元サラリーマン、中国空母を検討する(4)
遼寧、山東以外の別の中国空母となれば、検討すべきは2022年6月17日に進水したばかりの中国3隻目の空母にして2隻目の国産空母003型「福建」だ。
2022年6月、中国の共産党系メディアは長らく上海を苦しめていた新型コロナウイスの感染拡大に伴う長期に渡るロックダウンを解除する事に伴って、操業を一時停止していた上海の造船所が再開される事に伴い、中国海軍が建造を進めていた中国3隻目の空母が近く進水する可能性があると報じた。
報道によればこの空母は遼寧や山東よりも大型化し、その飛行甲板には遼寧や山東にはない電磁カタパルトを装備されているのだとか……しかし、中国3隻目の空母はカタパルトを装備する事になるのは周知の事実だった。
2021年5月にアメリカが撮影した高解像度の衛星写真には建造中の003型の姿がはっきりと写されている。
2018年から建造が始まったこの空母は画像の試算から全長が320mほどとされ、遼寧、山東よりも大きい。
また、艦橋構造物が小さくなったことで、飛行甲板上が広くなり、より大型の航空機を搭載するスペースが増えたとも見られている。
そして最大の特徴は遼寧、山東と違いスキージャンプ方式ではなく、飛行甲板がフラットトップとなった点だ。
中国軍は空軍、海軍ともにSTOVL機を有していない。
つまりは空母から戦闘機を発艦させるにはスキージャンプ勾配が必要不可欠なのであるが、それがないという事は、中国がいよいよ持ってカタパルト射出システムを完成させたという事だろう。
中国は003型の建造発表(当時は002型と呼称)と同じ時期、武漢においてカタパルトの開発実験設備が稼働しているのを衛星写真で確認されている。
その施設で研究されているのが蒸気式のカタパルトなのか電磁式カタパルトなのかは不明であるが、これにより2025年頃に完成するとみられる002型(当時)はカタパルト型空母になる事が周知の事実となった。
何せ、産業スパイであったかは不明だが、すでにアメリカ企業で働いていた中国人従業員が電磁カタパルト技術を窃取したとされる事案が発生し、それより前から中国軍唯一の空母艦載機であるJ-15戦闘機の前脚部にカタパルトと接続するためのフックが装備された試作機の写真が出回ったのだ(この戦闘機はカタパルト射出型としてJ-15Tと命名されている)
蒸気カタパルトか電磁カタパルトかはともかく、中国がカタパルト型空母の取得に本腰を入れているのは紛れもない事実だった。
とはいえ、この時点ではまだ中国が最終的にどれだけの数の空母を保有しようとしているのかは見通せなかった。
だから002型(当時)は通常動力の蒸気カタパルト式であり、その運用実績を元に原子力推進の電磁カタパルト式を建造するのではないか? との予測が出たり、002型(当時)に電磁カタパルトを搭載するのでは? という予測もでた。
いずれにせよ、衛星写真で監視する建造段階の状態では、実際のところどうなのかはわからない。
とはいえ、時が経つにつれ、その全体像が段々と浮かび上がってくる。
上海の造船所で建造が進む003型は乾ドックに船体ブロックが並びだすと、その排水量は80000トンほどになるのではないか? と予測された。
そして同じ時期、004型空母(こちらは原子力空母の電磁カタパルト装備)の建造開始も噂されたが、さすがの中国軍も無限に予算が下りるわけではないらしく、建造に巨額の予算が必要になる空母はそこまで気前よく建造はできないようだ。
よって、004型の建造は先送りとなり、それ以降の空母(最終的には10隻まで建造する計画)に関しては凍結となったらしい。
それはともかく003型は2020年5月、新たな建造ドックに移り、ブロック統合が加速していく。
2021年6月には飛行甲板の形がはっきりとわかるようになり、カタパルト装備場所も用意され、右舷側の艦橋前後の2基のエレベーターに左舷アングルド・デッキ側のエレベーターと3基のエレベーターも確認された。
2021年8月の衛星写真による解析では全長320m、飛行甲板最大幅78mと米軍がかつて運用していた通常動力空母としては最大のキティ・ホーク級空母に匹敵する大きさとなっている。
とはいえ、この003型が蒸気カタパルトか電磁カタパルト、どちらを装備するかによって推進動力の関係もあり、空母としての能力に差はでてくるだろう。
何せ、003型は遼寧、山東と違いエレベーターが3基、さらにカタパルトを稼働する動力も加えればこれまでの空母とは求められる出力がまるで変わってくるのだ。
一様はガスタービン2基とディーゼル4基による統合電気推進システムで遼寧、山東より強化が図られているというが、燃料搭載量や航続距離がどれほどになるか、現時点では不明なため、より電力の消費がかかる電磁カタパルトよりも蒸気カタパルトで様子を見る可能性はある。
しかし、一方で中国はいまだ蒸気カタパルトに関しては技術的課題をクリアしておらず、蒸気カタパルトを採用した場合、その蒸気を生み出すシステムなど複雑化する課題に答えを持ち合わせていないという指摘もある。
