元サラリーマン、中国空母を検討する(3)
遼寧とは別の中国空母を検討する。
そうなれば出てくる空母は1つしかない。
それは中国初の国産空母である002型空母、山東だ。
建造中は遼寧の改良型である事から001A型とも呼称されていた。(とはいえ、これは2つの国産空母を大連と上海で立て続けに着工したため、大連の遼寧改良型を001A型、上海のほうを002型とわかりやすく呼称していたのだが)
この空母は見た目は遼寧そっくりであり、アドミラル・クズネツォフのクローン空母とも言われている。
とはいえ、遼寧において得られた技術やノウハウを元に改善点を改良した空母であり、遼寧を参考にした準同型とはいえ、その性能は飛躍的に向上していると言われる。
山東は2013年に起工、動力は通常動力であり、山東の名は建造している大連造船所のある山東省から命名された。
進水は2017年4月26日であり、遼寧のクローン空母とはいえ、中国発の純国産空母である事に間違いはない。
とはいえ、中国の空母建造計画の中身を知っている者からすれば、この山東が中国の空母建造計画の遅延とその事への焦りを象徴しているとすぐに気付くはずだ。
そう、中国の空母建造計画のベースである048項目の予定では2015年ごろまでに最初の蒸気カタパルト型空母を完成させるとなっていたのだが、これは実現していない。
何せ山東は遼寧のクローン空母という事からもわかる通り、カタパルトを装備していないSTOBAR空母だ。
カタパルトを装備した国産空母は上海で建造されているほうであり、この空母に搭載するカタパルトにしても技術的問題に阻まれて2015年までに間に合わなかったのだ。
そんな中でカタパルト型空母を諦め、遼寧の姿を模し、大慌てでSTOBAR空母を完成させた背景には中国海軍上層部の2020年までになんとか空母を2隻持ちたいという強い意向があったのだろう。
中国は2008年以降、インドや日本、東南アジア諸国といった周辺国との関係悪化に伴う南シナ海、東シナ海、西太平洋での緊張の高まりに警戒感を示していた。
だからこそ、空母の数が揃うのならとカタパルト型空母に固執しなかったのだ。
そんな山東であるが、遼寧が全長305mだったのに対し、山東は315mとやや大型化している。
そして飛行甲板の面積は遼寧と比べ約7%拡大され、格納庫も広くなっている。
スキージャンプ勾配も遼寧の14度に対し12度へと変更されていて、これにより戦闘機の発艦時の負担が軽減している。
また飛行甲板上に描かれる戦闘機が発進する際になぞるラインや発艦スポットの変更、スポンソンの配置場所の調整もおこなったという。
そして遼寧と山東の最大の違いは艦橋構造物の形状だろう。
山東は遼寧に比べるとコンパクト化され、10%ほど短縮したとも言われている。
そのため、艦橋構造物が飛行甲板に占める割合が減り、飛行甲板が広くなったのだ。
また遼寧と山東では艦橋に備えられているフェーズド・アレイ・レーダーの位置が異なる。
遼寧では低い位置に設置されていたフェーズド・アレイ・レーダーは山東では艦橋上部に設置されている。
これは遼寧での運用経験から、最適な位置へと変更されたという事だろう。
また着艦装置であるアレスティング・ワイヤーの数は遼寧の4本から3本へと減らされている。
これによりアレスティング・ワイヤーを制御する油圧式着艦制御装置の数が減るため、約12mの利用できるスペースが飛行甲板上に生まれ、戦闘機の駐機スペースが若干広くなったと言われている。
これを可能にしたのが着艦装置技術の国産化だ。
この事は中国の国産空母建造にとって長年の課題であった。
何せ着艦装置技術を自前でクリアできない事には国産空母を量産する事などできないのだから……
しかし2011年までは相当苦労したという着艦装置技術の国産化は開発を担当する複数の企業の技術的ブレイクスルーによって達成された。
2012年2月、地上試験に成功した後は遼寧での着艦試験を経てついに国産化は確立されたという。
また主機に関してもウクライナから蒸気タービンとボイラーを購入。これを複数の中国企業が徹底的に研究し、改良を重ね国産化を果たした。
そんな山東は2019年12月17日、海南島で就役した。
この就役式では国家主席自ら山東と命名する証書を艦長に手渡したが、本来なら山東という名から北部戦区海軍所属となるはずの空母を南部戦区海軍の基地で就役式を行ったことからもわかる通り、中国は南シナ海および太平洋地域において空母プレゼンスを示すという意図を持っているのだろう。
現にこの就役式の場所である海南島に辿り着く前に山東は9回目の試験航海をおこなっている。
しかし、その試験航海には6隻の護衛艦が帯同しており、甲板上には7機のJ-15戦闘機が駐機していた。
そして就役前とはいえ、まるで最新鋭の空母機動部隊を見せつけるかのように台湾海峡を通過して海南島に向かったのだ。
そして就役した中国初の国産空母「山東」であるが、就役後は活発に活動しているとは言い難い。
これは就役したとはいえ、まだまだシステム面で技術的課題があるという事なのだろう。
また、2020年から世界で猛威を振るっている新型コロナの影響で大々的に活動できないといった問題も指摘されている。
とはいえ、2020年5月には遼寧との共同訓練を実施し、世界に複数空母運用も示している。
しかし、艦艇としての空母が問題ないとしても、空母を運用する点で大きな問題が指摘されている。
それが搭載する戦闘機の数の問題だ。
山東は遼寧よりも格納庫の広さも露天駐機できるスペースも増し、搭載できる戦闘機の数が増したと言われている。
しかし、搭載できる数が増えても、それを最大限に活かすためにはそれだけ搭載できる戦闘機が必要となるが、中国はそれだけの艦載機を保有していないのではないか? との指摘があるのだ。
何せ中国が保有している艦載機はJ-15だけだ。
そして山東就役当時、J-15の生産はすでに終了しており、中国は20機程度しか保有していないと分析されていた。
遼寧はJ-15を24機搭載できるが山東は36~40機ほど搭載できると推定されている。
しかしそれだけ搭載する事が可能でも全体で20機ほどしかないのであれば、2艦に10機ずつしか空母には乗せられない事になる。
果たして、その状態で十分な空母プレゼンスを発揮できるだろうか?
一様、中国メディアは50~60機のJ-15を保有していると報じていたが、どこまで本当かはわからない。
しかし中国軍も艦載機が圧倒的に足りないことは理解している。
ゆえに2020年2月にJ-15は生産が再開されたのだが、一方でJ-15の数をどこまで増やすかは不透明だ。
何せJ-15は中国海軍の中からは性能面で不満の声があがっている。
だからこそ、J-15は一旦生産が中止され、その後継機の開発が行われていたのだ。
しかし背に腹は代えられないという事なのだろう。
またJ-15は電子戦仕様のJ-15Dやカタパルト運用型のJ-15Tが開発されている。
こういった機体の量産も今後の課題となってくるはずである。
と、ここまで山東について述べてきたが、やはり就役したばかりでまだ準備が整っていない山東は異世界につれていく空母としては少々心許ないだろう。
ここはもう少し、別の中国空母も検討してみようと思う。
特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください