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Ⅰ 第2幕「試練」

階段の踊り場で光が弾けた。

ソムニクスの群れが壁を埋め尽くし、隙はどこにもない。


「チッ、また増えやがったな」

口調は軽い。けれど、その拳は震えるほどに力がこもっていた。


銃口があたしを狙う──その瞬間、拳が割り込む。轟音と共に敵が壁に叩きつけられ、白い壁へ吸い込まれて消えた。


「っしゃあ!」

血に濡れた拳を掲げ、青年が笑う。


「……やっと来たな。待ってたぜ」


次の敵が現れる。

鋭い蹴りで仮面を叩き割り、またひとりが消えていく。


彼は肩で息をしながら、軽く笑った。

「俺は哲平。足と拳で食ってきた。

……今はソムニクスぶっ倒す方が得意だけどな!」


軽口の裏に滲む、決して折れない眼差し。

その拳は、熱を宿していた。


「……まだ、誰かいる」

あたしは白い曲がり角の向こうで、何かが光るのを見た。


次の瞬間、瓦礫がドンッと吹き飛んだ。

粉塵の中から現れたのは、屈強な影。

拳を握りしめ、肩で息をしている。


「やっと来おったか。待ちくたびれたわい」

低く、少し枯れた声。

「待ち……??」

あたしの呟きは、戦場の喧噪にかき消された。


彼は額の血をぬぐい、片目を細めて笑った。

その腕にも頬にも、歴戦の傷が陰のように刻まれている。

「ワシは辰彦。見ての通り、殴るしか能がない男じゃ」


次の瞬間、ソムニクスが背後から飛びかかる。

けれど辰彦は振り返らず、気配だけを読んで拳を後ろへ振り抜いた。

ドゴッ!

空気が震えるほどの衝撃音。敵は壁にめり込み、次の瞬間──白い壁に吸い込まれるように消えた。


「……えっ」


辰彦が何事も無かったかのように肩をすくめて言った。


「なに、ワシに惚れるんじゃないぞ。ワシゃ孫にまで小言言われる歳じゃからな」


隙をついて迫った光弾を、割り込んだ哲平が身をひねって弾き飛ばす。


「ぶっこいて耄碌してんじゃねえぞ!」


「はっはっは、怖いのう。若いもんは血の気が多すぎる」


辰彦は豪快に笑い、拳を鳴らした。


「じゃが哲平、おぬしも成長しとるな」


「ったりめぇだ!師匠はアンタだからな!!」


拳と拳がぶつかる乾いた音。その一時、戦場のただ中だというのに、ふたりは楽しそうに笑っていた。

……どうして? 命を懸けているのに、こんなふうに笑えるの?


あたしのなかに、不安とも、恐さともつかない気持ちが湧き上がった。

けれど、その姿が胸を震わせる。

彼らはただ戦っているだけじゃない。一緒に「生きよう」としているのだ、と。


そこには、影のようにひとりの青年が立っていた。


仮面の破片が足元に散らばり、戦いの跡が残るのに、彼は悠然とこちらを見た。


鋭い鼻筋と異国めいた顔立ち。黒い外套の裾をひらめかせ、手には細身のナイフが一本。


目が合うと、彼は片眉をわずかに上げた。

「Tch... took you long enough.」


その声は皮肉めいていた。けれど、不思議と冷たさは感じなかった。


あたしが言葉を探していると、彼は肩をすくめる。「俺は……ジャック。ま、覚えなくてもいいさ」


次の瞬間、光弾が降り注いだ。

ジャックは軽やかに跳び、舞うように身をひねり、敵の攻撃をかわす。

外套が翻り、刃が閃く。


「……はやっ」思わず声が漏れた。


ちらりと振り返った彼は、口の端を上げつぶやいた。

「見てる暇があったら走れ、リリカ」


名前を呼ばれた瞬間、胸が強く鳴った。


「どうして……」

問いかけるより早く、諒介の声が割り込む。

「……こいつは信用していい」


その言葉に、あたしはただ頷いた。


広く開けた通路。敵の足音が四方から迫ってきている。


その時――


バシュッ!!


光弾が飛ぶ。

次の瞬間、鋭い剣閃がそれを断ち切った。


「……っ」

思わず足を止める。


黒衣の青年が、音もなく降り立っていた。

長身に映える無骨な剣を片手に、仮面の残骸を踏み砕く。


「下がっていろ」

冷たい声。だけど、どこか人間らしい熱が混じっていた。


敵が群れをなして襲いかかる。

彼が剣を払うたび、壁を裂くような轟音を響かせ、ソムニクスたちを次々と弾き飛ばす。


やがて、静寂。


彼は鞘に剣を収め、初めてこちらに視線を向けた。あれだけねじ伏せたのに、息一つ乱れていない。


「……俺の名は、慧吾」


その瞳は凛としていて、冷たさの奥に強い意志が宿っていた。


「俺も、お前たちと同じ。排除された者だ」


諒介が汗を拭いながら小さく息を吐き、ナイフをくるりと回した。

「ようやく揃ったな」


ジャックが肩をすくめて皮肉を言う。

「仲間入りの挨拶にしては、ずいぶん仰々しいじゃねぇか」


慧吾は表情を変えず、何も答えない。

外套の襟元を正し、裾を翻したまま静かに立っていた。


その沈黙が、不思議と胸を熱くした。


第2幕 了第3幕へ



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