけた。


「……!?」


 怖いー。これじゃ、琉聖君に近づけないよー。


「宮崎。サンキュー!」


 琉聖君が、あたしの頭に手をやった。


 またまた、みんなの視線があたしに飛ぶ。


「あ、あたし。委員会の仕事に行ってくる!」


 あたしは、気まずくなって、逃げるように琉聖君から離れた。


 せっかく、委員会が一緒で、前より仲良くなれたと思ったのに、何だか、遠い存在に感じてしまう。




「今日は、席替えをするぞ!前の席から順に、くじを引くように」


 先生が、教壇の上にくじ引きの箱を置くと、みんなに呼びかけた。



 順番に引いていって、あたしの番が回ってくると、箱に手を入れてさっとくじ引いた。


「8番か……」

 黒板に書いてある番号を見ながら、移動した。


 場所は、窓際の2列目の前から3番目。


 席に座ると、後から、左側の隣の席に琉聖君が座った。


「琉聖君ー」


「あれ?今度は、宮崎の隣かー。また、よろしく」


「よ、よろしく!」


 琉聖君と離れると思っていたのに、隣になれるなんて嬉しい。


「桃香。よかったね!香川君の隣で」


 そう言いながら、由羽があたしの後ろの席に座った。


「よかった!由羽は、後ろの席なんだ」


「うん。あたしも、桃香の近くで良かったよ」


 由羽は、嬉しそうに微笑んだ。


『あと、香川君も隣で良かったね。また、思い出す確率が上がるじゃない』


 由羽が、内緒話するように、こそこそとあたしの耳元で言った。


『そのことなんだけど……。思い出さないなら、このままでもいいかなと思えてきたんだよねー』


 いつになっても思い出してくれないし、最近、諦めかけてきたのは事実だ。


『桃香は、それでいいの?』


『うんー』


 あたしは、小さく頷いてみせた。



「この間のテストを返すぞ」


 その日の、英語の時間のことだった。


 先生は、次々とテストを返していく。


「宮崎」


「はい」


 先生から返してもらった答案用紙をみると、がっくりと肩を落とした。


「このクラスでトップは、香川!98点だ」


 先生が、みんなに公表した。

 凄いなー。琉聖君。


「50点以下の人は、明後日、再テストをやるから勉強しておくように」


 あたしは、48点……。追試だぁー。


「桃香はテストどうだったー?」


 由羽が、後ろから聞いてきた。


「あたしは、追試だわー」


 あたしは、少し落ち込んだ顔で言う。


「桃香、英語苦手だもんねー」


「由羽は、テストどうだった?」


 あたしは、チラッと由羽のテストを覗き込むと、68点と書いてあった。


「追試、あたしだけかなー」


 更に、落ち込んでしまう。


「そんなに落ち込まなくても、何とかなるって」


 由羽が、意味ありげに、あたしに言う。


 その意味は、休み時間にわかることになるー。


「香川君。桃香に英語を教えてあげてくれないかな?」


 英語の授業が終わって、次の授業の用意をしていると、由羽が琉聖君に声をかけた。


「ちょ、ちょっと!由羽」


 あたしは、慌てて後ろを振り向いた。


「桃香ねー。追試になっちゃって、このままだとやばいみたいなのー」


 しばらく、沈黙していた琉聖君は、あたしの方を振り向くと、


「俺でよければ、教えてあげるよ」


 と、言った。


「あ、ありがとう」


 あたしは、お礼を言う。


「今日の放課後からでもいいか?」


「うんー」


 あたしは、放課後、教室で英語を教えてもらう約束をした。



