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ライトノベル、ついに1931年に世に出る

雑誌キングの発売日。

 無理を言って休みを取り、英二と比企谷と綾小路と一緒に朝から新宿の大型書店へと来ていた。

 目的は一つ。

 雑誌キングが売れるかどうか見たかったからだ。

 なぜなら、今月号には英二と比企谷のライトノベルが載っている。

 俺たちは書店に入るなり、棚の陰に隠れた。

 それから、そっと雑誌コーナーの覗き見をする。

「僕と上条先輩のラノベ売れますかねぇ」

「俺達の小説は講談社の野間社長に認められたんだ。売れる……はずだ」

 二人とも不安そうな顔をしていた。

 まったく、こいつらときたら。

「二人の小説は面白いし、ライトノベルは未来でも人気なんだ。売れないわけないだろう」

「未来はそうですけど、僕らの小説がこの時代の人に受け入れられるかどうかは……」

「待て、比企谷。客が来たぞ。話はストップだ。雑誌キングを手に取るかもしれないぞ。ドキドキするな」

「お前もそわそわしてんじゃねえか」

 英二のツッコミを聞き流しつつ、雑誌コーナーを注視した。

 とるぞ、とるぞ、雑誌キングを。

 スーツを着たおじさんが雑誌キングを手に取る。

 それからパラパラとページをめくっていく。

 途中でページをめくる手を止め、じっと読み始める。

 あれはどのページだ?

 俺達のラノベが載っているページだろうか。

 不意におじさんが笑い出した。

 笑ったってことは比企谷の書いたラノベを読んでいるんだろうか。

 そのまま笑いながら、おじさんはレジへと雑誌キングを持って行った。

「あのおじさん笑ってたってことは比企谷くんのラノベを読んだんですかね」

「わ、わかんねえ。こうなったら聞いてみるしかないか」

「待て、大吾。聞くなよ、恥ずかしいだろうが」

「恥ずかしくてラノベ編集者なんてやってられるか、すみませーん」

 迷ったときは動く。

 それが俺の信条だ。

「おじさん、どうしてその雑誌を読んで笑ったんですか。なにか面白いものでもありましたか」

「だ、誰だい、君は」

「その雑誌に載っている小説の編集者です」

「もしかして、この笑える恋愛小説の?」

「はい、そのラノベの編集者です」

 俺とおじさんはそのまま比企谷の小説の会話で盛り上がった。

 俺達の様子を見ていた英二がぼそりと、

「あいつのコミュ力は化け物だな」

「ですね」

「涼宮部長はオレとの初対面の時もそうでしたよ」

 お前ら、聞こえてるぞ。

 そのままおじさんと五分ほど話して別れた。

「どうだったんだ? 大吾」

「あのおじさん、お前らの小説を絶賛してたぞ。特に比企谷。読みやすくて楽しいって」

「よかったぁ」

 比企谷がその場で崩れ落ちる。

 緊張の糸が切れたようだ。

「俺の方はどうだったんだ?」

「英二の方はまだ一話だからわからないけど面白くなりそうって」

「まあ、俺のラノベはこれから面白くなっていくしな」

 面白くなりそうと言われた瞬間、顔がほころぶ英二。

 こいつもこいつでわかりやすいなぁ。

「涼宮部長。にやけてますよ」

「え?」

 綾小路に指摘されて初めて自分がにやけていることに気付いた。

 英二と比企谷がニヤニヤし始める。

「な、なんだよ、お前ら」

「べっつにー、大吾も嬉しいんだなと思ってさ」

「涼宮部長も僕らの成功が嬉しいんだなって」

「当ったり前だろ!」

 そう言って、三人を抱き寄せる。

 ああ、俺達なんて仲が良いんだろう。

 願わくばこの仲がずっと続きますように。


 

