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英雄譚―名も亡き墓標―  作者: アマネ・リィラ
束の間の平穏―理由―
77/85

追章 西洋の大国 後編


 妙なことになった――小隊長として六人の部下を預かるマリア・ストゥルタックは内心でそう呟いた。

 極秘任務と言われ、ウィロー・エンぺリアルの護衛として訪れた大日本帝国。長い船旅の果てに辿り着いたこの場所で、自分たちは何があってもウィローの身を守らなければならない。


「…………」


 チラリと、視線の先にいるウィローの方を見る。その身を守ることが任務であるこちらとしては、後方の安全な場所にいてくれた方がありがたいというのに……会談の結果として戦場にまで出てきている。それどころか、自分たちに大日本帝国への協力をしろとまで言い出してきた。

 マリアとしては大日本帝国のことなどどうでもいいと思っている。彼女の目的は一つ。誰からも認められる軍人となること。そのためにここにいるのであり、それ以上のことは求めていない。

 イギリスの国民として、一人の人間として認められる。

 そのためには国の犬になることも厭わないし、影で『雑用部隊』などと呼ばれている現状も受け入れる。目指すものはその先にしかないのだから。


「どうかされましたか?」

「…………ッ」


 不意に声をかけられ、マリアは我を取り戻した。視線を上げると、こちらを心配そうに見つめる少年がいる。

 蒼雅隼騎。まだ十代という若さ――それも自分と同じ若さでありながら彼の父と共に大日本帝国における重要な政治機関、『枢密院』に席を置くという少年だ。それだけではなく、単身で様々な分野の調停役を担う『特別管理官』という役職にも付いているらしい。

 大日本帝国の特色として教えられたものの一つにある、『絶対的な実力主義』。それが偽りではないのなら、この少年には確かな実力があるということだ。


「ここまでの道のりは険しかったですし……お疲れではありませんか?」

「……いえ、大丈夫です。私を含め、全員がイギリス軍人ですので。我々よりもエンぺリアル様の方が……」

「そちらの方は心配ご無用。いざとなればエンぺリアル殿の身はこちらがお守りします」


 邪気のない笑み。だが、マリアとしては非常に面白くない。いざとなればこちらが守る――それは暗に、『マリアたちは必要ない』と言っているように聞こえたのだ。


「……お心遣い、感謝します。しかし、エンぺリアル様の護衛は我々の役目ですので」

「申し訳ありません。出過ぎたことを申しました」

「いえ……」


 マリアは首を横に振る。相変わらず隼騎からは邪気を感じない。悪意はないように思える。


 ――油断するな。


 緩みそうになった心を内心で引き締める。ここは同盟国ではない。敵か味方かもわからぬ国であり、同時にここは戦場だ。同盟国でさえも気を許せぬのが今の世の中だ。気を緩めていいわけがない。

 と、マリアが気を引き締めた時。


「――着きましたね」


 隼騎が呟きを漏らした。視線の先、考え事をしている間に随分と近づいていたらしい。一つの城門が視界に入った。

 イギリスに存在する城とはその様式からして全く違う。共通するのはそこは拠点であり、王を守るための場所であるという部分のみ。

 しかし、その機能性だけでなく美しさも兼ね備えるその城には見惚れてしまう。そんなマリアに隼騎が横から言葉を紡いだ。


「宇佐美城。長野の中央に構える要所です」

「交通ルートの要、ということですか?」

「そうです。長野の山脈は深く、遺跡も多い天然の要塞。毎年遭難者を出すような場所ですが、ここが東北に行くうえで一番の近道であることも事実。そして逆に、ここに城を配置することで交通の管理もできます」

「成程……」

「ですが、逆にここを落とされれば敵は一気に関東・北陸に攻め込む足場ができたことになってしまう。――操山様は本当によくここを守ってくださいました」


 紫央操山。その人物のことはここに来る途中に隼騎から聞かされた。現役最年長にして《七神将》にも名を連ねる英雄、紫央千利の息子であり、その武勇と人柄から広く慕われていた人物という。隼騎によれば、今先頭を歩いている――何故か彼女は馬に乗らず徒歩。それでも疲れた様子は見せていない――出木天音も信頼していたとか。

 大日本帝国の内情を知らないマリアとしては、操山という人物がどれほどのものかはわからない。ただ、わかるのは――


「それほどの人物が討ち取られた相手を、今から相手取るのですか?」

「ええ、そうです。陛下は裏切り・謀反を絶対に許さない御方。唯一謀反を起こして生き残っているのは今先頭を歩いている先生――天音様のみですよ」


 その言葉に、城門をくぐって中へ入っていく天音へとマリアは視線を向ける。中の者たちもここでついて来ている者たちも氷雨を除いて全員が純白の軍服を着ており、マリアたちも軍服を着、エンぺリアルでさえも貸し出された装備で身を包んでいるというのに、総大将であるはずの人物は鎧の類を何一つ身に纏っていない。

 ズボンを履き、歩き易そうな靴を履き……特徴的な白衣以外には特別なものを纏っていない。しかし、城門を開けた者たちは誰もが例外なく直立不動の体勢で敬礼を送っている。

 屈強な装いをした武者たちが、丸腰の女性――医者にも見える人物に敬礼を送る光景。一見すれば異常な光景であるはずなのに、そこに違和感はない。

 人の上に立つ者の気風。出木天音――《女帝》と呼ばれる彼女は、きっとそれをその身に纏っているのだ。


「さて、僕たちも参りましょう」

「……、はい」


 我を取り戻し、隼騎と共に歩を進める。そうだ、余計なことを考える必要はない。自分の役目は一つ。

 それだけを考えていれば、それでいい。



◇ ◇ ◇



 マリアが隼騎に案内されて入ったのは、城主が座すべきであろう部屋だった。奥には天音が座り、そのすぐそばに氷雨が控える。ウィローは少し離れた場所におり、マリアは隼騎と共に部屋の隅に腰掛けた。

 マリアの部下たちは別行動だ。ここへは隊長であるマリアだけが呼ばれている。おそらく今後の動きについての話があるのだろう。

 腰をおろし、少し待つと二人の男が入って来た。どこか疲れた様子の二人は、天音の前に座ると首を垂れる。その二人に対し、天音が静かに告げた。


「扇と水原でしたね。よくこの地を守ってくださいました」

「……全ては、操山様の武勇によるものです」


 どこか震える声で、片方の男が言う。天音は無表情のままだ。いつもの笑みはないその表情のままに言葉を紡いでいく。


「操山は何処に?」

「――こちらに」


 天音の問に応じる形で運び込まれたのは、一組の軍服だった。本来なら純白のそれは鮮血によって染め上げられ、凄惨な彩りを見せている。

 大きな軍服だ。これを着ていた男はきっと、相当大柄な男だったのだろう。軍服の横に置かれた長大な薙刀の大きさが、持ち主の力を誇示しているかのようだった。


「操山様は最後まで戦場で戦っておられました。誰よりも前に立ち、決して三好を京に向かわせるなと……」

「…………」

「供養は先日、秘密裏に『爽籟寺(そうらいじ)』の天正上人が。その、爽籟寺は仏門ですので……」

「成程、爽籟寺ですか……覚えておきましょう。扇、水原。お役目ご苦労様でした。後方で休んでいてください」


 二人が顔を上げる。その表情には涙が滲んでいた。

 義姉上、と小さく氷雨が声を上げる。その声に応じることなく、天音は血の染み込んだ薙刀を手に取った。流石に天音の細腕では片腕で持ち上げるには重すぎるらしく、両手でゆっくりと持ち上げる。

 そして――一閃。

 鈍い音と共に振り抜かれた薙刀。天音はその薙刀をゆっくりと床へと突き刺す。


「……操山殿は、元々敵であったがために周囲から疎まれていた私を最初に認めてくれた方でした。偉大な父を持ち、常に比較されながら……それでも日々精進し、木枯の重臣にまでなった豪傑」


 馬鹿な人です、と天音は呟いた。


「扇、水原。あなた達もそう思いませんか? 国を気遣い、他者を気遣い、部下を気遣い……いつだって自らのことを後回しにして。彼ならばもっと楽に生きる道があったでしょうに」

「……はい」

「ですが、それこそが操山様の……」


 二人がそれぞれ応じる。天音はそこで初めて、小さな笑みを浮かべた。


「見事な最期でした。――氷雨、指示を与えます」

「はっ」

「『宗久寺』でしたね? 三好を匿っているのは。ならばここへ『宗久寺』の坊主を呼び寄せなさい」

「御意」


 氷雨が部屋を出て行く。天音は近くにいた部下を呼び出すと、その者たちへ指示を出した。


「私の軍服を。そして食事の準備をお願いします」

「承知いたしました」


 部下たちも部屋を出て行く。その中で、天音がこちらへと視線を向けてきた。


「隼騎、あなたには動いてもらうことになると思います。そこの可愛らしい隊長さんにも。――構いませんね?」

「はい、先生」

「存分に使ってください」


 隼騎が応じると共に、ウィローが天音の言葉に頷く。マリアはただ深々と頭を下げた。

 戦いが始まる――そんなことを、ふと思った。



◇ ◇ ◇



 宇佐美城に《女帝》が入城してから二日。マリアは部下と共に氷雨たち天音の部下の訓練に混ざり、徹底的にしごかれた。マリアはどうにか立っていられるが、部下たちは毎日訓練、食事、眠るの行程を繰り返している。


