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新年早々、急展開なのはどうしてでしょう

年末年始はいろいろあったけれど、今日から三学期。今は始業式の真っ最中で暇潰しにその時の事を思い出す。



いろいろあったクリスマスの次の日に突如として彩ちゃんがやって来て、いきなり私に抱きついてきて驚いた。


その時にも美由ちゃんや響さんもいて、美由ちゃんは私に対して叱ってきたし、響さんはこっちに来た彩ちゃんに驚いていて、響さんは彩ちゃんに話しかけていて、どうやら二人は知り合いの様だった。


内容は聞けなかったけれど、彩ちゃんは私に会いにきたらしい。


その後も大変だった……。


どう大変かと言うと、まずは響さんがからかい半分で私にキスすれば、彩ちゃんと美由ちゃんもしてくるし、それをどうにかしようとしても私には無理で、帰ってきた兄さんと義姉さんに助けを求めようにも、兄さんは囃し立てるし、義姉さんはただ微笑ましそうに見ているだけだし……。


……キスってそんなに軽くしていいものだったっけ?



いや、そりゃあ小さい頃は軽々しく私も薫さんにやっていたけど、うーん。



悩んだって仕方がないか。なるようにしかならないし。


……そういえばキスをすると寿命が延びる、とか言っていたなあ、何かのテレビで。つまり、物凄い勢いで延びたのか、私の寿命。



年末はそんな感じで、正月は正月で慌ただしかった。


正月も、まだ響さんと彩ちゃんは私の家にいて、自分の家に帰らなくても大丈夫なのか、と聞いたけど、響さんは大丈夫と一言だけ言い、彩ちゃんは母親にこう言われたそう。



「自分の好きな人をモノに出来るまで帰って来るな」



ついでに言うと、母親は彩ちゃんが女の子を好きだと知っているし、彩ちゃんが私の事を教えていたそうだ。


……確か、彩ちゃんの母親って理事長だよね?



軽く講堂を見渡して見て、私は理事長がいるか探してみたら、すぐに見つかった。


あんだけオーラが出ていればすぐに分かるよ。相も変わらずとても綺麗な人で、やっぱり親子なのか、どことなく彩ちゃんと似ている。

理事長は隣にいる、眼鏡を掛けた人と話していて、その人はどこかで会ったような気がする。


どこだったかな? と考えて、思い出す。


確か去年、香川先生の代わりに来た先生で、名前は長谷田先生だったかな。



……長谷田? 響さんも苗字が長谷田らしいから、もしかしてあれは響さん?



私はもう一度、長谷田先生に視線を向けると、目が合い、長谷田先生は軽く微笑んで、その目は一見、冷たそうだったけど、いたずらっ子みたいに挑発的で、よく悪戯を仕掛けてくる響さんと被り、あぁー、響さんだ。と思った。


響さんだと納得していたら、理事長とも目が合う。理事長は何故だか色気たっぷりに微笑んで、私にウインクしてきた。私は思わず俯いて、自分を落ち着けるように、深呼吸をする。



美女のウインクは攻撃力が高い事を、私は身を持って知った。



少し落ち着いたので顔を上げると、視線を感じて、それは複数あり、私はその視線を感じる方に目を向けると、思わず苦笑になった。


何故なら、薫さんと葵、彩ちゃんや響さんが私の方を見ていて、その視線は皆、嫉妬と分かるようなものだったからだ。



……早く、集会が終わって欲しいと、こんなに切実に願ったのは初めてだと思う。




※※※

教室に戻ると、葵が話しかけてきた。



「いつきは熟女が好みなの?!」


「いや、そういう訳じゃないけど。……葵、顔が近い」


「むー。いつき、いろんな人に色目を使うのはよくないよ。でないと、何時か刺されるかもよ」


「色目を使った覚えはないけど、一応、気をつけるよ。刺されるのは嫌だし……」



と、私は言い、ハハハッと少し引きつったような笑いをしていたら、未だに顔の近い葵は更に近づき、頬に温かい物が触れ、いきなりの出来事に私は何をされたのか分からなくて、思わず変な声が出る。



「はへ?」


「ぷっ、何それ? 変な鳴き声。……まぁ、いつきはあたしが守ってあげるから刺される事はないから安心しなさいな。じゃあ、またね。いつき」



葵が離れると同時に先生が教室に入って来て、少しして私の頬に葵がキスをしたんだと理解をすると、顔を俯かせる。



ああー。キス何て、いっぱいされている筈なのに、こういうのは何でか恥ずかしくて、慣れない。



周りに気づかれてないよね? と思いながら、辺りを見回すと、こちらをこっそりと見ていた葵と目が合う。


少しだけ頬を染めながらも葵は、してやったり、と言うように、にやりと笑うので、私は困ったように笑い返した。



後ろを向いていた葵は先生に注意をされたので、慌てて前を見る。




先生の話しが終わり、まだ午前中だが始業式だけなので、帰る時間になった。葵も部活がないので一緒に帰ろうとしていたら、放送がなる。



『一年一組の児山いつきさん。理事長室に来なさい。もう一度繰り返します。一年一組の児山いつきさん、理事長室に来なさい』



それだけを言うと放送は終わり、それを聞いた私は、私と同姓同名の人がいるだなんて凄いなあ、とぼんやりしていたが、葵が現実を突き付けてくる。



「いつき。理事長に呼ばれたみたいだけど、何したのさ」


「きっと、私と同じ名前の人がいるんだよ。だから一緒に帰ろうか、葵」


「いやいや、このクラスには児山いつきと言う名前の人は、あたしの目の前にいる人しかいないから!」


「お願いしますっ。帰らして! 何か嫌な予感がするんだよっ!!」


「それは気のせいだと思うけど?」


葵は呆れた様に私に言うが、私は理事長室には行きたくはない。


さっきの放送は声からして、本人の理事長がしてるし、何で私だけなのさ!?



「はぁー。途中まで送って行くから」



葵は溜め息を吐くとそう言うので、渋々と私は理事長室に向かう。




理事長室の前に私は立っていて、その斜め後ろには葵がいる。


とても緊張していて、身体を震わせえながらもノックをしようとしたら、いきなり扉が開き、まるでコントの様に扉が顔に当たり、私は顔を押さえながらうずくまる。


うずくまる私の横を誰かが走り去って行き、私はそれが誰だかは分かっていなかったけれど、葵は分かったのか、走り去って行った人の名前を呼んだ。



「彩!?」


「……え?」



私はその名前を聞いて、すぐに顔を上げると、彩ちゃんの後ろ姿がちらりと見えたが、曲がり角だったので、すぐに見えなくなった。



「いつき、すぐに彩を追い掛けて」


「え? 何で?」


「良いから早くっ!!」


「はっ、はいっ!!」



葵がとても真面目な顔をしながら、有無を言わせずに言うので、思わず立ち上がり、私は全速力で彩ちゃんを追い掛ける。



訳も分からずに彩ちゃんを追い掛けていたが、やっぱり見失ってしまい、息を切らせながら、どうしようかと途方に暮れる。するとそこに空が通り、私に声を掛ける。



「あれ? いっちゃんじゃない。どうしたの?」

「はぁ、はぁ。ふぅ。……彩ちゃん、知らない?」



息を整えながら空に聞くと、空は少し考えた後に答えてくれた。



「う~ん。多分、姫ちゃんは裏庭らへんにいると思うよー。よくそこに行くのを見かけるし」


「裏庭だね。ありがとう!」


「頑張ってねぇ~!」



どこか気が抜ける様な応援を背にまた走り出すが、暫くして気づく。



…………裏庭ってどこ?



そう言えば私はまだ、この学校にはどこに何があるのかを分かっていない。よく行く所とかは覚えているが、全然行かない所は全く分からない。


さっきの理事長室も朧気だったけれど、葵のおかげで何とか理事長室にたどり着いたのだ。


足を止めて振り返り、私は空に裏庭の場所を聞こうとしたが、もういない。


私はこの学校は無駄に大きすぎる。と思いながら、再び途方に暮れ、歩いていると、今度は佐々木さんと出会った。


佐々木さんは私と目が合うと、少し嫌そうな顔をした様な気がしたけど、それは気のせいだと思いながら声を掛ける。



「す、すいません。佐々木さん」


「……何ですか? 急いでいるのですが」


「えっと、裏庭ってどこにあるのでしょうか?」


「……そこの曲がり角を右に曲がってまっすぐに行くと、また曲がり角があるわ。その角を左に行けばすぐに分かるわよ」


「ありがとう! 佐々木さん!!」



笑顔でお礼を佐々木さんに言い、私は急いで佐々木さんの言葉通りの道順を行く。




◇◇◇

年末年始はいつきさんの実家に行き、いつきさんと一緒にすごしました。


年末はいつきさんのご両親はいませんでしたが、お義兄さんとお義姉さんは家におり、お二人は美男美女のご夫婦で、わたしにとても優しくして下さり、三日に帰ってきたご両親も優しく接して下さいました。


更に、生徒会の顧問でもある長谷田先生もいて、驚きました。最初は誰だろうと思いましたが、よく見ると長谷田先生に似ていて、話しをしてみると本人だと分かりました。


詳しく聞いてみると、長谷田先生はいつきさんのお義姉さんの親友だそうで、驚きです。人はどう繋がっているのか分かりませんね。


それよりも驚いたのは、長谷田先生の性格です。学校の時とは全然違います。


学校の時はキリリと凛々しく、確りしている方なのですが、普段は明るく、ノリの良い人みたいですね。


昔から長谷田先生は眼鏡をかけている時とかけない時で性格を変えているそうで、今では無意識に性格を変えている。と言っていました。ですから、眼鏡をかけていない時は「響さん」と呼んでくれ。とも言っていました。


なぜわたしに教えてくれたのか聞いてみると、長谷田先生もいつきさんを好きで「協力して一緒にいつきハーレムの一人にならないか」と長谷田先生は言いました。


つまり、いつきさん中心で皆で仲良くしないか、と言う事ですね。……なんて素敵なんでしょうか。その考え方は。目からウロコ、とはこの事ですね。



ですが、他の方は無理かも知れません。何しろ、いつきさんを独り占めにしたいみたいですしね。


もちろん、わたしもいつきさんを独り占めをしたいですけれど、他の人と仲良くしているいつきさんを見ると、どうしようもない気持ちになります。


嫌だ、と言う思いと何とも言えない胸の高まりが涌き出てくるのです。


たぶん、この気持ちは興奮でしょう。


その事を話すと、どうやらわたしはNTR属性があるみたいだ、と長谷田先生は言っていました。

詳しく聞いてみると、彼氏が彼女を他の人に乗っ取られるのを見て、快感を得る人の性癖だそうです。……言われてみると、確かにそんな感じがしますね。



いつきさんを好きな人は私達の他にもいたらしく、その方にも会いました。


朝倉美由さんと言う方でわたしより一つ年下で、背が低く、髪を左右に二つ結んでいて、とても可愛らしい子です。



美由さんに挨拶をしていたら、いきなり長谷田先生がいつきさんにキスをしていたので、つい、わたしもキスをしてしまいました。何気にわたしの初めてのキスです。


それを見た、美由さんも、負けじとキスをして、いつきさんはひじょうに混乱していました。いつきさんと美由さんには悪いですが、とても楽しかったです。



そんな風にあっという間に年末年始をいつきさんの実家で過ごして新学期になりました。


そして理事長室に来い、と言うメールを貰い、今は理事長室にいます。そのメールの後に、いつきさんにも理事長室に来るように放送をかけていましたが、何ででしょうか? 後で聞いてみましょう。


わたしは「好きな人をものに出来るまで帰って来るな」と言う、母との約束を守り、薫さんのお家から学校へと通っていたので、母と会うのは今年で初めてです。



「明けましておめでとう。彩」


「はい、明けましておめでとうございます。お母様。今年も宜しくお願いします」


母は微笑みながら言うので、わたしも微笑みながらお辞儀をして言いました。


椅子に座ったままの母は机に肘をつき、指を絡ませながら言います。



「まだ、家に帰って来ていないようね。彩は」


「はい。いつきさんはとても奥手なので……」



いつきさんの顔を思い出し、わたしは苦笑しながら言いました。


それを聞いた母は迷うように話し出します。その話しを聞いたわたしは、視界が真っ暗になりそうなくらいに衝撃的な話しでした。



「その話しは、本当何ですか?」


「ええ」



母は苦虫を噛んだような表情になり、頷きました。


わたしは母の表情を見て、本当何だとわかると、俯きました。



「そう、ですか。……わかりました」


「……ごめんなさい」



母のその一言を聞いて、わたしは理事長室を飛び出しました。


扉を開く時に、何かに当たったような気がしますけど、それに構わずに走り出し、後ろで誰かがわたしの名前を呼びましたが、わたしは振り返りもしないで走ります。



そして気がついたら、わたしは裏庭に来ていました。



◇◇◇

佐々木さんの言う通りに行くと、確かに裏庭に着いた。


この学校の裏庭には木々や手入れされている草花も沢山あり、小さな池がある事も始めて知ったけど、肝心の彩ちゃんが居なくて、困惑する。


とりあえず小さな池を見に行くと、金魚やメダカがいて、綺麗な池だな、と感心していたら、草花の間に小川が流れている事にも気がついた。……この学校の裏庭ってでかすぎでしょ。手入れとかどうしてるんだろう? やっぱり業者だろうか。


そんな事を考えながら、小川に沿って、私は上流に向かう。多分、彩ちゃんはこっちにいるだろうと信じて……。



そして、私は彩ちゃんを見つけた。


彩ちゃんはしゃがんでいて、何かを撫でている。



「……彩ちゃん」



名前を呼ぶと、彩ちゃんは振り返り、私を見て、驚いた風に呟く。



「いつきさん」



私は彩ちゃんに近づいて、何を撫でていたのか気になり、覗き込むと、そこにはバスケットボールくらいの大きさの石像があった。



「……ひよこ?」



そう、卵の殻を破ったばかりのひよこが草むらの中にいる。……何でひよこ?


