表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。  作者: 心音瑠璃
第2章 切なる願いを魔法に秘め
71/113

29.祈り

 その後も忙しい毎日が続いた。



 私は何とか体力が持ち、一晩寝たら治ったが、リアムは固く目を閉じたままだった。


 あれから一週間経ったが、まだリアムが目を覚ます気配はない。

 死んでいるのかと心配になるけど、穏やかな寝息はずっと規則正しく続いている。

 一先ず大丈夫そうだ。



 そして今、何をしているかと言うと……





「あ、アルこっちは掃除終わったよー……って、だから魔法使っちゃダメだってば」

「何で魔法使用禁止なんだ」

「魔法を使ったら、罰にならないからってお父様に言われたでしょう。 ねえ、ミリアさん」

「そ、そうですね!」



 現在、仲良く皆で、学校中の清掃をしている最中。

 そして今は、教室掃除をしているのだけど、すぐ魔法を使おうとするアルに、ローレンスと私が窘めながら注意し、ミリアさんは困ったような表情をしながらも手を動かしている。




 こうなった理由は、勝手にリアムを連れ出し、悪魔祓いをし……まあその他諸々の処罰である。

 でもまだこれだけで済んだのだから幸いだ。

 それは、全てこの二人のおかげだから。

 私は少し離れた場所にいたその二人に視線を向ける。





「エドガー様、そこにまだ埃がありますよ」

「えー、シリル厳しすぎるよ。 そんなことやってたら、いつまで経っても終わらないでしょう」

「貴方様が掃除が下手なだけです!」



 何故かギャーギャーと掃除論争をしている、国家秘密……のはずが、勝手に姿を現してしまったエドガー王子と、今回陰で一番活躍したといっても過言ではないシリル。

 騒ぎつつも、楽しそうに掃除をしているその二人の姿を見て、クスッと笑ってしまうと。




「……あんまり、他の男ばっか見ないで」

 ぶすっと拗ねたような顔で、私に抱きつくアル。

(……んもう、すぐ拗ねるんだから)

 いつもなら人前で、と引っ剥がすところだが、まあ今回は頑張ってくれたからいいか、と思っていると、ローレンスが背後から声をかけてくる。



「だからそこ、二人でイチャつかないで早くやってってば」

「……羨ましいんだったら、ミリア嬢とイチャイチャすればいい」

「「!?」」




 アルの返しに、ローレンスとミリアさんが硬直し、顔を見合わせてカッと赤くする。

そしてローレンスは不自然に声を上げながらミリアさんの手を引いて言った。



「あー、この部屋、暑いなぁ。 ミリア嬢、何か飲み物を買いに行こうか。 掃除はそこのお熱い二人に任せて」

「え、あ、はい!」





そう言って、まだ顔を赤くさせながら教室を出て行く二人を見て、私は両頬に手を当てる。




(……あ、あれが真っ当な反応よね! 慣れって怖いわ!!)




 私は抱きついたままのアルから距離を取ろうとすると、アルは腕に力を込めてボソッと呟いた。

「……良かった、クラリスが無事で」

 私はその言葉に驚いた。

 ……そっか、ずっと心配してくれていたんだ。 私が千人に一人の魔力を持っていることを、小さい頃から知っていただろうアルにとっては、気が気じゃなかったはず。




 悪魔を魂ごと消滅させるなんて方法は、きっと当時の“悪魔祓い”の記録を書いた本当に遠い歴史……千年以上前以来無かったはずだ。





 でも私は、これ以上悪魔憑きを増やして人々を苦しめたくなかった。

 それは、リアムに取り憑いた悪魔は、魔の森の住人に取り憑いていた悪魔達の中で、一番強いとそう判断して、自分の体に負担をかけてでも魂ごと消すことを私は決めたのだ。



(……これが、“クラリス・ランドル”として転生してきた私のやり方よ)

 だから、悔いはない。

 リアムは助かったし。

 それに……





「……アル、有難う」

「クラリ……っ!?」







 私は体を反転させて、グイッとアルのネクタイを引っ張ると、顔を寄せて……アルの唇に、そっと自分の唇を重ねた。




 そして、ピアスに魔力を込めて心の中で言う。




『貴方が守ってくれたから、頑張れた。

 私一人じゃ出来なかった。 有難う。

 ……大好きよ、アル』

「!? 〜〜〜っ、クラリスが可愛すぎる!! 不意打ちも可愛い……!!」



 アルは唇を離して顔を紅潮させながら、そんなことを口走るものだから、私は思わず笑ってしまう。

 そして二人で見つめ合った後、ふっとまた距離が縮まって……





 今度はゆっくりと、甘く長く、口付けを交わしたのだった。








 ☆







 それから3日後、リアムは漸く目を覚ました。

 その瞳の色は……両目とも紫色に変わっていた。

 そして……




「リアム、この鏡で自分の姿を見てみて」

「? ……えっ……!?」





 リアムは手鏡を持って後ろで緩く束ねていた髪をほどいて、まじまじと見つめる。





「……髪が、白色に変わってる……!?」





 もう黒魔法は使っていないのに、と呆然と呟きながらそう言って私をみたから、にっこりと頷いた。



「きっと貴方は、元々は白髪で生まれ、貴方のお母様……風の一族でいらっしゃる“バートン伯爵”の血を引いて、生まれるはずだったのよ。

 その前に、悪魔にお腹の中で取り憑かれてしまったから、分からないままだったけれど……」

 私がそう言うと、リアムは「バートン、伯爵……」と呟いた。




「……僕はその、“バートン伯爵家”の血筋であり、風の魔法を使えるって言うこと……?」

「えぇ。 間違いないわ。

 ……だって貴方、私の手助けをしてくれたんだもの。 悪魔祓いの時に」

 私がそう言うと、リアムは驚いたような顔をし……アメジストのような瞳から、涙が溢れ落ちる。




「……そうか、あれは、夢じゃなかったんだ……」

「夢?」

 私の問いかけにリアムは頷くと、私が付けていたブレスレットを指差して言った。





「そのブレスレットはね、僕の母さんのものなんだ。

 ……その中に母さんの魔法が込められている」

「まあ、そんな大事なものを、貴方はあの時置いて行ったの……!?」

 私はブレスレットを見、驚いてリアムを見ると、少し視線を逸らして言った。




「……だって、あんな上等そうな服をもらって、あのくそまず……いや、薬までもらったに、何も返さないわけにいかないじゃないか」

 私はあら、そんなこと気にしなくてもいいのに、と言うと、リアムは首を振る。



「……まあ、君ならそう言うと思って、僕はわざと置いていったんだ。 すぐに会いに行けば、ブレスレットも返されるかもって。

 ……でも、会えるのに随分と長く時間がかかってしまった」




 リアムはそう言って悲しそうな顔をすると、私を見る。 私もその表情を見て、頭を下げる。

「ごめんなさい、リアム。 私は、貴方の大事なものを全部、燃やしてしまった……」

「いや、謝らなくていい。 ……それに、僕だって君の立場だったら、大切な人を奪われて暴走するのも無理はないし、全て悪魔のせいなんだから、君が謝ることじゃない」



 リアムはそう笑って言うが、私の気持ちは変わらない。 唇をかみしめて俯いていると、そんなことより、とリアムは口を開いた。




「……母さんに、夢の中で会ったんだ。

 僕に何度も謝りながら、幸せになってほしいと、ずっとそう言っていた」

「え……」

 驚いて顔を上げると、リアムは薄く笑って言う。




「……母さんは、僕の体の中の悪魔に呪い殺されたんだ。

 母さんがいることで、僕の心が弱くなるからって」

「! そ、そんな……」

 本当、憎いよね、とリアムは静かに怒りながら、でも、と言葉を続ける。




「……騙された僕も悪いんだ。 弱い心に付け込まれた。

 ……でも、分かったんだ。 一人じゃないって。

 君がそれを、教えてくれた」

「え……」

 私の頰に、そっと風が頬を撫でる。




 それがリアムの魔法だと気が付いて息を飲むと、リアムは微笑みながら言った。









「有難う。 僕を、助けてくれて」








 私はその言葉を聞いて、涙が溢れて止まらない。



「っ、違うわ。 私は、それよりもたくさん貴方を傷つけてしまった。

 それにもかかわらず、悪魔祓いの時まで助けてくれたのに……」

「悪魔祓いは元々僕のためなんだから、お礼を言うのは当然だよ。

 ……それにあの時、言われたんだ。 母さんが、“大切な子を守りたいのなら、祈りなさい”って」

「え……?」





 リアムは私の頰に伝った涙をそっと拭うと、笑って言った。





「僕は眠っている間、ずっと心の中で祈っていたんだ。 ……君を……大切な、僕の初恋のお姫様を、守れるようにと」

「!? は、はは初恋!?」




 リアムは私の反応にあはは、と笑いながら「まぁ、今も昔もアルベルト様のものだけど」と残念そうに言う。




「ふふ、 まあその甲斐あって僕は、風の魔法を使って結果、君を助けられたみたいだし。

 ……それだけで、十分なんだ」




 リアムはそう言って笑ってみせる。

 私もそのリアムの表情に微笑みかえすと、またふわっと、温かくて心地よい風が、私とリアムの髪を撫でるように、そっと吹いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