 それから、三人と別れて、俺は一人カフェパウリスタへと向かった。

 初音さんにライトノベルを読ませるためだ。

 雑誌キングを片手にカフェの中へと入る。

 そこには給仕の姿をした初音さんがいた。

「いらっしゃい、涼宮くん。手に持ってるそれって」

「そう。これこそ、俺が言ってたライトノベルが載っている雑誌だ」

「ふぅーん、あんだけ豪語してたライトノベルってやつね。早速読ませてもらおうじゃない」

 席に座り、ライトノベルを読みふける初音さん。

 幸い、店には俺しか客がいないため問題ないが。

 接客もせずに雑誌を読みふけるなんて大問題じゃなかろうか。

 まあ、別にとくに他の誰かに見られているわけでもないからいっか。

 初音さんはまず英二のラノベから読んでいた。

 というのも、英二の方が掲載順が先なのだ。

 だから、英二の方から先に読んでいる。

 初音さんは真剣に読んで、それからぼそりと「面白い」と口に出した。

「やったああああ!」

 俺が席から立ち上がって喜ぶと初音さんは慌てて

「ちょっとね、ちょっと」

 と訂正し直した。

 なんだ、ちょっとなのか。

「まあまあってとこかしら。悪くないかもね。一流の文豪と比べたらまだまだね」

「……面白いって言ったくせに」

「そ、それは言葉の綾で」

 というか、一流の文豪と比べたらまだまだって。

 英二はつい最近作家になったばかりなんだが。

 評価が厳しすぎやしないか?

「俺の大学の後輩の比企谷のも読んでくれ。面白いから」

「どんなジャンルなの?」

「ラブコメっていう笑える恋愛小説」

「恋愛小説はちょっとこの初音さんうるさいよ」

「望むところだ。比企谷のもちゃんと面白いからな」

「じゃ、読ませてもらおうかな、どれどれ」

 自称恋愛小説にうるさいという初音さんは比企谷のラノベを読み始める。

 読み始めてすぐに大笑いした。

「ちょ、この主人公。バカじゃないの。こんなおかしい小説読んだことない」

 おお、ウケてる。初音さんにもちゃんと。

 後で比企谷にお前のラノベ、女性にもウケたぞと報告しておこう。

 それから最後まで読んで、身を乗り出した。

「ねぇ、涼宮くん。この小説の続きはどうなるの?」

「それは来月の雑誌キングで確かめてくれ」

「くぅ……教えてくれたっていいじゃない、私と君の仲なんだからさ」

「でも、前に初音さん、自分で俺の敵だって言ってましたよ」

「それはその時。今は今なの!」

 必死になる初音さんを見ながら、俺は自分でも信じられないようなあくどい顔をして

「残念ながらラノベ編集者として答えるわけにはいきませんねぇ」

「この鬼! わかったよ、来月の雑誌キングを買って待つよ」

 俺は全文を知っているから来月どこまで載るかわかっているけど来月も実はいい所で終わるんだよなこれが。

 気になる引きで読者を引っ張る連載モノの基本だからな。

「それにしてもライトノベルって文体がすっごく軽いんだね。私でも書けそう」

「そこがラノベのいい所なんですよ。読みやすさと軽い文体で参入障壁を低くしたんです。そのおかげか、未来ではラノベが大流行して……」

「未来?」

 しまった。未来って漏らしてしまった。

 ここからどうにか軌道修正できないものか。

「えーと、未来でも流行ればいいなって」

「ふーん。まあでもこれは流行ると思うよ。だって、面白いもの」

「あっ、初音さん。面白いって言いましたね。どこが面白かったか教えてくださいよ」

「ああもう、涼宮くん、鬱陶しい!」

 俺のうざったい追及のおかげでどうにか未来のことは誤魔化せた。

 ふぅー危なかった。

 それにしても、文学少女の初音さんにも通じたってことはこの時代にもラノベって流行るんじゃ……。

 そう思うと興奮が止まらない。

 ああ、この時代にもラノベが流行ればなあ。

 最悪、英二と比企谷の生活費が稼げればいいんだが――。

 俺の思惑とは裏腹に英二と比企谷のラノベは俺が思っている以上に流行ることになる。

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