近くには小川の始まりであろう蛇口が見えないように岩の間にあって、少しだけがっかりした。



「ええ。ひよこです。……これはわたしが小学生に上がる時に、父が作らせた物で、デザインはわたしが考えたんですよ」


「へぇ、そうなんだ。可愛いね。……でも何でここにあるの?」


「さすがに人目につく場所に置くのは恥ずかしかったので、当時からわたしはここが気に入っていたので、この場所にお願いしたんです」



私はへぇーっと感心しながらしゃがみ、さっき彩ちゃんがやっていたように、ひよこを撫でる。



「今は蛇口がありますけど、昔は無かったんです。でも、流れている水は昔と変わらずに、近くの森の湧き水なので飲めますよ」



彩ちゃんがそう言うので、ひよこを撫でるのを止めて、水を手で掬い、口に含んで飲む。



「あ、美味しい」



私が思わずそう言うと、彩ちゃんは目を細めて私を見て、優しく微笑む。



「彩ちゃん、理事長室で何があったの?」



彩ちゃんを追いかけている時にも、気になっていた事を私はどうやって聞こうか迷ったけど、そのまま聞いてみる。


彩ちゃんが泣いていた事は目を見れば分かる。だって少しだけ目が赤くなっているしね。



私がそう聞くと、彩ちゃんは驚いたように息を飲み、顔を俯むかしながら話し出す。



「……婚約者が出来たんです」


「……え?」


「その方のお見合い話は前々からあったんですが、親の間で婚約したんだそうです」


「え、親の間なら断れるんじゃあ」


「無理なんです。……わたしがその方と結婚しないと、この学校が無くなるかも知れないんだそうです」


落ち込んだ声で彩ちゃんはそう話すけど、私はその話しを上手く理解ができないでいた。



「わたしはこの学校が大好きなんです。亡くなった父との思い出の場所でもありますし、いつきさんと出会った場所にもなりましたから」



そう言いながら、哀しそうに、儚く微笑んでいる彩ちゃんを見て、私はどうしようもない気持ちになる。


お父さん、亡くなっていたんだ、とか何で辛そうなのに笑おうとしているのだろう、と私は思いながら彩ちゃんを見ている。



「わたしは大丈夫です。だから、いつきさんはそんなに悲しまなくても良いんですよ?」


「……悲しそうなのは彩ちゃんでしょう!?」



そんな今にも泣きそうな笑い方をしながら私を気遣う彩ちゃんを見ていると、自分の頭に血が上っていくのが分かり、つい苛立ったように彩ちゃんにあたってしまう。


自分の力では何も出来ないのが分かり、悔しくて、悲しくて、辛くて……。



そんな私を見ている彩ちゃんは、とても驚いた様子で目を丸くしている。



「もう一度、理事長と話し合おう!」


「無理です。もう決まった事なんですよ!?」


「そんなの分からないっ!!」



頭が沸騰しているまま、彩ちゃんの手を強引に引き、理事長室に向かった。


そして、歩いている間に少し頭の冷えた私は、どうしよう。と思いながら、やけくそ気味に理事長室のドアを開く。


「いらっしゃい、いつきさん。……あら、彩も一緒にどうしたのかしら?」



理事長は豪華な椅子に座り、大きな机の上に肘を付いて指を絡めながら、首を傾げて聞いてくる。


その格好が様になっていて、美女は何をしてもお得だなあ、こんちくしょう。と思考も少々やけくそ気味だ。



「率直に聞きますけど、彩ちゃんが結婚するって本当ですか?」


「……ええ、本当よ。でも、高校を出るまでは結婚はしない約束をしているわ。だから安心して彩と学校生活を楽しんでね」



理事長は表情も変えないで淡々と話している。


その言い方が少し私は気にくわなくて、またイラつき始める。


「申し訳ないですが、彩ちゃんの結婚は無かった事に出来ないですか」


「無理ね。もう約束もしてしまったし……」


「彩ちゃんは好きな人がいるそうですが」


「ええ、知っているわ。だけど、この学校の為に諦めてくれるそうよ」



その言葉を聞いて、私はまたカァッ! と頭に血が上る。



「いいえ。諦めるのは貴女の方です。だって私と彩ちゃんは付き合っていますから。愛し合っている二人を引き離すんですか」



いやいやいや、何を言っているんだ、私!?


まだ付き合ってないだろうがっ!!?



理事長は少しだけ驚いた表情になるけど、それは一瞬の事で、すぐに先程と同じように何でもない、というような顔つきに戻る。



「……確か、貴女は他の子達にも告白されて保留にしたのではなかったかしら? つまり、貴女は彩を選んだ。という事ね」


「よくご存知ですね。でも、私は選んでないですよ。だって……」



一旦、私はここで話すのを止めて、目を閉じ、覚悟を決める。こうなった以上、腹を括らないと行けない。


目を開けて、理事長と目を合わせ、言う。



「だって私は、私に告白してきた、その子達とも付き合いますから」



私がそう言うと、理事長は目を大きくして、驚きを隠さなかった。


彩ちゃんの様子も見たかったけど、怖くて、前しか見れない。だから理事長を真っ直ぐ見る。



「はっきり五股宣言するのね」



理事長は目を細め、冷ややかに言う。


その言葉に少したじろぐが、もう決めたんだ。



「ちゃんと話し合って決めますよ」


「なら、それが嫌だ。と言う子がでたら、はい、さようならするのかしら」


「悪いですが……それは無理ですね。何しろ、知ってしまったんですから」


「……何を、かしら?」



そう、気づいたら、手放したくなくなったんだ。これは、とっても我が侭な事だけど……。


私は苦笑いをしながら話し出す。



「言葉に上手くできるか分かりませんが、好かれる事の嬉しさ、喜びや愛しい感情、ですかね」



ほんと、言葉が思いつかないけど、皆に告白されてから今までの事を思い出しながら私は思った事を言う。



「私は、取り柄とか得意な事が何もないんです。そんな私がどうして好かれるんだろう、と何度も思いますし、今も思っています。……だけど、嬉しいっていう気持ちが大きくて、私にしか見せない仕草とか表情を見ていたら、いとおしく思うんです」



響さんと美由ちゃんは年末に告白してきたけど、今思い返すと、あれは私が好きだったから美由ちゃんはあんなに私を慕ってくれたんだろうし、響さんは過剰気味なスキンシップをしていたんだろうと今なら分かる。……でも、響さんは分かりづらいよ。何しろ酔っ払ってるし。あ、そう言えば、響さんの親友の義姉さんには抱きついたりとか、あんまりしてなかったかも知れない。


そんな事を思い出しながらも話を続ける。



「だけど、彩ちゃんに婚約者が出来たって聞いて、気づいたんです」



ここまで話し、一息を吐く。


理事長はただ黙って私の話の続きを待っている。



「私は皆から好かれている今の状況が続いて欲しい、と思っているという事に。皆を手放したくないって思っている事に。…………まさか、ここまで自分が我が侭だとは思いませんでした」



彩ちゃんだけじゃなくて、もしかしたら他の人も離れて行くんじゃないか。と思ったら、怖くて堪らなかった。手放したくないって、心の底から思ったんだ。



「この気持ちが恋愛の物か、ただの独占欲の物か、私には分からないんですけど……これだけは言えます。私は、彩ちゃんが大好きです。薫さんが、葵が、響さんが、美由ちゃんが、大好きです。皆が私以外のものになるのは許しませんし、渡す気はありません」



自分で言っといて何だけど、本当にエゴイズムすぎるよなあ。


理事長は話し終わった私をじっと見つめていたが、肩を震わせたかと思うと、吹き出して、笑い始める。



「ぷっ。 ふふふっ! はっはははっ!」



嬉しそうに笑う理事長を見て、私はきょとんと、しているしかなかった。



「彩、良かったわね。いつきさんは貴女だけのものにはならなかったけれど、家に帰ってきても良いわよ」


「……はい!」



斜め後ろから、本当に嬉しそうに返事をする声を聞いて、振り返ると、彩ちゃんは涙目になりながらも頬をピンク色に染め、私を見つめながら微笑んでいる。


その笑顔に見惚れていたら、理事長が咳払いをして、真面目な声で言う。



「さて、貴女達はどうする?」



突然の質問に、理事長を見ると、理事長は私の方を見ていなくて、視線を辿ると、そこにはいつの間にいたのか、薫さんや葵、響さんがいる。



「私は構いませんよ」


「はぁー。……まあ、仕方ないので、それで良いです」

「私もいつきとずっと一緒に居たいので構いません」



最初に言ったのはスーツをびしりと着て、眼鏡をかけ、いつもの様なだらしない顔つきではなく、真面目な顔をした響さん。次には溜め息を吐いた後に苦笑をしながら言う、葵。最後には戸惑いながらも真剣な表情の薫さんが言うけど、三人とも少し顔が赤くなっている。いや、彩ちゃんも少し赤いから四人ともか。


理事長はまた私の方を見ると、私に優しく微笑みかけながら話し出す。



「良かったわね、いつきさん。後はもう一人の美由さんだけれど、再来週くらいに推薦入試があるのよ。その時に来るだろうから聞いてみると良いわ」


「あ、はい。わかりました」

いきなり、理事長が笑い掛けてきて、少し慌てたけど、何とか返事は返せた。……やっぱり綺麗な人が笑うと、ついつい見惚れるよね。


そんな事を思いながら、ぼーっとしていると、急に腕を引っ張られ、驚いていたら、彩ちゃんが私の腕を抱き締める様に掴んで、理事長を睨んでいた。


私の方にも視線を感じて、そっちの方を見れば、葵や薫さん、響さんが私を睨んでいる。……いつの間にか彩ちゃんも私を見ていて、確か、つい最近にもこんな事があったような? と思ったが、まずは疑問を理事長に聞く。



「ところで理事長。彩ちゃんの婚約の話はどうなったんですか?」


「あら、早いわね。もう結婚の話を進めるだなんて。……重婚と同性婚が認められている国はどこだったかしら?」


「いやっ、そう言う事じゃなくて、ですね」


「ふふふっ、冗談よ」



からかうように笑いながら理事長はそう言うので、私は溜め息を吐く。



「確かに、その話しはあったのだけれど、丁重にお断りしたわ」


「……そう、ですか」



理事長は綺麗に微笑んでいるけど、なぜだか寒く感じるような笑みだった。



「彩には断った事を内緒にして、話しただけよ。案の定、勘違いして飛び出したけれど……」


「……もしかして、謀りました?」



そう聞くと、理事長はただ、にっこりと笑みを深くするだけで、何も言わなかったけれど、私は嵌められたんだと分かり、また私は溜め息を吐く。隣にいる彩ちゃんを見ると、彩ちゃんも溜め息を吐いていた。



まあ、自分の気持ちが分かったから良いけど、何だか今日一日で随分疲れた。……そう言えば、まだお昼だよ。


再来週は美由ちゃんにも話して、分かって貰えるようにしなくちゃなあ。……それにしても入試か、懐かしいなあー。何で私はこの学校に受かったんだろう。それが本当に謎だけど、受かって良かったと思う。


何しろ、大切な人達も出来たしね。大変な事もあったけど、楽しいから。


後、美由ちゃんの受験は絶対に受かるだろうから大丈夫だね。だって、私の冬休みの宿題を手伝って貰ったし……。



そんな風に考え事をしていたら、唐突に理事長が妖艶な雰囲気を醸し出して私に話しかけてくる。



「ねえ、いつきさん。貴女ともっとお話しをしてみたいわ。これから二人っきりでお茶をしないかしら?」



目を細め、艶めかしく誘う理事長を見て、思わず顔が赤くなる。


すると、いきなり後ろから抱き締められ、両腕も痛いほどに抱き締められる感覚がして、何だ!? と思いながら見たら、左腕には彩ちゃんが、いつの間に近くに来たのか、右腕には葵が、そして後ろには響さんが強く抱き締めている。


周りをよく見れば、薫さんも近くにいて、私の制服の裾を掴んでいる。四人の視線は理事長に向かって睨んでいたけど、暫くしたら、私を見て、責める様な視線になった。



……仕方ないよ。ああいうのは慣れてないし、理事長がやると様になっていて、誰だってドキドキするよっ!



そんな言い訳じみた事を考えながら、理事長に一言だけ返す。



「すいません」


「あら、仕方がないわね。なら、また今度誘うわ」



ふふふっ。と笑いながら私に茶目っ気たっぷりなウインクをする理事長。また私は赤面して、抱き締められる力が強くなる。



痛いなあ、と考えながら、皆の様子を見てると、何だかとっても面白くなって笑えてくる。


笑いを堪えている私を見ると、皆は不思議がっていて、それを見た私は堪えきれずに吹き出す。



「ぶっ、ふははは!」


「……どうしたのさ? 急に笑いだして」


「うん。ただ、楽しくて、嬉しいなあって……」



葵が訝かむ様に私に聞いてくるから、笑いながら答えるけど、皆はまだ、不思議そうに私を見ている。でも、とりあえず私は皆の顔を見たいから、離れて貰う。……少しだけ名残惜しいけど。



「薫さん。彩ちゃん。葵。響さん」



一人一人の名前を呼んで、真っ直ぐ顔を見る。……美由ちゃんは今はいないから心の中で呼んで、顔を思い出す。


そして、一息を置いた後に微笑んで言う。



「大好きだよ。これからもよろしく」



そう言い終わると、四人はきょとんとしたかと思えば、一斉に顔を赤くして、それぞれの返事をしてくれる。



薫さんは四人の中で一番真っ赤になりながら頷いてくれて、彩ちゃんは嬉しそうに微笑み、「私も大好きです」と返してくれた。


葵は涙目になりながらも笑って、「こちらこそ、よろしく!」と言い、響さんは眼鏡を外し、にやにやと笑いながら私に近づくと、キスをして、



「いつき。愛してる」



離れる時に耳元で、響さんは私にだけに聞こえる様に囁いてきて、私も顔を赤く染める。



そこからは大騒ぎになり、この中に次は美由ちゃんが入るんだと考えると、とっても賑やかになるんだろうなあって思いながら、四人に私からキスをする。そしたら少しだけ静かになったので、お昼ご飯を誘う。


