第十三話:VSダークシャドウとダライアスの登場
邪悪な霧がクリスタルから溢れ出ている。どうやら同胞団の情報は正しいようだ。早速のところで破壊に転じたいがゼルクの眼前にダークシャドウが現れた。ゼルクは長剣を抜いた。
そして走り始めた。もう既に突っ込んできているダークシャドウは宙に浮く事なく地べたに足裏を付かせていた。見た感じダークシャドウは二mを余裕で超えており熊みたいだった。
熊ならば対峙した事があるが今の相手は身長のみが熊みたいなだけだ。ダークシャドウの両手の甲には鋭利な刃が出ていた。どうやらゼルクに対して双剣的な攻撃を仕掛けるようだ。
とここでダークシャドウとゼルクは一戦を交えた。ダークシャドウは軽い動きで両手の甲の刃を使ってきた。一瞬の隙もない攻撃だ。それにゼルクは防戦一方になった。武が悪い様。
「ぐ」
ゼルクが苦しそうな声をあげた。ここはビビーと一心同体になるべきだがここで負けていればダライアスに勝てないような気がした。ここは意地でもビビーに頼らないつもりだった。
しかしもし長剣が使えなくなったら魔力剣に切り替えるつもりだった。我が城の長剣よりも魔力剣の方が優秀なのは癪だが我が儘を云っている場合ではなかった。それでも勝てるか。
それはだれにも分からない事だった。ただ云えるのは今のゼルクは劣勢になっていると云う事だ。ダークシャドウは疲れ知らずなのかずっと攻撃をしてくる。まずい。これは負ける。
そう。思ったのはゼルクだった。これが続けば人間であるゼルクの方が息を切らしてしまう。く。ダークシャドウを相手にするには早過ぎたのか。いずれにせよ。手遅れだ。負ける。
「あ! なにをしてるの! ゼルク!」
ふと気付きたかったが今のゼルクにそんな余裕はなかった。ただし聞こえてきた声はビビーだった。ビビーはゼルクの事が心配になって様子を見に出てきた。すると劣勢気味だった。
ゼルクの本当は返事をしたかった。でも予想以上のダークシャドウの追撃によって返事が出来なかった。このままではビビーが勝手にゼルクに入り込むのは時間の問題だ。避けたい。
本当にこのままの状態が続けばダライアスに勝てない。ゼルクの目的はダライアスの確保にある。今ここでビビーなどに甘えていればダライアスに太刀打ち出来なくなるのも分かる。
よって今のゼルクはなにがなんでもビビーの力は借りたくなかった。それでもビビーはマスターの為に働きそうだった。当然の事でマスターはゼルクの事だ。ビビーは空気を読むか。
「ゼルク! 今行くね!」
残念な事にビビーは空気を読まなかった。ただしこの件に関しては読める方が凄い。しかし今にも動きそうなビビーは見事に空気を読まなかった。とビビーが空高く飛ぼうとしたら。
「やめろ! ビビー!」
急にゼルクの声がした。ゼルクの声はそれ以上やったら怒るぞな雰囲気だった。それ以外を云えばゼルクはこんな自分への苛立ちや嫌気を滲ませていた。ゼルクは歯軋り気味に云う。
「これは」
一回途切れたのはダークシャドウの攻撃が速く防ぐので精一杯だからだ。無尽蔵なスタミナに手数の多さにゼルクは劣勢に立たされていた。力で云えば魔晶騎士に負けていなかった。
「俺の戦いだ!」
ゼルクは歯が折れそうな位に食い縛った。その力み具合が言葉にも出ていた。一言で云えばかっこいい生き様だ。だが逆に云えばもっと違う生き方も出来た筈だ。なのにどうしてだ。
「で、でも」
ビビーは今にも泣きそうな位に迷っていた。なぜなら嫌でもゼルクが負けるのが見えていたから。もしここで逆転出来るのならは最初から泣きそうにはなっていない。負けないでね。
ビビーは心の奥底でそう思わなければやっていけなかった。だって命はたった一つなのだから。ビビーは心の奥底からお祈りを始めた。両手を合わせて両瞼を閉じると今にも見える。
今にも負けそうなゼルクの姿が。それでもその光景が現実にならないようにビビーは一生懸命に願った。ビビーの望みはただ一つ。単にゼルクがダークシャドウに負けない事だった。
と次の瞬間。痺れを切らしたダークシャドウが一瞬で蹴りを付ける為に大振りで両方の刃でしてきた。するとゼルクは大きく後ろに引き下げられた。吹き飛ばされはしなかった。が。
「ぐは」
ゼルクの体勢は大きく崩れ去った。一方のダークシャドウはその瞬間を逃すまいと一気に体勢を整えて右手の刃先をゼルクに向け始めた。一体なにが起きると云うのだろうか。瞬間。
「ダークショット」
なんとダークシャドウの刃先から一瞬だけどす黒い光が溢れ出たと思ったらどす黒い直線状が出てきた。謎の直線状はこのまま行けばゼルクに直撃してしまう。一体どうなるのやら。
「だめぇ!」
急にビビーの声がした。それと同時にビビーがなんとゼルクの前に現れた。ビビーは宙に浮きながら両手を広げている。このままではビビーに直撃してしまう。ゼルクは自身を呪う。
「・・・・・・え?」
ビビーが覚悟を決めた瞬間に両瞼を閉じた。しかし当たっても可笑しくない間隔で恐る恐る両瞼を開けるとなんと目の前に騎士がいた。見た事もないような風貌をしていた。だれだ。
