オタクたち、大日本帝国のある昭和初期へとタイムスリップ!?
「俺はただのオタクだ。宇宙人でもなければ、未来人でも、異世界人でも、超能力者でもない」
「当たり前だろ」
隣に座る幼馴染の上条英二から茶々が入るが気にしない。
「でも、ただのオタクじゃないんだよ! 俺はもっと大きなことを成し遂げたいんだ。このサークルもただの大学生の仲良しオタクサークルで終わらせる気はない。皆が志を持って、昨今の堕落したオタク業界に革命を起こすんだ!」
「おおー」
俺の演説に感化し、拍手を送ってくれるのは同じサークルメンバーの比企谷千秋だけだ。隣の席の英二のやつはため息をつき、同じサークルメンバーの相良岳にいたっては話を聞いてすらおらず、ひたすらタブレットに絵を描き込んでいる。
くっ、この情熱を知らない現代っ子め!
俺の演説を聞いていた英二が口を挟む。
「大体さあ、涼宮部長が言う堕落したオタク業界ってのはいったいなにを指しているんだ? オタク市場は成長し続けているし、優秀なクリエイターだってたくさんいる。なにが不満なんだ」
「それはこう、昨今のオタクは熱さが足りないと思うんだ。二〇〇〇年代後半から二〇一〇年代前半の頃にあったような熱さが。ほら、あの時はさ、Fステでけいろんをランキングに入れようぜとか秋葉原行けばみんなでアニメの有名なダンスを踊ったりとかしてたじゃん。給食の時間にみんなの迷惑とか考えずボカロ流してたりしてたじゃん。でも、今のオタクってそんなのないじゃん。なんか、こう冷めてるじゃん。もっと熱くなろうぜ!」
「そんなの親世代の話だろ」
「そうだけどさ。でも、なんかこう盛り上がってない気がするんだよな」
「はいはい、その幻想をぶち殺す。つい最近もジャソプ漫画で盛り上がったばかりじゃないか。オタクは今も増え続けてるし、かつてのサブカルからメインカルチャーへと昇格した。今や適当に石を投げればオタクに当たる時代だ。親世代のような差別や偏見もない。これ以上の天国はない」
「そうは言っても、メディアが取り上げるのはジャソプ漫画ばかりじゃないか。俺的にはこうもっとニッチで面白い漫画とか萌え萌えなラノベも取り上げてほしい」
「数字がとれないからしょうがないだろ」
「そう言われたら、言い返せないが」
英二のやつ、自分の書くラノベは熱いモノが多いのに、本人はこう冷めているんだからなぁ。
それまで、俺と英二の話を聞いていた比企谷が口を挟む。
「でも、涼宮部長の言うこともわかりますよ。なんか、最近のオタクって一般人になってないですか? 当たり障りのないものを好んで、マニアックな世界観のものを毛嫌いするというか、説明が多くなれば理解しようとしないというか。まあ、僕も萌えが入ってない漫画やラノベは読む気がしないんでわかりますけどね」
「そう、それ。俺はそれが言いたかったの。オタクの一般人化。みんな去勢されたみたいに大人しくなっちゃったじゃん。俺たちオタクってもっとウザかったじゃん。世間から白い目で見られようとなにくそっと頑張ってたじゃん。どんな逆風にも負けずに好きなものには好きって言ってた。でも、今もその風潮ってあるか?」
「そんなの人によるんじゃねえの。ってか、こんなどうでもいい用事で俺たちを集めたんなら俺は帰るからな。もう十八時だし。帰って新人賞へ応募するラノベの執筆とweb小説の更新をしなきゃいけないんだ」
「どうせ新人賞には落ちるし、web小説の方も人気ないんだからいいだろ」
「ぶっ殺すぞ!」
英二はプンスカと怒りながら、荷物をまとめ始めた。
まずい、こいつ本気で帰るつもりだ。
「とにかく、俺はなにかしたいんだよ。今のオタク業界を変えるような革命的ななにかを。ほら、相良とかなにかアイデアないか?」
相良はゆっくりとこちらを向いて
「う~ん、オレは絵が描ければなんでもいいっすね」
「そ、そっかー」
まあ、相良はそう言うよな。
こいつは絵のこと以外は大半の事に興味ないし。
話を振った俺が馬鹿だった。
「相良さんが今描いているのって、ラノベの挿絵ですか?」