もうお昼時を過ぎたところだし、お腹も空いたからね。



皆と一緒に理事長室を出て思う、皆から見捨てられない様に頑張ろう、と。



人は変わる。それが良いか、悪いかは分からないけれど、嫌がおうにも人は変わらなくてはいけなくなる時が来るのだろう。でも、皆がいるから大丈夫だと思える。


まだ、怖いと思う時もあるだろうけど、この騒がしさなら大丈夫だろう。怖い、と思う暇はなさそうだし。


まずは皆を受け止められる様に頑張ろう。そして皆を私の精一杯で向き合って、付き合おう。


そんな事を思いながら、皆を眺める。



葵は眼鏡を外した響さんに質問をしており、響さんはにまにましながら質問を返して、その光景を見ている薫さんは茫然自失している。それを彩ちゃんが気遣う様に薫さんに話しかけていた。


何で薫さんがそんな風になっているのかは分からないが、元気づける為に手を繋いでみる。


すると薫さんは驚いて私の顔を見る。そして徐々に赤くなる薫さんを見ていたら、最後にはぼんっ! と音をたてて薫さんは気絶する。


慌てて気絶した薫さんを私は抱き止めて、何とか床に倒れる事はなかったけど、どうしたんだろうか?



「あぁー。相変わらず、会長はうぶなんだね」


「話しには聞いていたけど、これほどとは……」


「えっ、え? どういう事?」



私は訳が分からず、二人に聞いてみるが、呆れているだけで答えが返ってこない。だけど彩ちゃんが答えてくれる。



「先程のいつきさんのキスを思い出したからですよ」


「いやー。キスだけで気絶だなんて、この先が心配だわ。もっと凄い事もやるのに」


「こ、この先って……」



彩ちゃんの返事に成る程、と思っていると、響さんは呆れ返った様に言い、それを聞いた葵は頬を染めながら呟く。


よく見ると彩ちゃんも少しだけ頬が染まっている。



「そりゃそうでしょ。いつきと付き合うんだから、当然エッチな事もするでしょ」



響さんのその言葉で、私も顔を赤くする。



「……もしかして、したくないの?」


「し、したいです……」


「なら、良いじゃない」



不安そうにしながら顔を近づけて響さんは聞き、私は視線を逸らしながら小声で返事をすると、にっこりと笑顔でそう言う響さん。



「それにしても、薫はいつ起きるのかなあ。…………危うく、また襲うところだったわ。危ない危ない」



響さんは私から一歩分離れると、また呆れる様に薫さんを見て、私は少し離れた響さんにほっとする。さすがにその話題はまだ無理です。


他にも何かを響さんは呟いていたが、私には聞こえなかった。


ふと、視線を感じて、そこを見ると、彩ちゃんがじーっと私を見ており、葵も横を向きながらも、ちらちらと目線はこっちに来ていて、二人とも頬を染め、何かを期待をする様な目だったと思う。


この場に美由ちゃんがいたら、どんな反応するのか知りたくなったけど、この微妙な空気を壊すどころか、悪化しそうだと考えてしまうのは何故だろうか。そう考えると、未だに私の腕の中で寝ている薫さんが癒しに思えるから不思議だ。



一息を吐き、私はお昼ご飯はどうしようか? と三人に聞けば、響さんが「芹の所で良いじゃん」と言い、いつの間にか義姉さんの家に行く事になった。


報告もしたかったので、別に良かったけど、急にこんな人数は迷惑じゃないだろうか?


そんな疑問が顔に出ていたのか、知らない間に響さんは義姉さんにメールをしていて、義姉さんは快く受け入れてくれたそうだ。


そう言うのもあって、私達は義姉さんと兄さんの家にお邪魔する事となった。



どこで切って良いのか分からなくて、いつもより長くなりました。未だにどこで切れば良いのか分からない……


どこかおかしい部分がありましたら教えて下さい。




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