「わからない所があったら言って」


 放課後、誰もいない教室で、琉聖君と勉強会。


 静まり返った教室で、勉強をしている。


「あの、琉聖君。ここがわからないんだけど……」


 あたしは、わからない所を指差した。


「あ、これは、過去形だから……」

 琉聖君が、あたしの横で説明を始めた。


 時々、琉聖君の肩があたしの肩に触れて、あたしの心臓はドキドキと高鳴った。


 昔も、わからない所があったら、こうして、教えてくれた。


 でも、あの時よりも、心臓の鼓動が速くなって、琉聖君のことを意識してる自分がいた。



「ーで、こうなるんだけど……。宮崎、聞いてるか?」


 説明が終わると、琉聖君はあたしの方を振り向いた。


「え?う、うん」


 あたしは、慌てて琉聖君を見た。


 その時だった。


「あれー?琉聖。まだ、帰ってなかったんだー?」


 声のする方を振り向くと、ロングヘアーで、凄く綺麗な子が教室に入ってきた。


 確か、同じクラスの朝陽(あさひな)さんだ。


「美玲(みれい)」


 琉聖君は、朝陽さんの方を振り向くと、そう呼んだ。


 今、下の名前で呼んだよね……?


 あたしは、ただ2人を見つめる。


「宮崎さんの勉強を見てあげてるんだ?」


 朝陽さんは、あたしのノートをチラッと見た。


「宮崎。英語が追試みたいで、困ってるみたいだったからー」


「そうなんだ?琉聖、教え方上手だもんねー」


 朝陽さんは、琉聖君の肩に手をやった。


 名前で呼び合ってるし、2人とも仲が良いみたいだ。


 そう思ったら、急に胸の奥が締め付けられた。


「宮崎ー。同じクラスだから、知っているとは思うけど、こいつは朝陽美鈴」

 琉聖君は、あたしに自己紹介をした。


 琉聖君に、こんな綺麗な友達がいるなんて知らなかった……。


「で?美玲は、何か忘れ物か?」


「図書室に行ってたから、荷物をとりに来たの」


 朝陽さんは、自分の席へ行くと鞄を掴んだ。


「琉聖は、まだ、かかりそうなの?お母さんが、帰りにうちに寄って行くように言ってたんだけど」


 朝陽さんは、あたしの方をチラッと見た。


「琉聖君。あ……あたしは、大丈夫だから、朝陽さんと帰っていいよ……」


 あたしは、遠慮がちに言う。

「本当に大丈夫?」


「うん……」


 あたしは、こくりと頷いた。

「じゃあ、ごめん。明日は教えるから」


 琉聖君は、すまなさそうに頭を下げた。


「ごめんね。宮崎さん」


 朝陽さんも、あたしに謝ると、琉聖君と教室から出て行った。


 2人が帰った後、あたしの胸が、きゅーと締め付けられる。


 会話からすると友達じゃない。きっと、彼女だ……。


 そう思ったら、胸が苦しくなった。


 あたし、琉聖君のことがまだ、好きなんだ……。やっと、自分の気持ちに気づいた。




 そして、英語の追試の日。


「頑張れよ。宮崎」



「うん」


 琉聖君に、応援されて、あたしは大きく頷いた。


 昨日、琉聖君は、約束通り勉強を教えてくれて、何とか、追試を受けられる。


 追試を受ける人は、あたしの他に5人くらいいた。


「はじめ!」


 先生の合図で、問題を解く。


 あれー?前より、解けてる!


 あたしの鉛筆を持つ手が、すらすらと問題を解いていった。


 追試のテストが終わると、何分か待っているだけで、すぐにテストを返してくれた。


 テストを見ると、68点と書いてあった。


 良かった!