「ふはは。我が名はジェネガル。大将軍にして最強の男よ」
な、なんだ。この独特な云い回しは。と、とにかくゼルクとビビーはジェネガルとか云う男に助けられたようだ。ジェネガル。ゼルクはなにかを思い出していた。それはなんだろう。
「は! ま、まさか! あ、貴方は!?」
ゼルクは見事に思い返していた。なにを思い返したのか。それはなんと目の前に現れたジェネガルとか云う男は実のところで敵だった。それだけではない。敵の大将軍だ。どうあれ。
「おうよ。待たせたな。・・・・・・お前がゼルクか」
このジェネガル大将軍に助けられた事は確かでありゼルクとビビーは無事でいられた。そもそもどうして敵である筈のジェネガル大将軍が助けたのか。それは単純にスパイのお陰だ。
「そうだ。そいつがゼルクだ。だがそれだけじゃねぇ。俺が一番に信頼している大事な仲間だ」
これまた急に謎の影が現れるとそう云い始めた。この声の主は実のところでヴィクロスだった。なんとヴィクロスはアーマデラスの命令によって敵への工作をしていた。命を懸けた。
「そ、その声は!?」
しかしゼルクはここにヴィクロスがいる事なんて知らなかった。だから内心驚いていた。まさかヴィクロスがそんな事をしていたなんて。ゼルクはただただ呆気に取られるばかりだ。
「話は済んでいる。さぁ。これより加勢する」
そもそもジェネガル大将軍はヴィクロスが来るまでは裏切りを渋っていた。しかし流星の如く現れたヴィクロスの見事な説得によって裏切りを決意した。これで40%が味方になる。
「数が増えても同じ事だ」
ダークシャドウはそう云った。実に余裕綽々のようだ。ダークシャドウはまるで赤子が増えたかのような感じで云った。確かに一人一人の力は弱い。でもそれでもヴィクロスは戦う。
「それはどうかな。見せてやろうぜ。俺達の力って奴をよう」
ヴィクロスの闘志は消えてはいない。その証拠にヴィクロスの言葉からは皆で乗り切ろうと云う意志が伝わってくる。それはまるでゼルクの考えを一新させる程だった。頼りになる。
「はい! ヴィクロスさん!」
ゼルクは元気を取り戻した。晴れやかな空気に一輪の花が咲いたようだ。一人で駄目なら仲間に頼る。ゼルクは改めて考えさせられた。今までは一人で何事も解決しようとしていた。
「見せよう! ゼルク! 私達は確かに一人の力は軟弱だよ? でもそれでも支え合うのが仲間じゃないのかなぁ」
だけどここにいるビビーやヴィクロスの言葉を聴く度に背中を押されたような気分になる。そうだ。一人が駄目ならば二人で戦えばいい。たとえ卑怯者と呼ばれようとも勝利を掴む。
「ああ。そうだ。そうだよ。ビビー。俺・・・・・・間違っていたよ」
ゼルクは心に決めた。たとえ一人になろうとも仲間がいずれ来てくれると信じようと。そもそも今がその時だった。だからゼルクは気持ちを立て直し全ての敵に立ち向かおうとした。
「黙れ。雑魚め。ダークショット」
ダークシャドウは実に余裕そうだ。所詮は一人では勝てぬ軟弱者の集団と思い込んだようだ。だがダーウシャドウは知らない。彼らが魔晶騎士を打ち負かした事を。あの光景が甦る。
ダークショットを発動したダークシャドウは右手をゼルクに向けて直射状を発射した。しかしゼルクの前にジェネガルがいた。ジェネガルはゼルクを護るように特大剣を前に構えた。
そして迫り来る直射状を前に構えた大剣で真っ二つにした。どうやら大将軍と云うだけあってジェネガルの大剣は業物のようだ。その見事なまでの切れ味はきっと魔晶騎士に通じる。
「へ! いいか! ダークシャドウは召喚魔法紋から呼び出されている。つまりあの召喚魔法紋が描かれているクリスタルを破壊しない限りは倒せない。だからここは俺が陽動を仕掛ける。いいな?」
とここでヴィクロスが比較的に大きな声で云った。するとヴィクロスは鞘から長剣を取り出した。そしてダークシャドウに陽動を仕掛けた。ヴィクロスが自ら陽動を仕掛けるようだ。
その作戦は暗黙の了解となった。今のヴィクロスはダークシャドウから狙われようとけっして近付く事なく周囲を走っていた。急に動いた事でダークシャドウは過敏に反応し始めた。
「・・・・・・ダークショット」
しかし過敏に反応した割には意外にも冷静な対応だった。周囲を走るヴィクロスはよし! と思った。なぜなら見事に陽動に成功したからだ。これが続けば勝ちは見えてきたも同然。
「今だ! ゼルク! 突っ込め!」
ヴィクロスはジェネガルが邪魔で前が見えていないゼルクに対して今だと云った。しかしそれよりも先に動いたのはジェネガルだ。ジェネガルはヴィクロスの言葉で気が付いた様だ。
「はい! ・・・・・・ビビー! 俺に・・・・・・力を貸してくれ! 頼む!」
ゼルクがヴィクロスに返答した。その後に走り始めた。それからほんのちょっと経ってゼルクはビビーに一心同体になる様に云った。自前で走るよりもビビーの力に頼る方が素早い。