「大丈夫ですか?」


 顔を洗い、大きく息を吐いていたところで不意にそんな声をかけられた。見れば、隼騎がこちらを見ている。

 マリアは驚きで心臓が跳ねあがるのを感じながら、はい、と頷いた。


「私はどうにか。ただ、部下たちは……」

「氷雨さんの訓練は過酷ですから。最後までついて来れるだけでも凄いと思いますよ?」


 どうぞ、そんなことを言いながらタオルを差し出してくれる隼騎。それを受けとりながら、マリアはそれでも、と言葉を紡いだ。


「私たち以外に根を上げる方はいません。……これが大日本帝国の強さなんですね」


 天音の部下たちは女性を中心としている。それはおそらく彼女が統治する『吉原』の存在が大きいのだろう。だが、マリアとしては驚愕の連続だ。

 本国では身体能力で男軍人とも並ぶほどの結果を残しているマリアでさえ、ここでは足手纏い。そもそもの基礎レベルが違い過ぎる。


「まあ、そうでしょうね」


 隼騎は否定しない。彼は基本的に訓練には参加せず、何やら個人で動いているらしい。口振りから察するに《女帝》の指示で動いているのだろうが、それについては別に知るべきことでもないし知る必要もないことだ。


「ですが、それにだって理由があります。……先生の部下などは特にそうですよ。強くなければならなかった。だから強い。単純な話です」


 その言葉に、思わず拳を強く握り締める。強くなければならない――それは自分も同じだ。強くなければ、生きていくことはできない。

 だが、現実はどうだ? 死んでも構わない捨て駒として扱われ、認められることのない日々。

 一体、自分と彼女たちでは何が違うというのだろうか?


「……わからない、けれど」


 その答えはわからない。わかるはずがない。わかる必要もない。

 ただただ必死に、強くなるしかないのだ。母を捨てたあの男に認めさせるために。

 ストゥルタックの名を、叩き付けるために。


「どうかされましたか?」

「いえ……大丈夫です」

「そうですか。では、少しお付き合いいただけますか? 先生が宗久寺の僧侶たちと会談を行われるそうです」


 笑みを浮かべ、ソラは言う。


「――《女帝》という天災の意味が、少しはわかるかもしれませんよ?」



◇ ◇ ◇



 室内には異様な緊張が満ちていた。酷く冷たい表情を浮かべ、怜悧な視線を集まった僧侶たち――僧衣を纏う、禿頭の者たちだ――に向ける天音と、その視線を受け止めながら落ち着きなく過ごしている僧侶たち。マリアや隼騎は後方からそれを黙って見ているしかない。


「……単刀直入に言いましょうか。私は恩人を殺されたせいで少々機嫌が悪いのです」


 絶対零度。まさしくそう表現するに相応しい視線を受け、僧侶たちが視線を彷徨わせる。その彼らに対し、天音は静かに告げた。


「即刻、三好を宗久山から下山させなさい。それならあなた方の首を半分獲るだけで許します。三好をこちらに引き渡すのであれば特別に全員無事を約束しましょう。首で送って来るなら褒賞さえ与えますよ」


 冗談でもなんでもない、殺意の込められた台詞。畳み掛けるように、天音は告げる。


「それとも――焼き払われたいですか?」


 静かに紡がれたその台詞は、だからこそ冗談でもなんでもない。十年前に《女帝》が起こした歴史上最大の叛乱。その過程において、天音は幾度となく『焼き討ち』という戦略をとっている。

 主戦力が吉原の女たちであり、相手は大日本帝国が誇る《七神将》だったという現実があまりにも重かった。それ故に彼女は後世において卑怯と謗られるであろうことも平然とやってのけ、その上で常に最前線に立っていた。

 有名なのは『伊勢焼き討ち』と『西方焼き討ち』だろう。これが行われた時に当時の《七神将》が二人、彼女の手によって討ち取られている。

 更に有名なのは二年前の『九州征伐』だ。一度は大日本帝国の敵として反乱を起こした彼女が戦場に立ち、反抗勢力の悉くを文字通り灰にした。彼女が《女帝》と呼ばれると同時に『梟雄』とも呼ばれるのは、通常忌避される戦法を何の躊躇もなく使用するからこそである。

 故に帝からの信頼も厚く、同時に出木天音とは反抗勢力にとって最も敵に回したくない相手なのだ。


「期限は三日。――消えなさい」


 天音は言い捨てると、部屋を出て行く。それを見送って安堵の息を吐いた僧侶たちに、氷雨が鋭い言葉を飛ばした。


「義姉上はああ仰っておられるが、私としてはこの場で貴様ら全員を斬り殺したい。操山殿は吉原にとっての恩人。貴様ら、我らの要求を呑まぬのならばどうなるか……覚悟しておけよ」


 文字通りの殺気が込められた言葉を受け、僧侶たちが小さく悲鳴を上げる。

 マリアと隼騎は、黙ってそれを見ていることしかできなかった。



◇ ◇ ◇



「紫央操山様は吉原にとっては間違いなく恩人なんですよ」


 あまりにも重い空気の中にいたせいで外の空気が吸いたくなったマリアは、隼騎と共に外に出ていた。その中でマリアは隼騎から先程のことについて説明を受けている。


「恩人、ですか?」

「はい。当時の先生は元々が敵だったのを陛下が強引に登用した身で……実力主義とはいえ、やはり疎まれていたんです。先生本人はそんなものはどこ吹く風なのですが、『吉原』という街はそうもいかない」

「吉原……街ということは、物資の搬入ですか?」

「そうなります。そんな中で吉原に手を差し伸べたのが操山様だったのですよ」


 隼騎は嬉しそうに語る。彼はその疎まれていた時代から天音に仕えていたと聞いた。きっと、その苦しかった時代を知っているのだろう。


「先生はあまりその感情を見せない人ですが……操山様には本当に感謝しているはずです」

「……成程」


 先程の空気。笑みさえ浮かべないあの圧倒的な威圧感は怒りが原因か。成程確かに、あの人物を敵に回したくはない。


「まあ、先生は――と、噂をすればですね」

「えっ?」


 笑みを浮かべて言う隼騎につられて振り返ると、こちらへ歩いてくる二つの人影が目に入った。片方は煙管を咥えた見知らぬ女性。もう片方は――


「出木様?」


 立ち上がり、反射的にマリアは敬礼する。そんなマリアの様子を見てか、天音は苦笑を浮かべた。


「ああ、そのままでいいですよ。固くならないでください。隼騎、既に話は?」

「あ、いえ……」

「ならば丁度良いいですね。――アルビナ」

「はいよ」


 煙管の煙を吹かしながら、天音の側にいた女性がこちらに何かを投げ渡してくる。広げてみると、どうやら地図らしい。山の地図だ。


「宗久山の地図です。隊長さん、あなたには隼騎と共に宗久寺に火を放っていただきます」

「ッ、火を、ですか?」

「ええ、そうです。焼き討ちは私の主戦術。戦わずして勝ち、生き残りは狩り尽くす。それでこの戦は終わりです」


 言い切る天音はいつもの笑みを浮かべている。マリアは思わず疑問を口にした。


「猶予というのは……?」

「あんなものを守る道理がどこに? 覚えておいた方がいいですよ、隊長さん。口約束ほど頼りない約束は存在しません。……隼騎、二日与えます。その間に宗久寺に火を。二日経っても何もない場合、あなた達を死んだものとして扱いますので」

「了解しました」


 隼騎が頷く。その中で、天音が静かにマリアの肩に触れた。


「利用させていただきますよ、可愛らしい隊長さん。見せて頂ければ幸いです。――あなたの国に利用価値があることを」


 言い切ると、天音はすぐに立ち去って行った。それを見送ったマリアは、再び地図に視線を落とす。

 随分と細かい地図だ。これを用いれば、奇襲も容易いかもしれない。そんなことを思いながらマリアが地図を見つめていると。


「とりあえず、覚えたら返して欲しいさね。それは結構手間がかかってる」

「え、あ、はい。ええと……」

「アルビナ。先生とはまあ……悪友、かねぇ? お嬢ちゃん、あんたは覚悟しといたほうがいいよ。先生に目ェ付けられた人間は、大抵波乱万丈の人生を歩むからね」


 くっく、とアルビナは笑う。マリアとしては困惑するしかない。

 ただ、わかったのは――


「……ここが正念場なんですよね」

「実力のない人間には用がない。それが国家であっても。そういう考え方をするのが大日本帝国だ。自国民にはともかく、他国に対して大日本帝国は妥協しない。……ま、精々頑張りなよ。アタシは応援するさね。まずはそれを覚えることからだけれど」


 壁に背を預けながら言うアルビナに頷き、地図を見つめる。

 認められる軍人になること。それがマリア・ストゥルタックの目的。

 ならば――こんなところで躓いている暇はない。

 マリアは、一心不乱に地図の内容を頭に叩き込んだ。



◇ ◇ ◇



「さて……とりあえず仕込みは上々といったところでしょうか」

「仕込み?」

「そう、仕込みです。後は隼騎次第ですね。あの隊長さんはやはり、何か隠していますね。議員の彼もその辺りについては口を割りませんし」

「ふぅん……そのために行かせたと?」

「まあ、実際に能力を見る必要もありましたしね。あの子に言ったように、イギリスがどれだけ使えるかは見せて頂かなければならなかったわけですし」

「怖いねぇ、本当に」

「個人的に興味もありますから。何を抱えているのでしょうか、と」

「どうだろうね。藪をつついて蛇、なんてことにならなければいいけれど」

「蛇どころか竜でも出てきそうな勢いですけどね。あの隊長さんに関しては」

「その根拠は?」

「勘です」

「……先生のは本当によく当たるから面倒さね」

「今更ですよ。当たろうが当たるまいがどうでもいいことでもある」

「しかし、本当にあの坊やが探れるのかねぇ?」

「探れますよ。隼騎は相変わらず他人に近付くのが上手いですし、隊長さんも少しですが心を開いています。……まあ、仕込みがありますが」

「仕込み、ってまだ何か用意してるさね?」

「単純ですよ。あれだけ脅した坊主たちが、このまま動かないと思いますか?」

「…………まさか」

「敵の警戒は最上級。そんな中、未熟者の部隊は逃げ切れるか?――答えは、否」

「先生、あんたはやっぱり……最低さね」

「それもまた、今更です」

「卑怯、という言葉は聞き飽きているんだろうね。アタシには、あんたに向けられる言葉がない」

「今更、という言葉も何度目でしょうね」

「……なあ、先生。それでもアタシは先生の友だ。そう思いたい」

「それは私も同じですよ?」

「だから、一応言わせてもらうよ」

「ええ、どうぞ」

「――地獄に堕ちるよ、そのままじゃあね。友としての忠告だ」


 部屋の中に、笑い声が響いた。

 忍ぶような、怪しい笑いが。


「地獄に堕ちる? これは異なことを。――むしろそのためにこうしているというのに?」



◇ ◇ ◇



「――以上が私たちの任務だ。少数精鋭で宗久寺に襲撃をかけ、混乱を起こす。火を放ったところで出木将軍率いる本隊が一気に制圧をかけるという作戦だ」


 作戦内容をマリアが部下たちに告げると、彼らは一斉に顔を見合わせた。その表情にははっきりと不服が浮かんでいる。

 マリアとしては、部下たちにそんな表情をさせる自分を不甲斐ないと思うと同時に仕方ないと思う部分もある。彼女の下に集まった六人の兵士。その全員が何らかの理由があって元にいた部隊を追い出されているような者たちだ。

 そして、全員がマリアよりも軍隊経験が長い。それ故、隊長であっても敬意など払われていないことはマリア自身がよくわかっていた。


「反論は認めん。これはエンぺリアル様の命令でもある」

「……ちっ、議員様の言いなりかよ」

「……こんな辺境に来てまで殺し合いかよ、面倒臭ぇ」


 マリアの言葉に対し、露骨に舌打ちを零しながら言う部下たち。それに対し、マリアの横から声が届いた。


「辺境ですみません。ですが、協力していただかないことにはこちらも前向きな対応をできないので」


 声を発したのは隼騎だ。その表情は笑っているが、どこか薄ら寒い。その隼騎に対し、いちばん前に立っている男――『曹長』の階級章を着けた男が露骨に舌打ちを零した。


「ちっ。……で、隊長。出発は?」

「一時間後だ。ここに集合しろ。以上、一時解散だ」


 マリアがそう締め括ると、敬礼もせずに部下たちが立ち去って行く。それを見送り、マリアは一つ大きなため息を零した。


「大丈夫ですか?」


 そんなマリアに対し、隼騎が気遣う言葉を投げかけてくる。マリアは首を左右に振り、こちらこそ、と頭を下げた。


「申し訳ありません。不快な思いをさせてしまい……」

「いえいえ。辺境なのは事実ですし、大日本帝国はそこに誇りを持っていますので。それよりも……大丈夫ですか? 彼らを率いるのは中々骨が折れそうですが……」

「……すみません。これ以上は軍規に関わることですので」

「失礼しました」


 隼騎が一礼する。彼が悪い人間だとは思わないが、語れないことというのはどうしても存在する。

 ましてや、自分自身の境遇のことなど……語れるわけがない。


「いずれにせよ、余程のことがなければ決して難しい任務ではありません。自分も同行しますので、成功させましょう」

「はい。ありがとうございます」


 再び、頭を下げる。

 そうしながら、マリアはふと思った。

 自分が他者に対して当たり前に頭を下げるようになったのは……いつからだっただろうか?



◇ ◇ ◇



 宗久寺は山中にあり、修験僧の巡礼地でもある場所だ。それ故『修行のため』という名目からか行き着くまでには険しい山道を歩まなければならない。

 とはいえ、普段ならば天音たちが張っている陣からは半日と時間を置かずに到達できる場所にある。険しくとも、それは人が通る前提の道。軍人として日々訓練を積むマリアたちは当然、本人によれば常に様々な地を駆け回っているという隼騎には多少険しいという程度にしか感じない。

 しかし、その時間帯と状況がマズかった。

 日中であれば見通しのきく山道も、夜間は一寸先も見えない闇の世界となる。そもそも夜間に山で行動することはそのまま遭難の危険がある危険な行為だ。

 更に、これは極秘任務。灯りを持つことはできず、それどころか言葉を交わすことさえも避けなければならない。

 全員が終始無言のまま山を登り始めて、どれぐらいの時間が経ったのか。クオンのように永い時間に耐えられなくなったのか、隊員の一人が声を上げた。


「……やってらんねーよ」

「……静かにしろ、曹長。任務中だ」

「任務任務ってよぉ、隊長。こんな任務に何の意味があるってんだよ?」


 背後で立ち止まる気配があり、それ故にマリアも足を止めざるを得なかった。

 振り返る。見れば、部下たちが睨むような視線をこちらに向けていた。


「意味のあるなしを判断するのは私たちではない。私たちは与えられた任務を全うするだけだ」

「はっ、模範的な軍人の解答だな。――そういう態度が腹立つんだよ」


 曹長がマリアの胸倉を掴み、凄むようにしながら言葉を紡ぐ。マリアと共に先頭を歩いていた隼騎が止めに入ろうと一歩を踏み出すが、それを軍曹が鋭い視線を向けることで押し留めた。


「あんたは関係ねぇことだ。これは俺たちの隊の揉め事なんだからな。黙ってろ」

「ですが」

「言葉じゃわかんねぇか?」


 曹長が言うと同時、撃鉄を起こす音が響いた。見れば、隊員たちが隼騎に向かって銃口を向けている。


「……曹長。貴様は自分が何をしているか理解しているのか?」

「それはこっちの台詞だよ隊長さん。あんたこそ、そろそろ自分の立場を理解したらどうだ? いや、俺たちの立場をだ。――夢見んのもいい加減にしろよ」

「夢を見る、だと? 私がいつ夢など――」

「――あんたが軍隊で認められることはありえねぇ。あんたは『女』なんだ。上から認められるはずがねぇんだよ」

「…………ッ」


 叩き付けるような言葉に、マリアは表情を歪めた。軍曹は尚も言葉を続けてくる。


「ここに派遣されたのだってそうだ。エンぺリアル? 家柄だけの能無し議員じゃねぇか。本国じゃ消えても特に問題ねぇって思ってるだろうぜ。俺たちについてもだ。俺たちはな、『死んでもいい』からここに送られてんだよ」

「そんなことは……」

「じゃあ何故エンぺリアルの野郎があんなに必死にこの国と渡りをつけようと思ってる? 実績が欲しいんだよ。だから俺たちに敵の本拠地に忍び込めなんて無茶苦茶な任務を押し付けてきやがった。俺たちが死んでもなんとも思いやしねぇんだよあのクソ野郎はな」

「……ッ、不敬だぞ。私たちは軍人だ。国家の利益となるためなら――」

「国なんてのはな、俺たちを守ってくれねぇんなら必要ねぇもんなんだよ。愛国心? 俺たちがそんなもんを持ってると本気で思ってんのか?」


 言葉を紡げず、口を閉じる。愛国心――そんなものを部下たちが持っていないのはわかり切っていることだ。

 何故なら、この部隊は『掃き溜め』なのだから。


「俺たちは全員、現場からの叩き上げ。俺に至っては元傭兵だ。俺たちはな、はした金で命を捨てる。あんたとは違うんだよ。国のためなんざに命を捨てるつもりはねぇ」


 マリアから手を離し、曹長が言い捨てる。マリアはそれでも拳を握り締めながら言葉を紡いだ。


「……わかっている。そんなことは。わかり切っていた。だがな、命令違反は許さん。敵前逃亡もだ。私が隊長だ。逆らうのであれば、この場で命令違反と見なして射殺する」

「できもしねぇことをほざいてんじゃねぇよ。甘ちゃんが」

「――できないと思うか?」


 拳銃を抜き放ち、言い捨てるマリア。はっ、と曹長が唾を道へと吐き捨てた。


「隊長よ。どうしてあんたはそこまでする? あんたは何故、俺たちみたいなのを部下にされても国に忠義を尽くそうとする? 自分が疎まれていることはとっくにわかってんだろ?」

「……私は」


 呟くように、言葉を漏らした。


 ――私が、軍に忠義を尽くすのは。

 全て、あの男に――


「私は……」



 トスッ、という静かな音が響いた。

 マリアの目の前で、曹長の身体が傾いていく。



「曹長!?」

「襲撃です!! 見つかった!!」


 袖口からナイフを取り出し、それを暗闇に投げつけながら隼騎が吠える。曹長の背中――そこには、一本の矢が深々と突き刺さっていた。


「ぐ、が……!?」


 曹長の口から血が溢れ出す。マリアは咄嗟に手を伸ばすが、それを曹長が払い除けた。


「逃げ、ろ……馬鹿が……!」

「――――ッ!! 総員走れぇっ!!」


 最早隠密行動中であることは関係ない。怒号のように響いたその声を合図にし、隊員たちが走り出す。一人が曹長の身体を抱き上げようとしたが、身を屈めたその瞬間にその体へ矢が何本も突き刺さった。

