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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第77話『人員と三日目』

仕込みを終えると、試作場に立ち寄るのが習慣になっていた。


石段を下りると地下は静かで地上の音が届かず、棚の隅に置いた壺は変わらずそこにあって——蓋の縁は乱れておらず重しも置いたときのままだ。鼻を近づけると最初と変わらない匂いで、それだけを確認して上に戻る。


二日目も同じだった。腐臭がないことを確かめて、石段を上がる。


この二日、仕込みや充填の合間に、頭の中で人員の構成を整理していた。


フィアが加熱を担当し、ソルが濾過を担当しているおかげで二人で一本分の仕込みが回せるようになって出荷数は安定しているが、魔力ポーションはまだ自分が仕込んでいて工程を分けられていない。初級ポーション担当を別に立てれば、フィアとソルを魔力ポーション側に動かせて、初級ポーションは新しい二人が引き継ぎフィアとソルには工程管理も覚えてもらう流れになる。


教える手間は一時的にかかるが、一人に工程が集中したまま増産しようとすれば病欠や疲労が直接出荷量に響く——それが今の構造の弱点だ。募集をかけるなら今だという判断は二日前から出ていて、壺の確認と同じ日になるのはただの偶然だった。


---


翌朝、作業台を片付けてからリナに声をかける。


「錬金術師ギルドに行く。人材の募集をかけたい」


リナが帳簿から顔を上げた。

「何人?」


「調合持ちを四人。初級ポーション担当が二人、魔力ポーション担当が一人、濾過担当が一人」


「……一気ね」


「フィアとソルに別の工程を覚えてもらうつもりだ。今のうちに動かないと後で詰まる」


リナが帳簿を閉じて立つ。

「分かったわ、行くわよ」


---


「煙と真理」の受付に立つ。


中に入ると薬品の匂いが鼻に届き、棚には調合道具が並んでいて奥の作業場からは金属が当たる音と加熱の匂いが漏れてくる。冒険者ギルドとは空気が違う——ここは職人の場所で、受付の男がギルドカードを確認してからリナを一瞥する。


「人材の募集を出したい。調合スキル持ちで四名」


リナが条件を伝える——初級ポーション調合が二名、魔力ポーション調合が一名、濾過担当が一名。日当は調合持ち相場で、採用後に秘密保持の魔法契約あり。


男が書き取りながら言う。


「秘密保持の魔法契約を条件に明示すると応募者は絞られますが、受けた方には信頼の証になります。明記しておきますか」


「入れてくれ」


「四名同時というのは珍しいですね。同じ工房でしょうか」


「店舗だ」


男がこちらをもう一度見て、書類に目を戻す。余計なことは聞かない——この手の受付はどこも同じだ。


掲示料の大銅貨五枚を払うと、三日間掲示板に条件が出て、応募者が来ればギルドから連絡が入る仕組みだ。


外に出るとリナが口を開く。


「三日後に壺も確認するわね」


「そうなる」


「同じ日に重なるわね」


「どちらかが空振りになる可能性もある」


「どっちが空振りでもいいの?」


少し間があった。

「変化が出た方が嬉しい。どちらも」


「優先度は?」


「ある」


リナが少し考えてから、どちらかは聞かずに歩き始める。


---


夕方、フィアとソルを残した。


ミレイは先に上がらせていて、店には三人だけになる。作業台の前に二人が並んでいる——フィアは腕を体の前で緩く組み、ソルは少し後ろに体重をかけていて、二人とも何が来るか分かっているような顔をしている。


「話がある。調合持ちを四人、今日募集をかけてきた——三日後に応募者が来る」


フィアが静かにこちらを見る。


「初級ポーションの調合担当が二人入ったら、その二人に教えてもらうことになる。工程の管理も含めて」


しばらく間があった。フィアが聞く。


「私たちは調合から外れますか」


「外れない。その後は魔力ポーション担当と一緒に動いてもらう予定で、初級ポーションは新しい二人に引き継ぐ」


「教えながら、今の仕込みも続けるということですか」


「最初は並行する。新しい二人が動けるようになったら移行する」


フィアが頷く——視線は落ち着いていて、すぐには答えずもう一度聞く。


「工程管理というのは、具体的には」


「仕込みの量と品質を確認して、問題があれば対処する。何かあったときに判断できる人間を工程ごとに置きたい」


フィアがもう一度頷く。今度は何も言わなかった。


ソルが短く聞く。


「資金は上がるか」


「上げる——教える手間と責任が増えるから。ただ正式な額は応募者が決まってから話す」


ソルが少し間を置く。


「額が折り合わなければ、そのとき断れるか」


「構わない」


フィアがソルを一度見た。ソルが小さく頷く。


ソルが頷き、フィアが口を開く。


「では、話は聞きます」


ソルも続く。


「同じく」


二人が頷き、フィアが先に出てソルが続く。扉が閉まると、店に一人が残った。


同意ではなく、話を聞く段階の保留だ——正しい判断だと思いながら、額が出るまで結論は出ないと割り切った。ただ続ける意志は見えた。


---


三日目の朝、仕込みを終えてから試作場へ向かった。


裏通りへの道すがら、頭の中が静かだった——三日間壺を確認するたびに可能性を計算していたが、今朝はそれもなく、計算はもう終わっていてあとは開けるだけだ。


扉を鍵で開けると、厨房に薬草の匂いはない。ここを借りた理由がそれだったことを、入るたびに思い出す。


石段を下りる。


地下に入ると冷涼な気流が顔に届き、棚の隅の壺はそのままそこにある——蓋は傾いておらず、重しも元の位置にある。蓋の縁に指をあてるとわずかに湿り気があって、地下の湿気なのか内側から上がった水分なのか、触れただけでは判断できない。


鼻を近づけた。


(……違う)


最初に置いたときとは違う——腐臭ではなく、ただ何かが空気に混じっていて、酸に近い何かだと思った。三日間、来るたびに嗅いできた匂いとは別のものだった。


壺の蓋に、ゆっくり手をかけた。指の腹に冷たい陶器の感触がある。


---


【借金メモ・77話終了時点】

前話(76話)終了時:資金銀貨五枚と大銅貨五枚・残債大銀貨一枚と銀貨一枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

77話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)六十本(小銀貨一枚×六十=銀貨六枚)+初級ポーション(作澄:緑)二十一本(大銅貨八枚×二十一=小銀貨十六枚と大銅貨八枚)=銀貨七枚と小銀貨六枚と大銅貨八枚

77話支出:錬金術師ギルド掲示料(大銅貨五枚)+従業員給与ミレイ三日分(大銅貨二十一枚)+フィア・ソル・充填×二三日分(小銀貨四枚と大銅貨八枚)+食事分(大銅貨三枚)=小銀貨七枚と大銅貨七枚

残債充当:銀貨八枚を充当→残債大銀貨一枚と銀貨一枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚から充当→銀貨三枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

ケイの資金:銀貨三枚と小銀貨九枚と大銅貨六枚

残債:銀貨三枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):76話で支払い完了・次回は76話から26日後(77話経過3日→残り23日)

試作場:75話初月払い済み・次回は75話から26日後(76話7日+77話3日=10日経過→残り16日)

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)

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読んでくださってありがとうございます。

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