そのため、中国としては電磁カタパルトを採用した方がはるかに技術的難易度は低いのだとか……
そして、実際003型は電磁を装備する事になった。
2022年6月17日に進水した003型空母に関して中国の国営メディアは大々的に電磁カタパルトを3基装備していると伝えた。
国営メディアが中継で伝えた映像には国旗掲揚や国歌斉唱、テープカットなどの式典が映し出され、中国軍制服組のトップである中央軍事委員会副主席が出席して003型空母が「福建」と命名されたが、その飛行甲板上には3基の電磁カタパルトを覆い隠すように黒い箱が置かれ、その黒い箱には「世界一流の軍隊を建設する」「共産党と共に歩もう」といったスローガンが掲げられていた。
当初は海軍創立73周年にあたる4月23日に進水する予定だった福建であるが、上海のロックダウンの影響で2ヶ月遅れる形となったが、7月1日の共産党創立記念日までに進水が実現した形だ。
今後は計画されている各種海上試験を経て2024年の就役を予定している。
そんな福建の姿は中国の国営メディアが中継した映像から垣間見る事ができるが、日本の記者が高速船の船上から撮影した映像からも窺うことができる。
その映像を見る限り、白く塗装された船体の艦橋の形はアンテナとマストが一体化したステルス設計となっており、これまでの遼寧や山東よりも簡略化され洗練されたデザインとなっている。
ちなみに福建の進水は上海市の郊外の長興島の造船所で行われたが、進水式の直前、日本の記者たちは地元警察により島から退去するよう命じれられたという。
そのため、島から上海へと渡る高速船上で福建が撮影されたのだ。
ところで、003型の名称は当初、海軍は「江蘇」「浙江」などの沿岸の省の名前を準備していたという。
福建省も沿岸ではあるが、台湾から対岸に位置するこの省の名を冠するのはさすがに刺激が強すぎると配慮して想定していなかったという。
そのため海軍の中では名前として「江蘇」が最有力であったが、現在の政権のトップである国家主席自らが「福建」の名を命名したという。
これは現国家主席がかつて長く福建省に在任していた時期に彼にとっての対台湾政策の原点が生まれた事が絡んでいるとも言われているが、何にせよ台湾統一に並々ならぬ情熱を注いでいる国家主席の必ず任期中に祖国統一を成し遂げるという強い意思の表れであろう。
そのため福建は就役後は東部戦区の東海艦隊に配備される可能性が高い。
何にしても、念願のCATOBAR空母を手にして空母3隻体制を確立する事が確定した以上、2024年以降の中国海軍の南シナ海、インド洋、西太平洋地域へのプレゼンスが向上する事は間違いない。
そして、それに伴い艦上機に関してもいよいよ足りなかったものが揃いつつある。
空母を運用する上で欠かせない早期警戒機であるが、中国軍にもまるで米軍のE-2に見た目がそっくりなKJ-600型固定翼艦上早期警戒機というものが存在する。
しかし、この航空機は米軍のE-2同様、空母で運用するにはカタパルト射出が必要であり、遼寧、山東での運用は不可能であった。
しかし福建がカタパルトを装備する事によって、いよいよ中国はKJ-600型固定翼艦上早期警戒機を空母で運用できるようになる。
またJ-15には電子戦仕様のJ-15Dという試作機が存在し、海上での電子戦にも対応できるようになる。
そして最大の注目点は中国唯一の艦上機であるJ-15の後継機の存在だ。
性能面で不満があったJ-15に変わる機体として当初はステルス戦闘機のJ-31が003型に搭載されるのでは? と目されていたが、J-31は輸出型の機体であり、中国軍で採用されることがない事が発表された。
J-31に代わり、現在開発が進められているのが中国初のステルス戦闘機、J-20の艦上機型だ。
J-20に関しては第5世代戦闘機として、どれほどのステルス能力があるかは未知数だが、J-20の艦上機型が完成し、量産され搭載配備されるとなればパワーバランスに変化が生じる可能性は十分にあり得る。
それ以外にもJ-31を海軍向けの艦載機として大幅な設計変更が行われたJ-35のプロトタイプも存在するが、これに関しては2022年11月に開催される珠海航空ショーで大々的に披露されるのでは? との憶測が広がっている。
また、2021年12月にはJ-15の改良された新型、J-15改(J-15B)の画像が製造会社のSNS公式アカウントに投稿されている。
こちらも量産が進み、現行のJ-15と置き換えが進めば中国空母の戦力が向上する事は間違いない。
とはいえ、山東を検討した際にも触れた通り、中国海軍は今、艦上機もパイロットも足りてない状況だ。
福建は従来の中国空母より大型化してカタパルトを装備した事により艦載機の搭載数を増やしたが、それに対応するだけの戦闘機を中国はまだ用意できていない。
そういった事情も絡んでいるのだろう。
