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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第2章 切なる願いを魔法に秘め
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30.処罰

 穏やかな晴天の空の下、私とアルは学園のテラスで二人並んで、眼下に広がる広大な学園の庭園を眺めながら話していた。



「その後、リアムの調子はどうなっているの?」

「えぇ、徐々に回復してきていて、今は少しずつ風の魔法を慣らしているところらしいわ。

 バートン伯爵家の方々直々に、風の魔法を教えてもらっているらしいの」




 リアムはあの後、バートン伯爵……リアムの本当のお父様に会った。 リアム自身、お父様のことを全く覚えていなかったのだけど、お父様はずっとリアムとお母様を探して、捜索願を出していて、そのお陰もあってすぐに大勢いる風の魔法を司る家の中から探し出せた。



「リアムのお父様と亡くなったお母様は、どちらも特質魔法が風の家柄同士で結婚したらしいの。 だから、リアムもその血を色濃く継いでいるらしくて、魔力が回復した時には相当な使い手になるそうよ」

「そうか……」




 アルはそう言ったきり、視線を庭園に移した。

 そんなアルの横顔を見てから、私も庭園に視線を移す。




(……もし、リアムが悪魔憑きでなかったら、リアムと私……いえ、他の皆とも、また違った世界を歩んでいたのかしら……)



 黒髪、悪魔祓い、ランドルの血、私の前世の記憶……全てが繋がって、こうして今の世界と私達がある。




 この運命に、私達はこれから先も巻き込まれていくのだろうか。






「……そういえば、クラリス」

「? 何?」

 私は物思いに耽っていると、アルから唐突に声をかけられる。



「リアムの処遇は、本当に僕が決めてしまっていいの?」

「えぇ、といっても私と話し合って決めたことだから、それで良いのよ。 ……皆それについて反対意見はなかったようだし」



 私とアルで決めた、リアムのこれまでの罪……といっても、今回は悪魔に取り憑かれたせいの方が大きいため、リアムにそこまで罪はないと判断した王様達が、私達の希望通り、リアムの処遇を私とアルに一任して下さった。

 そして、二人で話し合って決めた結果を、改めて今度リアムに話すことにしていた。

 それが、今日学校が終わった後、ということになっている。






「……あ、でもその前に、私リアムに伝えたいことがあるの。

 だから、処罰を伝える前に、私にリアムと直接話をさせてくれないかしら?」

「うん、僕は構わないよ」

 アルは少し驚いた顔をしたものの、そう言って微笑む。



 私はアルの表情に、心が温かくなるような感覚を覚えて、私からそっと、アルの手に自分の手を重ねたのだった。








 ☆







 放課後。

 リアムの処遇が決まるまで、ランドルの城の別棟に滞在することになっているリアムの元にアルと訪れると、リアムはベッドに腰掛け、本を読んでいた。




「リアム」

「……あれ、今日はアルベルト様もいるの?」

 私が呼びかけると、本から顔を上げてこちらを見てから、驚いたように私の後ろにいたアルの姿を見て言う。

 その言葉に、アルが少し不服そうに言う。



「何、居てはいけない?」

「そ、そういうわけではないけれど……」

 リアムが肩を竦めたのを見て、「ちょっとアル」と窘めれば、黙るアル。

 すると今度は、リアムがクスクスと笑う。




「? どうして笑うの?」

 私が問えば、リアムは「ううん、何でもない」と尚も笑いながら、アルと私を交互に見てか手招きをする。




 私とアルはベッドの近くにあった椅子に腰をかけると、リアムに向かって言う。




「今日は、貴方の処罰について話をしに来たの」

「! ……処罰を?」

 途端にリアムの穏やかな表情がこわばるのを見て、私は慌てて首を振る。

「そこまで厳しいことではない……と思うわ。 貴方がどう感じるかは分からないけれど……でもその前に、改めて謝らせて欲しいの」

「え……」






 私は驚くリアムに向かって頭を下げる。





「貴方の大切なものを、私の魔力のせいで全て奪ってしまってごめんなさい。 ……ずっと、謝らなくてはいけなかったのに、遅くなってしまってごめんなさい」

「だからそれは、何度も言ってるけどクラリスのせいなんかじゃないよ。 ……誰のせいでもないんだ」

「っ、でも……!」




 そうでなきゃ、私の中の複雑な気持ちが収まらない。

 誰が悪い、とかじゃないのは分かっている。

 けど、私がしてしまったことで、リアムの大切なものを奪ってしまったと言うのも事実で。

(……記憶がなかったとはいえ、それについてもすぐに謝ることすら出来なかった……)




 でもリアムは、首を振って笑う。

「僕はね、幸せだよ。 ……今が、一番幸せ。

 僕の大好きな母さんと一緒の魔法を使えるようになって、白髪に戻って。

 ……全部、クラリスのおかげなんだよ? 確かに、前は我を忘れて怒って恨んだこともあったよ。

 ……だけど、心の中では前にも言った通り、君に助けられて、また8年経った今回も助けられた。

 そこまでしてもらって、まだ僕が恨んでるとでも思ってるの? そんなに薄情な人間に僕が見える?」




 私はその言葉に黙って首を振ると、リアムは「でしょ?」とふわっと笑う。

 それでも顔を上げられないでいる私に、リアムは「あ、じゃあこうしよ」と閃いたかのように言った。




「今度、僕と御墓参りに付き合って。 ……もうお墓自体はないけれど、皆に会って欲しい。 森の中を案内するからさ」

「! ……それで、いいの?」

 私の言葉に、「それがいいの!」と言ってから、リアムは「あ、後」と付け足す。




「その時は、君にあげたブレスレットも持ってきて。 それには、お母様の風の魔法が込められているから、空中散歩できるよ」

「えっ……」

 風の魔法にそんな効力があるの!? とアルを見れば、アルは知っていたようで、少し笑っている。



「それと、そのブレスレットは君が持っていて。 それならお母様もきっと、喜んでくれるはずだから」

「えっ……でも、そんな大切なもの……」

「いいの。 君は、僕の命の恩人だから。 ……それに、お母様は僕の心の中で、ずっと生きているよ」




 リアムはそう言って自分の胸に手を置いて、静かに言った。

 私はそれを見て、少し迷った後、やがて頷いた。




「……有難う。 大切にするわ」

「うん!」




 リアムは屈託無く笑うと、「さてと」とアルに視線を向けていった。




「王子様をいつまでも待たせるわけにはいかないね」

 と言ってから、アルに向き合う形で居住まいを正してから静かに口を開く。




「私に課せられたいかなる処罰も、甘んじてお引き受けします」

 そう畏まった口調で言うリアムの表情は真剣で。

 アルも姿勢を正して、私の方を見てから頷くと、口を開いた。





「リアム。 お前は数々の罪に当たることをしてきた。 ……ただ、それら全てがお前のせいではないということも分かっている。

 だから、二人で話し合った結果、こうすることにした」



 そう一度切ってからアルはリアムの目を見てゆっくりと言った。





「リアムは、聖ランドル王立学園をこのまま2年生として通い続ける。 特質魔法は風、そしてこれからは“リアム・バートン”として生活してもらう」

「! ……僕は、このまま学園生活を送っていいの……?」

 リアムの呟きに、アルは「あぁ」と頷いてから、さらに話を続ける。




「そして、これは伯爵自身とも相談したのだが、学園を卒業後、僕の従者として働く。

 ……それが、今回の罰だ」

「!? ……アルベルト様の、従者!?」




 リアムは素っ頓狂な声を上げる。

 アルは頷くと、少し笑ってみせる。




「その期間はまだ決めていない。

 が、強いて言えば、風の魔法で移動魔法が使えるだろう?

 だからその魔法を、僕も使わせてもらいたい。 元々ローレンスの執事が羨ましいと思っていたから、僕自身もその手を借りたいなと思っていたからね」

「……僕の魔法頼り……」

 私は苦笑いを浮かべ、リアムに言う。




「特質魔法を風にしたばかりで複雑かもしれないけれど、アルのお手伝いをしてくれたら助かるわ。 ……お願い出来るかしら?」

「……クラリス様に言われたら、しょうがないよね。 惚れた弱みは辛いなぁ」

「「!」」




 私とアルはその言葉に驚いたのを見て、リアムは悪戯っ子のように少し笑ってから、胸に手を当てて「仰せのままに」と言ってみせたのだった。


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