 マリアがその光景を見、足を止めようとする。しかし、それを隼騎に手を引かれたことで遮られた。


「走って!!」

「……ッ! でも――」

「助けてる余裕はない!!」


 あまりにも明確な事実を叩き付けられ、マリアは走り出す。一瞬で失った二人の部下――その顔が、脳裏を過ぎった。

 山道を走り抜ける。周囲には明かりが灯り始め、それがそのままイコールで『敵』の数なのだと思い知らされる。

 そうして走り抜ける最中、前方に人影があった。薙刀を持つ、陣で見た僧侶たちの格好に鎧を加えたような出立ちをした者たち。その後方には弓を構えた者たちもいる。


「僧兵……!? 僕たちと敵対する気か!!」

「聖域を汚す者には罰を!!」


 それを号令とするように、僧兵たちが一斉に動き出した。マリアは咄嗟に拳銃を取り出すと、反射的に引き金を引く。

 連続して放たれる銃弾。だが、胴体に直撃したはずだというのに僧兵たちの動きが止まる様子はない。


「防弾チョッキだ!! 拳銃では抜けない!!」


 言うや否や、隼騎が迎え撃つように前へと駆け出した。そのまま体がぶつかる直前まで速度を落とすことなく、振り下ろされる薙刀に対して一切に恐怖も見せず、拳を振り抜く。

 ゴツッ、という鈍い音が響いた。隼騎の拳が僧兵の顎を撃ち抜いた音だ。

 体が傾く僧兵。マリアは思わず叫んだ。


「伏せて!!」


 同時、前へと飛び込むようにして地面を蹴る。隼騎の身体に手が触れた瞬間、その体を自分の身体ごと押し倒した。

 直後、頭上を駆け抜ける風切り音。無数の矢が夜の山道を駆け抜ける。

 悲鳴が聞こえた。部下の声。それが誰の者かわかってしまうからこそ――マリアは吠えた。


「あああっ!!」


 二丁の拳銃を引き抜き、ありったけの弾丸を撃ち込む。だが、山道であるが故に思うように当たらない。そもそも晒している頭部以外の場所に当たったところでダメージにならないのだ。牽制にもならない。


「マリアさん!!」


 そんな自分の手を、起き上がった隼騎が引っ張った。前と後ろは僧兵がいる。右にもだ。左は崖に向かう方向だったと記憶している。そこには僧兵たちはいない。

 振り返る。マリアの視線の先では、身に受けた矢によってその場を動けなくなった四人の部下たちがいた。


「――――ッ!!」


 隼騎の手を振り払い、駆け寄ろうとするマリア。それを彼女の部下たちが押し留めた。


「来るんじゃねぇ隊長!!」

「さっさと逃げろ!!」

「あんたみたいな小娘の手なんざ必要ねぇんだよ!!」


 足が止まる。それと同時に、隼騎が体を抱き寄せるようにして引っ張ってきた。


「急いで!!」

「――――ッ、お前たち!!」


 マリアが叫ぶ。直後、残酷な光景が彼女の目に飛び込んできた。

 背後から追ってきていた僧兵たち。彼らの放った矢が、部下たちを刺し貫いたのだ。

 隼騎に引きずられるようにして、マリアは走る。

 たった二人の逃亡戦。敵は無数。辿り着くのは、袋小路の崖の上。


「往きます!!」


 体を強く抱き締められ。

 どこか現実感のない感覚のまま、マリアは地震の体が宙に浮いたのを感じた。



◇ ◇ ◇



 夜も深き山の中。深く響き渡るは、鐘の音。

 腹に響くその音を発するは――宗久寺。

 本来ならば信念の祝いがために鳴らされるその音はしかし、今はその意味合いを大きく変える。


「――義姉上」

「総員に通達を。戦闘です。この山道では神将騎は動きを阻害され、的になるだけ。歩兵戦。それも闇の中の奇襲戦闘です。そしてそれは私たちの領分。そうですね?」

「はい。それともう一つ。扇、水原の両名を中心とした操山殿の部下が協力したいと申し出ています」

「……帰るようにと言ったはずですが、まあ予想通りですね。これも操山殿の人徳でしょうか」


 微笑を零し、天音は立ち上がる。それと同時に、彼女のすぐ側に控えていた従者が天音へと一着の上着を差し出した。

 それを受け取り、天音は医者が身に纏う白衣の上から漆黒の服を身に纏う。

 ――漆黒の軍服。

 義妹たる氷雨と天音にしか着ることの許されない、《女帝》の戦闘衣が夜風に揺れる。

 背負う文字は、『心理』。

 人を示す、心と。

 世界を示す、理の文字。

 その二つをその背に負い、大日本帝国史上最悪の反逆者と呼ばれた《女帝》が戦場へと舞い降りる。


「氷雨、彼らは戦力としてどの程度と考えればいいですか?」

「士気は高いですが、負傷者が多く……最前線に送ることは不可能かと」

「ならば第九陣に配置しなさい。これで構えは十三陣……『十三階段』とは皮肉が効いています」


 微笑。それと共に、天音は宣言する。


「――開戦です」


 鬨の声が上がり、山に無数の松明の光が灯り始める。轟く声は、一体どちらの陣営が優勢か。


 ――二年後、世界大戦が起こるきっかけとなったクーデター事件。

 その首謀者となる三好長政と出木天音の戦いが、幕を上げた瞬間だった。



◇ ◇ ◇



 響き渡る鐘の音。その音を耳にし、蒼雅隼騎が厳しい表情で言葉を紡いだ。


「……マズいね。予想以上に三好の動きが早い。先生が出て来たと知って動きを早めたのか……?」


 そう言葉を紡ぐ隼騎の身体はずぶ濡れだ。先程マリアを抱えて飛び降りた際、下の川へと着水したためでもある。

 その隼騎は懐から拳銃を取り出す。やはり、水に入ったせいで使い物にならなくなっている。元々銃は得意ではない上に使うことも少ないので痛手ではないといえばそうだが、それでも銃という凶器を失ったことは痛い。


「…………」


 ため息を零し、隼騎は銃を放り捨てた。使えないものは持っているだけ無駄だ。

 そして、隼騎は一時の避難場所としている洞窟の奥を振り返る。


「……大丈夫ですか、マリアさん」

「…………」


 問いかけに対し、返答はない。金髪の少女は俯き、膝を抱えて黙り込んでいる。

 先程から、ずっとこの状態だ。隼騎に対して一言の礼を述べただけで、彼女はそれから欠片も動くことはない。


「マリアさん。気持ちはわかりますがここは敵地です。移動しなければ――」

「……気持ちがわかるって、何?」


 腹の底に響くような声だった。思わず、隼騎は僅かに眉を寄せる。


「あんたに、何がわかるの? 何がわかるっていうの?」

「……失言でした。ですが――」

「どうしてよ!? どうしてこんなことになってるのよ!?」


 頭を抱え込み、喚くようにして叫ぶマリア。隼騎はそんな彼女の側へと歩み寄るが、それと同時に両手で胸倉を掴まれた。

 視線の先。そこには、大粒の涙を幾筋も流す少女の姿がある。

 その瞳は昏く、そして濁ってしまっている。


「私は!! 私はただお母さんのために……!! 私自身のために!! ただ認めてもらいたかっただけなのに!! 胸を張って生きていきたかっただけなのに!! どうしてよぉ……!!」


 どうして、と少女は叫ぶ。

 その心に飼う闇を、すべて吐き出そうとしているかのように。


「どうして、どうしてこんなことに……!!」


 隼騎を掴んでいた手から力が抜け、その体が膝をつこうとする。

 糸の切れた操り人形のように倒れて行こうとするマリア。しかし、その体が地面に倒れる前に隼騎がその腕を掴むことで押し留めた。


「……なん……で……?」

「あなたの事情は知らないし、今は知る必要のないことだ。だけど、だからといって黙っていることが是になるわけじゃない。本来なら僕の役目じゃないけれど、ここにいるのが僕だけならばこれは僕の役目だ」


 立て、と隼騎は言った。

 ここ数日で見せていた優しく穏やかな表情とは違う、厳しさを纏った表情で。


「あなたは生かされたんだ。あなたの部下は、あなたに生きろと……逃げろと言った。その想いを無視して蹲ることを、僕は許さない」

「…………ッ、知った風なことを……! 何がわかるっていうのよ!?」

「どんな理由があっても!! 生きているなら諦めることは許されないんだ!! あなたはまだ生きている!! まだ戦える!! 彼らの生き様を無駄にするつもりなのか!?」


 叩き付けるような言葉。隼騎は更に続ける。


「僕は知ってるよ。自分自身の全てを捨てて、それこそ幸せの何もかもを捨て去って。そうまでして『自由』を求めたのにようやく手にしたのは『不自由』で……それでも、そんな中でも笑っている人を。あなたは生きてるんだ。ならばまだ、できることはあるんじゃないか?」


