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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
7/16

僕達の将来 ⑥ 退屈な未来

保健室に現れたありさから、伝輝は咄嗟に『身体強化』をしてしまったことを指摘される・・・

 伝輝の心臓は、校長に質問された時よりも、バクバク鳴った。


 ありさは、左肩部分が破れたセーターを見せつけるように、グイッと前に出した。

「これ、動物界で売ってる加工済み服でしょ。

 加工済み服は、尻尾や耳を通す為に、簡単に穴が開いて、すぐに塞がるようにできているの。

 だから、肉食獣の鋭い爪で多少引っ掻いたくらいでは、破れないのよ。

 なのにこれは完全にザックリやられている。

 先生達もわざと確認しなかったのか、伝輝が人間だから加工済みを着ているとは思わなかったのか、分からないけど、これはボルハが本気で攻撃したっていう証拠になるわ」


 ありさの厳しい表情は変わらない。

 彼女は声のトーンを落とし、更に話を続けた。


「教室からずっと見ていたわ。

 ボルハに攻撃された時、伝輝の肩から、血はほとんど出ていなかった。

 今だってそうよ。

 見る限り、かすり傷程度だったんじゃない?」


 伝輝は正直に頷いた。


「それが問題なのよ。

 かすり傷だったおかげで、大事おおごとにならなかったけど、もし茶介が攻撃されていたら重症だったはず。

 それを伝輝は無意識に身体強化で肌を防御してしまった。

 分かっているわよね。

 キバ組織やキバ訓練所のことは、トップシークレット。

 あんたが特殊な化け能力を身に付けていることは、絶対に知られてはいけないことなのよ」


「ん・・・」伝輝は、返事かどうかもはっきりしない声を出した。


「今回は試合中に起きた事故として、片付けられるでしょうけど、また外遊び禁止令が出されるかもね」

 ありさは伝輝が乗っているベッドに腰掛けた。

 互いの目線が同じになる。 


「でも、それで良かったんじゃない?

 今日の試合、見てて思ったんだけど。

 伝輝、つまんなかったんじゃない?」


 伝輝はありさを見る。

 彼女はうっすら笑みを浮かべていた。


「う・・・」

 伝輝は申し訳なさそうに目をキョロキョロ動かした。


「ボルハチームも味方チームも、動きが遅すぎて、合わせるの大変だったんじゃない?

 伝輝は常に行動を読んで、先回りしていた。

 あんたに球技のセンスがなかったおかげで、皆をごまかすことはできたようだけど。

 今後もレベルを下げて、お外遊びしていくの?

