第59話 ガロア
今年もよろしくお願い致します。
「ひどいな……」
再び訪れた地点は腐敗が進み、もう森とは呼べない位の状態になっている。
「……不規則な渦が発生。しかもこの森のみが被害を受けている」
「カナタ、何かわかる?」
「いや、分からない。とにかく無事な場所を探そう。何かあるはずだ」
このままこの場所に留まっても仕方がないので、無事な緑を目指して移動することにする。
ただし、方角は当てずっぽうだ。
運よく無事な緑を見つけ、俺たちはそこで待機する。
このまま待てば、何かが起こるはずだ。
腰を落ち着け、じっとその時が来るのを待つ。
「来た!!」
地面に突如として現れた黒い点が、徐々に広がりを見せる。
その黒い影に植物が呑み込まれ、次第に枯れていく。
「ホーリーフィールド!」
その黒い影を浄化すべく魔法を発動させる。
しかし、影の広がりが止まるのみで浄化までは至らない。
「駄目だ! いったん引こう」
魔法を持続させるも抑えるのが精いっぱいだ。
このままだと魔力が尽きて俺たちも飲み込まれてしまう。
俺たちは、いったん距離を置くことにした。
全速力で黒い影から離れる。
「くそっ! 何とかならないのか!」
何も出来ないのが悔しくて、思わず声を荒げてしまう。
「カナタ、落ち着いて!」
頭の上からのミウの言葉に、少し落ち着きを取り戻す。
そうだ、焦っても良い事は無い。
俺は一回深呼吸をして落ち着くよう努力する。
「……カナタ、これを見て」
ミサキの言葉に俺は振り向いた。
ミサキの前には何やら石碑のようなものがあり、それは森の景色と相容れず違和感を醸し出している。
「……何か書いてある、私には読めない」
見た事もない文字だが、俺には書かれている内容が自然と頭の中に入ってきた。
「ミサキ、これ読めるよ!」
石碑にはこう書かれていた。
『多数の犠牲を払い、我々は聖なる衣により魔人をここに封じることに成功した。しかし、いつか衣の力は弱まり封印は解けてしまうだろう。願わくは再び現れる魔人を倒してくれることを切に願う。未来の子供たちに幸あれ』
音読してミウとミサキにも内容を伝える。
しばらくの沈黙を破り、ミサキが提案する。
「……聖なる森の崩壊は衣の崩壊。残念だけどこれは止められそうもない。……森を出た方が良い」
俺も同じ考えだった。
ミサキの提案を受け入れ、俺たちは森を脱出することにする。
妖精の皆には申し訳ないが、おそらくこの森は聖なる衣とやらの聖なる力の影響でできた森、その衣の崩壊の時が来てしまった今、残念ながら俺たちの力では止められそうもない。
出来る事は――再び現れるであろう魔人を倒すことだけだ。
ようやく森の外に脱出した俺たちは、背後に存在する森に視線を戻す。
いや、存在していたと言う方が正しいかもしれない。
次第に森が闇に飲み込まれるのが見て取れた。
「カナタ、くるよ!」
ミウの叫びからしばらくして、最終的には枯れた植物をも飲み込んだ黒い地面は中心へと収束、そこから黒い何かが飛び出す。
「いやぁ、ようやく脱出できたよ♪ あのおっさんたち、こんな目にあわせてくれちゃって……」
道化のような服装をした少年が目の前に現れる。
帽子の両脇にはボンボンが付いており、それぞれが規則的に揺れている。
もっと巨大な何かが出てくるものと思っていた俺は、多少拍子抜けしてしまった。
――いや、どんな力を秘めているかわからない。
油断は禁物だ。
「ん!? 剣士か。肩慣らしにはちょうど良いね」
ニヤリと笑ったかと思うと、目にも止まらぬスピードで駆け寄ってくる。
ガキィン!!!
咄嗟に剣を抜いた俺は、その短剣の一撃を受け止める。
速い!!
この間の特訓が無ければ危なかった。
バックステップでお互い後ろに下がる。
剣を止められたのが意外だったのだろう。
驚き、探るような目でこちらを見ている。
「君、何者だい?」
その少年?の質問に答える。
「俺はカナタ、冒険者だ」
「……その嫁、ミサキ」
「ミウだよ!」
こんな場面なので、ミサキへの突っ込みは諦めた。
「ふ〜ん。そういう事を聞いたんじゃあ無いんだけどね、まあいいや。僕の名はガロア、魔人ガロア様だよ。君たちは僕を倒しに来たってことでいいのかな」
そう言うと、ガロアは目に殺気を込める。
「ああ、成り行きだけどね」
「アハハハッ、成り行きねぇ。その成り行きとやらで命を落とすとは可哀そうな人間だね。せめて僕の代わりにこの地に埋めてあげるよ」
「……私がさせない」
「ミウもだよ!」
その言葉を聞き、ガロアが微笑を浮かべる。
「――僕は口だけの人間は大っ嫌いなんだ! せいぜい証明して見せてよ。……出来たらね」
再びガロアが目前に迫る。
俺は剣に魔力を流し、それを迎え打つべく精神を研ぎ澄ませる。
ガキィン!!!
アクロバットのような身のこなしから、変幻自在な攻撃を繰り広げるガロア。
俺はそれに付き合わず、正攻法で撃ち合い、躱していく。
「ねばるなぁ、お兄さん。僕も奥の手を出したくなっちゃうよ」
「誰がお兄さんだ! お前の方が断然年上だろうが」
「それはそうなんだけど、面と向かって言われると腹が立つなぁ」
まだまだ余裕のある口調で話し続けるガロア。
接近戦の為、現在ほかの二人は手出ししていない。
俺とガロアは再び距離を取る。
「お兄さん、簡単に死なないでね♪」
ガロアの掌から黒いもやが発生する。
それが塊となり、俺に向かって勢いよく飛び出す。
シュパッ!
俺が対応するより先に、ミウが魔法を繰り出した。
聖なる矢は俺の横を通り過ぎ、目の前で聖と闇のぶつかり合いが発生する。
「へぇ〜。聖属性も使えるのかい。やるね〜♪」
ガロアは楽しそうだ。
これ以上魔法を使われると厄介だ。
俺は再び接近戦を挑む。
ギンッ! ガキィン!!
しかし、ガロアはそれを嫌ってか、何回か打ち合っただけでまた距離を取る。
ズガァン!!
それを予測していたのか、ミサキの魔法が直撃する。
「……命中」
ミサキがかすかに得意げな表情をする。
俺は油断せず、そのまま構える。
爆炎で舞った土埃もなくなり、ガロアが姿を現す。
「あ〜あ、服がボロボロだよ。一張羅なのにどうしてくれるんだよ」
無傷とまではいかないが、大したダメージは受けていないようだ。
魔人というだけあって、なかなか厄介だ。
それに、あれだけの速度で動かれると、大きな魔法を当てるのは至難の業だ。
「僕が閉じ込められている間に、だいぶ人間って強くなったんだね。それとも君たちだけかな?」
ガロアの質問に俺たちは答えない。
「まあいいや。運動不足で疲れたから、これでもうお終いにしようよ。これが防げたら、今回は君たちの勝ちって事でいいよ」
ガロアは静かに目を瞑る。
ガロアの体が、次第に黒く変色する。
「今回の封印を脱出するために思いついた技なんだ♪ 頑張って耐えてね♪」
「ホーリーフィールド!」
それを聞いた俺は、聖なる場を俺たち三人の周りに展開する。
ブワッ!!!
ガロアから瘴気があふれ出す。
それは同心円状に広がり、俺の展開している魔法とぶつかり合う。
互角――なのだろうか?
瘴気は俺たちのいる場所までは侵食できずにいるが、聖なる場もこれ以上広がらない。
ミウには念のため魔法を温存してもらっている。
相手の魔法を押しきれない今、長時間体制を維持する方が得策だとの判断だ。
時間にして十分程で瘴気は次第に消えていく。
完全に瘴気が無くなった所で、俺も術の展開を解除する。
「あ〜疲れた、もういいや僕の負けで」
口ではそう言っているが、まだまだ元気そうだ。
俺は警戒を続ける。
「もうしないよ、終わり終わり。まあ久々に楽しかったよ」
降参のポーズを取るガロア。
魔人のくせにやたらと人間臭い。
「え〜っと、カナタだっけ。また会ったら遊ぼうね♪」
そう言い残し、ガロアは疲れなど感じさせない速度で去っていく。
さすがに対処できなかった。
「……倒せていたか微妙。結果オーライ」
まあ確かにね。
だが、魔人が放たれてしまったその後の被害が心配だ。
無差別に人を殺しまわる風には見えなかったが、断定はできない。
強さにしても、まだ底を見せなかった。
今現在、俺の魔力にはまだ余裕がある。
しかし、ガロアは封印を破るときに大量の魔力を使用したはずである。
最後の魔法だけ見ても、疲労なしの対戦だったら俺が負けていただろう。
「だいじょうぶ! カナタはもっと強くなるよ」
「……私も強くなる。次は勝つ」
そうだ、頑張って強くなり、次勝てば良い。
幸い命は無事なのだから。
「ありがとう、大丈夫だよ」
心配をかけた二人にお礼を言う。
思えばいつも励まされてばかりだ。
もっとしっかりしなくては……。
辺りに誰もいない事を確認し、俺はゲートを展開した。
俺たちにはもう一仕事するために別荘へと向かう。
残念ながら森は守れなかった。
妖精たちにその報告をするために――。
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