比企谷は相良がタブレットに描いているイラストを見てそう聞いた。
「うん。そだよー。竜ヶ峰先生の新作ラノベの挿絵」
「へぇー。すごいですねー。大学生なのにもうプロとして活躍してるんだ」
「大学内で仕事をするなよな。というか、そういうのって人前で見せちゃ駄目だろ」
英二が見かねてツッコむ。
このサークルには俺以外才能に溢れているのに、俺と同じようなオタク業界に革命を起こしたりしたいとは思わないんだからな。
相良はイラストレーター。上条はファンタジーとSF大作ラノベが書けるが毎度新人賞に落ちるワナビ。比企谷は二次創作小説の書き手で萌えを書かせたら天下一品。
そして、サークル部長の俺はというと、なんのスキルも才能もない。
このサークルの部長に選ばれた理由は単純に俺が一番知識量があるのと責任感が強いからってだけだ。
なにもない俺だからこそ、なにかを成し遂げたい。
ただのコンプレックスの裏返しなのかもしれないな。
「なあ、なんか時計止まってね」
最初に異変に気付いたのは帰ろうとしていた上条だった。
てっきり、サークルの部室にある時計のことを言っているのだと俺たちはみんな思っていた。古い時計だし、ああもう寿命がきたのかと思ったが違った。
「なあ、俺のスマホの時計が止まってるんだが」
「スマホの時計が止まるなんてそんなことあるわけないじゃないですか、冗談きついですよ上条先輩」
「ほんとだって、だってあんなに俺たち話してたのにまだ十八時なんだぜ」
「またまた――あれっ僕のも十八時で止まってます」
ポケットからスマホを取り出す。電源を入れてみると俺のも十八時で止まってた。
「相良は?」
「うーん、オレのも十八時で止まっちゃってますね」
「どういうことだよ。スマホの時計がみんな一斉に十八時で止まるなんてことがあるのか? 変じゃないか?」
英二が焦りだす。その様子を見て、俺らまで緊張が走る。
「機種も携帯会社も僕らバラバラですもんね」
「大規模な電波障害とか?」
俺がそう言ってみると上条が否定する。
「スマホの時計は電波に影響したりしない。水晶振動子がついているからな。だから、おかしいんだよ」
「窓の外を見てくださいよ、涼宮部長。空が暗くなってる!」
比企谷に促されて、窓の外を見る。
暗雲が立ち込め、夕日はどこにも見えない。
どういうことかと思案していると突然、床が揺れ始める。
「じ、地震だ。みんな、机の下に避難しろ!」
机の下にみんなして隠れる。
椅子をどけたらなんとか全員入った。
揺れはどんどん強くなっていく。
「な、なにが起こってるんですかね。こんなの普通じゃないですよ!」
「俺にわかるわけないだろ!」
怖くなって思わず目を閉じる。
俺、もしかしてここで死ぬのか?
だって、俺はまだなんにもしてないぞ。
オタク業界を変えるようなことなんてなんにも……。
いやだ、そんなの!
まだ死にたくない!
だんだん手足の感覚がなくなっていく。
まるで宙に放り出されたかのような。
もしかして、もう死んだ?
くそー、こうなったら天国でも地獄でもオタク活動は続けてやる!
俺はどこへ行こうがオタクを続けてやる。
そして、世界を変えるんだ!
目を閉じているはずなのに、暗闇の中から白い光が迫ってくる。
ああ、もう駄目だ。そう思った。
なんだか、人の喧騒が聞こえる。
目を開けると東京駅があった。
なんで、大学から東京駅の近くに?
いったい、なにがあったんだ?
周りを見てみる。
そこにはいつもの高層ビルはなく、レトロな建物が並んでいるだけだった。
「ここはいったい?」
他のサークルメンバーも起き始める。
丸まった新聞が風に流されて足元まで転がってくる。
拾って、広げてみると文字が右から左に書かれていた。
読みづらいなと思いながら日付を見てみるとそこには衝撃的な数字が書かれていた。一九三〇年十一月一日と。
「俺たちが今いるのは昭和初期の大日本帝国があった頃なのか?」
俺の問いに答えるがごとく、東京駅に飾られた旭日旗が揺れていた。
ラノベネタをいくつか仕込んでます。楽しんでいただけたら幸いです。




