第58話 妖精
今年最後の更新です。
皆様、よいお年を!
ダラスの森はフォセットの町の南に位置し、人々からは聖なる森と呼ばれ神聖視されている。
魔獣の類がほとんど出現しない穏やかな森として知られ、その為、下手な伐採や資源の持ち去りがされないように王国が厳重に管理をしている。
森に入れるのは王国の許可証を持つ人間のみであり、ごく少数。
先日、その一部の人間から情報が舞い込んできた。
森がおかしいと――。
情報によると、時折姿を見せていた妖精の気配は微塵も感じられず、植物が枯れている。
奥から何やらおどろおどろしい鳴き声がする――とのこと。
報告を受けた王国は、ギルドに調査依頼を出す。
国の台所事情としては、原因もわからない場所に兵士を迂闊に割けない、万一被害が甚大になれば、国力の低下を招き、隣国との関係にも影響する。
国としては、依頼料を出してでも、ギルドに任せてしまった方が都合が良いのである。
ギルドは、その代わりにどの国に対しても中立であることを認めさせる。
持ちつ持たれつの関係である。
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「実は――森が食べられているの」
フィーネは事情を話し出す。
フィーネとはアウラウネの少女のことだ。
「食べられる?」
「はい、突然地面に黒い渦が出来たかと思うと、その周りの植物が見る見るうちに枯れていって……。食い止めようと思ったけど、何をしてもダメで、妖精たちを逃がすので精一杯だった――」
フィーネは悔しそうに唇をかむ。
「それでも安全な場所なんてなくて……、同じことを繰り返すうちに変な空気にやられてしまって――そこを貴方たちに助けてもらったの。お願い! 妖精たちが今でも逃げ回っている筈よ、助けて――」
言い終わったフィーネの目に涙があふれ出していた。
「わかった、力になるよ。行こう、森まで!」
どうやら悠長なことは言ってられなそうだ。
行動は早い方が良い。
「カナタ、早く助けよう!」
ミウもやる気十分だ。
俺はすぐさまゲートを展開する。
フィーネは、いきなり出現した扉にびっくりしていたが、今は説明する時間も惜しい。
「今すぐ森に向かう。一緒に来るかい」
未知なる物の出現に呆けていたフィーネは我に返る。
「はい! もちろんです!」
その返事を聞き、俺はフィーネの手を取って扉へと飛び込んだ。
三度訪れた森は、もう聖なる森と言えるものではなかった。
まばらだった腐食地帯が更なる広がりを見せており、今この場所から見た限りでは、無事な木々たちは視界には入っていない。
「妖精たちは、おそらくあちらに逃げています。行きましょう」
この惨状の中でも現在地点がわかるらしく、駆け足で指をさした方角へと向かう。
俺たちも遅れまいとその後に続いた。
しばらくして、まだ浸食されていない緑が遠くの視界に入る。
「急ごう!!」
俺は、お世辞にも速いとは言えないフィーネを小脇に抱え、全力で走る。
間もなくして、ようやく腐食地帯から脱出できた。
しかし、妖精たちの姿はない、
それもそうか。
考えてみれば、わざわざこんな境目のところでじっとしている訳がない。
「……カナタ、あっち」
ミサキが魔法で気配を探ったらしく、ある方角を指さす。
こんな時でもミサキは冷静である。
こういう所は見習わなくては……。
俺は大きく息を吐き気持ちを切り替えると、その方角へと向かっていった。
「「「「「フィーネ!」」」」」
さらに奥に進むこと十分程、ようやく妖精たちの姿を発見する。
妖精たちもこちらに気付いたようで、薄いトンボのような四つの羽を器用に使ってフィーネの元に飛んできた。
「無事だったのね!」
「良かった、探しに行こうにも行けないし、心配したんだから!」
「心配かけてごめんね。あなたたちは全員無事?」
「ええ、ただ瘴気にやられてしまって倒れている子たちが何人か……」
「それだったら俺が見てみましょうか?」
「「「「「!!!!」」」」」
俺の発言に、フィーネを除く妖精たち全員が驚いた顔でこちらを見ている。
ひょっとして、俺たちがいることに今気づいたとか……。
「フィーネ、誰?」
警戒感を隠そうともしない怪訝な表所でこちらを見る妖精たち。
仕方が無いとはいえ傷つくなぁ……。
「大丈夫、この人たちは倒れていた私を助けてくれたの。そして今回もあなたたちを助けるためについてきてもらったの」
フィーネが俺達の事を紹介してくれる。
紹介のおかげで多少は警戒感が薄れたようだが、まだ全面的には信用されてないようだ。
当たり前か。
「とにかく倒れた人?たちを診せてください。フィーネと同じような症状なら治せると思います」
妖精たちはお互いが目で「どうしようか?」と語っていたが、フィーネの「大丈夫よ」という念押しともいえる発言に折れ、倒れている妖精の場所に案内してくれた。
そこには、少し大きめの緑の葉をベッド代わりにして、三人の妖精が横たわっていた。
俺は早速、治癒魔法を詠唱する。
すると、だんだんと顔色の方が回復していく。
「ふぅ、もう大丈夫だと思いますよ」
妖精たちの顔に赤みがさして、表情が和らいだところで詠唱をやめる。
「あとはしばらく安静にしていて欲しいけど……」
「そんなの無理に決まってるじゃない!」
先ほど、一番俺に懐疑的な視線を投げかけてきた妖精が間髪入れず突っ込みを入れる。
「フィーネ、妖精たちはこれで全員かい?」
「はい、全員です」
「だったら、解決するまで一時的に避難してもらうけど良いかい」
「避難って何よ! どこに逃げる場所があるっていうの! 無いから苦労しているんじゃない!」
先ほどの妖精が噛みつく。
「はい、お願いします」
時間がないので突っ込みは無視して、俺はフィーネに妖精たち全員を集めてもらうことにする。
もちろん別荘に送り込むためだ。
自然もあるから問題ないだろう。
集めた妖精たちの前でゲートを開く。
妖精たちはお互い怪訝そうな顔をしていたが、フィーネが率先して中に入ることで、恐る恐る中に入っていく。
最後の一人になったとき、その妖精は俺に話しかける。
「フィーネや皆にもしもの事があったら許さないから!」
そう言い残し、先ほど噛みついた妖精もゲートをくぐっていった。
全員の避難を確認できた所で、説明の為、俺たちも別荘へと戻る。
そこには、フィーネがまとめてくれているらしく、妖精たちが一堂に介していた。
俺は妖精たちに向かって説明を始める。
「ここは例の腐食が全く届かない場所なので安心して下さい。解決するまで自由にしてくれていいですが、ほかの人も住んでいますので、迷惑になる行為だけはやめてくださいね」
フィーネに促され妖精たちが頷く。
中には、「ふん! あたしがいつ迷惑をかけるっていうのよ!」とふくれっ面をしている妖精も約一人いるが、特に気にしないことにした。
とりあえず妖精たちにスラ坊とゴランを紹介し、困ったことがあったらこの二人を頼りよう言い聞かせる。
妖精たちはとりあえずの不安から解放され、各々飛び立っていく。
残ったのはフィーネのみである。
「また森に向かうんですよね。連れて行ってください」
フィーネの目を見て、その決意は揺るぎないものだと悟り、危険だが連れて行くことにした。
妖精たちの命は無事だったが、まだ根本的なことは解決していない。
「よし、行こう!」
決意を新たに、俺たちは再度森へと戻っていった。
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