 折角、キバ訓練所下級クラス合格資格を持っているのに?」


 伝輝は黙り込んでしまった。

 ありさに言われたことは図星だった。

 だからと言って、素直に認めたくなかった。


「上級クラスの訓練受けた方が、よっぽど為になるんじゃないの?」


 「そう来たか」と伝輝は思った。

 恐らく、ありさは剛力所長に頼まれて、再び自分を訓練所に戻そうを企んでいるのだろう。


「ふざけんなよ。

 俺はキバ組織に入りたくないんだ」


「でも、このままじゃあ勿体ないわ。

 ねぇ、もっとワクワクする冒険しない?」

 ありさはニヤニヤ笑いながら言った。


「冒険?」


「そ。キバ組織にも、まごころカンパニーにも内緒の冒険」

 そう言うと、ありさは立ち上がった。


「私の人生は私のもの。

 だから、まごころカンパニーとか無視して、自分が前からやりたかったことをやるの。

 伝輝がそう言ったのよ。

 責任持って、付き合ってよね」


「何するつもりなんだよ?」

 先程とは別の冷や汗が背中を伝った。


「それについては、また連絡するわ」

 ありさはニコッと微笑み、保健室を出て行った。


 キバ組織にも内緒、と言うことは、上級クラス勧誘ではないのか。

 いや、ありさの場合、油断はしない方が良さそうだ。


 伝輝は頭を横にぷるぷる振った。


     ◇◆◇


 ありさが保健室を出てから約五分後に、団助先生と夏美が現れた。


「着替えは済んだわね。さ、帰るわよ。

 先生達、わざわざタクシーを呼んでくれたのよ」


 団助先生は引きつったような笑みを浮かべながら立っていた。


「伝輝も災難だったわね。

 まぁ、皆で外で遊んでいたら、こういうこともあるわよ。

 かすり傷だってのに、向こうの親御さんが凄く謝ってきてね。

 かえって、申し訳なかったわ」


 夏美の話を聞き流しながら、伝輝は校長先生に言ったことを思い出した。



『茶介が転んで、危ないと思ったから、飛び出しました。

 そしたら、ボルハの爪に当たったみたいです。

 ボルハは茶介のすぐ近くにいたから』


 自分がこう言うと、大人達の表情は一気に緩んだ。


『そうかい、そうかい。

 いや、これで全員の意見が一致したよ。

 ボルハ君の主張が正しいと証明されました。

 良かったですね、お母さん』


 校長先生は、号泣しているトラの女性に穏やかに話しかけた。


『ありがとうございます! ありがとうございます!』


『それじゃあ、私達はもう一度ボルハ君のところに行くからね。

 親御さんが来るまで、団助先生には外で待ってもらうからね』


 大人達(保健の先生含む)は、保健室を後にした。

 残された伝輝と茶介は互いの顔を見た。


『ボルハの奴、自分から「爪が当たった」って言ったんだね』

 茶介の声はとても弱々しかった。


『誰にも、言っちゃ駄目って分かっているけど・・・』 

 茶介は布団に顔を押さえつけた。

『俺・・・、本当は殺されるかと思ったんだ・・・』


 伝輝の目は再び見開いた。


 だけど、もう、何も言うことはできなかった。


     ◇◆◇


 翌日、伝輝はマグロと一緒に登校した。

 教室に入ろうとした時、ボルハが自分に声をかけてきた。

 ヴァランがすぐ脇に立っていた。


「昨日は悪かった」

 ぼそっと目を合わすことなく、彼はそう言った。


 伝輝は黙ったまま、ボルハを睨んだ。

 ボルハは不機嫌そうに目元をしかめたが、すぐにプイッと顔をそらし、自分の教室に戻って行った。


 あまりに素っ気ない様子に、ヴァランは戸惑いながら、伝輝を見た。

「悪い。あいつ、動物に謝り慣れていないんだよ。

 内心はすげー反省しているから」


 伝輝は特に返事もせずに教室に入った。


 ドリスは既に席に座っており、珍しくボーっと窓の方を見ていた。


 朝礼が始まり、茶介が休学し、近々転校することが決まったと、団助先生から聞かされた。

 ありさの言った通り、伝輝は再び外遊び禁止令を出された。


 昼休みが始まったが、いつものように外に飛び出す生徒はいなかった。

 窓の外から、楽しそうにはしゃぐ少年達の、野太い声が聞こえてきた。


     ◇◆◇


 本日最後の訪問健診が終わり、動物界の助産師・咲(ヒト・雌)は妊婦の家を後にした。

 慌てて向かったため、コートは車の中に置いて来てしまった。


 ナース服とカーディガンだけでは、とても耐えきれる気温ではなかった。


「さむーい。早く三月にならないかしら?

 冬は苦手だわ」


 ふっくらした身体を出来る限り小さくして、咲は近くのコインパーキングに向かった。


 運転手に座り、エンジンをかけた。

 暖房を最強にして、暖かくなるまでしばらく待った。


 パンパンに膨らんだカバンの内ポケットから、ピンク色の二つ折り携帯電話を取り出した。

 十月、豊家の優輝が産まれた後に、ゴンザレスから渡されたものだ。

 メンバー同士しか連絡を取り合うことができないが、機密性は非常に高いと聞いた。


 新着メールを確認すると、ゴンザレスからの返信が届いていた。


『例の件、了解しました。

 三日後の夕方六時に1号室に来てください。

 ご指示の通り、伝輝君も参加させます。

 加えて、タカシさんとエミリーちゃんにも来てもらいます』


 咲はパパッと『分かりました。ありがとうございます』と打って返した。


 フーッと息を吐き、座席にもたれた。


「ありさ、どうするつもりなのかしら・・・?」

 不安な気持ちを隠せないまま、咲はギュッとケータイを握りしめた。 


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