 そして、隼騎は手を離す。

 だが、マリアは――少女は、膝をつくことはなかった。


「……何が、できるっていうのよ……?」

「生きること。そして――」


 洞窟の外へと視線を移し、隼騎は呟くようにこう告げた。


「――任務を達成することだ」



◇ ◇ ◇



 山の中を、一人の女性が悠然と歩いていく。漆黒の軍服を身に纏った、眼鏡をかけた女性だ。

 周囲では夜の闇を照らすように火花が散り、銃声が響き、鮮血が舞っている。だが、女性はそのようなものを気にしている素振りさえ見せない。


「――出木天音!! 覚悟ッ!!」


 不意に、女性の右側から三人の僧兵が現れた。しかし、女性――出木天音はそちらへ欠片も視線を寄越さない。

 ――一閃。

 閃光が瞬いたと思った瞬間、僧兵たちの身体がズレた。

 上半身と下半身を切り離され、鮮血を噴き出しながら倒れていく男たち。その返り血を浴びているのは、いつの間に天音の側に立ったのか、一人の女性だった。


「相変わらず見事な腕前ですね、氷雨」

「……義姉上。一人で戦場を歩くのはお止め下さい。死ぬ気ですか?」

「死なせてはくれないのでしょう?」

「当たり前です」

「ならば良いではありませんか」


 微笑を零し、再び歩き出す天音。氷雨はため息を吐くと、無線機を使って部下たちへと指示を出す。それが完了すると、天音の後を追い始めた。


「そもそも、指揮はどうするのですか?」

「指示はすでに与えていますし、今後の展開を含めた作戦の伝達も終了しています。今回の盤面は非常にシンプル。三好長政……あの男の動向は気になりますが、あの男が予想を超えてくることはないでしょう」

「しかし、大将が本陣を外れるのは……」

「――私が辿り着けば『詰み』なのです。動かない理由はありませんよ。将棋にだって『王』を孤軍で動かす策もありますしねぇ」

「そうなのですか?」

「とりあえず私はよく使う手です。……と、ここは通り難いですね。右に移動しましょう」


 夜の山道。周囲に松明の光があるとはいえ、天音本人は灯りの類を何一つ持っていないというのにその足取りに迷いはない。その後ろ姿を追いながら、氷雨がもう一度ため息を吐いた。


「義姉上を失えば部隊は総崩れということを理解して下さい」

「私が幽閉されていた四年間、問題などなかったではないですか」

「それとこれとは話が別です」


 飄々とした天音の言葉に対し、生真面目に氷雨が返答を返す光景。吉原などではよく見かけるものだが、ここは戦場だ。通常ならこんな余裕は有り得ない。

 しかし、この二人であるなら話は別。

『天才』と呼ばれると同時に『天災』とも呼ばれる怪物と、その義妹であり神道流の教えを受けるほどの腕を持つ女侍。その二人にとって戦場とは幾度も経験してきた場所であり、余程のことがなければ難なく突破できる場所なのだ。


「……隼騎はどうしているでしょうか」

「死んではいないのではありませんか? 彼も大概、生き意地が張っていますし」

「そう教えたのはあなたでしょう?」

「そうでなければ生き残れないからですよ?」


 ふふっ、と天音は微笑み。

 そして、敵の本拠地たる宗久寺を静かに見据える。


「さて、首を獲りに参りましょうか」



◇ ◇ ◇



 ただ、闇の中を走り抜けた。

 松明の炎。銃口から放たれる火花。月明かりに照らされる白刃。

 孤軍、奮闘。

 おそらく自分たちは敵陣の一番深い場所にいる。四面楚歌。遥か後方では天音が率いる軍が動いているが、ここに到達するまでは時間がかかるだろう。


「…………ッ!!」


 歯を食い縛り、走る速度を上げる。脇腹が痛い。息が荒れる。

 けれど――止まれない。

 止まるわけにはいかない。

 この足を止める時が、そのまま死ぬ時だから。


「いたぞ! こっちだ!」


 前方より声が響く。揺れる視界の中、現れたのは僧兵が四人。

 一斉に弓を構える僧兵たち。マリアは反射的に腰へと手を伸ばし、瞬間気付く。そうだ、銃は使えなくなっていたのだった。


「伏せて!! 姿勢を低く!!」


 横手から響く声。その言葉に従い、身を沈み込ませる。足にかかる負担で一瞬表情が歪むが、足を止めることもバランスを崩すこともなかった。

 同時、視界を駆け抜けるいくつもの銀閃。右肩を矢が掠め、痛みと共に鮮血が宙を舞った。


「っ、あああッ!!」


 叫び、その痛みを堪える。抜くのはナイフ。右手で握ったそれを逆手に構え、眼前、随分と距離が近付いた僧兵たちへと視線を向ける。

 僧兵たちが矢をつがえる。夜間であり、山中。銃では木々に邪魔されて当たらないことと、矢ならば発砲音もないことからこちらを優先したのだろうが――この状況では失策だ。

 鈍い音が響き、手に肉を貫く音が伝わる。


「ど、け……ッ!!」


 僧兵の身体を貫いた矢を、捩じり上げるように振り上げる。鮮血が舞い、体を濡らした。


「貴様ッ!!」


 すぐさま隣の僧兵がこちらへ刀を抜いて襲い掛かろうとする。しかし、その刀が振り下ろされることはなかった。

 目を見開き、倒れていく僧兵。見れば、その背には一本のナイフが深々と突き刺さっていた。


「急ごう」


 そのナイフを引き抜きながら、その体にマリア以上の返り血を浴びている隼騎が言う。彼の周囲には、残り二人の僧兵も一緒に倒れていた。

 死体に派手な損傷はない。誰もが目を見開き、信じられないとでも言いたげな表情で死んでいる。

 見事な手際だ。相手が死んだことにさえ気づいていないのではないかと思わせるその手腕は、まるで暗殺者のそれを思わせる。


「わかった」

「……ここから先は敵の本拠地だ。覚悟はいいね?」

「覚悟は済んでる」


 頷き、前を見る。宗久寺――マリアと隼騎が密命を受けて『放火』を命じられた敵の本拠地であり、マリアにとっては部下の仇が座す場所でもある。

 マリアは倒れている僧兵が持っていたライフルを拾い上げると、状態の確認をした。イギリス軍のものとは規格が違うが、使えないわけではない。射程などのスペックが不明なところに不安があるので過信はできないが。


「行こう」


 隼騎の言葉に頷き、走り出す。眼前、正門の反対――本来ならば裏山に通じる門であるために攻められることはほとんどない場所。

 しかし、マリアたちが落ちた際に川に流された結果、大分本来の予定ルートから外れてしまった。その結果、遠回りになり過ぎるとして回り込めなかった裏門へと回り込むことが可能になったのだ。

 もっとも、天音が全方位を取り囲むようにして陣を敷いているために予想よりも警戒が強く、ここまで何度も戦闘になってしまったが。


「私が前に出る。異論は?」

「いや、ないよ」


 視界に入る裏門。見張りは――二人。

 おそらく、この周囲をいくつもの部隊が張っているのだろう。ならば、時間を懸ければそれだけ危険度が増す。


「――――シッ!」


 ライフルを構え、引き金を絞る。弾けるように飛んでいく薬莢。一発では終わらない。二発、三発、四発……合計、七発の弾丸が宙を裂いた。

 倒れる門番二人。それと同時、隼騎が一気に前に出る。その手に握られているのは――複数の手榴弾。

 轟音が響いた。文字通りの大爆発。門が吹き飛び、爆炎が周囲を照らす。


「行こう」

「ええ」


 隼騎が差し出した手を握り返し、ライフルを投げ捨てながらマリアは応じる。

 そして、二人は門の中へと足を踏み込んだ。



◇ ◇ ◇



「――見事な働きでした」


 戦いの全てが終わった後、返り血を浴びた状態で呼び出されたマリアと隼騎は天音にそう労われた。二人共包帯を巻かれ、痛々しい傷の痕が見えるというのに天音は欠片の傷もない。しかし、その身に纏う軍服と白衣を染め上げる真紅の血は彼女が最前線にいたのだということを示している。


「マリア、でしたね。あなたの部下については死体を捜索中です。手厚く弔わせてもらう予定ですが、不都合は何かありますか?」

「いえ……ありがとうございます」


 マリアは頭を下げたまま、絞り出すように口にする。その言葉を聞き、居合わせていたウィローが大げさに声を上げた。


「いや、見事だ。期待通りの成果を上げてくれた。部下たちの件については残念だが……任務に犠牲はつきもの。そうだろう?」

「…………はい」


 マリアは頷く。その体が震えていることに隼騎は気付いた。しかし、何も言えない。

 言うことなど……できなかった。


「ええ、確かに見事です。……エンぺリアル殿。貴国を同盟国として受け入れましょう。帝には私からとりなしますが、問題はありますか?」

「それはそれは……ありがとうございます」

「今日のところはお休みください。……氷雨、部屋へ案内を」

「はい」


 天音の指示を受け、氷雨がウィローを伴って部屋を出て行こうとする。マリアも一礼すると、部屋を出て行った。隼騎はそれを追おうとするが、それを天音が呼び止める。


「隼騎。あなたには少々、話があります」

「……何ですか?」

「まずは労いです。本当に良くやってくれました。たった二人で宗久寺の裏門を爆破、そのまま内部で火を放ち、挙句の果てに無事に帰還するとは……成長しましたね」

「しかし、三好長政は逃がしてしまいました」

「それはこちらの落ち度です。あなたが気にすることではありませんよ。今回は逃がしましたが……あの男は必ずこの手で殺しますので、ご心配なく」


 微笑を浮かべて言う天音。隼騎はそんな彼女に対し、ならば、と言葉を紡いだ。


「本題をお願いします。……僕に何か話すことがあったのでしょう?」

「ええ。彼女……マリア、といいましたか。どうでしたか?」

「どうも何も……特には」


 隼騎は首を左右に振る。それを受けて天音はどう思ったのか、笑みを浮かべた。


「そうですか。今日は本当にご苦労様でした。下がってください。……イギリスとの件については、また動いてもらうことになると思いますが」

「はい。了解しました。――失礼します」


 一礼し、隼騎が部屋を出て行く。天音はそれを見送ると、しばらく宙をじっと眺めていた。

 ――そして、不意に。


「アルビナ」

「……そろそろ呼ぶ頃だと思ってたよ」


 いつからそこにいたのか――天音が呼ぶと、窓に腰掛けるようにして一人の女性がいた。その女性は煙管の紫煙をくゆらせながら、それで、と天音に問いかける。


「聞きたいことは?」

「あの隊長さん、想像以上に優秀なようです。隼騎についていける身体能力――下手をすれば〝奏者〟の可能性さえあり得ます。その点については血液からの調査をさせていますが」

「なら、その結果を待てばいいだけじゃないさね?」

「目の前に情報を持っている人間がいるというのに、それを後回しにする道理が?」

「相変わらず、怖い人さね」

「褒め言葉ですね」


 片方は微笑。片方は苦笑。そんな笑いが室内に響く。

 そして、数刻後。

 アルビナは、静かに言葉を紡いだ。


「……マリア・ストゥルタック。男尊女卑の風潮が強いイギリス軍で女性でありながら士官になり、それどころか隊長にまでなっている。優秀だよ。だけどね、あの子は庶民の出だ。それもスラム出身。イギリス軍の上官なんてのはその大半が貴族。目障りで仕方なかったろうね」

「ふむ。それ故の嫌がらせ、というところですか? 大日本帝国に来たのは」

「それもあるけど、部下もだよ。他の部隊から放逐されたいわくつきの人間ばかりを部下にされて、その上でキツい戦場にばかり送られてきたそうだ。それでも生き残って、更に目立って……優秀な女軍人に対する上層部からの嫌がらせだね」

「非合理的ですねぇ」

「外の国を見ればいつも思うよ。やっぱりこの国は――大日本帝国は異常だって」

「一番上が異常の極致ですし」

「まあ、確かにね。……あのお嬢ちゃんは、それでもどうにか生きていた。だけど、お嬢ちゃんが認められることはない。あり得ないんだ、そんなことは」

「訳あり、ですか」

「その内容が凄まじくてね……だからこそアタシも知ることができた。そうでもなければ、軍人一人の個人情報なんて知りやしないさ」


 紫煙を吐き出すアルビナ。ふむ、と天音は笑みを浮かべたままに頷いた。


「くだらない思惑の香りがしますねぇ」

「思惑でさえないさ。これはそんなものじゃない。ただのくだらない、あんたと似たようなつまらない物語だよ、先生」

「……へぇ」


 天音の目が細まり、興味を抱いた表情になる。その顔は、見る者を戦慄させるもので満ちていた。


「興味がありますね。私と似た物語というのは」

「簡単な話だけどね。けれど、物語っていうのはシンプルだからこそ……どうしようもない」


 そして、アルビナは語る。この地を訪れたイギリス人の少女の――物語を。


「――マリア・ストゥルタック。彼女は、イギリス王家の血を引く不義の子供だ」



◇ ◇ ◇



 夜。隼騎の部屋に来客があった。その人物が訪れたことには驚いたが、隼騎は快く受け入れることとした。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「いいよ、敬語は。僕も敬語なしで話すから」


 お茶を渡しながら、隼騎は苦笑と共にそう言葉を紡ぐ。来客者――マリアは数秒悩んだ後、うん、と頷いた。


「……ごめん」

「謝られるようなことじゃないよ」

「じゃあ、ありがとう」

「うん。どういたしまして」


 マリアの言葉に、隼騎は反射的に応じる。礼を言われるようなことをした覚えはないが、礼をされたなら受け取るのもまた礼儀だ。

 そして、しばらく沈黙の時間が続く。

 外から聞こえてくるのは、戦後処理の音。残党狩りもそうだし、負傷者の手当てもまだ行われている。もっとも今回の戦闘は勝利であり、特に天音が〈金剛夜叉〉を狩って敵陣に乗り込み、神将騎を五機も狩った時点で決着は着いたので被害はそこまで大きくないのだが。

 そうして、いくらかの時間が過ぎた時。


「……私の話、聞いてもらっても……いい?」


 何かを決心したように、マリアが俯きながらそう言った。隼騎は、うん、と頷く。


「僕で良いなら」

「ありがとう。……私、ね。お父さん、いないんだ」


 父親がいない――自分とは逆。そのことに隼騎は少し心が揺れるのを感じたが、すぐにそれを打ち消す。


「ああ、違う、かな。いないんじゃなくて……いるのは、いるの。そうじゃなかったら私は生まれてないし……そう、そうなのよ。いないのはお父さんじゃなくて……私と、お母さんなの」


 自分と母親がいない――矛盾するの言葉に、隼騎は眉をひそめる。


「私ね、愛人の子供なの。そして父親は……イギリス国王」

「イギリス国王?」

「うん。……イギリスは代々女王の方が力が強くて、国王は蔑ろにされやすい国なのよ。それもあって、国王は外に女を求めて……町工場で働いてた私のお母さんを見初めて、愛人にした」

「それは、また……」

「もちろん、それは許されないこと。イギリス女王の下には三人の子供がいたし、尚更私の事なんて認められるわけなんてなかった。別に王室なんてどうでも良かったし、関わるつもりもなかったんだけど……イギリス女王がね。お母さんのことを許さなかったのよ」


 そう、許さなかった――噛み締めるように、マリアは言った。

 何かを……堪えるように。


「最初は、お母さんの働いてる町工場だった。いきなりの理由のないクビ……町工場の人が、『上からの圧力だ』って言ってた。その時に思ったわ。ああ、国王だって。浮気を隠すためにお母さんと私を殺す気なんだって。

 それからは酷かったわ。私とお母さんは住んでた場所も強制的に追われて、辿り着いた場所はスラム街……子供と女が生きていくには、あまりにも辛かった。

 毎日、少しずつ痩せていってたお母さんの姿を覚えてる。私もね、普通の人に比べて細くて……小さいでしょ? この体の成長はね、十三歳の頃から止まってる」


 言われ、隼騎は頷く。マリアの身体は一般的に『小柄』とされる女性のそれよりも一回り小さい。彼女の話が本当なら、それは栄養失調が原因だろう。


「……お母さんは、そんな状況でも国王を信じてた。お父さんは、って、そんなことばっかり言って。だから私は軍隊に入ったの。軍人なら、手柄を上げれば上に挙がれる。そして死ぬ前に、国王に――お父さんに会えるかもしれない。あり得ないかもしれないけど、ずっと待ってるお母さんを見てたらそうするしかなかった。

 それに何より、私は認められたかった。

 何もかもを否定された私たちにも、生きている価値はあるんだって。理由はあるんだって。愛人の子でも、望まれなかった子供でも……胸を張って生きていってもいいんだって。

 でも、軍隊に入って知ったの。――私たちを否定したのは、女王だって」


 くしゃりと音を立てながら、マリアは自身の髪を握り締める。その体は、どうしようもなく震えていた。


「でも、それでも認めてもらおうって……そう、思ってたのに。部下を死なせて、こんなことになって。今までは誰も死なせないで任務も失敗せずにどうにかやってきたけど……もう、終わり。部下を殺した責任を追及されて、私はきっと軍法会議で処刑される。

 ……どうして、なんだろうね。

 どうして私は、こんな風になっちゃったんだろう――?」


 窓から見える月を見上げ、マリアは言う。その彼女に、隼騎は何も言うことができない。

 彼もまた、望まれぬ命でありながらどうにかここまで生きてきた身。そして、マリアと違って成功した身なのだ。

 故に、何も言えない。

 蒼雅隼騎は、〝勝者〟の側の人間だから。


「……頑張ったよ」


 だけど、一つだけ。

 その言葉だけを、隼騎はマリアへと送り届けた。


「キミは、頑張った」

「……ありがとう」


 そう告げた、彼女の瞳からは。

 涙が、溢れ出していた。



◇ ◇ ◇



 大日本帝国で起こった、出木天音と三好長政の衝突。それより三週間の時間が流れた。

 精霊王国イギリスとの同盟は帝によって承諾され、それを伝えるために隼騎を中心視した大使が組織されることになる。

 そして、現在。

 船旅を終え、隼騎はマリアやウィローと共にイギリスの地を踏んでいた。


「ようこそ、我がイギリスへ」


 そんな彼らを迎え入れたのは、軍服を着た集団だった。階級章を見るに、先頭に立っているのは将軍格。初老の男性で、精悍な顔つきをしている。


「大日本帝国より参りました、蒼雅隼騎と申します。今回は大使として参りました」

「イギリス陸軍中将、ゲボルグ・ウィコライスタと申します。長旅でお疲れと思いますが、女王陛下がお待ちですので……同行願えますか?」

「ええ、無論です」


 隼騎が頷くと、ゲボルグが彼の部下たちへ指示を出し始める。ウィローはゲボルグと何やら言葉を交わすと、隼騎に挨拶だけをしてどこかへ行ってしまった。

 隼騎はマリアへと視線を向ける。しかし、マリアの表情は浮かない。どうしたのか、と問おうとした瞬間。


「――マリア・ストゥルタックを拘束しろ」

「なっ――!?」


 ゲボルグの指示が飛び、同時にマリアが取り押さえられた。しかし、彼女は抵抗しようとしない。そのまま両腕を拘束され、更に軍服の上着をはぎ取られてしまう。


「彼女に何を!?」

「この者は部下をむざむざと死なせ、その上で恥知らずにも帰ってきましたのでな。そちらでの軍功はあれど、それとこれとは話は別」

「なっ……!?」

「大使殿には関係のないこと。我が軍のことについての口出しは控えて頂きたい」


 それでは――そう言ってゲボルグは隼騎に背を向ける。隼騎は思わず叫んだ。


「マリアさん!!」


 その叫びに、マリアは一度だけ振り返る。

 ――そして。


 ありがとう


 そう、唇だけでそう告げた。


「待っ――」

「さあ、参りましょう大使殿」


 追おうとする隼騎を遮るように、数人のイギリス軍人が立ちはだかる。振り返ると、不安げな表情で自分についてきた者たちがこちらを見ていた。


「……彼女を、どうするつもりですか?」

「大使殿には関係ないことです」


 あくまで高圧的な態度を崩さぬまま、軍人たちが告げる。隼騎は、拳を握り締めた。


 ……僕の任務を、忘れるな。


 冷静な自分がそう告げる。隼騎は、わかった、と呟くようにそう告げた。

 そして、先導する軍人たちへついていく。


 ――握り締めた拳から、血が流れた。



 …………。

 ……………………。

 ………………………………。



 俯きながら、道を歩く。周囲から感じるのは、好奇の視線。晒された罪人のような――いや、実際に罪人なのだろう。

 表向きは、部下を殺した無能な上官として。

 実際には、生まれてくるべきではなかった命として。

 そんな罪人として、殺されるのだ。


「ふん。全く、愚かな。逃げれば良かったものを。所詮は薄汚い売女の娘か」


 前を歩くゲボルグが、何かを言っている。聞く気もない。


「あの大使にも体で近付いたのだろう? 全く、卑しい――」


 ドンッ、という音がした。見れば、ゲボルグに誰かがぶつかったらしい。


「……失礼」

「む、何だ貴様は」


 顔を上げると、そこにいたのは笠を被った人物だった。大日本帝国にいる時に何度か見かけたものだが、笠などという文化はイギリスには存在しない。

 何だろう、とマリアが眉をひそめた瞬間。


「――貴様の首を獲りにきた」


 言葉と同時、一つの物体が宙を舞った。音はない。音がしない程に鋭利な斬撃。

 飛んだのはゲボルグの右腕。振り抜かれた刀の刀身が陽光に煌めく頃、その腕から血が噴き出す。


「なっ、あっ、う、腕……私の腕がああああッッッ!?」

「うるさいですねぇ」


 ゲボルグが叫び、それに応じるような声が響いた。瞬間、ゲボルグの額に風穴が開く。

 振り返る。視線の先にいたのは、マリアが大日本帝国で世話になった人物。

 ――出木、天音。


「それに木枯。目的はマリアを救出することですよ?」

「それは貴様の役目だ。私の役目は抵抗する者を斬り捨てることだろう?」

「まあ、確かに」


 天音の言葉に対し、被っていた笠を投げ捨てながら応じたのは一人の女性。長い黒髪をポニーテールにした長身の人物だ。右目を覆う眼帯が異様な迫力を伝えてくる。


「さて、人目もある。早急に片をつけるぞ」

「陛下からも許可は出ていますしねぇ。生かしておく意味もありませんし、それが最善でしょうか」


 敵は僅か二人。対し、イギリス兵たちはゲボルグが殺されたとはいえまだ十人以上いる。普通ならば人数差から考えて返り討ちにできるはずだ。

 ――しかし、動けない。

 たった二人の女を相手に、動くことができていない。


「天音、手を出すな。錆落としくらいにはなるだろう」

「マリアと一般人を巻き込まなければ、どうとでも」

「――当然だ」


 短いやり取り。それと同時に、木枯と呼ばれた女性が地面を蹴る。


「ひっ、う、うあああああっ!!」


 瞬間、金縛りが解けたように軍人たちが銃を抜いた。しかし、遅い。構えるのも、抜くのも。あまりにも遅すぎる。

 マリアは自身の体格のこともあって格闘能力は高くないと思っている。しかし、そんな彼女の目から見ても彼らの制圧は容易そうに見えた。

 そしてマリアにさえそう思わせるということは、天音が信頼する大日本帝国の侍にとっては赤子の手を捻るようなものだろう。

 ――同時、マリアはぼやけた思考の隅で理解する。

 神道、木枯。

《抜刀将軍》と呼ばれる怪物。その名と、力を。



 全ては、一瞬で終わりを迎えた。



「さて……それでは王宮へ乗り込みましょうか」


 両手の拘束具を外しながら、天音が楽しげにそう告げた。マリアは状況についていけない中で、絞り出すようにして問いをぶつける。


「何故、こんなことを……?」

「私怨ですよ」


 天音が断言する。そのまま、彼女はマリアへ背を向けた。


「どんな人間にも生きる価値があり、自由がある。――私はそれを証明しに来たのです」



◇ ◇ ◇



 絢爛豪華な玉座の間。そこに膝をつき、隼騎は口上を述べていた。言葉を向ける相手は二人。一人はイギリス女王。もう一人は国王だ。二人は玉座に並んで座り、こちらを見下ろしている。


「――以上が、大日本帝国最高位、帝の考えです」

「成程……理解しました。ただ、一つだけ。この書状の最後に書かれている『大使からの要求』とはなんですか?」


 イギリス女王が告げたその言葉に、隼騎は驚いて表情を上げた。次いで、ふむ、という声が挙がる。


「その他の条件は特に問題はない。議会で採決する必要があるが……それは手順の話だ。だが、最後の『要求』徒は何かな、大使殿?」


 声を発したのは女王の側に控えていた男だ。確か、ウィリアム・ロバートといったか。イギリスの大貴族と聞いている。

 だが、隼騎にとってはそんなことはどうでもいい。要求――そんな話は聞いていない。


 ……いや、まさか。


〝向こうに着けばわかると思いますが、陛下があなたに一つプレゼントをしてくれているようですよ〟


 思い出すのは、出発前に天音がくれた言葉だ。あの時は意味がわからなかったが、成程こういうことか。

 ……要求。その言葉を思い浮かべ、一度目を閉じる。

 三週間前、自分にだけマリアが告げてくれたこと。そのことを思い出せば……答えは一つしかない。


「要求は……簡単なものです」

「何ですか?」


 思いの他、話が順調に進んでいるからだろう。どこか上機嫌に女王が問いかけてくる。

 その女王に対し、隼騎は真っ直ぐに言葉を紡いだ。


「――国王陛下に、マリア・ストゥルタック殿とお会いしていただきたい」


 室内の温度が下がったのを、感じた。


「……今、何と?」


 呆然とした言葉は、女王のもの。僅かに震えるその声に、隼騎は動じることなく言葉を紡ぐ。


「マリア・ストゥルタック殿と――」

「その名を口にするな!! 汚らわしいッ!!」


 隼騎が言い終わる前に、女王が声を荒げてそれを遮った。同時、今まで潜んでいた兵士たちが一斉に姿を現し、隼騎を取り押さえる。全部で二十人といったところか、その全員が一瞬で隼騎の身体を床へと叩きつけた。