現在最大10隻を建造するとしていた中国の空母建造計画だが、上記でも触れた通り4隻目以降の建造は凍結されている。
これは中国の経済が低迷した事による予算の陰りが見えたことも1つの要員であるが、そもそも数を用意しても、そこに載せる機体とパイロットがいなければ意味がないという現実問題に直面したからだ。
何より、最近になってようやくパイロット育成機関が発足した事からも、数はあっても熟練した乗り手がいないのでは意味がない。
そういった意味で中国は今、無人機のによる問題解決の打開を目指しているという。
近年、無人機の能力向上により無人機を搭載した無人機空母の構想を立ち上げる国は少なくない。
そして、中国もまたそんな国のひとつだ。
とはいえ、中国の無人機空母構想は、他の国と運用思想が異なる。
2022年2月から勃発したロシアによるウクライナ侵攻によってトルコの無人攻撃機バイラクタルTB-2は世界から脚光を浴びている。
トルコはこれを改良し、艦上機型のバイラクタルTB-3の開発を発表したが、このバイラクタルTB-3は無人機というだけで、あくまで操作するのは人間だ。
しかし中国が開発研究を進める無人機は自律型AIを搭載し、その制御をすべてAI自身が行うのだ。
言うなれば、無人機が発進した後は人間側は手を加えず、AIが攻撃の判断をすべて下す事になる。
米軍も同じように自律型AIを搭載した無人機の研究開発を行っているが、今も継続しているシミュレートと違い、実機に搭載しての研究は中断している。
理由は倫理的な観点からだというが、ようは攻撃する際に人の関与をなくしていいのか? といった問題だ。
この問題に米軍は答えを出せず研究を中断したが、中国はこの分野の研究を続けており、近い将来パイロット不足を補う自律型AI搭載無人機航空隊が発足して、中国の空母航空隊を担うのでは? と言われている。
何せAIであれば、戦闘シミュレーションを人間では再現できない速さで繰り返すだけで、倫理観に悩まない熟練パイロットが容易く量産できるのだ。
果たしてそうなった時、戦闘の形はどう変化しているだろうか?
ともあれ、中国の自律型AI搭載無人機航空隊はまだ登場はしていない、そして003型「福建」も進水したばかりでその全貌は掴めない。
となれば、これはまだ検討できる段階ではないだろう。
福建以外で検討できる材料があるとすれば、それは強襲揚陸艦だ。
中国には075型強襲揚陸艦とよばれる全通飛行甲板を有する強襲揚陸艦が2021年より就役している。
2017年から建造がはじまり、2019年に進水した1番艦「海南」は建造当時、全通飛行甲板である事から航空写真を分析した専門家に中国が建造中の新たな空母と勘違いされている。
075型は全長235m、幅36mと規模としてはイタリアの強襲揚陸艦トリエステとほぼ同じである。
台湾侵攻を想定して建造された075型は全通飛行甲板に右舷側に設置されたエレベーター、そしてウェルドックを有するなど米軍のワスプ級強襲揚陸艦に近い設計になっている。
ウェルドックには726A型エアクッション揚陸艇2~3隻を収容できるとされており、兵員も最大で1600名ほど収容し輸送可能だとか。
飛行甲板には6カ所のヘリコプター発着スポットが設定されており、Z-8J輸送ヘリコプターやZ-9ヘリコプター、Z-10攻撃ヘリコプターやZ-19攻撃ヘリコプターが搭載されていると言われている。
そしてSTOVL機に関しては飛行甲板にスキージャンプ勾配が設置されてない事や、そもそも中国軍がSTOVL機を有していない事からも運用は想定されていないと思われる。
ただ、無人ヘリコプターを搭載して運用しようという計画があり、それに伴って後継の076型ではカタパルトとアレスティング・ギアを装備して、固定翼UAVを搭載する計画もあるようだ。
そんな075型は1番艦の海南が2021年4月に就役したのに続き、2021年12月に2番艦「広西」が就役している。
この広西はヘリを最大30機搭載可能で台湾や東シナ海を担当する「東部戦区」に配備されたという。
台湾有事や沖縄県、尖閣諸島での有事を想定しているのは間違いないだろう。
さらには3番艦の「安徽」が2021年1月に進水し、現在艤装工事中だ。
そんな075型は最大で8隻ほど建造されるのではないかと見られている。
まだまだ就役したばかりで075型のデータは出回っていないが優れた輸送能力、航空機管制能力、指揮通信能力と中国軍の両用作戦能力を向上させたのはほぼ間違いなく、日本や台湾、南シナ海で対立する東南アジア諸国にとっては脅威となることは間違いない。
とはいえ、異世界にもっていく分に関してはSTOVL機の運用を想定していない以上はこちらの要求を満たしていない。
075型強襲揚陸艦「海南」は検討には至らないだろう。
そんなわけで中国空母を検討してきたが、これはまだまだ他国の空母の検証が必要だろう。
特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください




