2人の恋
ひらひら……。
桜の花びらが、蝶のように舞い降りてくる。
そんな中、第一高校の入学式が始まった。
「新入生代表挨拶。香川琉聖」
先生の言葉に、あたし、宮崎桃香は、一気に男の子に目を向けた。
男の子の名前が、元カレと同じだったからだ。
整った顔立ちに眼鏡をかけた男の子が、淡々と新入生挨拶をする。
琉聖は、小5の時、始めて付き合った男の子だ。でも、琉聖君は引っ越してしまって、自然消滅になってしまった。
昔は眼鏡なんてかけていなかったのに、何か変な感じだ。
そして、入学式が終わると、みんな、それぞれ自分のクラスに戻って行った。
「はあー。校長の話、長かったねー」
自分の教室に入ると、隣にいた由羽が、机の上で頬杖をついた。
高瀬由羽。中学からの友達で親友でもある。
「琉聖君、新入生挨拶。格好良かったよー」
女子達が、男の子を囲みながら、教室に入ってきた。
「香川君って、中学の時もモテたみたいー」
由羽は、独り言のように呟いた。
「……」
同じクラスだったんだー。
それにしても、昔も今もモテてるのは変わりない。
琉聖君は、あたしの横を通り過ぎると後ろの席に座った。
しかも、後ろの席なんて、どうしたらいいんだろう……。
「どうしたの、桃香?」 あたしが、気まずい顔をしていたら、由羽が心配そうにあたしを見た。
「じ、実は……」
あたしは、由羽の耳元で訳を話した。
「えっ、元カレ!」
「しっ!声が大きい」
あたしは、慌てて人差し指を唇にあてた。
「思いきって話しかけてみたら?」
「う、うん……」
由羽に言われて、あたしは後ろを振り向いた。
「りゅー、琉聖君。久し振り!あたしのこと覚えてる?」
「……誰?」
「小学校が一緒だった宮崎桃香だよ」
名前を言ってみたけど、琉聖君は、
「俺は知らないけど。人違いじゃないのか?」
と、きっぱりと言ってのけた。
「ちょっと!琉聖君の気を引こうとしているわけ?」
琉聖君の周りにいた女子達が、一斉にあたしの方へ視線がとんだ。
「えっ、そんなんじゃー」
あたしは、慌てて前を向いて座り直した。
忘れられていたなんて、ショックもいいとこ!!
琉聖君が、引っ越ししてから、2、3ヵ月くらいは手紙のやり取りはしていたけど、その後、向こうからの連絡は途絶えてしまったし、仕方がないのかな……?
「大丈夫?桃香ー」
由羽が、また、心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。
「うん……」
「あたしで良かったら、香川君が思い出せるように協力するよ」
「ありがとう。由羽」
もし、思い出してくれるなら、どうして急に手紙が来なくなったのか訳を聞きたいー。
「宮崎、日直だよな?先生が英語のプリントを配るようにだって」
翌日の昼休み。
お弁当を食べ終わって、教室で由羽とくつろいでいると、琉聖君がプリントを持ってきた。
担任の先生がくじ引きが、好きみたいで、何でも、くじで決めようとして、日直もくじ引きをした結果。初日から、日直をやるはめになってしまった。
あたしは、プリントを受け取った。
「俺、学級委員だから、半分配るから」
「うんー」
あたしが頷くと、横にいた由羽が、
「ねえ、香川君。本当に、桃香のこと知らないの?」
と、言った。
「いくら聞かれても、知らないけど」
「知らないってー。そんなはずないでしょ?香川君。桃香の元カレだったんでしょ?」
「ちょ、ちょっと!由羽」
あたしは、慌てて止めようとした。
「俺が、宮崎の元カレだって?冗談だろ?」
琉聖君は、唖然としている。
ガーン!!
何かで頭を殴られたみたいに、ショックをうけたみたいな気分だ。
「由羽……。もう、いいよー」
あたしは、由羽の袖をくいくいと引っ張った。
「え?だって……」
由羽は、チラッとあたしを見る。
「ほら、もう授業が始まるし、席に座ろう!」
その場から逃げるように、あたしは、自分の席に戻った。
何か、話せば思い出してくれるのかなと思ったけど、やっぱり、琉聖君が、思い出してくれるまで待とうー。
「日直ー。使った教材を準備室に運んどいてくれ」
英語の授業が終わると、谷口先生が、あたしに向かって言った。
見ると結構、量が多い。
「これ、全部、運ぶんですかー?」
思わず、もう一度、聞き返してしまった。
「宮崎、独りでは無理かー」
あたしに言われて、先生はやっと気づいたらしく、
「じゃあ、学級委員!運ぶの手伝ってやってくれないか?」
と、琉聖君に声をかけた。
「はい」
琉聖君は、返事をすると、先生が教室から出て行った後、教材を持って、あたし達は、英語準備室に運んだ。
「あ、あのー。ごめんね、あたしが頼まれたのに、運ぶの手伝うはめになってー」
あたしは、気まずそうに、琉聖君の後からついて行く。
「別にー。学級委員だし、仕方がないよ」
琉聖君は、前を向いたまま言った。
「……」
何だか、話が続かないなー。
これじゃ、あたしのこと、思い出してくれそうな雰囲気じゃない。
とにかく、琉聖君と何か接点があればいいんだけど……。
そう思っていたら、その日の6時間目の学活の時間のことだった。
「来月に体育祭があるので、実行委員を決めたいと思います。男女1名ずつ、誰か立候補してくれる人はいないかー?」
担任の白石先生が、みんなに呼びかけた。
でも、誰も手を上げる人はいなく、教室中、静まり返っていた。
「何だ。誰もいないのかー?」
先生が、もう一度、聞いてみた。
やっぱり、みんな手を上げる気配はない。
「じゃあー。先生が決めるぞー。そうだな……委員長にやってもらうけど、香川、どうだ?やってくれるか?」
「はい」
琉聖君が返事をすると、クラスの女子が次々と手を上げた。
「琉聖君がやるなら、あたしもやります!」
「あたしも!」
「こんなにいてもなー。よし、誰か推薦してくれないかー?」
先生は、1つ提案を出す。
すると、由羽が手を上げた。
「お、高瀬。誰かいるかー?」
「桃ー、宮崎さんがいいと思います!」
由羽が、あたしをチラッと見た。
「宮崎、やってくれるか?」
先生は、あたしに目を向けた。
「はいー」
あたしが返事をすると、さっき手を上げた子達が、
「いいなー」
と、羨ましそうに声を上げた。
「みんな、静かに!実行委員は、今日の放課後に集まりがあるから宜しくなー」
え!さっそく、集まりがあるのかー。
あたしは、小さな溜め息をついた。
「ごめんね。桃香!香川君と一緒にやれば、きっかけが作れると思って」
帰りのホームルームも終わり、委員会に行く準備をしていると、由羽が慌てて来て、両手を合わせて謝った。
「ありがとう、由羽。何かきっかけがあればって、思っていたんだ……。とりあえず、行ってくるね」
あたしは、筆記用具とメモ帳を持って教室を出た。
いつの間にか、琉聖君、教室にいなかったけど、もう、先に行ったのかなー?
集合場所の第2会議室へ向かった。
「失礼します」
会議室へ行ってみると、やっぱり、琉聖君が先に来て椅子に座っていた。
琉聖君の隣の席が空いていたので、あたしは、そっと座った。
「琉聖君、先に来てたんだ……」
あたしは、メモ帳を開きながら口を開いた。
「職員室に用事があったから、直行で来たんだ」
第2会議室は、職員室の通りにある。
3年生の実行委員の人が来ると、委員会が始まった。
「まず、始めに審判員を決めたいと思います」
3年生の実行委員の委員長が、淡々と話し合いで決めていく。
「残った、1年生の、香川君と宮崎さんは救護の方をお願いします」
ほとんど、役割を決めると、最後の救護は、あたしと琉聖君に決まった。
救護は、まんがいち、足に怪我をする人がいると、おんぶすることもあるので、男子の手も借りることがあるから、男女1名ずつらしい。
あとは、学活がある日に、各クラスの実行委員が、種目別の競技に出る希望者を決めることが決定した。
「良かったー。仕事の分担がすんなり、決まって」
委員会が終わり、あたし達は、途中まで一緒に帰ることになった。
琉聖君も、家がこっちの方だったなんて知らなかったー。
「琉聖君は、何の競技をやるの?」
あたしは、何か話そうと、琉聖君に話しかける。
「俺?俺は、リレーかな」
「そうなんだー」
確か、琉聖君は走るのが速かった。
「宮崎はー?」
「あたしは、足が速くないから、借り物競争くらいかなー」
リレーと違って、出された出題を早く見つければ何とかなりそうだしー。
「じゃあ、俺、こっちだから。また、明日ー」
途中で、琉聖君はあたしにそう言うと、別の方向へ歩いて行った。
「また、明日ね!」
あたしは、琉聖君に向かって手を振った。
「その後、香川君とはどう?」
2、3日が経ったある日。
由羽が、興味津々にあたしに聞いてきた。
「どうって、委員会がある日は、途中まで一緒に帰る日もあるけど何も……」
「何だー。さっき、競技を決める時、桃香に対する香川君の態度が、柔らかくなったような感じがしたから、少し、思い出したのかと思ったー」
由羽は、つまんなさそうな顔をさせた。
確かに、最初に逢った時より、優しく接してくれるようにはなった。
「そんなに急に、思い出さないよ……」
「でもさぁー。どうしてそんなに、香川君に思い出してもらいたいの?」
「……」
最初は、どうして手紙が来なくなったのか知りたくて、思い出してもらおうとした……。でも、今はー?
「わかった!思い出したら、香川君と、また、寄りを戻したいとか?」
「えっ!」
「違うの?」
由羽は、キョトンとした顔をさせた。
「自分でも、よくわからない……」
「そうなんだー。でも、思い出してくれなくても、桃香がまだ、好きなら応援するよ」
「ありがとう……」
ぎこちなく言ったものの、応援すると言われても、琉聖君を好きだったのは昔の話だー。
実行委員の集まりがあるたびに、昔みたいに、琉聖君との会話が増えていった。
でも、いっこうに思い出してくれそうにないまま、体育祭の日。
何個かの種目が終わって、男子の騎馬戦が始まってすぐのことだった。
「宮崎ー!こっちの奴を先に、保健室に連れて行って」
「わかった!」
琉聖君に言われて、あたしは大きく頷いた。
上に乗っていた子が、争っているうちに、二組くらい上から崩れ落ちて怪我をした。
幸い、どの子も足の膝や肘を擦りむいて、血が出た程度だった。
あれこれと委員の仕事をしているうちに、借り物競争の番になってしまって、あたしは慌てて校庭へ向かった。
「桃香!頑張れー!」
由羽が、近くで手を振りながら、応援してくれていた。
「いちについてー。よーい」
パーン!!
ピストルの音が空に響き渡った。
あたしは、課題が書いてある紙に向かって、一目散に走った。
目的地に着くと、紙を広げてみた。
紙には、『眼鏡をかけている人』と書いてあった。
眼鏡をかけている人かー。結構、眼鏡をかけている人がいるけど、誰を連れて行こう?
一番近くにいる人で眼鏡をかけた人ー。
あたしは、辺りを見渡した。
「……」
琉聖君が一番、近くにいたからか、あたしの目に映る。
「琉聖君!お願い。一緒に来て」
あたしは、琉聖君の所へ行くと、手を掴んだ。
急に、あたしに連れて行かれそうになって、始め、琉聖君は、びっくりしていたけど、無言で一緒にゴールまで走ってくれた。
「やったー!1番だよ」
すぐに、琉聖君が一緒に走ってお陰で、みんなが、あれこれと探しているうちに先にゴールできた。
「良かったな。それで、何て書いてあったの?」
琉聖君が、あたしが持っていた紙を覗き込んだ。
「ふーん。眼鏡をかけている人ねー」
「あ、あの。たまたま、近くに琉聖君がいたから、つい……。ごめんなさい」
あたしが謝ると、琉聖君は苦笑いをする。
「いいって、謝らなくても。宮崎の役に立てたんだし」
「うんー」
そういえば、小学生の頃も、似たようなことがあった。
体育の時間、、運動会の練習で走っている時、ゴール目前だったというのに転んでしまった。
でも、そこへ琉聖君来て一緒にゴールまで走ってくれた。
今日の借り物競争で、一緒に走って、あたしのこと思い出してくれたりしてー?
チラッと琉聖君を見たけど、そんな様子はなく、さっさと仕事に戻って行った。
やっぱり、思い出してくれないかー。
「桃香!良かったね。香川君と一緒に走れて。それも、1位なんて」
由羽が、ニヤニヤしながら、あたしの肩をポンと叩いた。
「由羽ー」
「香川君も、桃香に連れて行かれるの、まんざらでもない顔してたし、このまま、もっと親しくなれば、もうすぐ、思い出すんじゃないの?」
「そうかなー?」
「でも、香川君と親しくするのも、敵が多くて大変かね。さっき、一緒に走ったことで、さらにに敵を増やしたみたいよ」
由羽は、チラッと、周りを見る。
「……」
確かに、こっちを睨んでいる子達がいる。
「まもなく、男女混合リレーを始めます。出場する選手はー」
あたしが、溜め息をついた時、校庭にアナウンスが流れた。
「リレー、香川君も出るんじゃないの?見に行こう」
由羽が、あたしを促すと、見える場所へ移動した。
見える場所へ行くと、赤い鉢巻きをした琉聖君が、準備しているのが見えた。
赤い鉢巻きってことは、アンカーかー。
「きゃー。琉聖君!頑張ってー」
女子達は、芸能人の追っかけのように、周りに集まって声援をあげている。
そして、競技が始まると、一斉に走り始めた。
「あたし達のクラスは、3位かー」
由羽は、残念そうに呟いた。
でも、最後の琉聖君に渡と、一気に前の1人を抜かしたと思ったら、1位の人を抜かして、琉聖君がトップになった。
それには、クラスのみんなが大喜び。
「琉聖君。おめでとう!」
女子達が、軽くボディータッチした。
「おめでとう!」
あたしも、みんなに混じって、琉聖君にタッチした。
すると、周りの子がジロッと一斉にあたしを睨みつけた。
「……!?」
怖いー。これじゃ、琉聖君に近づけないよー。
「宮崎。サンキュー!」
琉聖君が、あたしの頭に手をやった。
またまた、みんなの視線があたしに飛ぶ。
「あ、あたし。委員会の仕事に行ってくる!」
あたしは、気まずくなって、逃げるように琉聖君から離れた。
せっかく、委員会が一緒で、前より仲良くなれたと思ったのに、何だか、遠い存在に感じてしまう。
「今日は、席替えをするぞ!前の席から順に、くじを引くように」
先生が、教壇の上にくじ引きの箱を置くと、みんなに呼びかけた。
順番に引いていって、あたしの番が回ってくると、箱に手を入れてさっとくじ引いた。
「8番か……」
黒板に書いてある番号を見ながら、移動した。
場所は、窓際の2列目の前から3番目。
席に座ると、後から、左側の隣の席に琉聖君が座った。
「琉聖君ー」
「あれ?今度は、宮崎の隣かー。また、よろしく」
「よ、よろしく!」
琉聖君と離れると思っていたのに、隣になれるなんて嬉しい。
「桃香。よかったね!香川君の隣で」
そう言いながら、由羽があたしの後ろの席に座った。
「よかった!由羽は、後ろの席なんだ」
「うん。あたしも、桃香の近くで良かったよ」
由羽は、嬉しそうに微笑んだ。
『あと、香川君も隣で良かったね。また、思い出す確率が上がるじゃない』
由羽が、内緒話するように、こそこそとあたしの耳元で言った。
『そのことなんだけど……。思い出さないなら、このままでもいいかなと思えてきたんだよねー』
いつになっても思い出してくれないし、最近、諦めかけてきたのは事実だ。
『桃香は、それでいいの?』
『うんー』
あたしは、小さく頷いてみせた。
「この間のテストを返すぞ」
その日の、英語の時間のことだった。
先生は、次々とテストを返していく。
「宮崎」
「はい」
先生から返してもらった答案用紙をみると、がっくりと肩を落とした。
「このクラスでトップは、香川!98点だ」
先生が、みんなに公表した。
凄いなー。琉聖君。
「50点以下の人は、明後日、再テストをやるから勉強しておくように」
あたしは、48点……。追試だぁー。
「桃香はテストどうだったー?」
由羽が、後ろから聞いてきた。
「あたしは、追試だわー」
あたしは、少し落ち込んだ顔で言う。
「桃香、英語苦手だもんねー」
「由羽は、テストどうだった?」
あたしは、チラッと由羽のテストを覗き込むと、68点と書いてあった。
「追試、あたしだけかなー」
更に、落ち込んでしまう。
「そんなに落ち込まなくても、何とかなるって」
由羽が、意味ありげに、あたしに言う。
その意味は、休み時間にわかることになるー。
「香川君。桃香に英語を教えてあげてくれないかな?」
英語の授業が終わって、次の授業の用意をしていると、由羽が琉聖君に声をかけた。
「ちょ、ちょっと!由羽」
あたしは、慌てて後ろを振り向いた。
「桃香ねー。追試になっちゃって、このままだとやばいみたいなのー」
しばらく、沈黙していた琉聖君は、あたしの方を振り向くと、
「俺でよければ、教えてあげるよ」
と、言った。
「あ、ありがとう」
あたしは、お礼を言う。
「今日の放課後からでもいいか?」
「うんー」
あたしは、放課後、教室で英語を教えてもらう約束をした。
「わからない所があったら言って」
放課後、誰もいない教室で、琉聖君と勉強会。
静まり返った教室で、勉強をしている。
「あの、琉聖君。ここがわからないんだけど……」
あたしは、わからない所を指差した。
「あ、これは、過去形だから……」
琉聖君が、あたしの横で説明を始めた。
時々、琉聖君の肩があたしの肩に触れて、あたしの心臓はドキドキと高鳴った。
昔も、わからない所があったら、こうして、教えてくれた。
でも、あの時よりも、心臓の鼓動が速くなって、琉聖君のことを意識してる自分がいた。
「ーで、こうなるんだけど……。宮崎、聞いてるか?」
説明が終わると、琉聖君はあたしの方を振り向いた。
「え?う、うん」
あたしは、慌てて琉聖君を見た。
その時だった。
「あれー?琉聖。まだ、帰ってなかったんだー?」
声のする方を振り向くと、ロングヘアーで、凄く綺麗な子が教室に入ってきた。
確か、同じクラスの朝陽さんだ。
「美玲」
琉聖君は、朝陽さんの方を振り向くと、そう呼んだ。
今、下の名前で呼んだよね……?
あたしは、ただ2人を見つめる。
「宮崎さんの勉強を見てあげてるんだ?」
朝陽さんは、あたしのノートをチラッと見た。
「宮崎。英語が追試みたいで、困ってるみたいだったからー」
「そうなんだ?琉聖、教え方上手だもんねー」
朝陽さんは、琉聖君の肩に手をやった。
名前で呼び合ってるし、2人とも仲が良いみたいだ。
そう思ったら、急に胸の奥が締め付けられた。
「宮崎ー。同じクラスだから、知っているとは思うけど、こいつは朝陽美鈴」
琉聖君は、あたしに自己紹介をした。
琉聖君に、こんな綺麗な友達がいるなんて知らなかった……。
「で?美玲は、何か忘れ物か?」
「図書室に行ってたから、荷物をとりに来たの」
朝陽さんは、自分の席へ行くと鞄を掴んだ。
「琉聖は、まだ、かかりそうなの?お母さんが、帰りにうちに寄って行くように言ってたんだけど」
朝陽さんは、あたしの方をチラッと見た。
「琉聖君。あ……あたしは、大丈夫だから、朝陽さんと帰っていいよ……」
あたしは、遠慮がちに言う。
「本当に大丈夫?」
「うん……」
あたしは、こくりと頷いた。
「じゃあ、ごめん。明日は教えるから」
琉聖君は、すまなさそうに頭を下げた。
「ごめんね。宮崎さん」
朝陽さんも、あたしに謝ると、琉聖君と教室から出て行った。
2人が帰った後、あたしの胸が、きゅーと締め付けられる。
会話からすると友達じゃない。きっと、彼女だ……。
そう思ったら、胸が苦しくなった。
あたし、琉聖君のことがまだ、好きなんだ……。やっと、自分の気持ちに気づいた。
そして、英語の追試の日。
「頑張れよ。宮崎」
「うん」
琉聖君に、応援されて、あたしは大きく頷いた。
昨日、琉聖君は、約束通り勉強を教えてくれて、何とか、追試を受けられる。
追試を受ける人は、あたしの他に5人くらいいた。
「はじめ!」
先生の合図で、問題を解く。
あれー?前より、解けてる!
あたしの鉛筆を持つ手が、すらすらと問題を解いていった。
追試のテストが終わると、何分か待っているだけで、すぐにテストを返してくれた。
テストを見ると、68点と書いてあった。
良かった!
嬉しくて、琉聖君にすぐに、報告したい。
「もう、帰っちゃったかなー?」
あたしは、急いで帰りの支度をすると、教室を出た。
昇降口まで行くと、琉聖君が、靴箱に寄りかかりながら、本を読んでいた。
「琉聖君……」
「追試どうだった?」
琉聖君が、本を読むのをやめて、顔を上げた。
「琉聖君のお陰で、合格したよ!」
あたしは、嬉しそうにVサインをした。
「よかったな」
「琉聖君は、わざわざ、待っててくれたの?」
「教えた責任あるし。ちょっと、気になったからね」
琉聖君は、はにかんだ顔で背を向けると歩き出した。
「待って!琉聖君」
あたしは、急いで靴に履き替えると、琉聖君の後をついて行こうとした。
「あっ!」
慌てていたのか、段差につまづいて転びそうになった。
「危ない!!」
琉聖君も、慌てて手を伸ばす。
ドキンドキン……。
あたしは、琉聖君の腕の中に抱き締められていた。
「セーフ!」
琉聖君が、大きく深呼吸をする。
「あ、ありがとうー」
あたしの心臓が、一段と速くなる。
「宮崎って、意外とそそっかしいよなー」
あたしを抱き締めたまま、琉聖君が苦笑いをする。
「悪かったわね……。そそっかしくて」
「ごめん。悪い意味じゃないんだ。そそっかしい所も可愛いってこと」
「えっ……」
琉聖君に言われて何だか、こっちが恥ずかしくなってしまう。
「ごめん!何言ってるんだろう……俺」
琉聖君は、パッと、あたしから離れた。
「ううんー。嬉しいよ!」
「宮崎……」
昔も、可愛いって言ってくれたよね……。
「あたし……。琉聖君のことが、好きー」
あたしの口から、ポロッとこぼれ落ちた。
何、言ってるんだろう。あたし!
「ご、ごめん!琉聖君には、朝陽さんがいるのにこんなこと。あ、あたし……。先に帰るね!」
あたしは、慌てて、琉聖君に背を向けると、身体を翻して走り出した。
今は、告白するつもりはなかったのに、どうして告っちゃったんだろう!
今は、琉聖君には、朝陽さんがいるのにー。
「おはよー、宮崎」
翌日。学校へ行くと、琉聖君がいつもと変わりなく挨拶してくれた。
「おはよ……」
あたしは、気まずそうに挨拶をする。
「宮崎。話があるんだけど……」
「あたし……先生に呼ばれてたんだ!」
あたしは、逃げるように教室を出た。
逃げて来ちゃったー。多分、琉聖君の話って、昨日の返事のことだ……。
「おはよー!桃香。どうしたの?こんな所で」
廊下で考え事をしていたら、後ろから由羽に肩を叩かれた。
「おはよー、由羽」
「で、こんな所でぼーとして、何があったの?」
由羽が、興味津々にあたしの顔を覗いた。
「それがねー」
あたしは、昨日のことを打ち明けた。
「へぇー。そんなことがあったんだー?」
「返事を聞きたくなくて、つい、逃げちゃった……」
あたしは、小さな溜め息をついた。
「でも、本当に朝陽さんが彼女なわけ?香川君が言ってたの?」
「ううん。でも、2人とも仲良さそうだったし、それに、お互いの家にも行ったりしてるみたいだし……」
「確かに、それは彼女の確率が高いねー。もう一度、香川君に彼女かどうか聞いてみたら?」
聞くって言っても、ちゃんと聞けるか自信がない。
その時だった。
「ねえ、聞いた?うちのクラスに、転校生が来るんだって!」
「男?女?」
「男みたいだよ!」
クラスの女子達が、ワイワイ話しているのが聞こえてきた。
「転校生、来るんだー」
由羽は、女子達の話に耳を傾けた。
この時は、まだ知らなかった……。転校生が、あたしにとって、ハプニングを起こす人だなんてー。
そして、朝のホームルームが始まった。
「今日は、転校生を紹介するぞ!入って来なさい」
先生が、転校生を呼ぶと、サラサラした髪に整った顔立ちの男の子が入ってきた。
「かっこいいー」
後ろに座っていた由羽が、ボソッと呟いた。
クラスの女子達も、キャーキャー言っている。
「香川琉聖君だ!みんな仲良くしてやってくれ!」
と、先生が黒板に名前を書いた。
えっ!琉聖君が2人ー!?