「分かった! ゼルク! そっれじゃあいっくよー!?」
ビビーはゼルクの後を追いかけながら云った。すると張り切りながらゼルクを追い越すとゼルクの胸に入り込んだ。この時のゼルクはビビーの力を借りる方がやっぱり速いと思った。
「ぬん? ・・・・・・させるか。いでよ。我が分身」
ダークシャドウはヴィクロスに気を取られていた。しかしヴィクロスの言葉によってこれが陽動である事を認識していた。だからダークシャドウは振り向きながら分身を唱えた。が。
「へ! 陽動が陽動を生むってね!」
いつの間にかヴィクロスはダークシャドウに近寄っていた。そしてダークシャドウに切り掛かった。ヴィクロスの不意な動きにダークシャドウはゼルクに振り向くのを諦めた。だが。
どうやらダークシャドウの分身は影そのものとなりクリスタル目掛けて走るゼルクの目の前に先回りした。するとどんどん実体化し最後にはダークシャドウ瓜二つとなった。そして。
「く。ジェネガルさん! 後を頼みます!」
ゼルクが目の前に現れた二体目のダークシャドウと対峙した。その瞬間にゼルクはジェネガルにクリスタルを破壊するように云った。しかしジェネガルは既に行動に移していた後だ。
「ふんぬ! 云われるまでもない!」
ジェネガルは既にクリスタル目掛けて走っていた。しかしその動きは余りにも遅かった。なぜなら大将軍と云われるだけに鎧が重いようだ。しかも元々ジェネガル自身速くなかった。
「・・・・・・行かせない」
ダークシャドウはもう一度分身を作ろうとした。もし成功すれば三体目のダークシャドウになる。万が一分身を成功させてしまうとここにいる仲間全員がクリスタルに辿り着けない。
「させるか! お前の相手は俺だ!」
ヴィクロスはダークシャドウの分身を危惧した。だからヴィクロスは強い口調で云う前に長剣で切り付けた。その後に云っていた。どうやら切り付けていれば分身は出来ないようだ。
「・・・・・・行かせない」
第二のダークシャドウは第一のダークシャドウの代わりに喋った。全く一緒のように思えるがやや焦っていたようにも思えた。第二のダークシャドウは分身をしようと振り向いた時。
「やらせるかぁ! やらせるもんかぁああ! ぐは」
ゼルクが叫ぶように云った。それとほぼ同時にゼルクは長剣で第二のダークシャドウに切り掛かった。第二のダークシャドウは否応なく自身の武器を防御代わりにした。その瞬間だ。
なんとゼルクは神の篭手から発する痛みに耐えれなくなり長剣を落としてしまった。この痛みは間違いない。この近くにダライアスがいる。とそれよりも早く長剣を拾わなければだ。
「ぐあ」
しかし神の篭手からの痛みは激しさを増している。これでは容易に取る事が叶わない。今のゼルクに物事を考える力はなかった。ただ云えるのは嫌な汗と共に芽生える負が怖かった。
「どうした? ・・・・・・まぁいい。ここでおしまいだ」
第二のダークシャドウは防御の姿勢を元に戻した。そして沈黙の時に目の前のゼルクを見た。すると目の前にいるゼルクはなぜか地面へと屈み込んだ。第二のダークシャドウは睨む。
第二のダークシャドウはゼルクを睨みながらもそう云い終わると右手を大きく上に掲げた。そして右手を振りかざした瞬間ゼルクの目の前にジェネガルが現れた。ジェネガルは笑む。
「ふはは。残念だったな。ここは俺に任せろ。後は・・・・・・任したぞ」
ジェネガルがそう云う前にゼルクの前に出ては自身の大剣ですぐさまに防御姿勢を取っていた。その時に第二のダークシャドウの武器とジェネガルの武器の衝突音がした。鋭い音だ。
「・・・・・・ぐ。・・・・・・はい」
実に威勢のない返事だった。しかしそれ位に精神が持っていかれそうだった。その事にゼルクは沈黙を続けてなんとか我を取り戻した。実に威勢のない返事。だが諦めた訳ではない。
ゼルクは神の篭手による痛みを抑えながら素早く立った。そして間髪入れずにクリスタル目掛けて走り始めた。最早ゼルクは破壊の執念だけで走っているとしか云いようがなかった。
「そうだ! 行け! ゼルク! 勝利は近いぞ!」
ジェネガルの声援がゼルクの耳に入り込んだ。しかし今のゼルクにはジェネガルの言葉を識別する力はなかった。本当にそれ位に神の篭手による痛みが酷かった。電線に触れた痛み。
「させない」
第一のダークシャドウと第二のダークシャドウの答えが合致した。つまり同時に云った。どうやらダークシャドウ達は分身を諦めていないようだ。だがそれ以上に諦めていない人が。
「させねぇ! 命を賭しても構わない!」
ヴィクロスだ。もちろんジェネガルも諦めていない。だから二人共間髪入れずに攻撃した。だがあっけなく防御された。しかしそれでいいと二人は考えていた。後をゼルクに任せた。
「・・・・・・ぐぬ。しつこい奴らだ」
第一のダークシャドウが云った。どうやらかなり参ってるようだ。この事からヴィクロスとジェネガルは勝ったと思い込んだ。しかしその思い込みは激しく勘違いであった事を知る。
「くぅ!? やはりか!」
ゼルクの言葉にヴィクロスとジェネガルはえ? と思った。なんとクリスタルまであと一息と云う時にダライアスが現れた。ダライアスはクリスタルを土台にさらに跳んで着地した。
この感じからダライアスは既にグビルとか云う妖精と一心同体のようだ。でなければこのような跳躍力を見た事がない。しかしダライアスは魔力剣を出現させてはいなかった。だが。
妖精と一心同体になっているダライアスはそれだけでも十分に強いだろう。それを一番に思ったのはなにを隠そうゼルクであった。ゼルクは身震いを覚えた。しかし脅えてはいない。
それどころか。ゼルクは長剣の柄を左手で持ち魔力剣を出現させた。そして魔力剣が落ちる前に右手で柄を掴んだ。今のゼルクは二刀流になった。果たしてゼルクはなにを仕出かす。
とここでゼルクが急に走り始めた。方角はダライアスだった。どうやらゼルクはダライアスと戦う事を決意したようだ。またそれ以外にゼルクはなにかを考えていた。なにを考えた。
それは分からないがゼルクは走り続けた。一方のダライアスは長剣だけで十分と思ったのだろうか。長剣の柄を右手で持って前に構えた。どうやらダライアスは警戒しているようだ。
どんどんゼルクがダライアスに近付いてくる。そしてダライアスはゼルクがなにも仕出かしてこないと云う事を悟ると急に走り始めた。それも長剣を前に構えたまま。警戒している。
あともう少しで鍔迫り合いが起きそうな距離感でダライアスはそのまま突っ込んでゼルクに対して突き攻撃をするようだ。一方のゼルクは急に魔力剣を逆手で持ち始めた。次の瞬間。
なにやら鈍い音がした。なんとよくよく見てみるとダライアスの長剣の刃先がゼルクに刺さっているではないか。しかも痛々しいまでに貫通していた。しかしゼルクは諦めなかった。
「やっ・・・・・・た」
ゼルクの一言にダライアスの不敵な笑みが消えた。なぜならよくよく見るとゼルクの魔力剣が消えていた。ダライアスが長剣で刺したからではない。では一体どこに消えたのだろう。
その一瞬にダライアスはまさかと思った。ダライアスは持っていた長剣の柄を手放した。そしてダライアスはクリスタルの方を見た。そこでダライアスが見た光景は両目を疑う光景。
なんとゼルクはダライアスに刺される前の一瞬の内に魔力剣を投げていた。しかもそれもクリスタル目掛けて。つまりゼルクの魔力剣は今クリスタルに刺さっていた。苦肉の作戦だ。
「ば、馬鹿な! この我が負けるだと!? ぐぬう! お、憶えておけ! 必ず我は貴様達の下に戻ってくる。それまで待っているがいい。我は不滅だぁ」
クリスタルがどんどん崩壊していく。それと同時に二体のダークシャドウが消えていく。第一のダークシャドウが吠えた。第二のダークシャドウは無言のままに消えていく。しかし。
こうしている内にもゼルクの命も風前の灯だった。ゼルクはダライアスが長剣の柄を手放した瞬間にその場に倒れた。まず最初に両膝を地面に付けた。そして前屈みになっていった。
「ゼルク!」
ヴィクロスの声だ。ヴィクロスとジェネガルはほんの少し前までダークシャドウと戦っていた。だからゼルクの身にそのような事が起きているなんて知りもしなかった。目を疑った。
「馬鹿な。希望の象徴を死に晒すなど。く。一生の不覚」
ジェネガルが実に悔しそうにしていた。それもそうだろう。ゼルクと云う柱を失えばいくら大将軍の軍勢でもダライアスに負ける可能性があった。そもそもダライアスのせいだった。
「クリスタルが破壊された・・・・・・か。く。支援はなしか。・・・・・・しかし・・・・・・フハハ。やったぞ。遂にこれで私達の勝ちだ。さぁ! 返してもらおうか。私達の力を」
ダライアスが強過ぎるからこそにジェネガルは寝返った。しかしそこに流星の如く希望の象徴が生まれたからジェネガルは更に寝返った。だがしかしこうも簡単に死に際になるとは。
「くそ。くそ! くそぉおお! よくも! よくも! よくもぉおお!」
ヴィクロスが気を正常に保てなくなった。走馬灯のようにゼルクとの記憶が何度も点滅した。ヴィクロスは信じたくなかった。自分の命はどうでもいい。だけど他人が死ぬのは辛い。
「ま! 待て! ヴィクロス! ・・・・・・く。聞こえていないか」
ジェネガルがヴィクロスに冷静になるように促した。しかしヴィクロスは聞く耳を持っていなかった。ヴィクロスは無我夢中に走り続けた。全ては仲間の敵討ちの為に。投げ打った。
「ふん! 穢れが。私に楯突くなどと。いいだろう。貴様もゼルクの下へ送ってやろう。・・・・・・ぬぅ?」
ダライアスはゼルクに刺さった長剣に目もくれずに魔力剣を出した。と次の瞬間。眩い光が天空から降り注いだ。眩い光は縦一直線にゼルクに当たった。この光景。どこかで見た筈。
「ふん! 風前の灯でよくも」
どうやらダライアスは気付いたようだ。しかしこの場にいるヴィクロスとジェネガルは初めて見る事になる。そう。神が降臨した。ゼルクを器として迎え入れて天界から降ってきた。
とここでゼルクの体が不思議な力で浮き上がった。そして立ち上がった。するとゼルクの体を乗っ取った神が刺さっているダライアスの長剣の柄に片手をやった。静かに抜くようだ。
「フッホッホッホウ。姫さん。いや。女王や。貴君のお守り・・・・・・使わせてくれ」
ゼルクの口から神の声がした。実に年寄り臭い声だがどこか神々しい感じがした。と次の瞬間。ゆっくりとゼルクに刺さった長剣を抜き始めた。それと同時にネックレスが光り輝く。
「・・・・・・ぬ!? な、なんだ! この光は!? ま、まさか!」
最初は謎に包まれていたダライアスだったが起こす価値がある事と云えば一つしかないと思った。しかしそんな奇跡なんて本当に起きるかと思った。蘇生するには大賢者が必要な筈。
「フッホッホッホウ。ダライアス。その通りじゃ。このネックレスはのう。蘇生が出来るのじゃ。しかしのう。一回使えばその後はまた長い間眠りに付く事になるがのう」
実のところでローゼリア女王陛下がゼルクにプレゼントとしたネックレスはかつて大賢者が錬金したとされる伝説の品物だった。しかし余りにも長い年月を必要とする為に下落した。
そうこうしている内にゼルクに刺さった長剣が全て抜かれた。そして長剣を手放した。地面に長剣が落ちた。静かな空間にやや重たい音がした。しかしすぐに静かな空間はなくなる。
「くそ! こうなったら!」
ダライアスはやけくそになっていた。なぜならクリスタルの霧があれば魔神降臨が出来たのだ。しかし予想外に破壊されてそれが出来なくなった。神に勝てる見込みはない。しかし。
こうなった以上はダライアスにも非があると思った。だからダライアスは命を懸けて蘇生中のゼルク目掛けて魔力剣を前に構えつつも突っ込んだ。全ては自身の未熟さを晴らす為に。
「ホッホウ。諦めの悪い奴じゃのう。なぁ。ゼルクや」
と次の瞬間。ゼルクは右手を前に突き出した。その瞬間。なんとダライアスは後ろに吹き飛んだ。この光景は二度目の筈だ。やはり人間如きが神に勝つなんて所詮は愚かな事だろう。
「ぐぅ・・・・・・ぐは」
ダライアスは遠くに吹き飛ばされた。その衝撃に耐えられずに声をあげていた。しかも沈黙の後は地面に無様な形で衝突した。ダライアスは受け身を取れずに痛々しい形で終わった。
「諦めるのじゃ。ダライアス。濃らには勝てん。今なら許してやろう。さぁ。降伏を」
ゼルクの体を借りた神がそう云った。今ならばす全てを許そうと神が云った。全ての言葉はゼルクの口から出てくる。しかしゼルクの雰囲気はなかった。完全に神の支配下にあった。
「その必要はない。ダライアスよ」
謎の声がした。気が付けばクリスタルがあったところに誰かが立っていた。なんだろう。凄まじく禍々しいオーラを放っている。そのオーラは人には見えないが只者ではない感じだ。
「は! その声は。ディオス様」
ダライアスは謎の声についてディオス様と云った。ディオス。史上最強の敵にして魔王。そうだ。ディオスこそが一番の存在である魔王だ。ちなみにダライアスが云ったあのお方だ。
「ダライアスよ。魔神降臨がない今我らに勝ち目はない。ここは一旦引くぞ」
ディオスが喋った。なんだろう。地べたを這い回る霧のような不気味がある。一旦引くと云う事は今のところは一時的に負けを認めたと云う事か。確かに大将軍の背信は手痛い筈だ。
「し、しかし! ・・・・・・わ、分かりました。ここは・・・・・・一旦引きましょう」
あのダライアスでさえ謙虚になる程の威圧とはなんだろう。最早我々は人間的とは対立していないのかも知れない。ディオス。ただならぬ男だ。ゼルク達は無事に勝てるのだろうか。
「ふん!」
ダライアスの言葉を全てディオスが聞くと長いマントを翻し後ろを振り返った。しかしディオスは動こうとはしなかった。なぜならゼルク達になにかを云いたかったからだ。だから。
「自惚れなよ。我が力を。さぁ。行こうぞ。退却の準備だ」
ゼルクはともかく周りはなにを云っているのかを理解したのかと云えば出来ていなかった。しかしディオスの云っている言葉はどこか説得力があった。余りの出来事に唖然蒼然だが。
「は!」
ダライアスは潔く返事をした。そしてすぐさまに立ち上がった。痛々しい雰囲気を醸し出しながらダライアスはディオスの後を追った。それにしてもゼルクはまた神の助けを借りた。
それもこれもゼルクがクリスタルを破壊したからだった。そもそも神はクリスタルから出ている霧が辺りに充満している限りは降臨出来なかった。つまり全ては奇跡の破壊で起きた。
そうこうしている内に破壊したクリスタル方面から敵の信号弾が上空に撃たれ爆発した。この光景は二度目だった。つまりこれは撤退の合図だった。どうやら今回も勝利で終わった。
「・・・・・・ゼルク!」
ヴィクロスの心臓がはち切れそうだった。ゼルクがこうなる前のヴィクロスは自分の命を大事にしようとは思わなかった。だけどゼルクのこの光景を身近で見て命の尊さを教わった。
「ホッホッホウ。あんずるな。安心せい。ゼルクは・・・・・・もう大丈夫じゃ。後は・・・・・・安静にのう。それじゃあ濃はこの辺で失礼するかのう。お主らの活躍・・・・・・見事であったぞ」
ゼルクの体を借りた神がそう云い終わると微笑みながらもゼルクから離れて空高く上り始めた。するとゼルクは両膝を地面に付けてその場に倒れ込んだ。どうやら気を失っている様。
「ゼルク!」
ヴィクロスが逸早くゼルクの下に駆け寄った。神の云う事が正しければゼルクは助かった筈だ。だけどヴィクロスは初めての光景に理解が出来なかった。ただ只管に悲しみに暮れた。
「ヴィクロス。今は安全圏までゼルクを運ぶ事を優先させるべきだ。共に運ぼう」
ジェネガルもまたヴィクロス同様に理解が出来ていなかった。しかしここは一刻も早くゼルクを安全圏まで運んで怪我はないかの確認をした方がよいと思った。万が一の事を考えた。
「そ、そうだな。ここはジェネガルの云うとおりだ。安全圏までゼルクを運ぼう。一緒にな」
ヴィクロスはジェネガルの言葉から悲しみに暮れている場合ではないと思った。だからヴィクロスはジェネガルと共にゼルクを運ぼうとした。丁度いいところに馬がいたのも幸いだ。
ヴィクロスがゼルクを馬の背中まで運びジェネガルが馬の手綱を引いた。この迅速な対応のお陰でゼルクはすんなりと安全圏まで来れた。ちなみにジェネガルの軍勢は野宿する様だ。
確かに寝返ったとは云えいきなり合流するとなれば混雑するだろうとジェネガルの軍勢は思った。だからここはジェネガル大将軍が話を終わらすまでは野宿するようだ。助かる話だ。
ゼルクは今アルオス城外の安静所にいた。そこのベッドの上で起きるまで寝かされていた。ゼルクの受けた傷は致命的だったが奇跡が起きて傷跡さえなかった。医学界は驚いていた。
「ゼルク」
ビビーの声だ。ビビーはゼルクの近くを飛びながら心配そうな目線を送っている。ちなみにあれから十時間以上が経過していた。今はもう夕暮れ時だ。どうやら敵に攻め込むはない。
「ゼルク!」
ローゼリア女王陛下の声がした。ローゼリア女王陛下はテントの出入り口から慌てて入ってきた。これでもかと云わんばかりに動揺していた。もう伝兵が最後まで云った瞬間からだ。
「あ・・・・・・女王様」
ビビーは悲しそうな目線で云っていた。ビビーにとってローゼリア女王陛下よりもゼルクの方が心配だった。きっとそれはローゼリア女王陛下も一緒だろう。心配の元であるゼルク。
「ビビー。ゼルクは?」
ローゼリア女王陛下は緊迫した様子で云った。伝兵から聴いた時は顔が青ざめそうだったがそれよりもいても立ってもいられなくなりここにきた。ローゼリア女王陛下は鎧のままだ。
「大丈夫。寝息を立ててるよ」
ビビーは絶対にゼルクは目覚めると信じながらゼルクに目線を下ろした。医師達によればこんな奇跡は二度とないと云っていた。確かにジェネガル達の話を聴いていたら奇跡だった。
「そう。・・・・・・ゼルク」
ローゼリア女王陛下は両瞼を伏せがちでゼルクを見た。今すぐにでも抱き寄せたかった。そして涙を流しながら称えたかった。人間界の過ちで起きた戦乱の世はあと少しで終息する。
「う・・・・・・んん?」
ゼルクが静かに目覚めたようだ。今のゼルクは鎧を着用したままだ。しかし長剣入りの鞘はジェネガルによって外されていた。どこにあるのかと云えばベッドに立て掛けられていた。
「あ! ゼルク!」
ビビーが誰よりも先にゼルクの目覚めに気付いた。ビビーが信じたとおりになった。これは医者の言葉を信用した結果だ。ビビーは割と物分りがよい方で医者とも分かちあっていた。
「ゼルク! ・・・・・・よかった」
ローゼリア女王陛下は心の底から安堵した。最初はまるでゼルクに迫るような雰囲気だった。だけど沈黙に入ると冷静さを取り戻した。そしてゼルクが目覚めた事で安堵が最高潮に。
「う・・・・・・ここは?」
ゼルクは起きたばかりで頭が痛い。だから沈黙に入る前に頭を押さえつつも云っていた。しかし本来なら傷跡が残るところを痛がらないとはなんとも不思議な光景だ。奇跡が起きた。
「ここはね。城外の安静所だよ。ゼルク」
ビビーは安堵した。だから悲しむのをやめて冷静に説明した。それでもビビーは完全に安堵はしていなかった。なぜなら敵はまだ降伏していないのだから。今の勢力図は五分五分だ。
「は! そ、そうだ! て、敵は!?」
ゼルクは慌てたように思い出した。そして思い出したと同時に上半身を起きあげた。ゼルクは気を失っていたので敵との決着を見届けていなかった。だからゼルクは慌てて見渡した。
「大丈夫。聞いた話ではまた神様に助けられたみたいだよ」
ビビーが真顔で云った。これはビビーからゼルクへの警告だった。これ以上に神様に頼ればダライアスを倒すどころか。魔王ディオスに近付く事さえ出来ない。かなりきつい表情だ。
「そ、そうか」
ゼルクが神の篭手を顔の上まで持ってきて眺め始めた。その時のゼルクは物寂しそうだった。確かにこれ以上に神様に助けられていたら自分が許せなくなる。それは絶対に避けたい。
「ゼルク。・・・・・・おほん。ゼルクのお陰で今日も勝利しました。これからも・・・・・・これからも・・・・・・」
ローゼリア女王陛下は迷っていた。ただ一人の救世主にこれだけの事を任せるのは荷が重いのではないかと。だからどんどん後半になるにつれて勢いがなくなった。最後は無だった。
「女王様」
ビビーはローゼリア女王陛下に悲しい目線を送って同情した。確かにローゼリア女王陛下の気持ちも分かる。なぜなら神の篭手は一つしかなく。ゼルクに依存せざる負えないからだ。
「大変です! ローゼリア女王陛下! 何者かが数人留守中に城内に入り込んだ模様です!」
と急にお城の兵士がテントの出入り口から入り込んできた。お城の兵士が喋っている内容を全て耳に入れたローゼリア女王陛下は寝耳に水状態だった。それもそう。さっき発覚した。
「え? ・・・・・・は!? 大至急! 異変がないかの確認を!」
ローゼリア女王陛下は寝耳に水状態のままに云っていた。でも沈黙に入るとお城の兵士の云っている言葉を冷静に分析した。だからローゼリア女王陛下は割と冷静に声を張り上げた。
「そ、それが! もう既に蛻の殻だったそうです!」
お城の兵士が困惑しながら云った。どうやら嘘を付いている雰囲気ではなかった。ローゼリア女王陛下がそれを聴くとどこまでが蛻の殻だったのかが気になった。そして一体だれが。
「そ、そんな」
ローゼリア女王陛下は顔を下げて目を伏せがちで云った。どうやら味方は敵との戦いに集中した余りに疎かにしたようだ。そんな中でゼルクに走馬灯の記憶が甦る。せ、き、よ、く?
「は! メリルちゃん! ローゼリア女王陛下! こ、これはきっと赤翼の! 盗賊団の仕業です! お、俺・・・・・・行かなくちゃ」
ゼルクが赤翼の盗賊団の存在とメリルちゃんを思い出した。その瞬間にゼルクは最後まで云い切る前にベッドから出ようとした。そしてベッドから両足を出して立ち上がろうとした。
「ゼルク」
ローゼリア女王陛下は困惑した。その眼差しは弱りきっていた。なぜならこれ以上の働きをされては目にも余る光景となってしまう。だけどこうなった以上のゼルクは聴く耳がない。
「い、行くぞ。ビビー。俺達が助けないでだれが助けるんだ」
その証拠にゼルクはたとえローゼリア女王陛下に止められても行くつもりだった。それは最早ゼルクの正義感での動きだった。ゼルクはメリルとの約束を果たす為に助けに行きたい。
「え? う、うん」
ビビーはそれを半ば半分は知っていた。だからビビーはゼルクを止めずについていこうとした。もちろん。それだけではない。ビビーはゼルクの圧力に負けた。それだけの話だった。
「・・・・・・ゼルク」
ローゼリア女王陛下はゼルクになにを云っても無駄だろうと思った。だけどこのままだとまた遠くに行ってしまうと危惧し始めた。いくらメリルの為とは云え頑張り過ぎだと思った。
「待って! ゼルク! せ、赤翼の盗賊団の居場所は知ってるの?」
だからローゼリア女王陛下はゼルクに立ち止まって欲しい一心で云っていた。決してローゼリア女王陛下はゼルクに助言をするつもりではなかった。ただただ気付いて休んで欲しい。
「し、知らない。だけど俺は行く。行くべきなんだ。頼むから俺を止めないでくれ」
ゼルクはたとえこの身が滅んだとしてもメリルを助けに行くつもりだった。ゼルクはそんな軟弱者ではない。出来ない事も出来るように努力する事でどんな高い壁も乗り越えてきた。
「ゼルク」
ローゼリア女王陛下は釣れないゼルクに対して寂しさを全開にしていた。本当は気付いて欲しかった。否。ゼルクはきっと気付いた上で動いているのだろう。なんとも皮肉が混じる。
「俺は行く。助けを呼んでいる人がいるんだ」
ゼルクがそう云うとベッドに掛けられた長剣入りの鞘を手に取りテントの外に出ようとした。そんなゼルクをだれも止めに入らなかった。ただただ時間だけが過ぎていった。皮肉だ。
「どこに・・・・・・行くって?」
ジェネガルがテントに入ってきた。そしてその後にジェネガルがゼルクに反応していた。とその他にヴィクロスも入ってきた。二人とも絶妙なタイミングで入ってきた。まさに強運。
「ジェネガルさん。・・・・・・俺・・・・・・赤翼の盗賊団のところに行きます」
ゼルクは素直に云った。ゼルクは畏怖する事なく。目の前のジェネガルさえも乗り越えようとしていた。目の前の壁は高いかも知れない。でもそれでも今まで着実に乗り越えてきた。
「ぬ? 赤翼の盗賊団だと!? 一体・・・・・・なにがあったんだ?」
ジェネガルは明らかに赤翼の盗賊団の事を知っているようだった。とそれよりもどうしてそうなったのかの説明が欲しいようだ。確かにこのままでは謎めいたままだろう。どうした。
「メリルちゃんが。メリルちゃんが赤翼の盗賊団に連れ去られたんです」
ゼルクが懸命に説明した。伝わって欲しいところは当然赤翼の盗賊団が誘拐をした事だ。だれを誘拐したかなんて関係ない。でも確かにゼルクはメリルと約束をしていた。守りたい。
「うぬ? メリルちゃんとな? それは本当なのか」
ジェネガルがやや困惑気味に云っていた。しかしジェネガルもだれが誘拐されたかではなく赤翼の盗賊団が誘拐をしたと云う事実を確認したかった。だからジェネガルは訊いてみた。
「本当です! 確かに云われて見れば赤翼の盗賊団のエンブレムカードが置いてありました!」
急にお城の兵士が云い始めた。するとお城の兵士は手に持っていたエンブレムカードを見せてきた。確かにそこには赤翼の盗賊団のマークが描かれていた。これは信憑性が出てきた。
「ぐ・・・・・・やっぱり」
ゼルクは実に悔しそうだった。それもそうだ。ゼルクはダライアスに捉われる余りにメリルを忘れていた。これはどう考えても俺の責任だとゼルクは思った。ゼルクは歯軋りをした。
「そうか。どうやら本当のようだな。ならば・・・・・・ここは俺も付いて行こう」
ジェネガルが赤翼の盗賊団のエンブレムカードを見て信じた。ジェネガルが付いていくとなるとかなり心強いだろう。しかし敵は数人レベルではないだろう。気を引き締めるべきだ。
「な! ジェネガルが行くなら俺も!」
ヴィクロスが驚いた。だから驚いたような声をあげた。その後に俺も付いていくと云った。そもそもヴィクロスはゼルクの仲間なので一緒に行くなんて云わなくても行ける筈だった。
「わ、私も!」
ローゼリア女王陛下が乗り遅れまいとすかさず云った。ローゼリア女王陛下はゼルクの事が一番心配だった。だからすかさず口から出た言葉が私も! だった。全てはゼルクの為に。
「え?」
ローゼリア女王陛下とお城の兵士とジェネガル以外が云った。ただしローゼリア女王陛下以外はなんとも云えない空気になった。今ここでローゼリア女王陛下が外出をすれば混乱だ。
「あ! そうは・・・・・・行きませんよね」
ローゼリア女王陛下がなんとも云えない空気を急激に感じ始めた。ローゼリア女王陛下は俯きその表情は暗かった。なんとも悲しい感じがした。この気持ちは誰よりも負けていない。
「心配するのは分かる。しかしな。いくらなんでも女王様が外出したら職場放棄と思われるぞ」
ジェネガルが両腕を組んでから云った。この時のジェネガルは両瞼を閉じていた。だけどしかしなの時に両瞼を開けていた。そしてジェネガルが云い終わると両腕を組むのをやめた。
「そ、そうですよね。分かりました。私はここで待っています。どうか。ご無事で生還してくださいね」
ローゼリア女王陛下の気がちょっとだけ動転していた。だから最初の言葉で噛んでいた。ローゼリア女王陛下は気を入れ替えるように云っていた。ただし心の奥底では不安だらけだ。
「うむ。では行くとするか」
ジェネガルがローゼリア女王陛下を説得すると頷いた。その後にゼルクとヴィクロスに行くとするかと云った。この時のジェネガルはビビーも付いてくるとは思わなかった。自然と。
「ああ。俺とジェネガルがいざとなったらゼルクを支援するぜ」
ヴィクロスもビビーの事を忘れていた。だからヴィクロスはビビーを入れなかった。これも自然なところを見るとわざとではないようだ。しかしそれを感じ取ったビビーは怒り気味。
「あ! 私もいるんだけど! ゼルク! 私も助けるんだから!」
ビビーがゼルクの近くまで飛んで来るとそう云った。ゼルクにとってビビーには借りがある。これは最近の話でメリルを助ける時にビビーの花粉が大活躍した。今回も期待していた。
「んじゃ行こう。目指すは赤翼の盗賊団のアジトだ。ジェネガルさん。ヴィクロスさん。そしてビビー。支援の方・・・・・・宜しくお願いします」
ゼルクがすっかり我を取り戻したようだ。お陰で眠気も過ぎ去った。この調子ならば今日は眠らずとも行けるだろう。だからゼルクは威勢良く云っていた。そして律義に頭を下げた。
「ああ。任せろ。んじゃ行くとするか」
ジェネガルさんがそう云うとテントから出て行った。その後にヴィクロスとゼルクとビビーが出て行った。残った仲間は勇ましいゼルクの後ろ姿を見送った。その中で心配する目線。
「ゼルク。どうか。生き延びて」
ローゼリア女王陛下の気持ちが空しく言葉としてそこに残った。ローゼリア女王陛下の本音は今すぐにでも付いて行きたかった。だけど女王である以上はお城を離れるなんて無理だ。
まさしくローゼリア女王陛下は自身の職務を痛感していた。私故に私なのだとローゼリア女王陛下は自身に云い聞かせた。つまりローゼリア女王陛下は今の自分でなければ今もない。
そう。思い込む事にした。そうでなければこんなにもゼルクに思いを馳せる事なんてなかった筈だ。それに現実逃避をしても仕方がないと思った。だからローゼリア女王陛下は見た。
最後まで。ゼルクの後ろ姿を。だけど決して勇気を貰った訳ではない。むしろいつも訪れるのは不安などだった。ちょっとでもゼルクが離れればいつも最期になるのではと心配した。
そんなジレンマがローゼリア女王陛下を襲うのだった。だけどそのジレンマを他所にゼルク達はメリルの為に助けに行こうとした。果たしてゼルク達は無事に生還出来るのだろうか。