 嬉しくて、琉聖君にすぐに、報告したい。


「もう、帰っちゃったかなー?」


 あたしは、急いで帰りの支度をすると、教室を出た。


 昇降口まで行くと、琉聖君が、靴箱に寄りかかりながら、本を読んでいた。


「琉聖君……」


「追試どうだった?」


 琉聖君が、本を読むのをやめて、顔を上げた。


「琉聖君のお陰で、合格したよ!」


 あたしは、嬉しそうにVサインをした。


「よかったな」


「琉聖君は、わざわざ、待っててくれたの?」


「教えた責任あるし。ちょっと、気になったからね」


 琉聖君は、はにかんだ顔で背を向けると歩き出した。


「待って!琉聖君」


 あたしは、急いで靴に履き替えると、琉聖君の後をついて行こうとした。


「あっ!」


 慌てていたのか、段差につまづいて転びそうになった。


「危ない!!」

 琉聖君も、慌てて手を伸ばす。


 ドキンドキン……。


 あたしは、琉聖君の腕の中に抱き締められていた。


「セーフ!」


 琉聖君が、大きく深呼吸をする。


「あ、ありがとうー」


 あたしの心臓が、一段と速くなる。


「宮崎って、意外とそそっかしいよなー」


 あたしを抱き締めたまま、琉聖君が苦笑いをする。


「悪かったわね……。そそっかしくて」


「ごめん。悪い意味じゃないんだ。そそっかしい所も可愛いってこと」


「えっ……」


 琉聖君に言われて何だか、こっちが恥ずかしくなってしまう。


「ごめん!何言ってるんだろう……俺」


 琉聖君は、パッと、あたしから離れた。


「ううんー。嬉しいよ!」


「宮崎……」


 昔も、可愛いって言ってくれたよね……。


「あたし……。琉聖君のことが、好きー」


 あたしの口から、ポロッとこぼれ落ちた。


 何、言ってるんだろう。あたし!


「ご、ごめん!琉聖君には、朝陽さんがいるのにこんなこと。あ、あたし……。先に帰るね!」


 あたしは、慌てて、琉聖君に背を向けると、身体を翻して走り出した。


 今は、告白するつもりはなかったのに、どうして告っちゃったんだろう!


 今は、琉聖君には、朝陽さんがいるのにー。




「おはよー、宮崎」


 翌日。学校へ行くと、琉聖君がいつもと変わりなく挨拶してくれた。


「おはよ……」


 あたしは、気まずそうに挨拶をする。


「宮崎。話があるんだけど……」


「あたし……先生に呼ばれてたんだ!」


 あたしは、逃げるように教室を出た。


 逃げて来ちゃったー。多分、琉聖君の話って、昨日の返事のことだ……。


「おはよー!桃香。どうしたの?こんな所で」


 廊下で考え事をしていたら、後ろから由羽に肩を叩かれた。


「おはよー、由羽」


「で、こんな所でぼーとして、何があったの?」


 由羽が、興味津々にあたしの顔を覗いた。


「それがねー」


 あたしは、昨日のことを打ち明けた。


「へぇー。そんなことがあったんだー?」


「返事を聞きたくなくて、つい、逃げちゃった……」


 あたしは、小さな溜め息をついた。


「でも、本当に朝陽さんが彼女なわけ?香川君が言ってたの?」


「ううん。でも、2人とも仲良さそうだったし、それに、お互いの家にも行ったりしてるみたいだし……」


「確かに、それは彼女の確率が高いねー。もう一度、香川君に彼女かどうか聞いてみたら?」


 聞くって言っても、ちゃんと聞けるか自信がない。


 その時だった。


「ねえ、聞いた?うちのクラスに、転校生が来るんだって!」


「男?女?」


「男みたいだよ!」


 クラスの女子達が、ワイワイ話しているのが聞こえてきた。


「転校生、来るんだー」


 由羽は、女子達の話に耳を傾けた。



 この時は、まだ知らなかった……。転校生が、あたしにとって、ハプニングを起こす人だなんてー。




 そして、朝のホームルームが始まった。


「今日は、転校生を紹介するぞ!入って来なさい」


 先生が、転校生を呼ぶと、サラサラした髪に整った顔立ちの男の子が入ってきた。


「かっこいいー」


 後ろに座っていた由羽が、ボソッと呟いた。


 クラスの女子達も、キャーキャー言っている。


「香川琉聖君だ!みんな仲良くしてやってくれ!」


 と、先生が黒板に名前を書いた。


 えっ!琉聖君が2人ー!?

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