娘が出来ていた件
「よしよし」
「うぅ」
なぜ今俺は、見知らぬ幼女に慰められているのだろうか。頭を撫でられているのだろうか。
いきなり現れた、アーシャ・ライカというエルフの美女と、ティム・ラ・フランセルという俺の子供だという幼女。俺は異世界に召喚されたのだという。
そして召喚された王女様と子作りして、生まれたのがティムだと。だが、問題は俺が異世界にいた一年の記憶がないことだ。
異世界に召喚された記憶もなければ、とんでもない美女と子供を作るような経験をした記憶もない。それは、とてもショックだった。
「落ち着きましたか、ユウヤ様」
「一応ね。……そのユウヤ様ってのやめない?」
「無理ですね」
さいですか……ま、もういいや。
さて、まあ異世界云々の話、一応信じるとしよう。そして俺を追って、この二人がここまで来てしまったというのも。
この二人、この世界に来たばかりだろうに、泊まる場所とかどうするんだろう。……そういえば、なんか妙に大きな荷物があるよな。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが」
「はい?」
「アーシャさ……アーシャとティムは、どこに泊まるつもりで?」
「ここです」
「なん、だと」
それは、予想はしていたが聞きたくない言葉だった。だって、ここ、ここって……一人暮らしの、この部屋に?
こんな美女と、ひとつ屋根の下だと!?
「いやいや、それはまずいって!」
「なぜです?」
あかん、この人異性に対する危機管理能力が低い……今も、てきぱきと荷ほどきを始めているし。
泊まるどころか、このままここで、本格的に暮らすつもりだ!
「パパ―、あそぼー!」
「いや、今大事な話してるから、あっち行って……わー! わかった、遊ぶから!」
そんな涙目は卑怯だ。断れないじゃないか。
……母親は死んだ、って言ってたもんな。それに、父親は自分が生まれる前にいなくなった。甘えたい年頃なのに、な。
結局俺は、ティムと遊び、その間にアーシャはいろいろろ準備を進めていってしまった。結果、とりあえず一日だけ泊める、という条件で、今日はここに置くことになった。
「さて……ティム様、お風呂、入りましょうか」
「パパとがいい!」
「では……一緒に入りますか?」
「なんですと!?」
やはりこの人には、異性に対する羞恥心がないのだろうか。それとも、俺は異性と見られていないのだろうか。
ティムはごねるが、俺は一人でティムと一緒に入れる自信がない。だが、アーシャと一緒に入るのは魅力的だが、いかんせん心の準備というものが。
結局、アーシャには風呂の外で待機してもらい、困ったことがあったら逐一聞く、という形にした。
「お風呂、いただきました」
「あーうん。湯加減どうだった?」
「はい、えー……チョベリグ、でした」
「いや、それ死語だから」
「シゴ……ニジュウ、ですか?」
「九九じゃねえよ! てか知ってんのかよ!」
なんとかティムを風呂に入れ、その後アーシャも風呂に入った。湯上りの、なんとも色気のあること。ちなみに、俺の着ていたシャツを貸している。目に毒だ。
その後食事を取る。一人暮らしの影響で自炊にはそこそこ自信がある。コンビニ弁当ばかりでも体に悪いしな。
二人は、この世界の食べ物に物珍しそうだったが、一口口にした後、喜んで全部食べてくれた。うん、綺麗に食べ終えてくれるのは、悪い気分じゃないな。
「ぷぁー、おいしかった」
「そりゃどうも」
食器を洗い、そのうちに寝息が聞こえてくると、どうやらティムは眠ってしまったらしい。年相応の、かわいらしい寝顔だ。
風呂も食事も済み、いつもなら適当にテレビでも見るところだが、ティムの寝顔を見ているとなんだかこっちまで眠たくなってきてしまった。
なので、アーシャも揃って寝ることに。
「では、おやすみなさいませ」
「あぁ、うん、おやすみ」
ティムを挟み、川の字になって寝る。なんとか三人が並んで寝ることは出来たが、だいぶ余裕はない。
手を伸ばせば、向こう側にいるアーシャに届くだろう。こんな無防備に、男の部屋で眠るとは……なにをされても、文句はは言えんよな。
手を、伸ばす。俺はまだ気持ち的には童貞だが、実際にはそうではないんだし……うん、やれる。やればできる!
「あと、少し……」
ティムを起こさないように手を伸ばし、あと少しで触れられるというところで……腕の動きが、止まる。
触ろうとするが、なにかに阻まれ……服をつままれる感覚が、あるのだ。これは、いったい……?
「んんー……パパぁ……」
見れば、小さな手だった。それが、俺の袖を掴み……ぎゅっと、握りしめている。もちろん、俺の行為を止めようとしてではない。眠っているし。
しかし、その寝言は……俺を正気に戻すには、充分だった。
「……はぁ」
振り払おうと思えば、簡単に振り払える……しかし、そうはしなかった。振り払うことも、手を離すこともしない。ただ、アーシャへ伸ばしかけていた手を、ティムの頭に乗せて。
こっちはお前のせいで大騒ぎってのに、のんきな顔で寝てやがる。仕方ない、今日だけはここに泊めるって言ったんだし。
次第に、俺も眠くなっていき……気づいたら、朝になっていた。いつの間にか腕の中ではティムが抱きついており、俺の胸元をよだれでぐしゃぐしゃにしていた。不思議と、嫌な気分にはならなかった。
さて、今日こそは、ちゃんと住む場所を見つけて、出ていってもらわなければ。ただ、今はまだティムは寝ているので、起きるのはもうちょっと待ってからにしよう。
……結局その日も、家に泊めることになってしまうのだが……なぜだか強く、断れなかった。そして、そのまま三人生活をズルズルと続けてしまうことになるのだが……この時の俺は、まだ知らない話。
これにて、完結となります!
長く期間を空けてしまい申し訳ありません。ずっと更新しないままなら、いっそ完結させてしまおうとぶっちゃけて思いました。