 衝撃で呻き声を漏らす隼騎。それでも彼は言葉を続ける。


「…………ッ、何故――!?」

「黙れ!! あのような汚らわしい女の娘など……!! 今まで生かしておいたのが慈悲よ!!」

「なっ!?」

「ウィリアム!! あの娘の処刑の準備は!?」

「整っております。略式の軍法会議さえ終われば、一週間以内にでも」


 表情一つ変えずにウィリアムが言う。その言葉を聞き、隼騎は軋む音がするほどに強く歯を食い縛った。


「ふざけるな!! 彼女が何をしたっていうんだ!!」

「部下を死なせた無能な上官は死ぬもの。そうでしょう、極東の大使」

「何を……!! 何をわかったつもりで!!」


 隼騎は抜け出そうと体に力を込める。だが、流石に数が多過ぎる。どうしようもない。

 視線を巡らせる。その視線の先にいるのは、イギリス国王。


「――イギリス国王!! マリアさんはあなたの娘なんじゃないのか!? 娘を見捨てるのか!! あなたは!?」

「黙れ大使風情が!! 貴国との同盟を破棄してもいいのだぞ!!」

「――――ッ!!」


 イギリス女王のその言葉に、隼騎は一瞬押し黙る。そして、もう一度国王を見た。

 視線が合うのは、一瞬。すぐさま国王は視線を逸らした。

 ――ただ、それだけの行為。

 けれど。

 娘を、自分のために見捨てようとする姿が。

 どうしようもなく――〝あの男〟に重なった。


「やるなら……やれよ」


 低い、地の底から響くような声。

 ビクリと、隼騎を押さえ込んでいた者たちが体を震わせる。


「私怨で人を殺すようなクソ野郎が王の国なんざこっちから願い下げだ!!」


 大使として、最もやってはならないこと。

 ――宣戦布告。

 最悪の外交失敗をしてしまったというのに、隼騎の心は酷く澄んでいた。女王がその表情を怒りに染める。


「この……ッ、その無礼者を――」

「――よく言いました、隼騎」

「それでこそ、大日本帝国の大使だ」


 女王の言葉を遮るように。

 鮮血の嵐が、吹き荒れた。


「立てるか、隼騎」


 体から重みが消え、同時に視界が朱に染まる。玉座の間、その床を染め上げる大量の鮮血によって。

 視線の先。こちらに背を向けているのは長い黒髪をポニーテールにしている女性。その背に描かれるのは、『忠』の一文字。

 そして、背後。振り返った先にいるのは、機関銃を肩で担いで笑っている白衣の女性。平時ならば医者に見えるその姿も、大量の返り血を浴びているせいで死神に見える。


「木枯さんに、先生まで……どうして」

「陛下の指示だ。場合によってはイギリスを滅ぼして来い、とな」


 隼騎の問いに、木枯は静かに応じた。木枯の軍服は血に塗れており、周囲にも彼女が斬った者たちの死体が転がっている。あの一瞬でこれだけの人間を殺したというのか。

 そんな二人の登場に、女王と国王は固まってしまっている。唯一表面上は平静を保っているウィリアムが、鋭い口調で言葉を紡いだ。


「どういうつもりだ……!? これは立派な敵対行為だぞ!!」

「そう見えないのであれば、あなたの目は節穴ですねぇ」


 言いつつ、天音はウィリアムへ何かを投げ渡した。それを受け取ったウィリアムは怪訝な表情を浮かべる。


「通信機……?」

「それを使えば、状況ぐらいは理解できるのではありませんか?」


 天音の言葉を受け、ウィリアムは通信機に電源を入れる。瞬間、雑音に交じって言葉が届いた。


『あー、あー、こちら……おい、この場所は何て場所だ?』

『こ、国防司令部です……』

『それだ。そっちはどうだー?』

「……誰だ貴様は?」

『あん? 誰だオメェ?』

「私はウィリアム・ロバートだ。貴様、国防司令部と言ったが……」

『あー、イギリスのお偉いさんか。悪いが軍部は制圧させてもらった。あらかた制圧は終わってんじゃねぇかな?』

「何だと!?」


 通信の向こうから聞こえてくる言葉に、ウィリアムは声を荒げる。次いで、別の男の声が通信機から届いた。


『ウィ、ウィリアム様……申し訳ありません。我々は為す術もなく―――』


 通信が途切れる。それを受け、天音が笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。


「軍の重要施設は全て制圧しました。残っているのはここぐらいでしょうか?」

「ふざけるな!! そんなこと、あるわけが――!!」

「――できるから、こうしている」


 威圧感のある木枯の台詞に遮られ、ウィリアムが口を閉ざす。重い空気。むせ返るような血の臭いと臭気が充満する中、これまでずっと黙っていた国王が口を開いた。


「民は、無事か……?」

「堅気に手を出すようなことはしていません。彼らはいつも通りに日常を送っているはずですよ。――さて、女王陛下。この状況を踏まえて改めて言わせていただきましょうか」


 一歩、一歩と天音が歩みを進める。すでに木枯と天音の手によってこの場にいた護衛は全て殺害されている。いや、いたとしても意味はないだろう。

 出木天音とはそういう人間であり、今はそういう状況なのだから。


「我々と戦争、してみますか?」


 全身を返り血で染めたその女性の笑みは、あまりにも壮絶で。

 同時に、どうしようもないほどに歪んでいた。


「…………ッ、同盟を……同盟を結ぶつもりではなかったのか!?」

「それを破ったのはそちらだろう、イギリス女王? 隼騎の――大使の要求を蹴った。それどころか拘束し、あまつさえ何をしようとした? 宣戦布告をしてきたのはそちらだ。世間がどう思おうと、世界がどう思おうと。大日本帝国はそれを理由に貴様らへ刃を向けるぞ」


 木枯の言葉に、脱力したように女王が玉座へ座り込む。それを見て、天音が背後に向かって声を上げた。


「さあ、入ってきなさい」

「…………」


 現れたのは、一人の少女。

 金色の髪と、小柄な身体。どこか気品のある顔立ち。

 隼騎は、思わず声を上げる。


「マリアさん!?」

「…………」


 マリアは無言。ただ、ゆっくりと歩みを進める。女王が声を張り上げた。


「なっ……!! ここは貴様のようなものが入って良い場所では――」

「――黙りなさい。見苦しいですよいい加減」


 銃声。顔のすぐそばを駆け抜けた弾丸により、女王が恐怖と驚愕で表情を固まらせる。天音は女王のところまで歩み寄ると、その胸倉を掴んだ。


「夫に愛されなくなったのはあなたのせいです。あの子のせいでもあの子の母のせいでもない。あなたに魅力がなかった。あなたがどうしようもなかった。それだけです。女の嫉妬と高慢程、この世で醜いモノもない」


 そして、耳元で囁くように天音は告げる。


「――醜いのですよ、あなたは」


 天音が手を離すと、女王は崩れ落ちるように座り込んだ。同時、天音は自身の役目は終えたとでもいうかのように玉座から離れていく。

 コツン、という音が響いた。

 小さく、控えめで。どこか弱々しいその歩みは、マリアのもの。

 彼女の視線の先にいるのは、国王。ただ、彼だけが映っている。


「お父さん……?」


 一歩。また一歩と。

 マリアは、歩を進める。


「お父さん、なの……?」


 ガタン、という音がした。

 国王が立ち上がり、マリアの下へと歩いていく。

 咄嗟に隼騎はマリアの側へと走り出そうとしたが、それを木枯が腕を掴んで止めた。


「どうして……?」


 二人が、向かい合う。

 小柄なマリアを、国王が見下ろす形だ。


「どうして、お母さんと私を……捨てたの?」


 マリアの瞳から、涙が零れた。


「どうして……助けてくれなかったの?」


 溢れ出る涙。それを見て、何を思ったのか。


「……すまない」


 国王は、血に塗れた床へとその膝をつき。

 その額を、床へと擦り付けた。


「すまない」


 震える、声で。

 男は、何度も何度もそう告げた。


 その声だけが、ずっと室内に響き渡っていた――……



◇ ◇ ◇



 イギリス南部にある、小さなスラム街。

 その端の端に、その場所はあった。


「……お母さん。ただいま」


 それは、墓標。

 愛した男を最後まで信じ、娘を育てた女性の眠る場所。


「やっと、私、立ち上がれると思う」


 花を供え、少女は言った。


「頑張るよ。――頑張る」


 少女が振り向いた先。そこにいるのは、一人の少年。

 ――蒼雅隼騎。

 おそらく初めて、自分の味方になってくれた人。


「……大日本帝国へ、来るつもりはない?」


 差し出された手。それを握り返したいと、切に思った。

 ――けれど、できない。

 だから、首を振る。


「無理よ。私は、この国の人間だから」

「ずっと、虐げられてきたのに?」

「辛い思い出ばかりで、哀しい思い出ばかりだけど……それでも」


 笑っているのが、自分自身でよくわかった。


「――ここが、私の生まれた国だから」


 その言葉に、そっか、と隼騎は頷き。

 僕はね、と言葉を紡ぐ。


「父が、嫌いだったんだ」

「……そうなの?」

「父にとって、僕は道具だったから。帝国議会っていう議会の議員だった父は、保身のために仲間を売った。母の実家さえも売って、母の命さえも交渉の道具にしてしまった。僕はそんな父にとって、国に取り入るための道具だったんだ。

 だから、僕も必死だった。

 父に捨てられたらどうしようもなくなる。だから必死になって勉強して、体を鍛えて……そんな自分が嫌で、でも、どうしようもなくて。

 そんな日々の中で――出会ったんだ」


 隼騎は言う。

 まるで、それを誇りとするかのように。


「自分自身の力だけで生き抜いてきた人に。その人に教えられて……ようやく僕は、僕でいることができた。操り人形じゃない、僕自身になれた」


 ごめんね、と隼騎はマリアに言葉を紡いだ。


「僕はきっと、キミに自分を重ねたんだ。どうしようもない中で、もがいているキミに。昔の自分を、重ねたんだ」

「……いいよ、そんなの。隼騎は私を助けてくれたでしょ? それで充分」


 だから、ありがとう――マリアが言い。

 隼騎もまた、ありがとうと言葉を紡いだ。


「でも、どうして私にそんな話を?」

「キミとは対等でいたかったから。どうかな?」


 隼騎が手を伸ばしながらそんなことを言う。マリアはその手を握り返しながら、ええ、と頷いた。


「いずれ、また」

「大日本帝国と精霊王国イギリスは同盟関係になった。近いうちにまた来るよ」

「うん。待ってる」


 マリアは笑みを浮かべ、隼騎も笑い。


「――それじゃあ、また」


 気軽な別れの挨拶だけを残し、隼騎は立ち去っていった。

 マリアはその背中を見送ると、海を見る。そして小さく、呟いた。


「やっと胸を張って生きられるよ、母さん」

過去最長。……二つに分けた方が良かったのでしょうか。

というわけで、あまりスポットの当たっていなかったイギリスと隼騎くんの物語。時間軸的にはここで出てきた『三好長政』が後々大日本帝国でクーデターを引き起こし、本編の二年前に当たる大戦に繋がって行きます。

そしてマリアですが、ちゃんと今後も出てきます。

……プロット的には文庫本一冊ぐらいの量になるのを無理やり短くしたから、ちょっと不完全燃焼。うーむ、努力あるのみですね。


ではでは、次回から最終章に突入です。

就活やら何やらで更新遅れるかもですが、お付き合いいただけると幸いです。

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